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第三章
貴方を今でも私はお慕いしております 第三章
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登場人物
主人公 千(せん)
背中に5の数字が入っている王子の一人として選ばれた男の子。化け狐一族で、妖力は水。周囲の湿度や酸素に含まれた水や周囲の水を操って攻撃が出来る。ただ、この能力をあまり使っていないからどんな技を使えるのかについて本人は分かっていない。
身長は178㎝の高身長だが心は少年で感じた事や思った事を顔にも態度にも出してしまう。最近の悩みはある村で出会った少年の紫月が四葉さんの家に頻繁に出入りしており四葉さんが取られるのではと思って紫月に突っかかる度に「四葉さんの事が恋愛として好きなんだろ~」と揶揄われること
化け狐 サクラ
198㎝弱の背丈を持つ人型の化け狐。千とは魂の繋がりの儀式で千を自分の器として認めた。魂の繋がりであり相棒である千と常に一緒に行動をしている。千を背中に乗せる時は獣化になり、大人二人は乗れるくらいの大きさになれるが本人曰く気安く乗られるのは好きでは無くプライドが高い。昔は暴れて沢山の国や村を崩壊しては恐れられる事に喜びを感じていたが3番の数字を持つ王子に封印されて洞窟の中で暮らしていた。千が器になってから千の行動に振り回されるが魂の契約があるからか千の事は一番信用していていつまでの幼い子供のような性格でいる千の世話をするのが最近は少し楽しかったりするが振り回される度に器にして良かったのかと考えさせられる。夢はサクラの名前で世の中に恐怖で震え上がらせる事。
龍神 好実四葉(このみ よつは)
千の家に繋がる道の門の所にある桜の木に惹かれ桜の花を見ていた所を千に見つかり、四葉が住む村の代表として王子達に挨拶をした。昼は村の妖怪達に評判の薬屋さんをして、夜は龍の姿になり迷える子供達の魂を天に返す仕事をしている。
見た目は174㎝で年齢は千よりは年上の男性。髪は白く千曰くとてもサラサラの風になびく姿は静かなせせらぎの川のようで美しいらしい。
最近の悩みは今まで奴隷のように扱われていた村が幸せな生活を送る為にはどうしたら良いのかという事である。またお漬物が最近は上手に出来てきた為来たお客さんに提供し食べて貰うのが密かな楽しみである。
村の一族
千の両親
千が生まれた時に数字がある事に気が付いていたが数字がある者は化け狐に必ず殺されるという昔からの言い伝えがあった為本人には内緒にしていた。
村の中では爺様と実の兄の亜廉(あれん)は千が生まれた時から知っていたが王子として正式になった日には他の村人も知り、今まで我が子の死ぬかもしれない儀式までよく耐えたと慰められて今も村で普通の暮らしをしている。
実の兄 亜廉(あれん)
千の実の兄。6個違いで亜廉にとっては千は可愛くて仕方が無い存在。しかし王子としての数字を持っている事とその数字がある者は化け狐に殺される言い伝えを聞いて千が器の儀式の時までは気が気じゃ無かった。王子として頑張る千の成長に驚くがまだまだ幼い弟を守りたいと思い爺様の所に行っては千の近くに居たいと頼み断られ続けられている。
爺様
千の村に住む一番偉い爺様。そして化け狐のサクラの師匠でもある。千が生まれた時に数字がある事を千の両親から相談されて言い伝えを教えたのは爺様だった。両親が我が子の未来を知って嘆き悲しむ姿に心を傷め少しでも化け狐が千を殺さないようにと千が洞窟の中に入って居る時に爺様の化け狐と共にお祈りをしていた。ただ、その事については村人も含めて千も知らない。爺様は自分の事をあまり話さないので村人の間では年齢は幾つなのかという話を良く耳にする。
兄弟の盃を交わした王子達
1番 新一(しんいち)
鎖骨に1番の数字を持つ1番上の王子。能力は炎で弱点は水と炎を操るには力が必要なので疲れてなかなか能力の力を維持する事が出来ない。また性格上やる気がある人物では無く、なるようになれという性格なので戦の時も基本は「なるようになるさ」というスタイルで戦う。最近の悩みは盃を交わした兄弟達が冷たいこと。一人っ子なので兄弟が出来る事に1番楽しみにしていたのも新一だった。最近は長男の王子として弟達を引っ張って行く事に必死になりすぎてしまっている所がある。
2番 龍次(りゅうじ)
腕に2番の数字を持つ王子。能力は風使いだが力のコントロールが出来ず戦場となった場所を壊滅したり味方にも被害が出るので国の中では厄介者にされているが本人は気が付いていない。他者にヒソヒソと悪口を言われていても「俺が格好いいから噂をしているんだな!子猫ちゃん~」と言って近づくので皆からウザがられている。根っからの女好きだが女が好きというよりもチヤホヤされるのが好きなだけで本気でその人に恋をしている訳では無い。因みに千の事を馬鹿にしていたが龍次も初恋はまだである。
3番 鏡夜(きょうや)
舌に3番の数字を持つ王子。能力は千里眼である程度の距離であれば何が起きているのかを見ることが出来る。眼鏡はその距離を伸ばそうとしてわざと視力を上げているがそれで見える距離が伸びる事は無い。逆に千里眼を使う時は目を瞑ってしか出来ないので意味が無いことを本人は気が付いていない。鏡夜にも実の兄弟が居るが特に仲が良い訳でも無く会えば話すくらいのあっさりした関係の10個離れた兄が居る。
ただ、兄の影響を受けて和風な家を好むようになったが本人は「兄は関係ない、自分の好みだ。」と言い張っている。
最近は血が繋がらないが盃を交わした弟達を大事にしたくて新一兄さんと意見が度々ぶつかる。
4番 楓(かえで)
左足のふくらはぎに4番の数字を持つ王子。見た目は前髪が目を隠す程伸ばし背中を丸くしてのそのそと歩いている。能力が闇使いというのもあるからか常に闇のオーラを発しているが本人はその方が居心地が良いと思っているので気にしない。ただ新一と同じ能力は使い手で楓の場合も体力の消耗が大きく体力が新一より無いので疲れやすく戦ではあまり派手な活躍はしない。出来れば戦も帰りたいと思って影で終わるのを待ったりする事もある。姉が二人居るので良くおもちゃにされて扱き使われていたので弟が二人出来て兄という立場を手に入れて嬉しいからか弟達の事はとても大切な存在になって来ている。
ただ、恥ずかしいので本人達には絶対に言わない。
兄弟の中では龍次と性格が合わないので嫌い。よく率先して龍次を虐めるのも楓である。
そして極度の人見知りなので女性達を囲んで飲む時は千と一緒に端でお酒を飲むのが好き。女性が近づこう者ならシャーと威嚇する程苦手。(原因は姉達のせいで女性に対して夢を持っていない。)
弟達の事を大事に思っており、体力が消耗しようとも弟達の為ならと能力で助けてくれる優しい一面もある。
6番 希生(きなり)
耳裏に6番の数字を持つ王子。いつも派手なメイクをしていて美容が大好きな男子。千よりは少し下の男の子でよく千の背後にくっ付いて隠れたりする。新一と龍次と違って女性が根っから好きというよりも女性達とメイクや最近流行なファッション、美容について話をするのが好きなだけでこの人が好きという感情は特にない。
国に仲の良い幼なじみ(男)が居てよく遊んだり毎日文通をする程の仲良しである。能力は氷使いの冬。その場がどんなに熱い環境でも冬の環境にする事が出来る。体力はそれなりにある為ある一定の距離であれば基本はそこまで体力を消耗せずとも冬にする事が出来る。
ただ戦いの時は相手を凍らせる事に夢中になって他に目を向けていないと自分の身体も一緒に氷になってしまう為不意打ちで攻撃された場合身体を傷つけられるというよりも壊されてしまい死に至る事がある。
1番年下で甘えん坊だが本当は結構腹黒くて計算高くどんな頼み方をすれば面倒な仕事をしなくても済むかを常に考え、兄達に仕事を押し付けてはマッサージに通ったりするのが好き。
千の部隊
1番隊隊長 はじめ
見た目はスキンヘッドの男で見た目は厳つく感じるが意外とお茶目でクマの人形が無いと眠れないという可愛いギャップを持つがそれを知っているのは同じ部隊の人達か千賀しか知らない。千に言われてから敬語無しで意見を言えるようになり、最近では千と千賀とはじめで意見交換をするのが好き。因みによくこの3人が固まって訓練するが部下からは筋肉バカの集まりだと影で言われている事に気付いていない。
2番隊隊長 千賀(ちか)
ボブヘアーの千賀は村1番美男子と言われている。美容が好きなのか顔に傷が付かないような戦い方をする為はじめと千に泥を付けられたりよく虐められる。
それでも3人の相性は良く、千賀も千に対して意見をハッキリ言えるので困った事は無いが、爺様にはバレないようにはじめよりは周囲の目を気にしている。
花の都
王子達が住む場所。それぞれ王子達の家に続く道の入り口に門がありそこには個性溢れる様々な飾りがされている。その門の入り口にある中心部には城がありその建物の中に入っていくと通行証を持った商人や王子達に商品を渡して使用して貰うまたはそれにお墨付きをして貰う事で売り上げを伸ばそうとしている人達が出入りしている。中にはその人々の群れを利用して物乞いをする人達も居る。王子の間は基本は王子以外は立ち入り禁止されている。中には2階建ての部屋が広がっていて寝転がることが出来るソファとキッチン(料理が出来るのは新一、龍次、鏡夜、楓だけ)があり良く材料を買ってきては料理を自分達で作り兄弟達でご飯を食べる。またそれぞれに部屋が与えられているので一人になりたい時はその部屋に籠もる事も出来る。1階は兄達の部屋があり、2階に弟達の部屋がある。
花の都にある王子達の家に続く道の門の所は王子の家で働いている者や王子達以外は固く禁じられていて他の王子の所で働いている者が違う王子の家に行く事も固く禁じられている。これに反した者は死刑、または流刑されてしまう。
王子の掟と村の掟
王子と村の掟は厳しく守らないと王子であっても反逆者として死刑になることがある。
例えば王子が国や国民に対して殺しをした場合や王子の力を使って国中を混乱させた場合は特別な許可の元死刑にされる。実際に過去の王子達の中で王子の権力を使って好き放題にした事により同じ兄弟の盃を交わした兄弟に殺されるという事はあった。
また、王子の身の危険を守る為に厳重に警備を強化しており村人と深い関係を持つことや自分達の城に招き一緒に食事をする事は禁じられていて王子の家で働く者達との交流も控えめで無いといけない。
また王子は常に戦では先頭に立たなくてはいけなく、それぞれの出身の国、村の軍隊の指揮を取るのも王子達の仕事である。
また戦での王様はそれぞれの出身の1番偉い人が戦の中心部に座らないといけない。
(例:千の村の1番偉い人は爺様なので爺様が戦の時は中心部に他の王様と一緒に戦が終わるまでは座って待機しておかないといけない。)
王子達は偉い人達(王様)を守りそして領土を拡大していく為に尽力しなくてはいけない。
「分かっておるのか?千よ。」
と爺様に久しぶりに呼び出されたと思ったら2時間も正座で説教されているのは化け狐の一族として生まれ、村の掟に従って化け狐と魂の繋がり(器)という契約を交わした俺は背中にある数字をきっかけに他に身体に数字が入っている王子達と兄弟の盃を交わした。
王子として戦に参加し軍隊の指揮を取るだけでは無く、戦の跡地を視察して生存者や新たな領土拡大の為の何かを見つけたりするのが仕事らしい。俺も1ヶ月程前に無事に視察を終えたが帰って来て早々に俺の出身村で1番偉い爺様から文で
『村に一度帰ってくるように』
