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プロローグ 元凶

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 ここはセンターワールドのある国のとある街。街と言っても、ファンタジーな中世風の、だ。
 センターワールドは数あるアースのパラレルワールドの1つ。更に、センターワールドにはエンジェルワールドと言うパラレルワールドがある。
 エンジェルワールドはセンターワールドの未来の世界で、戦争が永遠に続いた挙げ句、現れた一部の人間が進化した新人類、天使達によって人々が抹殺された世界だ。
 まあその辺りはまた後々説明していくとして、話を戻そう。
 この街の中を、普通の女性(まだ19歳なのだが)が歩いていた。服装は高級そうな布地で出来た白いドレスで、何も持たずに歩いている。髪と目は黒く、肌は白い。頭の上に幼竜が乗っかっている以外は豪商の美しい娘のような印象を受ける。
 だが、ここで彼女を詳しく知る者は誰一人とていなかった。理由は単純だ。彼女が生まれた場所はここでは無いし、ここで暮らした事も無いからだった。
 しかし彼女を見て不思議がる者もまたいない。人々は皆、どうせご令嬢の散歩(と言う名の遠出ではあるが)なんだろうくらいにしか思っていないからだ。
 まあ幼竜が頭に乗っかっているのは流石に不審に思っているが。しかし、人々は貴族や豪商等の金持ちの事に首を突っ込むほど馬鹿ではない。そうすれば死ぬのは分かりきっているからだ。この国は明るい雰囲気とは裏腹に、偉い人間が威張り散らしており、路地1つ曲がれば死体が転がっているのも普通だからだ。
 それで、彼女1人のみがこの街の中央通りでは浮いた存在だった。
 だが、既に彼女はある事に気付いていた。
 〔私は追われている・・・〕
 そう、彼女の後ろには軽い装備を身に付け帯剣した金の無さそうな強盗達が3人いたのだ。どこかしら斬られた跡の残る彼らにとって、偉い人間の娘というのは格好の獲物なのだった。
 それを感知した彼女は驚きの行動に出た。
 裏路地へと入って行ったのだ。
 強盗達はこれは幸運だと思い顔を見合わせてニヤつきながら裏路地に入った。
 そこには先程の彼女が幼竜を頭から降ろし立っていた。
 「私に何か用?」
 無表情な顔で言う。
 「ああ、悪いこたぁ言わねぇ、その竜と服をよこして貰おうか。なあに、そうさえすれば見逃してやる。」
 そう言い彼らは嘲笑する。勿論彼らはそれらを受け取った後で彼女を殺すつもりでいるのだ。
 それに対し、彼女は強盗達を蔑むように微かに笑った。が、その目は戦うならばかかってこいというあからさまな殺意が籠っている。
 男は瞬間的にたじろいだが、舐められていると感じ激昂した。
 「ほう、死にてえようだな!いいだろう。このセタン様がてめえを切り刻んでやる!」
 そう言い片手剣を抜刀する。
 そして仲間が早まるなと止めるよりも早く、彼女に斬りかかって行った。
 セタンと名乗った男が片手剣を振り上げる動作を始めた瞬間、彼女は手をセタンの頭の高さまで上げた。
 一瞬で彼女の動きは終わった。後ろの2人の強盗には、彼女が手を上げる途中の動きが全く見えなかった。
 彼女は空気中のマナをいじり始める。その作業も一瞬で終わった。ルーンの詠唱も、呪文名さえ言わずに彼女は魔法を使って見せた。四次元から自分の武器を召喚する魔法だ。
 彼女はダガーを広げた手のひらの前に出現させた。
 セタンの顔が貫かれる。セタンはまだ片手剣を振り上げきってさえいなかった。
 手をぶらりと降ろし、片手剣を手から落として倒れたセタンの死体から彼女はダガーを自分の手に移動させた。ここまでが2秒程である。それから血と肉片と脳の残骸と髄液で濡れた剣を水魔法で洗い落とし剣を四次元に戻すと、両手を前に突き出した。呆然としている2人の強盗達を幾多もの水刃が襲う。彼らは高圧の水に体中を切り刻まれて死んだ。
 彼女の正体は、シルア・クロームホーク。生まれた時から歩き、言葉を話し、魔法を全てルーンの詠唱も呪文名も言わず唱えられた天才。それ故に両親から気味悪がられ捨てられた。その後は旅をしながら武芸にも励み強力なモンスターを倒したり多くのダンジョンを攻略したりして武器を幾つも手に入れ、その全てを完全に使いこなしている。
 6歳で当時の大魔導師から大魔導師になってくれと頼まれ断り、8歳で1人のギルドマスターから大ギルドマスターの座が空いているからなってくれと頼まれ断り、10歳で最強のドラゴンを魔法で小さな幼竜にして200匹の著名な竜から竜になってくれと言われて断った等々、色々言われつつも断ってきた世界最強の生物。
 それが彼女、シルア・クロームホークだ。
 今も旅を続けながら己の鍛練を続けている。
 今はこのセンターワールドのほとんどの生物が彼女の事を知らないが、彼女の事が明るみになればこの世のバランスは崩れるだろう。シルアが全世界を支配するかも知れない。尤も、今の彼女にそのような欲は無いが。
 だが、下手をすればパラレルワールド全体のバランスさえも崩れるかも分からない。
 そう、この物語は彼女がいたことが、彼女、シルア・クロームホークの存在こそが元凶だったのだ。
 彼女がいなければ、この事件は無かっただろう。
 いや、シルア・クロームホークの存在は必然だったのかも知れない。その事実による結果が良い方向でも悪い方向でも、どちらにせよその事件は運命に定められた必然だったのだ。
 そう、いずれにせよそれはこの日を境に始まった。
 さあ、センターエンジェルストーリーの始まりだ!
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