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おわり

傍観者ロボットくんと傍観者ユキちゃん

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 4月25日 火曜日




 昨日の快晴と打って変わり、春の雨が降っている。

 僕とタクは学食で定食を手に、食べる席を探していた。
 

 「タク、晴馬はどうした?」
 「あー、晴馬の奴は部活があるからパスだってさー」
 「昼なのに頑張ってるな」
 「ちなみに俺は今日の授業は全部出ないつもりだぜっ!」
 「今日も、だろ?」
 「固いこと気にするなって!」


 僕はタクの相変わらずの陽気な顔を見て、落ち着いていた。

 幼馴染といると安心するな。
 まー、タクにこんな感情が湧くのは、昨日の一件からだろう。

 昨日はあの後、林木さんと朴野さんを別れを告げ早々に帰宅した。

 やはり、慣れないことをしたせいで疲労困憊になってしまった。

 そして、今に至る。


 「おっ、ロボット、あの席にしようぜ!」
 「了解」


 タクが指さしたのは、ちょうど空いた4人席だった。

 僕とタクは席に近付き、手に持っていた本日の定食を置いた。
 ちなみに、本日の定食は唐揚げ定食だ。値段の割には以外と美味しい。


 「よし、席ゲットー!」
 「ユキ、席取れたよ!」


 「「・・・・・・えっ?」」


 タクと僕が置いたと同時に、もう1人机に定食のお盆を置いた人物がいた。


 「あー、あんたは」
 「げっ、梅谷先輩。それと、ロボット先輩」


 タクを見て嫌そうな顔になり、僕の顔を見てはっとする女子。

 朴野さんだった。


 「アッコちゃん、お待たせ・・・・・・えっ!? ロボット先輩!それと梅谷先輩?」


 遅れて現れたのは、林木さんだ。
 やはり、いつ見ても癒される可愛さです。


 「私たちがこの席をとったんですよ先輩!」
 「こっちの方が早かったよなー、ロボット?」
 「いいえ、私の方が1秒早かったです!」
 「そうなの? そんな細かいこと気にするなって!」
 「嫌です!」


 タクと朴野さんはこんなにも仲が悪かったけ?

 というよりも、一方的に朴野さんがタクを嫌っているようだ。


 「ユキはいいの?」
 「えっ、えっと、私は別に一緒でも」
 「ロボット先輩は?」
 「僕も別に同じ席でも」


 あれ、この場合、タクが僕に意見を求める場面ではないのか?

 って、タクは既に座って食べ始めてるし。

 やはり、相変わらず自由人だな。


 「2人がそう言うなら、仕方ないですね。でも、私は梅谷先輩と食べるのには納得したつもりないですから!」
 「ん? そうなの」


 タクに噛みつく朴野さんだが、歯応えがないだろう。
 なぜなら、タクに怒りを向けても意味ないからな。
 長年付き合ってきた僕でも時々、タクの感情の起伏がわからない。

 こうして僕とタク、林木さんと朴野さんの昼食の時間が始まる。




 「あれ、ちっこいのは弁当なのか?」
 「梅谷先輩、ちゃんとユキの名前で呼んでください」
 「アッコちゃん、私は別に問題ないよ」
 「おおありっ!」


 楽しいランチタイムとはいかないもので、タクに対して朴野さんは神経を尖らせている。


 「梅谷先輩、えっと、私はいつも弁当です」
 「へえー、じゃー1つおかずもーらいっと! 代わりに俺のあげるー」


 タクはそういうと、林木さんの子供用の小さな弁当箱から、輝かしい黄色の卵焼きを取り出した。
 続いて、タクは自分の皿から唐揚げを1つ返した。


 「何やってるんですか梅谷先輩! ユキ、私も唐揚げあげる!」
 「えっ、いいよアッコちゃん」
 「いいからっ!」


 朴野さんはなぜそこまで、ムキになっているのだろうか?

