上 下
9 / 62

九話

しおりを挟む

 適当だよなぁ。魔道具の中古具合にしてもだし、最後の言葉も。



〝縦巻ロールにさよならを告げるのです。〟

 告げるどころか、もう無いから。金太郎だからッ‼︎

 
 部屋は元に戻ってる。血で真っ赤に染まったシーツも真っ白。
 前回、切り落とした縦巻ロールちゃんたちも無くなってる。

 世界は再構築されてるのに、俺の髪の毛と化粧は再構築されていない。


 何故? ……ダメだ。考えてもわからない。

 ──適当だからって事にしとこ。

 ◆◇

 くたびれたヘアカタログをパラパラめくってみる。


 2016年って書いてある。今は2019年だから……。
 あれ? もしかして過去からの贈り物?! 3年前?

 
 まさかな……まさかだよな? 3年前だぞ?


 恐る恐る前回貰った魔道具、化粧落としの裏面を見る。
 




 〝〝20190913〟〟


 うぉぉぉぉぉ!! 2019年製造‼︎


 単純にシンプルに3年前のヘアカタログぅぅ‼︎



 いや、でもこれは……?
 3年前の魔道具と現行の魔道具が交差してる?

 ──そんなわけない。

 このヘアカタログは確かにしっかりと、3年を歩んできてる。

 くたびれ度が全てを物語る。
 よくみるとお茶をこぼした跡もあるし。



 紛らわしい事をしてくれる。クソがッ!!
 

 
 ◇◆

 パラパラパラパラ~パラパラ~パラ、パラ、パラッ!

 あった‼︎ ショトカ特集‼︎ 

 ボブ、前下がり?! ミディアムでふわふわ?

 金太郎と言えど、髪の毛はまだある。
 唯一の望みにして最後の生命線。

 もう、失敗は許されないっ!


 ……よしっ! これに決めた‼︎


 片側サイド、一箇所だけ三つ編みの可愛いやつ!!


 枕を抱きしめふかふかベッドの上をコロコロしてみた。そして、うつ伏せでストップ!

 枕さんに語りかける。

 「絶対可愛くなるんだもん‼︎ えいえいおー!」

 よぉーし、金太郎さんにさよならを告げるぞぉ!


 うんっ! アヤノは可愛い!
 大丈夫、絶対上手くいくんだもん!! 



 ──自らの意思で惚気る事にハマりつつある。だってこの子は逸材。今はまだ、金太郎だけど……絶対に化ける!!


 レッツ! ビフォーアフター!!

 金太郎から清楚系ショトカガールに変身だぁ!!


 ◇◆◇

 パンッパンッ。

「セバス~、セバス~」


 シュッ。
 何処からともなく現れる。

「お呼びでしょうか、アヤノ様。……ッッ⁈ その髪型はどうされたのでしょうか?」

 金太郎ヘアーを見て驚愕しているようだ。
 二回目ともなると、より一層腹立たしい。

 なんならお前のミニスカメイド服の方が驚愕だからな?! もう慣れちゃったけどさッ。

 

 今回こそ仕事しろよ‼︎
 

 
「わたくし、髪の毛が切りたいの。切れる者を連れて来なさい」

 そもそも自分で切った事が間違い。
 勢い任せに切った事が悔やまれる。

 メイクアップアーティストもなんちゃらコーディネーターも居なかった。

 でもっ、美容師的な人はさすがに居るでしょ!
 令嬢様だしっ! ここ、辺境伯のお屋敷だしっ!!


「かしこまりました。それでは椅子の御用意をいたします。暫しお待ちを」

 ほらっ! 話が通じた‼︎
 最初からこうしてれば良かったんだ。
 

 スッ。何処からともなく椅子を持ってくる。

 仕事早いな! 今回のおまえ、格好良いぞ!

「お待たせいたしました。アヤノ様、こちらへ」
「仕事が早くてよろしい。褒めて遣わそう」
「勿体なき御言葉」


 鏡の前に置かれた椅子に腰を掛ける。
 俺の手にはヘアカタログ。この髪型にしてー! って指差してお願いするの! 美容院で失敗しない必殺技!


「では、アヤノ様。失礼いたします」


 鏡越しに映るセバス。手にはハサミを持っている。

 えっ、待って。えっ、ちょっと……。

 おまえが切るの?! び、美容師なの?

 バーバーセバス的な? ぐるぐる回ってる感じ?

