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第一演目 自由な殺し屋<フリーダムキラー>アリス
━序幕━黒歴史〔上〕New Destiny 〔Remind me〕
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マンションの建ち並ぶ路地裏。
その一角のマンションの屋上に、二人の人影があった。
一人は二十歳前後の青年。いつも着ているコートを脱ぎ、ジャケット姿で右手に剣を持っていた。ジャケットは袖がついていないため肩より下が見えているが両腕は実は機械で出来ている。
その正体は殺し屋にして魂の浄化人<ソウルクリーナー>、ガイア級の100番。コードネームはアリス。
もう一人はまだ十歳前後の少年。その年ごろの男子が着そうなキャラクター物の服を着ている。
正体は殺し屋のアシスタントを務めるチェンジャーの使役された霊。コードネームはエコー。
「今回の標的は井ヶ原コウマで合ってるかい?エコー。」
アリスがエコーに聞く。実はアリスは殺し屋が行うデスクワークなどを全てエコーに丸投げしているのだ。
エコーは手にしたコンピューターを見て、
「うん、そうだね。この街のチェンジャーの二人の内の一人は井ヶ原コウマで間違い無いよ。」
「了解。それじゃあ、行こう。」
中学生の少年⎯井ヶ原コウマはマンションの建ち並ぶ路地裏に入っていった。
「ふう...。ここなら大丈夫か・・・。」
彼は路地裏の突き当たりで立ち止まった。「力」を試すため。
と、彼の正面のマンションの屋上から、二人の人間がいきなり飛び降りた。実は少し前から彼の視界に二人を捉えてはいたのだが、彼は急いでいたため気付かなかったのだ。
「ッ!?危な⎯⎯⎯。」
だが彼が言い終わらぬ内に二人は地面に無傷で着地した。
「な・・・。嘘だろ、コイツら・・・。人間じゃないっ・・・!」
「井ヶ原コウマ、キミは今は危険な存在だ。元に戻すため、僕はキミを・・・殺す。」
そう言ったアリスに、エコーが話しかけた。
「僕の出番ある?」
「いや・・・、無いと思う。」
「りょうかーい。じゃ、そこら辺で座っとく。」
「わかった。」
目の前で起こる意味不明な会話を繰り広げるアリスとエコーに、コウマは恐れの混ざった声で、しかし怒鳴るように聞いた。
「お前達は何者だ!?」
それにアリスは静かに答える。
「僕は殺し屋。キミのチェンジャーの力を奪う者だ。」
「俺の力を、奪うだと!?」
怯えるような声音で、だがやはり強くコウマは問う。
「そう。その力をそのまま放っておけばキミはいずれ感情を失ってただの殺戮マシーンになっていずれはキミも死んでしまうんだ。僕はそれからキミを開放する・・・義務がある。」
最後は言葉を選ぶようにしてアリスは答えた。
「そうか・・・そうだったか・・・。」
そう言ってコウマはうつむいた。
「わかってくれたなら話は早い。僕は今からキミを殺すが、形だけのものだ。キミからその力を奪うだけだから安心してくれ。」
そうアリスが言った時、コウマが顔を素早く上げた。その目がぎらついているのをアリスは見た。アリスの背筋に悪寒が走る。
「ッ・・・、もう遅かったか。」
そうアリスが顔をしかめて呟いたのと、
「五月蝿いッ・・・、黙れ!!」
コウマがそう叫んだのが同時だった。
「人はいずれ死ぬ・・・。ならば、それが早く訪れたとしても、俺はこの力を選ぶ!」
勿論そんな事を彼が思っているわけではない。すでに彼が「原因」に呑み込まれている故に言った台詞である。
そしてコウマはその右手をまるで怪物の物であるかのような異様な形に変えた。爪は太く伸び、手はトカゲのようだ。
その右手を大きく後ろへと引くと、コウマはアリスへ突進した。
「死んでから気付く大切なモノだってある。でも、気付いた時にはもう遅いんだ。既に死んでいるからね。」
そう誰に言うでもなく、しかし語りかけるようにアリスは呟くと、コウマの右手を自らが右手に持つ剣で受け止めた。
「だからこそ、キミにはそれに気付いて欲しくない。」
激しく火花を散らす剣を右手だけで持ちながら、アリスは今度は明確にコウマに語りかけるように言った。
そのまま右手と同じく機械で出来た剣を持っていない左手でコウマの腹を貫いた。血は出ず、「原因」が離れていく。
アリスがその手を引き抜くと、コウマは倒れた。
「ふう、これで原因を除去できた...。」
が命を救ったにも拘わらず、アリスの顔は晴れない。
「また僕は人から希望を奪ってしまったんだな。これで一体何度目なのか・・・。」