と言われて初めての視察に対して褒めて貰えるのかとサクラとウキウキしながら急いで帰れば冒頭の通り何故か俺は怒られている。
「爺様の言いたい事は分かるし、王子として立派な仕事をして来なさいという事は分かるけど俺の視察の何がいけなかったのさ。」
「これ!お前はまたそんな口の利き方をしおって!お前だけじゃぞワシにそんな言葉使いをするのは、まったく・・・今回ワシが言いたいのはどうして領土拡大せにゃならんのに人を連れて帰って来て妖怪の村で働かせるのかという事じゃ!新しい村までの道の開拓も門を造る事もお金が凄くかかるじゃろうに、お前と来たら無一文の奴らを村で働かせるだけなんぞ何も国にとって良い事はなかろう!!」
「どうしてだよ!!紫月達は必死に働いて暮らしているのにそれの何がいけないのさ!」
「この大馬鹿者!!そいつらは雇われの身であれば商人として金銭を国に納める必要が無いことを何故勉強してないんじゃ!あれ程丘の学校で勉強させたのに・・・・」
と泣き真似をする爺様だが俺にはまだピンと来なくて正座をし床に目線の焦点を当てて俯きながら時が経過し爺様の怒りが収まるまで待つしか無かった。
「長かったー。」
と俺は爺様の家で3時間弱は正座で怒られていたので、足が痺れて感覚が麻痺するほどだった。痺れて痛い足を引きずりながら歩いて実家にも顔を出そうと思い歩いていると前から兄の亜廉が歩いてきた。亜廉は俺が足を引きずって歩いているのを見て笑いながら
「千、爺様にこってり絞られたのか?」
と言う。俺は笑いながら言う亜廉にムッと口を尖らせながら
「見て分かるでしょ?初めての視察だから褒めて貰えると思っていたのに何で怒られるの?」
と言うと
「そりゃ~あれは今までの王子の行動とは思えない行動したからじゃない?」
「どういう事?」
「爺様にさっき怒られた時に言われなかったのか?」
「何を?なんか爺様途中で泣き真似をしたり顔を真っ赤にして怒ったりしていたけれども、俺足が痺れている方が気になってて途中から聞いてなかったんだよね。」
「千らしいと言えば千らしいが王子として駄目だろ。」
「そうかなー。俺そんなに駄目な王子なのかな?」
「王子としては駄目では無いけれど変わっているだろうな。他の王子達は今回の事を何か言っていたか?」
「あー、兄さん達は俺が視察に行った後から兄さん達だけで話合いを何回もしていて俺と弟の希生(きなり)は話合いに入れさせて貰えないんだよ。だけど、兄さん達がお互いに顔を合わせると緊張感って言うのかなピリピリした感じが肌を伝わってくるから何かあるのかもってこの間希生と話してたんだ。」
「なるほどな、多分お前の視察の件で意見が割れているんだろうな。」
「どういう事?」
「詳しくは俺はその場に居る訳でも無いし王子達の意見を聞いている訳では無いから何とも言えないけれども、視察について話し合っているのは間違い無いとは思うぞ。」
「そっか・・・。俺さあのピリピリした感覚苦手なんだよね、希生は特に気にしていないみたいだし感じていないみたい。」
「それはお前が化け狐の一族だからもあるんじゃないのか?」
「どういう事?」
「歴史で習っただろ?化け狐の一族は人の形として生まれるが基盤となる能力は化け狐と同じく嗅覚が優れ、見える範囲が広く獲物を見つけるのが得意で野生の勘が鋭い。また攻撃は化け狐と同じく武器を使うよりも武闘派が多いのも特徴だな。それに化け狐が持っている特優の予知能力もあるっていうのは知っているよな?」
「初耳かも。」
「・・・・嘘だろ?あれだけテストとかあったのにどうやって乗り越えたんだよ。」
「テストはいつもサクラが教えてくれたから。サクラって厳しい感じだけれど頭は結構良いんだ~。」
「待て、サクラがカンニングの手伝いをしていたのか?」
「んー、サクラは知らないと思うけれどもサクラが思っている事も全部魂の繋がりでこっちにまで伝わってくるから分かっちゃうんだよね。」
「それでサクラが何で答えを教えるんだよ。」
「サクラってさ、ずっと洞窟の中に閉じ込められていたから外の事が分からなかったみたいで出て来てから歴史にサクラの事が恐怖で満ちた内容が無いかって探しているうちに勉強が好きになったみたい。それで俺が寝ている間とかに教科書ずっと読んでたよ。」
「あー、確かに夜中起きたら人型になって読んでたな。俺の化け狐はそんな事をしないから驚いたのは覚えているけどそれで授業に着いていけるなんてサクラって凄いんだな。花の都の家でもそんな感じなの?」
「んー、サクラの部屋は覗かせて貰えないから分からないけど今はファッションとかデザインとかが好きみたいで家の中を色々物を造っては飾ったり、休みの日は壁の色を白から白に変えてたよ。」
「何で白から白に変えるんだよ。」
「サクラ曰くこの白は前の白より暖かみのある白なんだって言ってた。」
「俺にはよく分からないこだわりだな。」
「でしょ?ていうかさ、今日の夕飯何かな~?」
「ああ、今日は雑炊とたくわんって言ってたぞ。千は雑炊が好きだからその方が喜ぶって母さん張り切ってたし。」
「雑炊!!やったー!!久しぶりに母さんの雑炊が食べられる!!」
「おい!いきなり大きな声を出すなよ!そういえば千が足がまだ痛いのかと思ってここで立ち話してたけれどもう足痛くないのか?」
「・・・・は!そういえばもう足痛くないや!わあ、今思い出しても爺様は怒りすぎだったよー!亜廉もそう思うだろ?」
「俺に言うなよ!爺様に聞かれてたら俺が怒られるから意見を聞くのは止めてくれ!」
「なんでよ~爺様だよ?怖くないのにサクラも亜廉も爺様の事をどんな風に見えているの?」
「やめやめ!!この話はもうしないぞ!!・・・ほらもうそろそろ夕飯の時間だ。他の家も煙が出てご飯を知らせる合図が出ているぞ、母さんもきっと俺達に最高のご飯を作ってくれているさ。ほら帰るぞ!」
と言って俺の手を掴んで家の方に小さい子を連れて帰るように引っ張って歩く。
亜廉の手は四葉さんの手と違ってゴツゴツしていて俺よりも大きい掌をしていた、そんな手を見ながら俺は四葉さんに会いたいなと思い煙突から出てくる煙を赤く照らす夕日を見てそう思った。
「あー!!もうやってられねー!!」
と新一兄さんが大声を上げながら王子の間にある新一兄さんの部屋から出てきた。
「兄さんまだ話が終わってないぞ!!」
と龍次兄さんと鏡夜兄さんも部屋から出て来る。
「だーかーら!!俺は何度言われても意見は変える気は無い!!」
「それは分かるが鏡夜の話も聞いてやってくれ、兄さん。」
「よく言うよ。まず龍次兄さんは俺の味方なのか、それとも新一兄さんの味方なのかハッキリしてくれよ。」
「俺は自由だからなどちらかに着くとは決められないさっ!なあ、そうだろ!!兄弟!!」
と新一兄さんを始め龍次兄さんに鏡夜兄さんがそれぞれ話合いの続きなのだろうかお互いに興奮状態のまま新一兄さんの部屋から出てきた。
俺はチラッと希生を見るが希生は雑誌という本を見ているだけで兄さん達の話を気にも止めていないようで俺はどうして良いのか分からない。
扉付近で姿勢を正してこちらを見ているサクラをチラッと見ると目で(言いたい事があるのなら言いなさい)と合図を送って来た。
俺はサクラに頷くと
「兄さん達!あのさ、俺の事が原因で毎日兄さん達喧嘩しているんだよね?」
と耳を塞いで鏡夜兄さんの小言を聞かないようにしている新一兄さんと格好付けて前髪を梳かしている龍次兄さんと新一兄さんにまだ何かを言おうとしている鏡夜兄さん、そして新一兄さんの部屋からノソノソとゆっくり背中を曲げて出てきた楓兄さんに向かって俺は言った。
すると兄さん達は俺の声に反応して一斉に俺の事を見た。
俺は兄さん4人に一斉に見られて少し緊張したがここで言わないと言う機会が無いと思って兄さん達を真っ直ぐ見ながらもう一度
「俺のせいで喧嘩しているんだよね?」
と聞いてみた。兄さん達はそれぞれ顔を見合わせながら一斉に吹き出して大声で笑いながら
「俺達が喧嘩してるって~?」
と新一兄さんが言い出す。
「違うの?」
「いや、確かに今俺達は話合いをしているのは確かだけれど喧嘩なんてしていないさ!!」
「本当?でもいつも部屋から出てくるとピリピリしてるじゃん。」
「そりゃあ、楽しくてウキウキするような話をしている訳じゃ無いからな~。一応王子としての役割の話をしているからな~。」
「どうして王子の役割の話合いなのに俺と希生は入れてくれないの?」
と言うと4人が大笑いするのをピタッと止めて気まずそうに顔を見合わせる。
「お前が弟だからだよ。」
と気まずそうに楓兄さんが俺に言って来た。
「どうして?俺も王子なのに?どうして仲間外れにするのさ!!」
と俺は懇願するように楓兄さんに言うと楓兄さんは重い前髪の下からヒョコッと片目を覗かせると新一兄さんの顔を見る。新一兄さんは溜め息を吐いたがすぐに鏡夜兄さんが新一兄さんに
「溜め息吐くことは無いだろ?俺が言っていた通りの考えだっただろ?新一兄さんは国の決まりとかに固執しすぎなんだ。」
「俺が固執しているだと?」
「だってそうじゃないか!!俺は散々千と希生にも話を聞いてやろうって言っていただろう!それなのに兄さんは弟達の意見は聞かないって言って聞いてくれないじゃないか!」
「意見を聞かないなんて言っていないだろ?」
「でもそういう態度をしているし、俺が何を言っても兄達だけで決めるって譲らないじゃないか!!」
「お前は本当にギャーギャー騒ぐなー。俺はそこまで酷くは言っていない、ただ今回の事は兄弟全員で話し合う必要は無いというだけだ。」
「それを千は嫌がっているじゃないか!!今回だってそうだ千が視察に行くのは俺と楓はずっと反対していたのに兄さん達が行って来いなんて言うから!!」
「結果無事に帰ってきただろ?」
「そういう事じゃない!千はあれから各地から非難されているだろ!!」
と鏡夜兄さんは勢いよく言った後に俺の顔を見てハッと息を飲んだ。
他の兄さん達は鏡夜兄さんにヤレヤレという顔で見て、希生は雑誌はさすがに読むのを止めたが静かに俺達の事を見守るだけで無表情のままだった。
俺は今初めて各地から怒られているのを知った。
「俺、そんなに皆から怒られているの?」
と聞くと大きく溜め息を吐いた新一兄さんが
「そうだ、この間視察に行っただろ?そこで見つけた領土を拡大はしてもその人達から金銭を取るわけでも納める何かを決めて来ないだけでは無くてそこに居た人達を国の一部である妖怪の村で働かせて暮らさせるなんて何でだって中にはそれに対して王子が力不足だから正しい判断が出来なかったのではとも言われているんだ。千もこの間村に呼ばれて怒られたんじゃ無いのか?」
「怒られたけど、他の人も言っているとは思わなかった。ごめんなさい。」
「お前が謝ることは無いさ。」
と新一兄さんは言ってくれたけど俺はもの凄く迷惑を掛けてしまった事に爺様に叱られるよりも何倍も落ち込み反省した。そんな落ち込む俺を見て新一兄さんが
「鏡夜が要らない事を言うから、ほら千が落ち込んだんじゃないか~。」
と言い出した。鏡夜兄さんはクイッとズレた眼鏡を上げながら
「確かに口は滑らせたけれども、俺は最初からこういうのを想定していたから視察に弟が行くのは早いと言っていたんだ。それに兄さんは滅茶苦茶なんだよ、こんなに千が言われているのに前線に今度から弟達も混ぜて戦の練習するなんて。これ以上千を追い詰めないでやって欲しいんだ。まずは千の場合は戦慣れをしてから希生と同じ俺達の後ろで戦える姿勢を学ぶ事が大事なんだ、それなのにそれを飛び越えて視察には行かせるし前線で戦わさせるなんて。俺は絶対反対だぞ!」
と途中から強い口調で言うのでカチンと来たのかそれまでのらりくらりと弟の言葉をかわしていた新一兄さんが