 
 ──嫌な予感しかしないんだけど……。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。 母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。 婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。 そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。 どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。 死ぬ寸前のセシリアは思う。 「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。 目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。 セシリアは決意する。 「自分の幸せは自分でつかみ取る!」 幸せになるために奔走するセシリア。 だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。 小説家になろう様にも投稿しています。 タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

異世界転移料理人は、錬金術師カピバラとスローライフを送りたい。

山いい奈
ファンタジー
このお話は、異世界に転移してしまった料理人の青年と、錬金術師仔カピバラのほのぼのスローライフです。 主人公浅葱のお料理で村人を喜ばせ、優しく癒します。 職場の人間関係に悩み、社にお参りに行った料理人の天田浅葱。 パワーをもらおうと御神木に触れた途端、ブラックアウトする。 気付いたら見知らぬ部屋で寝かされていた。 そこは異世界だったのだ。 その家に住まうのは、錬金術師の女性師匠と仔カピバラ弟子。 弟子は独立しようとしており、とある事情で浅葱と一緒に暮らす事になる。

死に役はごめんなので好きにさせてもらいます

橋本彩里(Ayari)
恋愛
フェリシアは幼馴染で婚約者のデュークのことが好きで健気に尽くしてきた。 前世の記憶が蘇り、物語冒頭で死ぬ役目の主人公たちのただの盛り上げ要員であると知ったフェリシアは、死んでたまるかと物語のヒーロー枠であるデュークへの恋心を捨てることを決意する。 愛を返されない、いつか違う人とくっつく予定の婚約者なんてごめんだ。しかも自分は死に役。 フェリシアはデューク中心の生活をやめ、なんなら婚約破棄を目指して自分のために好きなことをしようと決める。 どうせ何をしていても気にしないだろうとデュークと距離を置こうとするが…… お付き合いいただけたら幸いです。 たくさんのいいね、エール、感想、誤字報告をありがとうございます!

溺愛カルテット

イセヤ レキ
恋愛
牧田月(まきたるな)が好きなのは、渡瀬昌也(わたせまさや)。 渡瀬昌也が好きなのは、梶谷瑠衣(かじやるい)。 梶谷瑠衣が好きなのは、小ノ宮穂希(このみやほまれ)。 小ノ宮穂希が好きなのは、牧田月━━。 身動きが取れない幼なじみ4人組が織り成す恋愛模様。 ほのぼの/現代/日常/ハッピーエンド/青春 /溺愛/幼なじみ/甘々/美形/中出し/いちゃいちゃ /らぶらぶ/眠姦

死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く

miniko
恋愛
お茶会の参加中に魔獣に襲われたオフィーリアは前世を思い出し、自分が乙女ゲームの2番手悪役令嬢に転生してしまった事を悟った。 ゲームの結末によっては、断罪されて火あぶりの刑に処されてしまうかもしれない立場のキャラクターだ。 断罪を回避したい彼女は、攻略対象者である公爵令息との縁談を丁重に断ったのだが、何故か婚約する代わりに彼と友人になるはめに。 ゲームのキャラとは距離を取りたいのに、メインの悪役令嬢にも妙に懐かれてしまう。 更に、ヒロインや王子はなにかと因縁をつけてきて……。 平和的に悪役の座を降りたかっただけなのに、どうやらそれは無理みたいだ。 しかし、オフィーリアが人助けと自分の断罪回避の為に行っていた地道な根回しは、徐々に実を結び始める。 それがヒロインにとってのハッピーエンドを阻む結果になったとしても、仕方の無い事だよね? だって本来、悪役って主役を邪魔するものでしょう? ※主人公以外の視点が入る事があります。主人公視点は一人称、他者視点は三人称で書いています。 ※連載開始早々、タイトル変更しました。(なかなかピンと来ないので、また変わるかも……) ※感想欄は、ネタバレ有り/無しの分類を一切おこなっておりません。ご了承下さい。

【完結】よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

離婚のきっかけ

黒神真司
恋愛
わたしはこれで別れました…

悪役令嬢に転生してストーリー無視で商才が開花しましたが、恋に奥手はなおりません。

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】乙女ゲームの悪役令嬢である公爵令嬢カロリーナ・シュタールに転生した主人公。 だけど、元はといえば都会が苦手な港町生まれの田舎娘。しかも、まったくの生まれたての赤ん坊に転生してしまったため、公爵令嬢としての記憶も経験もなく、アイデンティティは完全に日本の田舎娘。 高慢で横暴で他を圧倒する美貌で学園に君臨する悪役令嬢……に、育つ訳もなく当たり障りのない〈ふつうの令嬢〉として、乙女ゲームの舞台であった王立学園へと進学。 ゲームでカロリーナが強引に婚約者にしていた第2王子とも「ちょっといい感じ」程度で特に進展はなし。当然、断罪イベントもなく、都会が苦手なので亡き母の遺してくれた辺境の領地に移住する日を夢見て過ごし、無事卒業。 ところが母の愛したミカン畑が、安く買い叩かれて廃業の危機!? 途方にくれたけど、目のまえには海。それも、天然の良港! 一念発起して、港湾開発と海上交易へと乗り出してゆく!! 乙女ゲームの世界を舞台に、原作ストーリー無視で商才を開花させるけど、恋はちょっと苦手。 なのに、グイグイくる軽薄男爵との軽い会話なら逆にいける! という不器用な主人公がおりなす、読み味軽快なサクセス&異世界恋愛ファンタジー! *女性向けHOTランキング1位に掲載していただきました!(2024.9.1-2)たくさんの方にお読みいただき、ありがとうございます!

処理中です...