上 下
1 / 62

一話

しおりを挟む
「う……そ?」

 鏡に写る姿に唖然。にわかに信じ難い。

 目が覚めると〝女〟になっていた。


 ウザいくらいの縦巻きロール、金髪、ケバい化粧。
 ド派手な真っ赤なドレス。

 そしてこの乳。けしからん!!


 ま……しゅ……ま……ろ……。
 む……に……むに……。


 ──けしからん。


 ◆

 ふむ。どうやら俺は〝アヤノ・ゴクアーク〟になってしまったようだ。

 理解するのに1時間近く掛かった。
 要するにここはゲームの中。しかも流行りの悪役令嬢ってやつだ。
 
 事もあろうかTS転生。──まじか……。

 ◆◇


 100畳はありそうなこの部屋。
 真っ白なタイルが床一面に広がっている。幻想的な空間。
 

 俺は今、隅に置かれるふかふかベッドの上だ。

 そのベッドを挟むように扉が二つ。通路に繋がる出入り口とトイレ。

 大きな鏡、棚が三つ。

 こんなにも広い部屋なのにコレしかない。
 6畳あれば事足りる。不思議な部屋。



 〝トントン〟


 ん? 誰か来たのか?


 〝トントン〟


 おいおい、誰だよ……。


「アヤノ様、至急お伝えしたい事が」

 じじいの声だな。執事ってやつか。

「ふむ。どうした」
「勇者が乗り込んで来ました。御覚悟を」

 は? はぁー? 待って。理解出来ない。え? 待って? 御覚悟? 死ぬの? もう死ぬの?!


「爺や! 入れ! その話、もっと詳しく」

 …………。

 …………。


 反応が無いな? 何故?


「アヤノ様、言葉遣いが、、その」

 下品だって言うんかよ? 糞爺がァッ!!

「ですわ!」
「はっ、失礼いたします」

 〝ガチャン〟

 とりあえず〝ですわ〟と言っておけば上品っぽい説、この世界でも有効か。ホッと一安心。


 こいつ、知ってるぞ。白髪にキリッとした目付き、ガタイの良い爺さんにして、服装はミニスカメイド服。セバスだ!!

 可哀想に。アヤノにメイド服を着るように指示されているんだよな確か。

「おいセバス。タキシードに着替えてくる事を許可しよう」

 …………。


「あー、もう! ですわ!!」
「よろしいのですか?」
「いいわよ。このアヤノが許すわ!」
「ありがたき……。最後をタキシード姿で迎えられる事、うぅ……感謝の極み」
 ミニスカメイド服姿が嫌だったのか、セバスは泣き崩れてしまった。じじいの嬉し泣きってのは心に来るものがあるな。──俺、いい事、しちゃったな。

 しかし、……最後だと? アヤノが勇者に殺されるのは物語の終盤だったはず。もう、終盤なの? さっきの御覚悟って、やっぱり『死』の覚悟って事か?


 ──フッ、笑わせる。

 こんなアホみたい理不尽、ある訳ないだろ!!


 ◇◆◇◆◇◆

 ──はい。ありました。

 もうね、あっという間だったよ。

 ドーン! バコーン! ズドドーン!
 五分も経たずに屋敷は壊滅。
 


「ゴクアーク! 追い詰めたぞ!」
「楽勝ね! レオ早くやっちゃってぇ!」
 勇者レオに4人のウィッチ。ハーレムを気取るアホみたいな勇者に追い詰められてしまった。


 セバスは瞬コロだった。はっきり言って次元が違う。戦うだけ無駄。

 死んだらどうなるんだろ? あーあ。もう終わりかぁ。

「お嬢さん。悪く思わないでくれよ」
 勇者レオの耳打ち。耳がゾクッとする。こいつはイケボだぁ。あぁ、なんて言うか悪くないな。耳が幸せ。

 耳打ちに浸って居た刹那の時間。
 スパァーーーーン。一閃。目にも見えない速度で俺は切られてしまった。

 まんざらでも無い最後だった。悪くは……無かった。

 けどさぁ……。


 死に行く中、心の中で叫んだ。
 こんな理不尽ありかよ。神様、居るなら返事してくれよ。この世界に来て1時間しか経ってないぞ、もう終わりかよ?!