「それを決めるのは第1王子の俺だぞ?」
と強めの低い声で言う。
「なんで、何でもかんでも1番だからって決めるんだよ。俺達は6人居ててそれぞれの意見があるだろ?それを聞くのが1番だろ?決定権があるからって独りで何でもかんでも決めるなよ!!」
とヒートアップする鏡夜兄さんを楓兄さんが止めるように言うが止められないのか制止を振り切って続けて
「それに前から思っていたんだ!!何もかもやる気無さそうに会議しているくせに殆ど自分の意見を押し付けるばかりじゃないか!!この間の視察だってもっと兄として何か千の為に出来ていれば千が言われなくても済んだだろ?」
ともうほぼ怒鳴り声になる鏡夜兄さんに対して
「うるせーな!!俺に決定権があるのは王子の決まりだから俺に文句言うなよ!!それに千のやり方は千が責任持ってやるべきだろ?そこまで俺達が介入するものじゃないだろ!!」
と段々怒鳴り声になる新一兄さんに、軽く腕を叩いて落ち着かせようとする龍次兄さんの事が目に入らないのかどんどん声が大きくなっていく。
「兄さんは千がここまで言われて可哀想とか兄としてどうしてあげられるかって考えないのか?」
と鏡夜兄さんが新一兄さんに聞くと
「俺達は本当の兄弟じゃ無いだろ。そこまでする義務は無い。」
と言って王子の間の扉を開いて花の都に帰ってしまった。
俺はそんな後ろ姿を見て何も声を掛けられなかった。
確かに俺達本当の兄弟じゃ無い。でもそんな事は分かっていてもそう言われるのが辛かった。皆同じなのか誰も新一兄さんの後を追おうとした者は居なかった。
「あー!!ムカつく!!」
と俺の家の庭で寝っ転がりながら怒っているのは鏡夜兄さんと桜の木を眺めながら重たい前髪を風で揺らしながら静かに頷く楓兄さんである。
あれから新一兄さんが出て行ってしまった後龍次兄さんも無言で王子の間から出て行き、会議をしないなら帰ると言って希生も帰ってしまった。残った俺達3人はどうしようも無く落ち込む俺を励ますようにしながらサクラと一緒に俺の家まで帰ってきた。
鏡夜兄さんは大きな声で何度も空に向かって新一兄さんの悪口を言い、楓兄さんは静かに怒っているのに対して俺は桜の木を見ながら落ち込んでいた。
「お茶が入りましたのでどうぞ。」
と言ってメイドさんが俺達にお茶が入ったコップを渡して来た。俺はチラッとメイドさんを見て
「ありがとう~。ここにお盆置いといて~。」
と言うと
「わかったわ。千大丈夫?」
と聞いてきたので俺はフルフルと左右に顔を振って答えた。
「今日は千の好きなハンバーグにするから元気出してね。」
と言っては家の中に戻る。
俺はメイドさんが戻った後にお茶を他2人に渡そうとしてコップを手に取ると楓兄さんが
「なんでメイドさんと話すの?」
と聞いてきた。え?と思って2人を見ると鏡夜兄さんも同じ気持ちなのか俺の事を見つめていた。俺は2人の顔を見て
「だって同じ家なのに話さない方が変だから。寂しいじゃん。」
と言うと2人は顔を見合わせて大きく溜め息を吐いた。俺は2人の態度に驚いて
「そんなに駄目なの?」
と慌てて聞くと
「お前みたいな王子初めてだぞ。」
と鏡夜兄さんが言ってきた。
「何が?」
「俺達王子は従者と関わりを持ってはいけないって言われているだろ?」
「うん、知ってるよ。」
「だから基本はその掟に従って口を聞かないし、自分達は王子なんだって思うから自然と口を聞かなくなるんだよ。」
「そうなの?」
「俺もここに来てからは必要な事以外は話掛けないし、相手は俺の目を見ない。」
「寂しくないの?」
「寂しいという感覚にはならないな、楓もそうだろ?」
と隣に座る楓兄さんを見ると楓兄さんは重そうな前髪の下から俺達の事を見て小さく頷いた。
「そっか~俺も最初皆と同じで王子だから一線を引かないと駄目だってサクラに言われて納得したつもりだったんだけど、ご飯が美味しく感じられなくなったり段々落ち込む日が増えてきてメイドさん達もその姿を見て爺様に言ってくれたの。サクラも最初はそれでも駄目!て言っていたけど最終的には折れて納得してくれて爺様に許可を取ったの。駄目だったかな。」
「いや、俺と楓はそう思うだけで千がその方が過ごしやすくて良いのならそれで良いと思うし、それぞれ王子の家の中や部隊のあり方は王様や長に決定権があるから長がそれで良いって言うなら良いと思うぞ。」
「そっか~良かった~でも俺は王子なのに決定権という物は持っていないんだよね?」
「本題はそこなんだ!!あー、今忘れかけていたのに思い出すとイライラする。」
と言って鏡夜兄さんは眼鏡を外してこめかみをマッサージするようにグルグルと指の腹で撫でた。
「あーごめん。俺また何か余計なことを言った?」
と聞くと楓兄さんが
「千はすぐに謝るが悪い事は何一つしていない。だから謝る必要は無い。」
と言ってくれた。
「でも、俺のせいで他の国から非難されるし新一兄さんとも喧嘩になったでしょ?」
「他の国の奴らは気にするな。俺と鏡夜兄さんはあの村の出来事は兄さんは千里眼で、俺は千にあげたお守りで見ていたから分かる。けどあの場所に居なかった者は一連の流れを知らない、あんな状態で女子供だけを追い出すなんて無理があるだろ。それを知らない奴が文句を言っているだけで気にする必要は無い。それに新一兄さんは千を見ているようで見ていないんだよ。それは千だけじゃ無くて俺達弟の事もな。」
「楓兄さん、ありがとう。俺凄く不安だった、俺が勝手に決めた行動が紫月達にも迷惑掛けちゃう事なのかと不安だった、そうだ!紫月達は大丈夫なのかな?妖怪の村も大丈夫なのかな?嫌がらせされていないかな?」
「嫌がらせの被害は受けていないけど、紫月っていう奴の事は何も知らないぞ。千がこの間友達になった少年だろ?」
「うん!お父さんとお母さんを殺されて3歳の弟を育てないといけないんだよ。」
「そっか、まあ奴隷の中でもそれぞれ複雑な家は多いとは聞くからな。千じゃ無かったら紫月もきっと奴隷と同じ生活になっていただろうな。ただ紫月がどう思っているのかは俺達じゃなくて直接聞いた方が良いと思うぞ。」
「分かった、時間見つけて会いに行ってくるよ。」
「その方が良い、きっと千の友達だから何かあったら話してくれるさ。」
「うん!ありがとう!!気持ちが楽になったよ~」
「良かったな、ただ問題は新一兄さんと鏡夜兄さんだな。」
と楓兄さんはチラッと鏡夜兄さんを見る。鏡夜兄さんはこめかみをまだマッサージしていて俺達の視線を感じたのかマッサージを止めると
「俺は間違ったことは言ってないぞ。」
と低い声で言ってきた。
「まだ何も言ってないだろ?」
と楓兄さんがと突っかかったように言ったので俺は慌てて
「喧嘩は駄目だよ!!」
と止めた。兄さん達は俺が焦っているのを見て、2人で顔を見合わせて大笑いした。
「大丈夫だよ、こんな事で喧嘩なんてしないさ。」
と鏡夜兄さんが笑いながら言う。
「本当?」
と不安になって聞くと
「大丈夫、ただ新一兄さんとは何回もぶつかっていたからな~遅かれ早かれこうなっていたと思うし大丈夫だよ。千が心配になる事は無い。」
と言ってくれて俺は安心した。
「ただ、今のこの状況は長くは続いてはいつ戦が起きるか分からないからな。鏡夜兄さんは謝る気は無いんだろ?」
と楓兄さんが鏡夜兄さんに聞くと
「俺は間違ったことは言ってないからな。」
と言って眼鏡を掛けた。
「だけどこのままも良くないだろ?今度ある戦の練習も考えなくてはならないのに、内輪で揉めてたら練習も上手く行かないよ。」
と楓兄さんは言う。
「それは分かっているけど、どうしようも無いだろ新一兄さんが耳を傾けてくれない限りそれは難しいんだ。」
と鏡夜兄さんは眉間にシワを寄せながら言う。俺はそんな兄さん達の話している姿を見ていて
「俺さ、新一兄さんの家にこれから行ってみるよ!!」
と言った。その言葉を聞いて鏡夜兄さんは飛び起きて
「待て!!あんな俺達は本当の兄弟じゃ無いって酷いこと言われたんだぞ?千にまた何か言うかもしれないぞ!!」
と言われたが俺は新一兄さんと話したいという気持ちが大きくなったので
「うん!でも新一兄さんと話した方が良いと思うから今から行ってくる!!」
と言って寝転がっていたのを飛び起きて俺は立ち上がった。
そんな俺を止めるように鏡夜兄さんと楓兄さんは言ってくるが俺はもう家の門の方に走り出していたのでそれ以上は2人の声が耳に入ってこなかった。
「お邪魔しまーす!!こんにちは!新一兄さーん!!」
と新一兄さんの家の入り口で大きな声を出す。ここに走って来てから何度も玄関で声を出していたが誰も出て来ないので俺は強行突破でドアを開けようとしたら2階の窓から
「待て待て!!急に入ってくるな!!」
と新一兄さんが顔を出して止めてきた。
「あ!兄さん!」
と俺が言うと新一兄さんの後ろから龍次兄さんが顔を出して来た。
「あれ?龍次兄さんも来てたんだね!!」
と俺が言うと龍次兄さんが
「流石にあんな事を言う兄弟を放っておけないさっ!お前もそうだろ?」
と言って来たので俺は無視して
「ねえ、新一兄さん家に上げてくれよ。」
と言うと新一兄さんがウヘーとした嫌そうな顔で
「俺はさっきお前等弟にいやーな事を言ったお兄ちゃんだぞ。」
と言って来た。
「俺はあの言葉は兄さんの本音じゃ無いって知ってるよ。」
「分からないぞ~お兄ちゃんは怒っていたからな~。本音がつい出てしまったのかもしれないぞ~」
と脅してくる、でも俺はそんな事を気にしないという態度で新一兄さんの言葉を無視して洋風な形をした扉を開けて中に入って行く。
中は以前皆で遊びに来たから部屋を迷う事が無い、中には新一兄さんの従者さんが居るけど皆俺の姿を見ては軽く礼をするだけで誰も俺を止める事をしない。
俺はそんな中2階の一つの部屋に辿り着いて部屋の前で
「新一兄さーん!!龍次兄さーん!!遊びに来たよー!!開けてー!!」
と思いっきり叫んだ。するとすぐに扉が開いて
「千、あんまり大きな声を出すなよ!!全くここまでズカズカ入ってくる人は千が初めてだよ。」
と言って新一兄さんが部屋に入れてくれた。
「え?龍次兄さんはどうやって入ったの?」
と部屋の窓で格好付けて座っている龍次兄さんに聞くと
「俺は兄さんの背後に着いていってここまで入ってきた。」
「どういう事?」
「あの時王子の間から出た兄さんを追いかけてここまでピッタリくっ付いて何も言わずにここに来たのさ。」
「龍次兄さんも新一兄さんの事が心配だったんだね。」
「いや?俺は心配なんて事はしていないが、あんな言葉を弟である俺に言うなんてと思ってな。」
「自分の事だけを考えて着いてきて何か変化はあったの?」
と俺が龍次兄さんに聞いたがすかさず新一兄さんが
「あいつここに来てから何もしていないぞ、ずっとここに来ては鏡見たり部屋の隅で筋トレ始めたりで何でここに来たのか俺も分からなくてどうしようかと思ってたんだ、ついでだから連れて帰ってくれよ。」
と言い始める。
「龍次兄さんの事は後にして俺は今新一兄さんと話しに来たんだよ。」
と俺は新一兄さんにしがみついて言うと新一兄さんは振りほどくように身体を捩らせたか俺はこれでもかってくらいに抱きついて動かないようにしがみつくと新一兄さんは諦めたように動かなくなった。
「俺さ、なんで新一兄さんがあんな事を言ったのかは分からないけど、今の状態は良くないって思うんだ。それでね、兄さんには俺に対して思っている事を言って欲しいんだよ。」
「千に思っている事?」
「うん。俺が視察で失敗したから怒っているんでしょ?」
「何で怒るんだよ。」
「だって村人を連れて来て勝手に妖怪の村で働かせたから。」
「そんな位で怒るわけ無いだろ?というか重いから離してくれ!お前子供だけど178㎝も身長がある事忘れるなよ!俺より低くても小さい子供じゃないんだぞ!」
