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第一章

02話 新・魔術と旧・魔術 【2/2】

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 「ラーミアルさん、旧・魔術って何ですか」
 「ラーミアルでいいですよ」
 「えっ? では、ラ、んっ、んん。ラーミアル」
 「はいっ!」
 「それなら私もシュクと呼んでください」
 「わかりました、シュク!」
 
 晴天の昼下がり、2人の女の子は互いに一歩の進展をしていた。
 シュクとラーミアルは土道を並列になり、都市アルヴァードに向かっていた。見渡す限り、牧草地のような新鮮の青味が混ざる緑が広がっている。
 シュクは羽織る服を小さい手で飛ばされないように掴み続けている。日の穏やかな暑さをのせた微風は、薄い布を靡かせた。悪戯っ子のように、健康的な肌色の膝下をチラチラと捲る。
 ラーミアルの光沢のある綺麗な髪束も揺れた。
 
 「ラーミアル、旧・魔術って何ですか?」
 「そうですね、順を追って説明しましょう。旧・魔術というのは、現在から約50年前に廃れてしまった魔術文化の総称です」
 「50年前? 今とは違う文化ということですか?」
 「そうですよ。今は新・魔術と呼ばれた文化が主流です」
 「新・魔術?。旧・魔術は廃れたということですか?」
 
 シュクは情報収集のことを忘れ、研究者としての探求心だけで質問をしている。
 
 「廃れたと言えば、そうとも言えますね。単純に新・魔術の方がメリットの方が多いんですよ」
 「メリット? 具体的には何ですか?」
 
 ラーミアルは「そうですね」と、呟きながら顔を上げ、考える。
 
 「例に挙げると、先ほどシュクは魔法陣を描いて、手を添えましたよね。これが旧式の発動方法です。一方の新・魔術は、描くのではなく念じて発動する方式ですね。新・魔術の方が効率も良く、旧・魔術では新・魔術に発動スピードでは勝つことはできません」
 「なるほど。でもスピードを競う場面ってあるのですか?」
 
 シュクは首を傾げて疑問を投げかける。すると、ラーミアルは人差し指を立て、「ありますよ!」と断言する。
 
 「魔術は様々な使用目的が存在するんです。その中でも、戦闘で用いる場合は一回の詠唱スピードが命取りになります」

 ラーミアルは会話を区切ると足を止め、立ち止まった。同じくしてシュクも停止する。
 「見ててください」と、口にしたラーミアルは、手を前に突き出した。その姿は、魔術に慣れ親しんでいるように品やかでいて軽やかだ。真剣な表情に変わり、手のひらに神経を研ぎ澄ませる。
 
 瞬間――握っていた拳から光が拡散される。

 パッと開くと、ラーミアルの手の上では一匹の蝶が元気に舞い出た。
 
 「それって、川のところでやっていた曲芸!」
 「ま・じゅ・つ、です。こうすると、ほらっ」

 一匹だった蝶は三匹に増えた。蝶を指揮するラーミアルの顔は、穏やかな笑顔だ。見るモノを幸せにしてくれる可愛らしい女神のようだ。

 「詠唱スピードが進化したということですね。逆に新・魔術に対して、旧・魔術が優れている点はないのですか?」

 シュクは研究者としての質問をする。新しく提案する研究というのはリサーチから始まる。その中の一つに、従来研究の調査が存在する。様々な従来研究から自身の研究にしかないオリジナリティを見つけ出す。そこからが研究のスタートラインになのだ。
 研究者としての思考回路が滲みついたシュクにとって、旧と新の差分が気になるのは当然ということだ。

 「旧・魔術、がですか。強いて言えば魔力量の消耗が少し軽減できる、ということくらいですね」
 「魔力量? この世界には魔力というモノが存在するのですか?」
 「そうですよ、魔力は体力のようなもので、魔法を使えば使うほど消耗します。また、体力同様に鍛えることで魔力量も増やすことができます」

 ラーミアルは手を打ち上げ、蝶を解き放つ。すると、3匹の蝶はラーミアルの周りを自由奔放に飛び回り始めた。遊んでほしそうな子犬のように。
 すると、「あっ!」と閃いたように声を上げた。
 