 『……はぁ。次は上手くやりなさいよ?』


 誰かの声が聞こえる。えっ? 誰……?


 『縦巻ロールをやめるのです。勇者レオの好みの女性に。清楚系で尚且つ色気を放つのです。そうすればきっと殺されないわ』

 何言ってんだこいつ!!


 ◆◇◆◇◆◇

 ハッ!!!! 生きてる。生きてるぞ!!!!



 ──ここから始まるのは命乞い。勇者レオ好みの女になる以外、助かる道はないようだ。

 なってやるぞ! 清楚系お色気美女に!! 待ってろレオ!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます

葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。 しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。 お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。 二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。 「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」 アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。 「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」 「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」 「どんな約束でも守るわ」 「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」 これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。 ※タイトル通りのご都合主義なお話です。 ※他サイトにも投稿しています。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、ヒロインが鬼畜女装野郎だったので助けてください

空飛ぶひよこ
恋愛
正式名称「乙女ゲームの悪役令嬢(噛ませ犬系)に転生して、サド心満たしてエンジョイしていたら、ゲームのヒロインが鬼畜女装野郎だったので、助けて下さい」 乙女ゲームの世界に転生して、ヒロインへした虐めがそのまま攻略キャラのイベントフラグになる噛ませ犬系悪役令嬢に転生いたしました。 ヒロインに乙女ゲームライフをエンジョイさせてあげる為(タテマエ)、自身のドエス願望を満たすため(本音)、悪役令嬢キャラを全うしていたら、実はヒロインが身代わりでやってきた、本当のヒロインの双子の弟だったと判明しました。 申し訳ありません、フラグを折る協力を…え、フラグを立てて逆ハーエンド成立させろ?女の振りをして攻略キャラ誑かして、最終的に契約魔法で下僕化して国を乗っ取る? …サディストになりたいとか調子に乗ったことはとても反省しているので、誰か私をこの悪魔から解放してください ※小説家になろうより、改稿して転載してます

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

【完結】ヤンデレ設定の義弟を手塩にかけたら、シスコン大魔法士に育ちました!?

三月よる
恋愛
14歳の誕生日、ピフラは自分が乙女ゲーム「LOVE/HEART(ラブハート)」通称「ラブハ」の悪役である事に気がついた。シナリオ通りなら、ピフラは義弟ガルムの心を病ませ、ヤンデレ化した彼に殺されてしまう運命。生き残りのため、ピフラはガルムのヤンデレ化を防止すべく、彼を手塩にかけて育てる事を決意する。その後、メイドに命を狙われる事件がありながらも、良好な関係を築いてきた2人。 そして10年後。シスコンに育ったガルムに、ピフラは婚活を邪魔されていた。姉離れのためにガルムを結婚させようと、ピフラは相手のヒロインを探すことに。そんなある日、ピフラは謎の美丈夫ウォラクに出会った。彼はガルムと同じ赤い瞳をしていた。そこで「赤目」と「悪魔と黒魔法士」の秘密の相関関係を聞かされる。その秘密が過去のメイド事件と重なり、ピフラはガルムに疑心を抱き始めた。一方、ピフラを監視していたガルムは自分以外の赤目と接触したピフラを監禁して──?

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

転生した悪役令嬢は破滅エンドを避けるため、魔法を極めたらなぜか攻略対象から溺愛されました

平山和人
恋愛
悪役令嬢のクロエは八歳の誕生日の時、ここが前世でプレイしていた乙女ゲーム『聖魔と乙女のレガリア』の世界であることを知る。 クロエに割り振られたのは、主人公を虐め、攻略対象から断罪され、破滅を迎える悪役令嬢としての人生だった。 そんな結末は絶対嫌だとクロエは敵を作らないように立ち回り、魔法を極めて断罪フラグと破滅エンドを回避しようとする。 そうしていると、なぜかクロエは家族を始め、周りの人間から溺愛されるのであった。しかも本来ならば主人公と結ばれるはずの攻略対象からも 深く愛されるクロエ。果たしてクロエの破滅エンドは回避できるのか。

処理中です...