と言うので俺はソッと離した
「逃げないよね?」
と聞くと
「もう!お兄ちゃん怖いよ!後ろからくっ付いて部屋に勝手に入って来る弟は居るし、でかい身体でコアラみたいに抱きついて来る弟はいるし怖すぎるわ!!」
と言いながら部屋にあるベッドに腰掛けて俺達を交互に見ながら言う。
「だってそうしないと兄さん逃げるかもしれないじゃん!ねえ、龍次兄さん!」
と窓辺に居る龍次兄さんに声を掛けたが窓の鏡に映る自分の姿を見て筋肉の付き方とかを確認しているので俺は話しかけた事を後悔した。
でもこのままだとまた新一兄さんのペースで話しが進んでしまいそうな気がしたので
「新一兄さんの事が心配だったんだよ。俺はさ確かに兄弟の盃を交わしただけの兄弟だけど兄さん達の事や希生の事は本当の家族のように思っているんだ。だからああやって自分を傷つける兄さんの言葉を言わせたのが俺の視察とかが原因だったら嫌だなと思ったの。」
「千の視察が原因であんな事を言ったのかとお前は思っているのか?」
「違うの?」
「全く違うね!!思い上がりも良い所だ!!俺はただ思った事を言っただけ。」
「もし兄さんが本気でそう思っているなら兄だけでも会議なんてしないよ。しかもここ数週間もそればっかりじゃないか!!もしどうでも良いなら会議なんてせずに皆に言うだけだよ。」
と新一兄さんに言うと図星だったのか新一兄さんは黙ってしまった。
「俺はあの言葉は新一兄さんが自分に言い聞かせている感じに俺は思ったよ。だからそんな自分の言葉で傷ついて欲しくないんだよ。」
「はあー、お前は純粋に見えて心の中心を遠慮無しでナイフで突き刺してくるから1番手が掛かる弟だよ。」
と観念しましたという風に両手を上げて溜め息をつきながら新一兄さんは答えた。
「確かに今回の言葉は俺が言い過ぎた、それについては謝る。ただな俺は弟だからと言って戦に行かせないのには限界があると思っているんだ。」
「どういう事?」
「前回の戦で勝ったとは言え負傷者や死者が多く出たのは知っているよな?」
「うん。」
「その負傷者や死者の多くは俺達兄達の国の出身の者なのも知っているよな?」
「うん。」
「前回の事で多くの人を失ってしまった穴埋めは今必死にしているけど、それも限界はある訳で人員を増やした所で連携がその部の一部が出来ていないだけで部隊が全滅する事も容易に想像出来るだろ?」
「んーと、前回の怪我人の他に新しい人が入ったら今までの連携が出来なくなって団体行動が乱れてそこに敵が突っ込んできたら壊滅しちゃうって事?」
「そうだ、良く自分なりに解釈できたな。」
「あってたー良かった。」
「当てずっぽうかよ!!・・・まあ良いかそれでな、俺の親父である王様から千が視察に行く前に言われたのが弟達にも戦に出させろという事だった。俺は最初はまだ千なんて守りの戦なんてしていないから無理だって思ったけど、現状そんな事を言っている場合では無い。後千が視察に行った後には掟を厳しくしなくてはならないとも言われている。」
「俺が勝手に連れて来たのが駄目だったのかな。」
「これは難しい話で、鏡夜と楓の話を聞いている限りでは仕方ない選択だったと俺は分かっているが王様の考えは違ってな、自分の国に利益になる事を優先にしているのさ。」
「りえき?」
「自分の国にとって得になることな。」
「それは俺の村も得になるの?」
「俺の国が発展すればその分他の兄弟達の出身の国や村も得な事があるから兄弟の盃という名の国同士の協定を結んだのさ。」
「きょうてい?」
「争いをしないで仲良くしましょうよって事な。」
「なるほどね、俺兄弟の盃に対しても掟だからって思っていただけで何も考えずに兄弟になってた。」
「それはわざと村の長が言わなかったんだろ?俺の場合は父親が王様だからと1番という数字が入っているから厳しく父親から言われて育ったからな。」
「そうなんだ。俺さどうしたら王様に分かって貰えるかな?」
「は?」
「だって、王様がそうやって掟の事を言うから兄さんが辛くなるんでしょ?」
「いや俺は辛くないが・・・」
「嘘だね、だって言いたくない事も言わなくちゃいけないじゃ無いか!現に鏡夜兄さんとも喧嘩してるし。これじゃあ敵が急に攻めてきて戦わなくちゃいけない時に喧嘩してたら余計に死者と負傷者が増えるだけだよ。」
「ごもっともだな。」
とさっきまで窓の鏡を見ていた龍次兄さんが急に話に入ってきた。
「俺も千の言う通りだと思うぞ。掟はあくまで約束事だ、それに従いすぎて皆の輪を乱し戦に負けてしまえば元も子も無いだろ。」
と真っ直ぐに新一兄さんの事を見て言う。
新一兄さんは頭を抱えて
「言っている事は分かるけど、それが出来たら苦労しないんだよ。」
とベッドに寝転びながら悩んでいるのに対して俺は一つの案が浮かんだ。
「そうだ!ねえ、王様達を集めてさそこに紫月達にどれだけ戦の跡地は酷いものかを説明して貰おうよ!!」
と言うと二人して驚いた顔で俺の事を見ていたが俺の頭は紫月に会う事で頭がいっぱいになっていて意見を変えるつもりが無いのが分かったのか2人は溜め息を吐くだけで何も言わなかった。
「と言うわけでさ紫月村の長や王様に会ってくれよ。」
と俺とサクラは四葉さんの家に遊びに来ていた紫月に今までの経緯について話をした。
本当は王子の話している事を他で話す事は王子の掟によって罰せられるが今回は特別に新一兄さんの許可のもと話しても良いと言われたので大まかだが紫月に話したのだ。
紫月は四葉さんの家で作っているお漬物を片手に固まって止まっている。
俺は聞いていないのかと思って紫月に手を振るが反応が無いので四葉さんを見るとニコニコと笑ったまま何も言わない。
俺は何か変な事を言ったのかと思って口を開こうとしたら
「プハァ死ぬかと思った。」
と紫月が急に話始めた。
「そんな話を俺にしても良いのか?」
と呼吸を乱しながら聞く紫月に
「良いってさっき言ったじゃん、新一兄さんが許可してくれて紫月に聞いてくるねって言って飛び出してきたんだよ。」
「それ今日の話?」
「そうだよ、だから王様に会うのはもう少し後の日付になるけどその時には紫月に来て欲しいんだよ。」
「ムリムリムリ!!俺こんな身なりなのに王様に会えるわけ無いだろ?」
「なんでさ、身なりなんて関係ないよ。ここに住む人なんだからそんな事を気にする方が変だろ。」
「それはお前だからだろ?俺とは住んでいる世界が違うだろ?」
「何でだよ、俺だって王子だけど紫月とは友達だろ?」
「確かにそうだけど、それに他の人達も納得しないぜ?」
「そうかな~、でもそうしないと王様は分かってくれないんだよ。」
「それは分かるけど、俺達が言った所で何か変わるようには思えないんだよ。行くだけ無駄足かもしれないだろ?」
と紫月は強い言葉で王様に会う事を拒否する。
そんな俺達の話を黙って聞いていた四葉さんが
「紫月さんの言いたい事は分かりますが村の代表として発言するのも時には必要かと。」
と穏やかに言うのに対して紫月が
「えー!!四葉さんも同じ意見なんですか?俺嫌ですよ!!怖いし。」
「大丈夫ですよ、千が傍に居てくれるのでしょ?」
と俺に聞いてくるので俺はブンブンと頷くと
「でしょう?そうしたら怖い事なんてありませんよ、1番の強い味方は自分の事を理解してくれる仲間の存在です。その存在を壊そうとしてくる人は王様ではいらっしゃいませんよ。」
「確かに俺達が友達で怒る王様は居ないかもしれないけど・・・」
と言いかけた紫月にサクラが
「王子が隠れて友達を作る事に対しては目を瞑っていられるが王様の前で千に恥をかかせたりいつもと同じ話し方をしたら怒られると思いますよ。」
と静かに言うので紫月は持っていたお漬物を机の上に落として
「四葉さーん違うじゃ無いですかー。」
と泣く。俺はサクラに余計なことをと目で言うがサクラはフンッという顔をして何か?という顔で気にしないふりをする。
四葉さんはオロオロとして
「そうなんですね!知らなかったとは言え余計なことを・・・」
と言い出したので俺はすかさず
「大丈夫!俺は何か紫月に嫌な事を言いそうになったらちゃんと守るし、兄弟にもそれを伝えるから大丈夫だから。」
と言って慌てふためく2人を慰めた。
「本当だろうな!!」
と泣く紫月に大丈夫、大丈夫と俺は慰めた。
「それで王様に何て言えば良いのさ。」
と不安が無くなったのかと聞いてくる紫月に
「んー、新一兄さんが言うには視察の時とその後について話をしていかにこの国に対して得になるかを考えて伝えれば納得するって言ってたぞ。」
「この国に対して得だと?」
「ああ、この国に来た紫月達が何をしているのかも含めて得になると分かれば俺に向けている非難の声も無くなるし、紫月達に対して否定的な考えの人も居なくなるだろうって。」
「それは凄く難しい話じゃねーか。」
「そうだけど、そうしないといつまでも紫月達にとっても良い印象にはならないし俺は考えた方が良いような気がするけどな。」
「確かにこれ以上お前に迷惑は掛けられないけど何が国にとって得なのか、俺には分からねーよ。」
と言って俺達は悩んだが何も出てこない。暫くしてから四葉さんが
「そういえば旅館の売り上げはどうなのですか?」
と聞いてきた。
紫月達は俺の紹介で赤鬼夫婦が経営する旅館で住み込みで今は働いているのでその売り上げを聞いたのだ。
「まあ、最初はあんなに広い家でどれだけの人が来るかと思っていたら結構人気で毎日それは忙しく働いていますよ。なんでも赤鬼の奥さんは政治を担う人達も家族と泊まりに来るようになってもう少し稼げるなら人をもっと雇ってもう一つ建物を建てたい程だっていう位予約でいっぱいですよ。」
「何でそんなに忙しいのに紫月はここでお漬物食べているんだよ。」
「あのな、あの旅館は夜からなんだ。朝やらなくちゃいけない事を終わらせてここに来ているんだ。お前がいつ来ても良いようにここで俺が待っているんだよ、全く。」
と口を尖らす紫月に抱きつき
「俺の為に寝ずにここに来てくれていたのか~!!てっきり四葉さんのお漬物目当てだと思ってた!!」
と言うと
「ギクッ」
と紫月が言うので
「もしかして図星か?俺達の友情よりもそっちが主なのか?」
と聞くと紫月は慌てて
「さあ俺はそろそろ旅館に戻ろうかな~」
と言ってそそくさと戻ってしまった。俺は逃げて帰る紫月の名前を叫んで呼ぶが彼は戻ってくる事は無かった。
「あいつ、俺との友情を考えてなかった。」
と怒る俺に四葉さんが
「フフッでも紫月さんはいつもここに来ると千は居ませんか?て聞いてくるのであながち千に会いに来ているのは間違い無いと思いますよ。」
と口元を手で隠して笑いながら言うので俺は不貞腐れながら
「でもあいつ本当に四葉さんのお漬物目当てなのは間違い無いよ。だって四葉さんのお漬物とても美味しいもん。」
と言うと四葉さんはパアと明るい顔をして
「本当ですか?それは良かった!」
と言った。俺はその四葉さんの笑顔を見てさっきまで不貞腐れた気持ちが一気になくなった。
「それでさ、俺王様達に何を言ったら良いのかな?」
と俺は本題であるこの話に戻って四葉さんに相談した。四葉さんも先程の明るい表情が少しだけ曇った表情になって
「そうですね~、ただ赤鬼夫婦の旅館は以前奴隷として生活を送っている時から人気で何でも沢山温泉がある中でも傷を癒やす温泉があったり、あの旅館に行くと仲間同士のいがみ合いも無くなり仲良しに戻れるとも言われてそれは他国が争って奪い合いになる程だったとは聞いていましたけど、今じゃその評判は一部しか知られていないので・・・。」
と言った。
「待って、そんなに有名な旅館なの?」