 「旧・魔術の方が良い理由ですが一つ思い出しました!」

 ラーミアルはスッキリとした顔で、ジェスチャーをつけ加えて話す。シュクは首を横に傾け、「なんですか?」という顔で続きの言葉を促した。

 「魔法陣を覚えれば旧・魔術が誰でも使えることですね。と言っても魔法陣を理解して描くのはかなり難しいことです。覚えられても5、6個が限度ですね。魔術師などの魔術に特化した役職の人たちだと10個から20個覚えられた、と聞きます。その分、新・魔術は魔法陣を感覚として理解することで収得できるので使える魔術の種類も増やせます!」
 
 「なるほど」と、優しく囁く。頷きながら理解を示す。

 すると、ラーミアルが「歩きましょうか」と一言。
 橋から移動し初めて数十分が経つが、見渡しても景色に変化はない。一面の草原に挟まれる土道。地平線の先には雪化粧の山脈。

 二人は歩き始め、会話を再開させる。
 
 「旧・魔術は記憶していれば誰でも使用でき、新・魔術は魔法陣を感覚として手に入れれば使える、という話ですか」
 「その通りです。新・魔術は理解するまでが時間を要します。日々鍛錬をしないと扱えるようにはならないのです」

 人差し指を立て、日々の鍛錬の重要性をアピールする。一拍の間をおいてラーミアルは、口を再び開いた。

 「シュク、先ほどの話の続きですが、旧・魔術が使えたのは以前の記憶に依存している可能性が高確率でありえます。そこで先程の不思議なこと、についてですが、なぜシュクは汎用性の低いあのような魔法陣を覚えていたのでしょうか?」
「それは私もわかりません」

 シュクは首を横に振り、否定をした。その後、口に手を当て自分が書いた魔法陣のことを思い出す。

 [ラーミアルの話によると旧・魔術の扱いは手練れじゃないと苦労するようだな。あの時、食べ物の名前を思い出すような感覚で魔法陣が頭に浮かんだが、これもあの大魔道士の仕業か]

 思考するシュクは一点を見つめ外界からの情報を断截している。驚異的な集中力はラーミアルの声も入る余地がない。ラーミアルは不思議そうな顔で、何度か呼びかける。

 「シュク? おーい、シュク。…………シュ、ク!」

 可憐な美少女が鐘のような声を響き渡らせる。ようやく気が付いたシュクは、ラーミアルに顔を向けて首を傾げた。

 「呼びましたか?」
 「すごい集中力ですね」
 「そうですか? 職業病みたいなもので」
 「職業!? なにか記憶が戻ったんですか!?」

 アッ、と素早くラーミアルから顔を逸らした。
 [そう言えば、記憶喪失と言う設定だったな]
 シュクは自身で決めた条件を忘れていたことに痛感した。正当な言い訳はないかと、思考を張り巡らせる。

 「え、えーと、職業、しょく‥‥‥そう、お腹がすいたから食事をしたいなと言ったんですよ」

 [苦しいか? 言葉に詰まって変なことを口走ってしまった]
 シュクは目線を合わせないように返答した。ラーミアルの無言で表情を変えない。
 [アウトか?]
 シュクは冷や汗をかきながら返事を待つ。恐る恐るラーミアルの顔色を覗おうと、焦りを胸に首を動かした。

 「そうでしたか! お腹がすいていたんですね。では、早くアルヴァードに向かいましょう」
 
 [セーーーーフ!!]
 と、シュクは心の中でガッツポーズを行い安堵する。ラーミアルの寛容さに感謝だ。

 「そうしましょう」

 その返答にラーミアルは笑顔を返す。その顔からシュクはどこか安心感を得ることができた。

 「ここから後30分もすればアルヴァードに着くので、もうしばらくの辛抱ですよ」
 「30分!? 本当に空腹になりそうだ」
 「何か言いましたか?」
 「な、何でもないですよ! さー急ぎましょう」
 
 肌色の細い華奢な腕を突き立てたシュクは前方の方向へ指を立てた。
  
 
 
 
 ***   ***   ***
 
 
 ・ラーミアルが使用した魔術は下記のとおりです
 
 〇『理想の具現<D>』
  →五感で得た情報を具現化し、物体として生成する
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