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九話
しおりを挟む適当だよなぁ。魔道具の中古具合にしてもだし、最後の言葉も。
〝縦巻ロールにさよならを告げるのです。〟
告げるどころか、もう無いから。金太郎だからッ‼︎
部屋は元に戻ってる。血で真っ赤に染まったシーツも真っ白。
前回、切り落とした縦巻ロールちゃんたちも無くなってる。
世界は再構築されてるのに、俺の髪の毛と化粧は再構築されていない。
何故? ……ダメだ。考えてもわからない。
──適当だからって事にしとこ。
◆◇
くたびれたヘアカタログをパラパラめくってみる。
2016年って書いてある。今は2019年だから……。
あれ? もしかして過去からの贈り物?! 3年前?
まさかな……まさかだよな? 3年前だぞ?
恐る恐る前回貰った魔道具、化粧落としの裏面を見る。
〝〝20190913〟〟
うぉぉぉぉぉ!! 2019年製造‼︎
単純にシンプルに3年前のヘアカタログぅぅ‼︎
いや、でもこれは……?
3年前の魔道具と現行の魔道具が交差してる?
──そんなわけない。
このヘアカタログは確かにしっかりと、3年を歩んできてる。
くたびれ度が全てを物語る。
よくみるとお茶をこぼした跡もあるし。
紛らわしい事をしてくれる。クソがッ!!
◇◆
パラパラパラパラ~パラパラ~パラ、パラ、パラッ!
あった‼︎ ショトカ特集‼︎
ボブ、前下がり?! ミディアムでふわふわ?
金太郎と言えど、髪の毛はまだある。
唯一の望みにして最後の生命線。
もう、失敗は許されないっ!
……よしっ! これに決めた‼︎
片側サイド、一箇所だけ三つ編みの可愛いやつ!!
枕を抱きしめふかふかベッドの上をコロコロしてみた。そして、うつ伏せでストップ!
枕さんに語りかける。
「絶対可愛くなるんだもん‼︎ えいえいおー!」
よぉーし、金太郎さんにさよならを告げるぞぉ!
うんっ! アヤノは可愛い!
大丈夫、絶対上手くいくんだもん!!
──自らの意思で惚気る事にハマりつつある。だってこの子は逸材。今はまだ、金太郎だけど……絶対に化ける!!
レッツ! ビフォーアフター!!
金太郎から清楚系ショトカガールに変身だぁ!!
◇◆◇
パンッパンッ。
「セバス~、セバス~」
シュッ。
何処からともなく現れる。
「お呼びでしょうか、アヤノ様。……ッッ⁈ その髪型はどうされたのでしょうか?」
金太郎ヘアーを見て驚愕しているようだ。
二回目ともなると、より一層腹立たしい。
なんならお前のミニスカメイド服の方が驚愕だからな?! もう慣れちゃったけどさッ。
今回こそ仕事しろよ‼︎
「わたくし、髪の毛が切りたいの。切れる者を連れて来なさい」
そもそも自分で切った事が間違い。
勢い任せに切った事が悔やまれる。
メイクアップアーティストもなんちゃらコーディネーターも居なかった。
でもっ、美容師的な人はさすがに居るでしょ!
令嬢様だしっ! ここ、辺境伯のお屋敷だしっ!!
「かしこまりました。それでは椅子の御用意をいたします。暫しお待ちを」
ほらっ! 話が通じた‼︎
最初からこうしてれば良かったんだ。
スッ。何処からともなく椅子を持ってくる。
仕事早いな! 今回のおまえ、格好良いぞ!
「お待たせいたしました。アヤノ様、こちらへ」
「仕事が早くてよろしい。褒めて遣わそう」
「勿体なき御言葉」
鏡の前に置かれた椅子に腰を掛ける。
俺の手にはヘアカタログ。この髪型にしてー! って指差してお願いするの! 美容院で失敗しない必殺技!
「では、アヤノ様。失礼いたします」
鏡越しに映るセバス。手にはハサミを持っている。
えっ、待って。えっ、ちょっと……。
おまえが切るの?! び、美容師なの?
バーバーセバス的な? ぐるぐる回ってる感じ?
──嫌な予感しかしないんだけど……。
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