「ええまあ、何でもあの旅館は赤鬼の奥さんのご実家ですし私がまだこの土地に踏み入れる前からあるのでもう300年近くはあの2人が経営されていると思いますよ。」
「300年!?」
「ええ、あの2人が経営し始めた歴史を以前聞いた時にそう仰っていましたから。あの夫婦より前の代を加えて考えましたら、あの旅館には長い歴史があるという事になりますね。」
「そっかー、俺初めて聞いた。いつも喧嘩ばかりだから仲良しなのかも分かっていなかった。」
「フフッそうですね、人は時には表だけでは分からない事がありますから。何事においても見た目で判断せずに中身を見て判断する事の方が1番難しくて1番大切なことですから。」
「そうだよね!!じゃあさ、王様達に旅館の売り上げについて伝えたらどうかな?例えば兵士達が傷ついた時にその温泉の水を分けて貰うとか。それか旅館を政治を担う人だけじゃ無くて王様達にも使って貰えたら少しは違うかもよ?」
「それは良い考えかもしれないですね!実際に紫月さん達が働いている姿を見れば違った考えになるかもしれませんし。とても素敵な考えだと私は思いますよ!!」
「だよね!そうしたら俺この後赤鬼夫婦の所に行って予約空けられるか聞いてみようかな。」
「ええ!是非そうなさったら良いと思いますよ!!私もこれから頼まれていたお漬物を届けに参る予定でしたので同行させてくださいな!」
「お漬物赤鬼さん達も好きなの?」
「ええ、以前赤鬼の奥さんがいらっしゃいまして私のお漬物が最近評判なので食べさせてくれないかと言われお出しした所、それはもうとても気に入ってくださいましてお得意様限定ですが旅館でも食べられるようになったのです。」
「料理で出してくれるって事?」
「ええそうなんです。最初は赤鬼の奥さんが自分で漬けると仰っていたのですがなかなか味が上手にいかなかったようで最終的には材料費と売り上げの一部を貰う代わりにお漬物を提供しているのです。」
「四葉さん凄く毎日忙しそうだけど身体壊したりしないの?」
「そうですねー今はとても忙しいですが皆さんの笑顔が見れるだけで私は嬉しいですから。」
「本当?でも無理は禁物だよ?村の皆が傍に居てくれてるとは言え心配だよ。」
「大丈夫ですよ、心配してくださってありがとうございます。」
と俺の頭を優しく撫でてくれた。
俺は視察から帰ってから暫く爺様に呼ばれたりしていて忙しくここに来れなかったので久しぶりに四葉さんに触れられて凄く幸せだった。
俺にもしサクラみたいに尻尾があったら多分凄く振って喜びを表現していたに違いないと思いながら撫でられている時間を心いっぱいに満たした。
「それでは私達は外に居りますので何かありましたらお声をお掛け下さいませ。」
と橙色の着物を着た女性が襖を開けて外に出た。
今この状況はとても緊張で張り詰めた空間である。あの後俺とサクラと四葉さんで赤鬼夫婦の旅館に行った。赤鬼夫婦は準備中だったが快く迎え入れてくれて俺は今回この旅館に王様達と王子達を連れて来て良いかと尋ねた。
最初はそれこそ王様が来るなんて恐れ多いと言って断られたが俺が粘り強くこのままだと王子の仲が悪くなれば次の戦にも関わり、負ければ前の様な生活に戻る可能性もあると言った。また王様達にもし気に入られれば箔が付いて益々商売繁盛になるのでは?と聞くと、商売繁盛の話が良かったのか分からないが赤鬼の奥さんはすぐに目の色を変えて二つ返事で承諾してくれたのだ。
それから喧嘩後の初めての王子の会議で俺は皆に赤鬼夫婦の旅館について話をした。
最初は乗り気では無かった兄達だが希生が美肌効果がある温泉がある事を知り行きたがったのでそれに着いていく形で皆も一緒に行ってくれる事になったのだ。
ただ、喧嘩は旅館に来た今でも続いていて新一兄さんと鏡夜兄さんはあれから一切口を聞いていない。
ただ、2人共俺の考えに賛成してくれて今回王子達が全員で新一兄さんの父である王様に許可を取りに同行させてくれた。
俺はまた兄さん達で行くのかと思っていたので新一兄さんが俺達を誘ってくれた時はとても嬉しかった。
新一兄さんの王様は悩んで妖怪の旅館に行くという事に最初は渋っていたが俺達の説得の源、他の王様にも声を掛けてくれた。
俺に爺様は真っ先に参加すると言って俺に文でどんな料理があるかまた傷が癒える温泉で腰痛は治るのかと何度も聞かれその返事に振り回され大変だったのだ。
それぞれの国の王様達は胸を張って静かに今俺達王子達と同じ部屋で向き合うように座っている。目の前に料理が置かれているが誰も箸を付けず何かを待っているように時だけが流れている。
俺はどうしたら良いのか分からずただ新一兄さんの王様を見ていると王様はゆっくりとした仕草で
「それでは皆さんで食べましょうか。」
と言って周囲を見ると皆が頷き
「「頂戴致します。」」
と言って皆でご飯を食べた。
旅館のご飯はとても美味しくて俺は先程までの緊張感が消えて隣に居た楓兄さんに
「美味しいねー!!」
と大声で言ってしまい静かな食事の空間を壊した。ただ王様達はそれに怒ることなく微笑んで見てくれたので俺はそのまま美味しい美味しいとご飯を食べながら兄弟達に話掛けた。兄達は俺が話しかけることに周りの空気を気にしてか最初は
(静かに!)
と怒られたが希生が
「このお漬物美味しい。」
と言ったので
「このお漬物はあの龍神様が作っているお漬物なんだぞー」
と自慢げに話した。
その龍神様が気になったのか鏡夜兄さんの王様が
「第5番目の王子、千はその龍神様と仲が良いのか?」
と聞いて来た。俺はいきなり話掛けられたのもあって驚いてすぐに姿勢を正すと
「はい!俺は今は必ず月に1回は訪れるようにしている位仲が良いです。後で村の代表としてここに来るって先程赤鬼の奥さんが言っていました。」
「そうか、村の代表か。あのもしや以前ワシの所に挨拶に参った方か?」
「そうです!俺は・・・私は王様に挨拶に向かっている龍神様に偶然お会いした事をきっかけに仲良くさせて頂いております。」
「そうか、それは良い縁だな。そしてどうしてこの村に前回視察で出会った者達を働かせたのだ?」
いきなりの質問に先程まで和やかだった空気が一気に張り詰めた。
俺は深呼吸して落ち着かせながら
「それはこの村は今でこそこの旅館に政治の方が来られるようになりましたが最初は奴隷の方達しか来ていなかったので、妖怪の村の経済を回すことも大事だと思ったからです。」
俺はここに来るまで鏡夜兄さんと楓兄さんの特訓の下質問に答えていく練習をして来たのだ。訓練でどんなに疲れていてもこの練習と文を覚えなくてはいけなくてとても苦労した。その成果があったのか俺の言葉を疑うような視線は感じられない、そう思ったが
「それと今回の視察の件で見つけた村の利益は何だ?」
と今度は新一兄さんの王様が聞いて来た。
「利益・・・・利益と言われますと難しいのですがまずこの村が発展しないと妖怪の村も経済が回らなくなります。その為に人手が欲しかったのです、また女子供でも出来る仕事を探していたらたまたまこの旅館が人手を募集しておりましたので紹介致しました。」
と話したタイミングで部屋の外から
「失礼します。」
と声が掛かった。何だ?と思って開く襖を見ているとそこには四葉さんと紫月の姿があった。
「おお!これは四葉殿!!」
と声を挙げたのは俺の村の長である爺様だった。
「先日はすまなかったのー!あの薬よう効いたわい!」
と言って挨拶をする。他の王様も従って四葉さんに挨拶をすると部屋の中に物音を立てずに2人は中に入ってきた。畳の上で正座して額を付けるように挨拶する2人に新一兄さんの王様が
「久しぶりだな、四葉殿。」
と言った。四葉さんは顔を上げずに
「お久しぶりでございます。此度はこの食事の場に参加させて頂きまして誠に有り難うございます。」
といつもの物腰柔らかい話し方では無くどこか頼りがありハリがある声で王様に挨拶をする。
「構わないさ、息子が直々に頼んできたのもあり王子達が揃ってこの旅館で働く坊主の話を聞いてやって欲しいと言われたもんでな。」
と四葉さんの隣で頭を同じように下げて小さく震える紫月の事を見た。
「紫月と言ったな。」
「は・・はい!!」
「そう緊張するな。取って食う事はしない。それよりこの旅館で働いてどうだ?」
「どうと申されますと・・・」
「妖怪の下で働くという事だ。」
「妖怪の下でですか?」
「そうだ、怖くは無いのか?」
「はい、最初は怖かったですが千が説得してくれたお陰もあり今はそれが普通の生活の一部になっております。」
「そうか。・・・千」
といきなり俺の名前を呼ばれたので驚いて先程まで楽な姿勢を探してモゾモゾ足を動かしていたのを止めて
「はい!」
と答えると真っ直ぐ王様達は俺の事を見て
「お前は妖怪を怖いと思わないのか?」
と聞いて来た。俺はその質問の意味が分からずポカンとしていると横に居た楓兄さんに小突かれた。
「あ、すみません。どうして怖いのですか?」
「そうだな。見た目も我々と違うだろ?」
「そうですね、でも俺・・・私は6歳の時に化け狐と魂の契約をしましたので妖怪に対して特別に恐ろしいという気持ちが無いのです。またここに住む妖怪達は優しく温かい人達で溢れています。見た目は恐ろしい目玉親父さんも最近は奴隷として生きる子供達と縄跳びをするのが好きでよく遊んでいる姿を目にします。そんな子供達も最初はこの村に来るのは怖かったでしょうがこの村で沢山の出会いがあり今は妖怪との間に境目は無いように思います。またこの旅館も赤鬼夫婦ですが政治を担う人達も赤鬼夫婦の人柄に触れて怖がる人が居ないように思えます。」
「そうか、見た目で判断していたのはワシ等になるのか。」
「それは違います、人は皆見た目で最初は判断してしまうと思います。ただ私達はそれだけでは駄目だと以前の視察で気が付きました。私は視察で出会った村で最初は戦で勝った人達だと言った者が村を襲ったと村人に聞かされ最初は信じてしまいました。ただそれは全くの嘘で実は私と取り引きをする為だけの作り話でした。しかし、私達はその事に気が付いて一早く対応する事が出来たので私の部隊に対し何も被害は出ませんでした。その時に私は思ったのです。人は皆見た目で判断してしまっては中身が見えず時にはそれを利用される事があるのだと。私は見た目が恐ろしい妖怪よりも中身が人を騙そうとする人の方が何倍も恐ろしく感じます。」
「そうか第5番目の王子の千よ、お前は視察に行って人の中身の恐ろしさの方が妖怪よりも恐ろしいものだと分かったというのか?」
「はい。」
「千の言いたい事はとても分かった。ただその言葉を他の者にも通じるだろうか、皆が皆見た目を気にしないという者ばかりではないだろう。政治を担う者は旅館を利用しているがこの村の食べ物を積極的に利用する者は少ないだろう。その辺はどうこれからこの村を発展させていこうと思っているのだ?」
「はい、その考えは同じ王子である兄弟達とも沢山話をしました。どうしたら妖怪の村が活気強い村になるのか。それは・・・・・お祭り・・・そうお祭りだと私は思います。」
「お祭りだと?」
と皆が一斉に俺の事を見る、実は本当の練習した内容は全く違う内容だったのだが俺は勝手に今思い着いた事を言い始めたからだ。
「はい、お祭りは子供から大人まで楽しめます。お祭りで村の事を知ってもらい妖怪が怖くない事を子供を通して大人達に知って貰えれば恐怖という気持ちが少しずつは薄れるのではないでしょうか?」
「なるほどな、ただそのお祭りに来る子供達はどうやって誘うのだ?」
「王子である私達がこの村に出入りしている事、またお祭りに王子達が参加すれば王子に会いたいという気持ちで来る人は増えるかと・・・」
と俺は少し自信なさげに言った。理由は今他国で1番非難されているのは俺で、俺を見たいという人は居ないと思ったからだ。しかし
