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弍章 謎の敵

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 フェネクスがセトルマを食べ進めている光景を見つつ、クシャナフは誰かに見られているような違和感を感じた。
 直後、微かだが鋭い殺気を感じ、素早く叫ぶ。
 「敵だ、フェネクス!離れろ!」
 その声を聞き、反射的にフェネクスはバックジャンプしつつ空に舞い上がった。
 その僅かな一拍を置き、先程までフェネクスがいた場所に槍が飛んできた。
 その黒塗りの槍は壊せないはずの遺跡の金属を容易く貫通し、地面に突き刺さる。
 「貫通しただと!?」
 困惑するクシャナフの前で、槍に雷が落ちる。隣にあったセトルマの死骸が一瞬で黒く焦げる。空に雲は無い。魔法か、と思ったもののマナの動きは感じられない。
 これでは素早くても的の大きいフェネクスは格好の餌食だ。
 「フェネクス!一旦戻す!」
 そう言い、クシャナフはカードをケースに戻した。すると、フェネクスが元々いた場所に戻される。
 「さて・・・」
 クシャナフはアサシンナイフを抜き、振り返る。そこにいたのは黒い服の上から黒いドラゴンの甲殻を被せた防具を身に付けた女性だった。左手には盾を装備している。敵なのは間違いない。
 女性は手の甲に取り付けた機械からチェーンを発射した。それは遠くの建物から一瞬にしてこちらまで届き、槍を絡め取って戻っていく。
 クシャナフは今いる建物を降りる。女性は自分の建物の真下に見え見えの雷の罠を設置した。あんな見え見えの罠でこちらの動きを止めようとでも言うのだろうか。
 (どうする・・・。敵は魔法が使えないようだ。魔法で遠距離で攻撃する手もあるが、あの雷のような類いの能力で防がれないとも限らない。ならば近付いて切るべきか・・・。どうする・・・)
 そう考えつつもクシャナフは走って女性に近付いていた。
 どうなろうが、サーチャーの目的を邪魔するとするなら倒さなければならない。
 と、女性がチェーンを発射してきた。当たったものの、アサシンナイフで斬りかかり弾き返す。
 絡め取って罠まで誘導しようというのだろうが、流石にそれに引っ掛かるほど弱くはない。
 と、いきなり動いてもいないのに立っている場所が変わった。こんな能力もあるのか、と思いつつ焦る。何故ならあの罠に掛かっていたからだ。
 体が電気で痺れ、上手く動けない。
 「がぁぁっっっ!!!」
 呻くクシャナフの前に、あの女性が降りた。
 「へーえ、タルアンス帝国の人は始めて見たな~。プレイヤー?NPC?どっち?」
 攻撃する訳でもなく話し始める。
 「まあどっちにしても、あのカレスを飼い慣らしてたから召喚師だよね。経験値の足しにさせてね。じゃ、お疲れ~」
 そう言って槍を突きだしてくる。が、クシャナフは体を無理矢理動かした。アサシンナイフでそれをギリギリ払い除ける。
 が、クシャナフは次に雷が降ってくると読んでいた。
 (させるか、シールドでっ!)
 間一髪、クシャナフに雷が当たる寸前でシールドの障壁が雷を防いだ。クシャナフは無傷だ。
 (倒す!)
 クシャナフはアサシンナイフで斬りかかる。その斬撃と、皮から吹き出す毒液を女性は左手の盾で防ぐ。
 「むー。中々やるわね~」
 クシャナフはそれを無視し、女性の背後に火球を発生させ、そのまま発射する。
 「がっ!?痛いっ!?」
 女性はダメージと言うより火球の当たった衝撃で仰け反った。
 それを見計らい、クシャナフはその首筋にアサシンナイフを突き立てた。
 女性は槍を取り落としてしばらく固まっていたが、少しすると喉の奥でくぐもった笑い声を上げ、その内大きく笑い始めた。
 「あははっ!お兄さん、強いわね!」
 それに、クシャナフはアサシンナイフをしまって呆れ顔で答える。
 「まーな。俺はプレイヤーの端くれさ」
 「へ~。やっぱり魔法が強いね」
 「あれより強いのも使えるけどな。それより、さっきのあの能力は何だ?」
 「あ~。あれはね、スキル」
 「スキル?」
 「そう。あの槍に落ちる雷が『雷の神の怒り』で、雷の罠が『束縛の雷光』、ね。まあ他にも何個かあるけど」
 (スキル、か)
 クシャナフも聞いた事があった。ラムス僧国と呼ばれる、国民全員が宗教の熱狂的信者で宗教の長がそのまま国を治める国で魔法のように使われている能力だ。マナを介さず、武器に付与する事で使用できると聞いた事があった。
 「じゃあ、ラムス僧国の人間なのか?」
 「いや、私自身は浮浪の身。名乗り遅れたけど、ネトリィって名前」
 「俺はクシャナフ。よろしくな」
 「うん、クシャナフ、ね。良い響きね」
 「そうか?まあ、なら良かった」
 「うん。こっちもよろしく。あ、そうだ、今私、旅の途中なんだけどさ、私の仲間になってくれない?」
 「仲間?良いけど・・・。俺はギルドのお抱えでな、あんまり自由に動けないぞ?」
 「良いの良いの、とりあえず色んな所に行ければね」
 「そうか、ならよろしく頼むよ、ネトリィ」
 「うん、よろしく、クシャナフ!」
 こうして2人の旅が始まった。
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