 相手のタクは、全く気にしてないが。

 僕はタクが取った卵焼きに視線を送っていた。


 林木さんの卵焼きか。
 美味しそうだな。


 すると、タクは卵焼きを半分にし、1つを口に入れた。


 「おっ、美味しい! ちっこいの美味いぞ。ほれっ、ロボットも」


 タクは僕の口元に残りの卵焼きを運んできた。


 「えっ、何で?」
 「ん、それはロボットが食べたそうな顔してたから。ほれ、早く」


 タクは箸を僕の唇に近付け、急かしてくる。僕は言われるがまま、卵焼きを口に入れた。


 それは卵焼きを噛んだ瞬間――

 厚みがそれほどないのにも関わらず、十分な程の肉厚。
 噛んだ時に卵の隙間から流れるだし汁。

 絶妙なバランスの甘さを、舌が敏感に感じ取る。

 噛めば噛むほどに味わいが増していき、思考が停止するほど夢中になれる。

 美味な一品だ。


 「ロ、ロボット先輩、大丈夫ですか?」
 「えっ、あっ、大丈夫です!」
 「私の卵焼き美味しくなかったですか?」
 「と、とても美味しかったですよ!」


 林木さんは焦った様子で僕に質問してきた。

 僕は素直な気持ちを伝えると、頬を少し紅潮させ、笑顔になった。


 「このお弁当、ユキが作ってるんですよ」
 「アッコっちーが何で自慢してるんだー?」
 「自慢してません! それに、その呼び方やめてください!」
 「えー、別いいじゃん。可愛いと思うぞ」
 「か、かわ・・・・・・そんなこと言っても許さないですよ」
 「後、面白いし」
 「絶対、許しませんから!」


 タクは思ったことを躊躇いなく言う。
 そのせいで、だいたい話に着火して炎上する。
 当の本人は気付いてないから凄いのだが。

 そんなこんなで、昼食の時間は過ぎていった。

 僕と林木さんは、タクと朴野さんをポカーンと傍観していた。


 僕は正面に座る林木さんと何度か目が合った。
 しかし、お互いにすぐ顔をそらしてしまう。
 バイト先で話している時は意識していなかったが、急に恥ずかしい気分になっている。

 これはなぜなのだ?

 僕自身、理解できない現象に頭を悩ませる。


 すると、林木さんは可愛らしい声で呟いた。


 「ロ、ロボット先輩。昨日はありがとうございました」
 「いえいえ、最後は林木さんが決めてくれたので、僕は何もしてないです」
 「そんなことないですよ! 私、ロボット先輩が出てきてくれた時、怖かった気持ちがなくなったんです!」
 「いや、でも僕は何もしてないので」
 「そんなことないです!」


 林木さんは席から立ち上がり、テーブルに前のめりになり、僕に迫る。

 その声に周りの生徒たちから注目を浴びた。

 そのことに気付いた林木さんは、萎む蕾のように席に座った。

 まー、それ以上に注目を浴びている2人が横にいるが。
 タクと朴野さんは、林木さんの声に反応すらしなかった。

 どれだけ、話に夢中になっているのだろうか?


 林木さんは「すいません」と軽く頭を下げた。
 シュンとしているのが小動物みたいだな。


 「それで何ですが、この前言ったこと覚えていますか?」
 「この前ですか?」
 「はい、学校でクッキーを渡した時に」
 「・・・・・・いや、覚えてないです」

 「『何でも願いを一つ叶える』ですよ!」
 「あっ、そういえば、確かにそんな話をしましたね」
 「はい。それで、ロボット先輩の願いを叶えようと思いまして」
 「えっ。いやいやっ! 僕は叶えたい願いとかは特にないですよ」
 「何でもいいんですよ! カレーが食べたいとか、オムライスが食べたいとか、パフェが食べたいとか」
 「それ、食べたい物を願うしかできないみたいですよ」
 「そ、そんなことないですよ! 他にも、ハンバーグとか食べたくないですか?」
 「いや、それも食べ物ですよね」
 「あれっ、何がダメですか?」


 林木さんは僕の返答から、何が悪いのかを考えているようだが、わかっていない。

 林木さんが叶えたいことって、食べ物関係しかないのだろうか?

 
 「僕は叶えたいことが特にないので、本当に気にしないでください」
 「それじゃ、私は納得できませんが、ロボット先輩に無理を言うのも悪いですよね。何か叶えてほしいことがあれば、私に言ってください」


 そう言って、林木さんは穏やかに微笑んだ。
 僕と林木さんの会話は静かに消えた。


 しかし、タクと朴野さんはいつまで話しているのだろう?


 昼食終わったから、そろそろ教室に戻りたいのだが。

 僕は窓から見える雨を眺めながら、ぼーと2人を傍観していた。
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