「それは良い案だ!!そこに王子の案で作ったお店があれば今回の千の王子の名誉も挽回出来よう!今じゃ王子の評判も少し下がりつつある、それを挽回すれば軍隊に自ら所望する者も増えるだろう。それは良い案だ!!」
と急に王様達の間で盛り上がった。俺は思いつきで発言したとは言えここまで話が良い方向に行くとは思わなかったので腰が抜けそうになった。
「ところで、この旅館で働く坊主よ。」
と新一兄さんの王様が紫月に話しかける。
「はい!」
紫月は飛び上がるくらい驚いて裏声で返事をした。王様は暫く紫月を見て眺めていると
「お前の村は今後どうやってワシらに得を返していくつもりだ?」
と聞く。王様の圧なのかビクビクと震える紫月に俺は会話を遮って何か話そうとした時に今まで静かに頭を下げていた四葉さんが
「実はその事でお話があって私も同席させて頂いたのです。」
「ほう・・・と言うと?」
「実はこの坊やの村で取れる草がありまして、この草はたまたま千王子が持って来て下さった枯れ草で私の薬屋として手伝っている際に似ている葉を見つけたと視察の時に持って帰って来たようなのです。私はその草を調べた所強い傷薬になる事が分かりました。この草をもっと探せればと思い私個人で坊やと共に村に参りました所村の畑に沢山生い茂っていました。その村では雑草のようにして生えてくると耳にしましたので何本か持ち帰り薬にした所軽い切り傷や刺し傷であれば塗った直後に傷の痛みが消えまして、これは戦で傷ついた軍隊の方々の為になるのではと思うのですが如何でしょうか?」
「なんと!そんな万能薬があるとは!!しかし軍の人数は1隊に付き20人は居り王子1人辺り2つの部隊を連れ戦に出向き、それぞれの国を守る者や王様を守る者達を含めると多くて5つの部隊に分かれているのだ。その人数を作れる分はあるのか?」
と王様は未だに頭を伏せている四葉さんに容赦なく難題をぶつける。この薬が作れるのはまだ四葉さんしか居ない。村に帰って草を取って持って帰ってくるだけでも重労働だ、それにそこに住んでいた村の人達は自分達が暮らしていくのに必死になっているので手伝うことが出来ない。他の仕事を持ちながらやれる事では無いのだ。
今度こそもう駄目かも知れないと思った時に隣に居た楓兄さんが
「私が能力で持ち帰ったらどうでしょう?」
と急に会話に入ったのだ。それを聞いた新一兄さんの王様が
「ほう、それはどういう事だ?」
「私の能力は闇です。影さえあれば能力が使えます、ただそこに何か俺の一部さえあればその一部を使って草を取りに行くのは簡単かと。」
「その一部を誰が持って行くのだ?」
と聞くと楓兄さんは言葉に詰まってしまった。すると希生が溜め息を吐いて
「私の能力は冬です、どんな気温でも冬にする事が出来ます。そんな冬を動くウサギにしましょう。そうすれば視察で行った村まで楓兄さんの一部を加えさせて持って行けば草を持ってここまで帰ってくる事は容易かと。」
と言った。今まで無関心だった弟の発言に俺達は一斉に希生を見るが俺達の視線に気付いているはずなのに無視して真っ直ぐ王様の目をジッと見つめていた。
「ガハハハハハ」
と笑い出したのは新一兄さんの王様だった。
他の王様も連れられて笑い出す。
「こりゃー一本取られた。意地悪して申し訳なかった、実はワシが言った一言で息子の新一が悩んでしまったのは知っておったし兄弟の仲が良くない空気になっていたのはここに座っている時から伝わってきたからのう~。それでどうお前等が出てきて話をするのか知りたかっただけなのだ。」
と言い出したので俺達は皆姿勢を崩した。
「四葉殿、そこの坊主頭を上げなさい。」
と2人に新一兄さんの王様が話掛ける。
「すまなかったな、試すような事を急にしてしまって。妖怪の見た目の事についても失礼な事を申して気分を害したじゃろう。王子達を試すという事とは言え大変失礼なこと言った。すまなかった。」
と王様達はそれぞれ頭を下げた。
「いえいえ、ただ私は第5番目の王子様のお祭りという物が気になっております。私の村ではそういう物がございませんので村に沢山の子供達の笑顔で溢れた時間が過ごせることが今から楽しみでございます。」
と四葉さんも丁寧に頭を再び下げたのでそれを横で見ていた紫月も真似をして頭を下げた。
「だ、そうだぞ?王子達よ名誉挽回の為にそれぞれ頑張りたまえ、良い報告を楽しみにしておるからな。」
と言って温泉に浸かりたいと言っていた爺様を残して王様達はそれぞれ次の仕事がある為帰ってしまった。一方爺様は赤鬼のおじさんに案内されて温泉に入りに行った。
俺達は王様の姿が見えなくなると一斉に
「「「「「「疲れた~」」」」」
と言ってその場で寝転がってしまった。その様子を紫月は目を大きく開けて驚き四葉さんは小さく笑った。
「楓兄さん、希生助けてくれてありがと~」
と俺が言うと楓兄さんは
「いや、あの場所だったら影が多いのを俺は知っていたから言えただけだ。それにまさか希生が出てくるとは思わなかった。」
「俺だってちゃんと会議に参加してたでしょ?」
「いや、兄弟喧嘩の時に何も言って来ないから興味ないのかと思ってた。」
と俺は言うと
「何言ってるの!千兄さんが勝手に首突っ込んで行くから俺だけは関与しないようにしないとどっちが悪いとかでまた大きく揉めるじゃん!!」
と赤い顔をして希生が怒る。それを見た俺達は吹き出し笑い希生が
「何?なんで俺を見て笑うのさ!!」
と言って益々怒った。俺達は久しぶりに笑った、俺が余計な事を言ってから全く目すらも合わせずに会話もしなかった新一兄さんと鏡夜兄さんも大声を出して笑っている。
俺はその姿を見て安心した。
「新一兄さん、俺凄く言い過ぎた。ごめん。」
と鏡夜兄さんは笑いが落ち着いた頃に新一兄さんに言った。新一兄さんの表情はお互い寝転がっている為見えないが
「いや、俺がお兄ちゃんとして弟を信用できていなかったのが悪かった。ごめんな。」
と少し恥ずかしそうに謝った。その言葉を聞いて照れたのか鏡夜兄さんはすかさず
「ただ俺達の事を本当の兄弟じゃないは一生忘れないからな。」
と言ったので新一兄さん以外の兄弟皆で
「「「「「確かに、あれだけは本気で許せない」」」」」
と言って笑った。新一兄さんは『弟達が虐める!』と泣いていたが俺達は久しぶりに兄弟で会話が出来た事が嬉しくて堪らなかった。
「いらっしゃいませー!」
と俺は妖怪の村に集まる人々に声を掛けた。今日は待ちに待ったお祭りの日だ。俺が咄嗟に思い着いた案が通ってしまい後王子達の予定を調整しながらのお祭りを開こうと決めた日に各国のお客さんを招くのには大変苦労した。
紙にお知らせを書いて蒔いたらどうだろうかと話したり色んな人達に伝えては差別関係なく皆が参加できるように伝え回るのも良い案かもしれないとか、それぞれの王子の出し物をどうするかを悩んだりしていた。
当日、俺は化け狐の色を主とした黄色のレモン味の綿飴というお菓子作りに挑戦したが難しく結局サクラが作る事になって俺は客を呼ぶのに必死になった。
妖怪の人達だけではなく奴隷の人達にも手伝って貰って赤提灯を作った。
俺の村では定期的にお祭りを開くので知識はあった為、俺がリーダーのように他の王子達にも指示をしながら作業は進められ何とか当日に間に合うように村が光に灯された明るい村にと変わり、今日はごった返す程の人がこの小さな村に来てくれた。
俺達の綿菓子もどんどん売れ材料を足していくのに軍隊を派遣して手伝わせる程だった。
俺は店番を第1軍隊のはじめに任せると少しお祭りの雰囲気とお店を見に出かけた。
するとすぐ近くのお店で何やら女性達が群がっているのが見えた。
(なんだ?)
と思ってその店に行くと
「さあさ!!恋をしている女性達!もちろん男性もおいで!!恋が叶うブレスレットだ!!これで好きな人を振り向かせよう!」
と大旗が振られていて女性達の手には六角形の雪の結晶のような飾りが付いた手首に付ける飾りを持っている。俺は何だろうと思ってその店の一番前に行くと屋台のテーブルには沢山のブレスレットが置かれていた。
色は様々な色があるがピンク色が圧倒的に多かったので俺は近くに居た女性に
「どうしてピンクの色が多いの?」
と聞くと
「それは貴方当たり前じゃ無い!!恋する色はピンクなのよ!心がピンク色になるのよ!」
と言った。
「恋って何?」
と続けて聞くと
「恋って言うのはその人を笑顔にしたくて堪らなくなったり、好きという気持ちが目が合うだけで溢れてドキドキが止まらないの!」
「手を繋いだらその時の感覚が忘れられない?」
「もちろんよ!!手を繋いだ所から熱を持って顔が熱くなるのがそれが恋よ!!」
と言ってその女性は一つブレスレットを見つけると屋台の人にお金を払ってこの人の集まりから姿を消した。
俺は良く分からなかったが思い出の為だと思って一つ手に取ってお金を払った。
色は四葉さんの事を思い出して何となく思いを込めて水色にした、あの日の子供達を見送った時に子供の魂の光で濃い紺色が水色に変えたあの時の光景を思い出して俺はこの色にした。
俺は左手に付けるとたまたま前から希生がリンゴ飴を持って歩いてきた。
「あれ?千兄さんそれ買ったの?」
「余りにもの人が集まっていたから気になって行ってみたら皆が買ってるから連れられて買っちゃった。」
「なんだ、兄さんがとうとう恋を自覚したのかと思った。」
「恋?そういえば前もそう言ってたよな。」
「うん、だって四葉さんの事好きなんでしょ?」
「四葉さんの事は好きだけど何で?」
「違う違う、その好きじゃなくて男女が想い合うのと同じずっと一緒に居たいの好きだよ。」
「な!!何言ってるんだよ!俺達は男同士だぞ?」
「それが何?そんな事を兄さんは気にするの?妖怪とか見た目とか掟とかそういうのを気にしない癖にそういう事は気になるの?」
「え、あ・・・・いや気になるというか、拒否されるかもしれないだろ?」
「拒否って誰に?」
「そりゃ四葉さんに・・・」
とゴニョゴニョ言う俺の肩をソッと希生は触ると
「兄さん、良い?お祭りは非日常的な感じがするでしょ?そういう時に自分の気持ちを確かめるのは良いと思うよ、それに俺特製のブレスレットという名のお守りがあるからきっと良い事があるよ。」
と言って何処かに向かって去ってしまった。俺はブレスレットを触って
(俺、四葉さんの事が好きなのかな)
と思った。
俺はそんなフワフワした頭で他の兄弟達のお店に行く。
暫く歩くと子供達が集まった屋台を見つけた。
「ちくしょー!!俺あと1匹だったのにー!」
と悔しがって叫ぶ子供に
「はーい、残念。残念賞はその箱からおもちゃを持って行ってね。そのおもちゃはこの村にしか手に入らないから。」
とボソボソと話す人が一人屋台の椅子に座りながら言っていた。
「楓兄さん?」
と聞くと
「おー!千か、お前まさかそのブレスレット。希生のお店で買ったのか?」
「うん、周りの空気に乗せられて買っちゃった。」
「・・・・そうか、とうとうお前の初恋に気付いたのかと思った。焦らせんな。」
「それ似たことを希生に聞いたけど、俺初恋してるの?」
「そんなに恋が分からないなら初恋だろ。今までそんな気持ちを抱いた事が無いんだろ?」
「うん、でもこれって恋なの?」
「どうだろうな・・・・それが分かるのは千しか居ないからな。俺がそれは恋だと言ってもそれが恋じゃ無いかもしれない、一時の感情かもしれない。それは誰にも分からない。」
「恋をしてる方が良いの?好きだから一緒に居たいという感情だけでは駄目なの?」
「それは相手の気持ちによるんじゃないか?相手がそれで良いなら良いが、相手がその気持ちじゃ無理ってなった時には向き合った方が良いと思うぞ。」