そこへ、立ち上がってアリスの隣へと来たエコーが
「アリスはいつもそう言うけどさ、僕らは人の命を救ったんだよ?」
と不思議そうに言った。
「原因」は、寄生した人間の希望を欲望へと変化させる。その欲望を満たさせるために、力を使うように寄生主に仕向けるのだ。それで「原因」は力をつけていく。
つまり、人間をチェンジャーから元に戻した時に、チェンジャーの時に出来たことができなくなってしまうので、アリスはそれを人から希望を奪う行為だと考えていた。
「そうわかってはいるけどさ・・・」
「はいはい。最近はそれを言う癖も治ってきてたのにさぁ、そんなこと言ってたら死んじゃうよ?ま、死なないけどさ。例えだよ、例え。」
「わかったって。努力する。」
思わず苦笑しながらアリスは言った。
と、エコーが思い出したように言う。
「それよりも、チェンジャーはあと一人残っているんだよ。もうこっちは気付かれてるかもだしさ、早くしないと先手を打たれるよ。そうされないためにさ、早く見つけないと。」
そう言うと、エコーは跳躍してマンションの屋上にたった。
アリスも続く。
少年━井ヶ原コウマは起き上がった。自分は何故こんな所で倒れているのだろう?何かをするためだ。何を?力・・・力?いや、関係無いか。
まぁ、もう過ぎた事だ。思い出せないなら大したことではないだろう。
彼はそう考え、家に帰った。
チェンジャーは人間に戻るとチェンジャーに関する記憶を全て自動的に忘れてしまうのだ。
アリスとエコーはマンションの屋上から夕日を眺めていた。
「う~ん・・・、綺麗だねぇ・・・。」
エコーが感極まった表情で言ったが、
「・・・。」
アリスは無言で考え込むような表情をしていた。
「アリス、どうしたのさ?この街、アリスの故郷なんでしょ?なんかこう・・・、幸せっていうか、明るくなんないの?ここにきてから随分と変だよ?」
エコーは尋ねた。
「・・・。」
アリスは暗い顔のままだった。
が、少ししてボソッとこれだけ言った。
「この街は・・・、僕にとっての黒歴史だ。」
「黒・・・歴史?」
エコーが思わず聞き返す。
「そう、僕はここで生まれて、ここで育って・・・。ここで起きた事件に巻き込まれて、僕は死んだ。」
「そうか・・・。ここがそうだったんだね。」
暗い面持ちでエコーが言う。
「そう・・・、ここが僕の黒歴史。」
そうアリスが言うと、二人の間に静寂が訪れた。
アリスは眼下の駅を見下ろした。睨み付けた。
自分の死んだその場所を。
その一角のマンションの屋上に、二人の人影があった。
一人は二十歳前後の青年。いつも着ているコートを脱ぎ、ジャケット姿で右手に剣を持っていた。ジャケットは袖がついていないため肩より下が見えているが両腕は実は機械で出来ている。
その正体は殺し屋にして魂の浄化人<ソウルクリーナー>、ガイア級の100番。コードネームはアリス。
もう一人はまだ十歳前後の少年。その年ごろの男子が着そうなキャラクター物の服を着ている。
正体は殺し屋のアシスタントを務めるチェンジャーの使役された霊。コードネームはエコー。
「今回の標的は井ヶ原コウマで合ってるかい?エコー。」
アリスがエコーに聞く。実はアリスは殺し屋が行うデスクワークなどを全てエコーに丸投げしているのだ。
エコーは手にしたコンピューターを見て、
「うん、そうだね。この街のチェンジャーの二人の内の一人は井ヶ原コウマで間違い無いよ。」
「了解。それじゃあ、行こう。」
中学生の少年⎯井ヶ原コウマはマンションの建ち並ぶ路地裏に入っていった。
「ふう...。ここなら大丈夫か・・・。」
彼は路地裏の突き当たりで立ち止まった。「力」を試すため。
と、彼の正面のマンションの屋上から、二人の人間がいきなり飛び降りた。実は少し前から彼の視界に二人を捉えてはいたのだが、彼は急いでいたため気付かなかったのだ。
「ッ!?危な⎯⎯⎯。」
だが彼が言い終わらぬ内に二人は地面に無傷で着地した。
「な・・・。嘘だろ、コイツら・・・。人間じゃないっ・・・!」
「井ヶ原コウマ、キミは今は危険な存在だ。元に戻すため、僕はキミを・・・殺す。」
そう言ったアリスに、エコーが話しかけた。
「僕の出番ある?」
「いや・・・、無いと思う。」
「りょうかーい。じゃ、そこら辺で座っとく。」
「わかった。」
目の前で起こる意味不明な会話を繰り広げるアリスとエコーに、コウマは恐れの混ざった声で、しかし怒鳴るように聞いた。
「お前達は何者だ!?」
それにアリスは静かに答える。
「僕は殺し屋。キミのチェンジャーの力を奪う者だ。」