「でも四葉さんはそんな事言わないよ?」
「俺別に四葉さんとは言ってないけどな。でも恋と言う言葉でその人が思い浮かぶなら少なからず気になる存在である事は間違い無いだろうな・・・・ておい!今ズルしただろ!!」
と闇の能力で作ったモグラ叩きを必死に叩く子供達に本気で怒る楓兄さんに驚いて俺はソッとお店の前を離れた。
その隣にはお年寄りや仲には若い人達が何かを鑑賞するように屋台を眺めていた。
俺はまた気になって見てみると屋台のテーブルの内側で鏡夜兄さんが灰色の浴衣を着て立っていた。
俺の存在に気が付くと小さく手招きしたので俺は人をなるべく避けるようにして邪魔にならないように鏡夜兄さんの傍に行くと
「千、お前そのブレスレット買ったのか?」
と聞いて来た。皆このブレスレットが気になるらしい。
「流れで買ったんだよ。さっき希生にも楓兄さんにも聞かれた、俺がとうとう初恋が分かったんじゃ無いかってね。」
「違うのか?」
「初恋が分からないんだよ。希生は同性だからって決めつけはいけないって言うし楓兄さんは恋という言葉で思い浮かぶ時点で気になる存在なのは間違い無いって言うし、俺は分かんなくて、だって王子は女性と結婚しないといけないんでしょ?」
「あー掟のな、それはお前が言える台詞か?」
「どういう事?」
「お前ほど掟を無視する奴は居ないって事。」
「確かにそうだけど、この掟は絶対なんでしょ?」
「お前もしかしてそれが気になってて自分の気持ちに見て見ぬふりをしているんじゃないのか?」
「どういう事?」
「その掟が無くてもし何処にでも住んでも良いですよって言われたら四葉さんの家に押しかけに行くだろ?」
「それは・・・でも俺の従者達の仕事を奪ってまでは出来ないな。」
「そこは現実的に考えるな、もしもの話だ。千、お前ならどうする?」
「んーでも確かにもしもそうなったら毎日四葉さんと一緒に居られて手作りの料理が食べられるだろうから四葉さんの家に住みたいかな。」
「だろ?それが他の兄弟である俺達や村に戻ろうと思わない事が四葉さんの傍に居たいって事なんじゃ無いのか?」
「そういう事なの?」
「多分な・・・俺の意見は参考程度だ、この気持ちがハッキリ分かるのは自分自身しか居ない。だから四葉さんに会った時に心臓がドキドキしてこの時間が止まって欲しいと思うならそれは恋だ。」
「そっか、それで確かめるって事だね。分かったそうしてみるよ、所で兄さんのお店は何を売っているの?緑の丸いの何?」
「これはコケだ。」
「コケって岩に生えている奴?」
「土にもあるぞ。まあそういうがコケだな。」
「どうしてそれを売っているの?」
「風情さ。」
「風情?」
「そう、これを見ていると何だか落ち着くだろ?」
「んー俺は分かんない。」
「お前も段々分かってくるようになるよ。あ、そうだ今お祭り回っているならこの斜め前の龍次兄さんのお店だけには行くなよ。目が汚れる。」
「分かったー無視して通れば良いんだね。」
「約束だぞ!!」
と言って俺は鏡夜兄さんと指切りげんまんをしてお店を離れた。
俺は斜め向かいのお店が見えないように顔を隠しながら歩いて通り抜けようとすると
「我が兄弟!!!」
と誰か俺の事を抱きしめてきた。俺はビックリしてその声の主と抱きしめて来た人を見ると何故かふんどし姿の龍次兄さんが立っていた。
「兄さん、待って。何しているの?」
「何って、俺のこの美貌な肉体を披露しているのさ!」
「は?意味分かんないんだけど。」
「だから、この俺の美しい筋肉を見放題という訳だよ。分かるだろ?兄弟。」
「わー鏡夜兄さんが言っていた通りだ。ここのお店の人に関わっちゃ駄目だ、どうしよう。」
「なんでだ!俺のこの鍛え抜かれた筋肉だぞ?こんな美しい筋肉にこの整った顔!!これがお前の兄なんだ!!誇らしいだろ!!」
「嫌だよーこんな兄さん嫌だよー。」
「ん?感動して泣いているのか?そうかそうか!」
「話聞いてよー。」
というやり取りをしている最中に
「あれ?お前等何してんの?」
という声が聞こえた。その声の方に振り向くと団扇を片手に紺色の浴衣を着た新一兄さんが立っていた。その後ろには沢山の女性が集まっていて
「この方達が新一王子様の弟様の龍次王子と千王子ですわね!」
と何やらはしゃいでいる。俺はこの空気が苦手なのを思い出して逃げようと思ったが急な女性達の集団が集まったからなのか龍次兄さんが俺にガッチリ抱きついたまま離れてくれなかった。
「龍次兄さん離してよ。」
と言うと龍次兄さんは頭を横に振って
「無理だ、今の俺には無理だ。浴衣を着て女性の心を鷲掴みにするなんて!新一兄さんはなんて兄さんなんだ!」
と言った。
「いやーしょうがないよ。俺の従者がわざわざこの日の為に浴衣用意してくれたからさ着ない訳行かないじゃない。それにしても何でお前はここで寂しく下着姿なの?」
と新一兄さんが聞いて来たので
「この美貌な肉体が見放題っていう屋台をやってるんだってー。」
と俺が言うと
「マジかよ!!お前ナルシストにも程があるだろ!!ていうかお金取ってないの?」
と笑いながら新一兄さんが聞くので龍次兄さんが
「俺の身体に価値は付けない。」
と言った。俺は完全に巻き込まれてしまって逃げられなくなってしまった最悪だと思っていると新一兄さんの取り巻きの一人の女性が
「あら?そのブレスレット。」
と言って来た。
「なーに?千、お前可愛いブレスレット付けてんじゃん。どうしたの?」
と新一兄さんが何か揶揄うような顔をしている。
「これは希生のお店で買ったんだよ。なんでも恋が叶うらしいんだ。」
「なに~?とうとう自覚しちゃったの?」
「四葉さんの事?」
「俺何も言ってないよーなあ?龍次?」
「おう!兄さんは何も言っていないな!」
「ところでそれを買ってどんな願い事を掛けたの~?」
「願い事?」
「そう、希生がこのブレスレットはお守りなんだって言ってたから何かしらの願い事を掛けたんじゃないの?」
「え・・・・・そこまで考えていなかった。普通に持っているだけだと思ってた。」
「じゃあ今願い事してみなよ、兄さん達が見守っててやるから。」
「分かった!・・・・んーでもなー何も無いんだよなー。」
「何かあるだろ?デートがしたいとか手を繋いで歩きたいとか。」
「んー、そうだ!!もう一回この水色みたいな夜空を一緒に見たいな!」
「夜空?」
「うん!水色になった夜空を一緒に見たい!!」
「水色ね~そういや俺の出し物何か知ってる?」
「知らない、龍次兄さんは知ってるの?」
「いや、俺は自分の事しか考えていなかったから知らないぞ。」
「お前等揃いも揃ってもう少しお兄ちゃんの事に興味を持てよ。」
「無理だよ、興味ないんだもん。」
「グハッ酷いよー弟が反抗期だよー。お兄ちゃん凄く傷ついた。」
「もう、その茶番は良いから新一兄さんは何を売っているの?」
「グスッ・・・・・気球だよ。夜空に浮かぶ両手で持てるサイズの気球。」
「気球?」
「そう、他国の情報では死者の事を想ってや願いを込めて気球を空の星に向かって夜空に浮かべるそうだ。その思いを空に輝く姿はまるで美しく心が温かくなると言われているのを耳にしてな。それで今回ある時間になると気球が売られるから皆で空に上げようと思ったのさ。」
「新一兄さんにしてはロマンチックな出し物だな」
と龍次兄さんは感動していた。俺もいつもの兄さんとは違う感じがして凄くロマンチックで王子様らしいなと思った。
「だろ?なんてたって俺の案だからな。希生の雑誌を拝借してちょちょいのちょいさ!」
「あー真似したんだね。」
「真似したんだな。」
とさっきまでの感動の気持ちは無くなり冷めた目で俺達は新一兄さんの事を見た。
「なんだよ!!その目は!!実際両手で持てる用の気球を作るの大変だったんだぞ!」
「それも設計したの絶対違う人でしょ。新一兄さんがそこまで時間掛けるとは思わない。」
「千、お前っていう奴は・・・・・よくお兄ちゃんの観察をしているな!偉いぞ!!」
「だと思ったよー。それで俺の願い事と何が関係しているの?」
「あー、その気球を空に上げると光で暗い夜空が水色になって気球がオレンジ色の光を放ちながら空を飛ぶんだよ。だから水色の空が見たいなら気球かなと思ってさ。」
「その気球って先に貰えないの?」
「2軒先の出店が俺の店だから聞いて見れば良いと思うよ。」
「分かった!!俺今すぐ貰いに行ってくる!!」
と言って龍次兄さんを新一兄さんに託して新一兄さんのお店に行くと気球が配られてマッチも一緒に配られていた。
俺は急いでお金を払ってその気球を手に入れると走って四葉さんを探した。
すると
「おーい!!千!!」
と紫月が声を掛けて来た。
「お前その大きいの抱えて何処に行くんだよ。」
「いや、四葉さん探してて。」
「四葉さんなら丘の上に行ってきますって言って行っちゃったけど何か用があるのか?」
「うん、会いたくて。」
「お?お前もあれか?恋に気付いたのか?」
「お前もって紫月もか?」
「見ろよ!このブレスレット、白と黄色で出来てるんだぜ?」
「うわ!本当だ!2色入ってる!よくあの中から見つけたな!それでその恋のお相手に会ったのか?」
「ん?・・・・ああ、今会ってきた。どうも急いで誰かに会わないといけないみたいで急いでた。」
「そうなのか?お祭り一緒に回りたくなかったのか?」
「いやーそいつ忙しいからさ。仕方ねーよ。」
「そっか。お前も恋が分かったのか、ただ俺はまだ分からないから確かめに行くんだよ。」
「は?確かめに行くって。」
「そう!このブレスレットってお守りみたいな物みたいなんだって!だから願いを込めると叶うかもしれないらしい。」
「そうなんだ、それでお前は何を願ったんだよ。」
「“水色の夜空見たい”だよ。」
「水色?」
「そう!!この気球を空に上げると光の周りが白くなって水色に見えるらしい。以前似た体験をした時に今回もそうなると思う。」
「そうか!じゃあ急いで会いに行ってこいよ!」
「うん!そうだな、もうそろそろで気球を上げる時間になるから急いで会いに行ってくるよ!」
「ああ!!」
「にちゃ、よかた?(兄ちゃん、良かったの?)」
「何が?」
「いっちょちがう、いい?(一緒じゃない、いいの?)」
「ああ仕方ないさ、あいつは忙しいからな。・・・・・そうかこのブレスレットに願い事か、それなら次の視察や戦で無事にまた帰ってきますようにだな。」
「四葉さーん!!」
と俺は丘の上で夜空を見ている四葉さんを見つけた。
四葉さんは今日は梅色と白が混じった赤い花火模様の浴衣を着ていた。その姿はいつもよりも美しく俺は走ってるからドキドキしているのかやっと四葉さんを見つけられたからドキドキしているのか分からない感情になった。
「やっと見つけた~。」
と俺は四葉さんの近くで足を止めると汗が一気に吹き出してきた。
「そんなに汗を掛かられてどうなさったのですか?」
「四葉さんに会いたくて走って探してた。」
「まあ!そうだったのですね!夜空が見たくなってここの丘に来たのです。そういえば千に聞きたい事が、どうしてこの丘は祭りの出店が出来る土地の一部にしなかったのですか?」
「ここの丘を出店の場所にしなかった理由?」
「そうです。」
「それは簡単だよ、ここが俺と四葉さんの思い出の場所だから。あの時はサクラも一緒に居たけれど俺は四葉さんとの思い出の場所だから誰かにこの場所を知られたくなかったの。」
「そうでしたか!私達の思い出の場所ですもんね。・・・・千には本当に感謝しているのです。千がこうやって妖怪の村を発展させる為に赤鬼夫婦の旅館に沢山の人達を連れて来てくれた事もその人達の生活を守ったことも、よく遊びに来ては薬の手助けをしてくれた事も先日の痛み薬も千が見つけてくれなければ出逢えなかった薬でした。その薬で私はまた人を救えます、こんな誰かの為に役立てられる事がこんなに沢山あって今私はとても幸せなのです。それに今日沢山の子供や大人が遊びに来て下さいましたでしょ?こんなに明るい妖怪の村は初めて見ました。本当にありがとう。」