「俺の力を、奪うだと!?」
怯えるような声音で、だがやはり強くコウマは問う。
「そう。その力をそのまま放っておけばキミはいずれ感情を失ってただの殺戮マシーンになっていずれはキミも死んでしまうんだ。僕はそれからキミを開放する・・・義務がある。」
最後は言葉を選ぶようにしてアリスは答えた。
「そうか・・・そうだったか・・・。」
そう言ってコウマはうつむいた。
「わかってくれたなら話は早い。僕は今からキミを殺すが、形だけのものだ。キミからその力を奪うだけだから安心してくれ。」
そうアリスが言った時、コウマが顔を素早く上げた。その目がぎらついているのをアリスは見た。アリスの背筋に悪寒が走る。
「ッ・・・、もう遅かったか。」
そうアリスが顔をしかめて呟いたのと、
「五月蝿いッ・・・、黙れ!!」
コウマがそう叫んだのが同時だった。
「人はいずれ死ぬ・・・。ならば、それが早く訪れたとしても、俺はこの力を選ぶ!」
勿論そんな事を彼が思っているわけではない。すでに彼が「原因」に呑み込まれている故に言った台詞である。
そしてコウマはその右手をまるで怪物の物であるかのような異様な形に変えた。爪は太く伸び、手はトカゲのようだ。
その右手を大きく後ろへと引くと、コウマはアリスへ突進した。
「死んでから気付く大切なモノだってある。でも、気付いた時にはもう遅いんだ。既に死んでいるからね。」
そう誰に言うでもなく、しかし語りかけるようにアリスは呟くと、コウマの右手を自らが右手に持つ剣で受け止めた。
「だからこそ、キミにはそれに気付いて欲しくない。」
激しく火花を散らす剣を右手だけで持ちながら、アリスは今度は明確にコウマに語りかけるように言った。
そのまま右手と同じく機械で出来た剣を持っていない左手でコウマの腹を貫いた。血は出ず、「原因」が離れていく。
アリスがその手を引き抜くと、コウマは倒れた。
「ふう、これで原因を除去できた...。」
が命を救ったにも拘わらず、アリスの顔は晴れない。
「また僕は人から希望を奪ってしまったんだな。これで一体何度目なのか・・・。」
そこへ、立ち上がってアリスの隣へと来たエコーが
「アリスはいつもそう言うけどさ、僕らは人の命を救ったんだよ?」
と不思議そうに言った。
「原因」は、寄生した人間の希望を欲望へと変化させる。その欲望を満たさせるために、力を使うように寄生主に仕向けるのだ。それで「原因」は力をつけていく。
つまり、人間をチェンジャーから元に戻した時に、チェンジャーの時に出来たことができなくなってしまうので、アリスはそれを人から希望を奪う行為だと考えていた。
「そうわかってはいるけどさ・・・」
「はいはい。最近はそれを言う癖も治ってきてたのにさぁ、そんなこと言ってたら死んじゃうよ?ま、死なないけどさ。例えだよ、例え。」
「わかったって。努力する。」
思わず苦笑しながらアリスは言った。
と、エコーが思い出したように言う。
「それよりも、チェンジャーはあと一人残っているんだよ。もうこっちは気付かれてるかもだしさ、早くしないと先手を打たれるよ。そうされないためにさ、早く見つけないと。」
そう言うと、エコーは跳躍してマンションの屋上にたった。
アリスも続く。
少年━井ヶ原コウマは起き上がった。自分は何故こんな所で倒れているのだろう?何かをするためだ。何を?力・・・力?いや、関係無いか。
まぁ、もう過ぎた事だ。思い出せないなら大したことではないだろう。
彼はそう考え、家に帰った。
チェンジャーは人間に戻るとチェンジャーに関する記憶を全て自動的に忘れてしまうのだ。
アリスとエコーはマンションの屋上から夕日を眺めていた。
「う~ん・・・、綺麗だねぇ・・・。」
エコーが感極まった表情で言ったが、
「・・・。」
アリスは無言で考え込むような表情をしていた。
「アリス、どうしたのさ?この街、アリスの故郷なんでしょ?なんかこう・・・、幸せっていうか、明るくなんないの?ここにきてから随分と変だよ?」
エコーは尋ねた。
「・・・。」
アリスは暗い顔のままだった。
が、少ししてボソッとこれだけ言った。
「この街は・・・、僕にとっての黒歴史だ。」
「黒・・・歴史?」
エコーが思わず聞き返す。
「そう、僕はここで生まれて、ここで育って・・・。ここで起きた事件に巻き込まれて、僕は死んだ。」
「そうか・・・。ここがそうだったんだね。」
暗い面持ちでエコーが言う。
「そう・・・、ここが僕の黒歴史。」
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