「俺は何もしていないよ、皆が協力してくれたから出来るんだもん。俺一人では全く出来なかったよ。」
「そうでしょうか、案を出したからこそ皆がそれぞれ協力が出来るのです。千はそれだけ皆の事をちゃんと見ているからこその意見だと私は思います。」
「そうかな~。」
「ええ、そうですよ。きっとこれからも周りの為に考えられる人に必ずなります。私はそんな千の成長を傍で見れるのを楽しみにしていますね。」
「うん!!どんな王子様になるのか俺は分からないけれど人々が笑顔で過ごせるように少しでも手伝えたら良いのになと思う。・・・・そうだ!願い事と言ったらこの気球!!」
「この気球ですか?」
「そう!この気球を空に一緒に上げたいと思って走ってきたんだった!・・・あ、もう何人か空にもう上げてる、あ!他にもどんどん空に上がっていく!!」
「まあまあ!これはとても綺麗ですね!」
「うん!それを一緒にしたくて買って来たの。」
「そうでしたか、それじゃあ気球の上の方を持って頂けますか?」
「あ、うん。」
と言って俺は気球の上の方を壊さないようにソッと持った。
「少し持ち上げて下さいな。そうです、それ位の高さで・・・・はい!火を付けましたよ。」
「もう離しても良いかな?」
「もう少し、向きを変えて皆さんと同じ方向に飛ばせるようにしましょう。」
「もう少し左かな?この辺かな?」
「もう少し左ですかね、そこです!!今手を離してみましょう!」
と四葉さんの言葉と同時に俺は空に浮かべるように手を離した。フワッと風に舞い上がるようにオレンジの光を放つ気球は優しく空に舞い上がっていく、その姿は子供達の魂のようでその気球は星が輝く夜空に向かってどんどん上がっていき他の気球と一緒になって光の道のようにしてどこかを目指して浮いていた。
「天の川のようですね。」
「天の川・・・確かにそうかも。俺、光の道みたいだなって思ってた。」
「光の道という表現も素敵ですね。」
俺は光の道を見上げる四葉さんの横顔を見ながら左手首に付けているブレスレットを触った。このブレスレットのお陰でこの夜空を一緒に見ることが出来た。
光の道が出来た夜空は光に灯されて明るく光の周りは少し水色のような明るい空が広がっている。俺はこの景色を一緒に見られた事が凄く嬉しくてそしてこの時がずっと続けば良いと思った。戦で離れる事になってもこうやって一緒に見られる日があるのなら、これかもずっと四葉さんの隣で見たいと。傍で見たいと思った。
俺はブレスレットから手を離して四葉さんの小さくてヒンヤリとした手を握った。四葉さんは少し驚いたようだったがすぐに手を握り返してくれた。
俺は星と共に光の道で輝く夜空を見ながら一つだけ分かった事がある。
「俺、四葉さんの事好きだよ。ずっと一緒に居たいの好きだよ。」
と言った、触れている手が段々と熱くなり心臓までその熱は伝わってドキドキが止まらなかった。そのドキドキは耳の奥から聞こえるようで頭に鳴り響いているようだ。
四葉さんの顔は見られない、どんな顔をしているのかもしかしたら迷惑と思っているかもしれない。もしかしたら二度と会って貰えないかもしれない、それでも伝えたかった。兄弟達に言われたからでは無い、俺がこの夜空を見て気が付いて伝えたかったのだ。
「私もです。」
俺はバッと四葉さんの方を見ると微笑んで
「私も千の事が好きですよ。」
と言う顔はとても優しく最初に見た時と同じく一瞬時を忘れさせるような美しさだった。
「俺が言っているのは恋愛としてだよ?」
と少し怖くなって言う。いつから俺は臆病になったのか、四葉さんと同じ気持ちであって欲しいと願い勇気を出して伝えると
「私も恋愛としてですよ。私はこの感情が何か分からなかったのです、ずっと悩んでいました。千が視察に行くと言った時にこのままもしかしたら戻って来れないかもしれないと思った時に気が付いたのです。千がこれから戦で居なくなってしまうのが私はとても恐ろしいと、千の傍に居られるのであれば一緒に居たいと。またご飯を皆で食べたいと、千が美味しい美味しいと言って食べてくれる姿を傍で見たいと思ったのです。龍神として人に仕え人の為に役立たなくてはいけない身ですがそれでも願ってしまうのです、千の傍に居たいと。迷惑でしょうか。」
と申し訳なさそうに聞く四葉さんに俺はブンブンと顔を横に振りながら
「迷惑なわけないじゃん!俺の方が迷惑掛けるよ!!だって四葉さんと違って皆で分け合おうとは思わないもん、四葉さんを独り占めしたいと思っているからね!」
とフンと胸を張ると四葉さんはフフフと笑ってくれた。
俺と四葉さんは同じ好き同士なのだ。俺はその溢れる気持ちを抑えながら四葉さんと一緒に光の道を見上げた。
その光は遠く遠くまで固まって夜空をうねりながら輝いていた、まるで大きな龍が輝きながら夜空を舞うように。
主人公 千(せん)
背中に5の数字が入っている王子の一人として選ばれた男の子。化け狐一族で、妖力は水。周囲の湿度や酸素に含まれた水や周囲の水を操って攻撃が出来る。ただ、この能力をあまり使っていないからどんな技を使えるのかについて本人は分かっていない。
身長は178㎝の高身長だが心は少年で感じた事や思った事を顔にも態度にも出してしまう。最近の悩みはある村で出会った少年の紫月が四葉さんの家に頻繁に出入りしており四葉さんが取られるのではと思って紫月に突っかかる度に「四葉さんの事が恋愛として好きなんだろ~」と揶揄われること
化け狐 サクラ
198㎝弱の背丈を持つ人型の化け狐。千とは魂の繋がりの儀式で千を自分の器として認めた。魂の繋がりであり相棒である千と常に一緒に行動をしている。千を背中に乗せる時は獣化になり、大人二人は乗れるくらいの大きさになれるが本人曰く気安く乗られるのは好きでは無くプライドが高い。昔は暴れて沢山の国や村を崩壊しては恐れられる事に喜びを感じていたが3番の数字を持つ王子に封印されて洞窟の中で暮らしていた。千が器になってから千の行動に振り回されるが魂の契約があるからか千の事は一番信用していていつまでの幼い子供のような性格でいる千の世話をするのが最近は少し楽しかったりするが振り回される度に器にして良かったのかと考えさせられる。夢はサクラの名前で世の中に恐怖で震え上がらせる事。
龍神 好実四葉(このみ よつは)
千の家に繋がる道の門の所にある桜の木に惹かれ桜の花を見ていた所を千に見つかり、四葉が住む村の代表として王子達に挨拶をした。昼は村の妖怪達に評判の薬屋さんをして、夜は龍の姿になり迷える子供達の魂を天に返す仕事をしている。
見た目は174㎝で年齢は千よりは年上の男性。髪は白く千曰くとてもサラサラの風になびく姿は静かなせせらぎの川のようで美しいらしい。
最近の悩みは今まで奴隷のように扱われていた村が幸せな生活を送る為にはどうしたら良いのかという事である。またお漬物が最近は上手に出来てきた為来たお客さんに提供し食べて貰うのが密かな楽しみである。
村の一族
千の両親
千が生まれた時に数字がある事に気が付いていたが数字がある者は化け狐に必ず殺されるという昔からの言い伝えがあった為本人には内緒にしていた。
村の中では爺様と実の兄の亜廉(あれん)は千が生まれた時から知っていたが王子として正式になった日には他の村人も知り、今まで我が子の死ぬかもしれない儀式までよく耐えたと慰められて今も村で普通の暮らしをしている。
実の兄 亜廉(あれん)
千の実の兄。6個違いで亜廉にとっては千は可愛くて仕方が無い存在。しかし王子としての数字を持っている事とその数字がある者は化け狐に殺される言い伝えを聞いて千が器の儀式の時までは気が気じゃ無かった。王子として頑張る千の成長に驚くがまだまだ幼い弟を守りたいと思い爺様の所に行っては千の近くに居たいと頼み断られ続けられている。
爺様
千の村に住む一番偉い爺様。そして化け狐のサクラの師匠でもある。千が生まれた時に数字がある事を千の両親から相談されて言い伝えを教えたのは爺様だった。両親が我が子の未来を知って嘆き悲しむ姿に心を傷め少しでも化け狐が千を殺さないようにと千が洞窟の中に入って居る時に爺様の化け狐と共にお祈りをしていた。ただ、その事については村人も含めて千も知らない。爺様は自分の事をあまり話さないので村人の間では年齢は幾つなのかという話を良く耳にする。
兄弟の盃を交わした王子達
1番 新一(しんいち)
鎖骨に1番の数字を持つ1番上の王子。能力は炎で弱点は水と炎を操るには力が必要なので疲れてなかなか能力の力を維持する事が出来ない。また性格上やる気がある人物では無く、なるようになれという性格なので戦の時も基本は「なるようになるさ」というスタイルで戦う。最近の悩みは盃を交わした兄弟達が冷たいこと。一人っ子なので兄弟が出来る事に1番楽しみにしていたのも新一だった。最近は長男の王子として弟達を引っ張って行く事に必死になりすぎてしまっている所がある。
2番 龍次(りゅうじ)
腕に2番の数字を持つ王子。能力は風使いだが力のコントロールが出来ず戦場となった場所を壊滅したり味方にも被害が出るので国の中では厄介者にされているが本人は気が付いていない。他者にヒソヒソと悪口を言われていても「俺が格好いいから噂をしているんだな!子猫ちゃん~」と言って近づくので皆からウザがられている。根っからの女好きだが女が好きというよりもチヤホヤされるのが好きなだけで本気でその人に恋をしている訳では無い。因みに千の事を馬鹿にしていたが龍次も初恋はまだである。
3番 鏡夜(きょうや)
舌に3番の数字を持つ王子。能力は千里眼である程度の距離であれば何が起きているのかを見ることが出来る。眼鏡はその距離を伸ばそうとしてわざと視力を上げているがそれで見える距離が伸びる事は無い。逆に千里眼を使う時は目を瞑ってしか出来ないので意味が無いことを本人は気が付いていない。鏡夜にも実の兄弟が居るが特に仲が良い訳でも無く会えば話すくらいのあっさりした関係の10個離れた兄が居る。
ただ、兄の影響を受けて和風な家を好むようになったが本人は「兄は関係ない、自分の好みだ。」と言い張っている。
最近は血が繋がらないが盃を交わした弟達を大事にしたくて新一兄さんと意見が度々ぶつかる。
4番 楓(かえで)
左足のふくらはぎに4番の数字を持つ王子。見た目は前髪が目を隠す程伸ばし背中を丸くしてのそのそと歩いている。能力が闇使いというのもあるからか常に闇のオーラを発しているが本人はその方が居心地が良いと思っているので気にしない。ただ新一と同じ能力は使い手で楓の場合も体力の消耗が大きく体力が新一より無いので疲れやすく戦ではあまり派手な活躍はしない。出来れば戦も帰りたいと思って影で終わるのを待ったりする事もある。姉が二人居るので良くおもちゃにされて扱き使われていたので弟が二人出来て兄という立場を手に入れて嬉しいからか弟達の事はとても大切な存在になって来ている。
ただ、恥ずかしいので本人達には絶対に言わない。
兄弟の中では龍次と性格が合わないので嫌い。よく率先して龍次を虐めるのも楓である。
そして極度の人見知りなので女性達を囲んで飲む時は千と一緒に端でお酒を飲むのが好き。女性が近づこう者ならシャーと威嚇する程苦手。(原因は姉達のせいで女性に対して夢を持っていない。)
弟達の事を大事に思っており、体力が消耗しようとも弟達の為ならと能力で助けてくれる優しい一面もある。
6番 希生(きなり)
耳裏に6番の数字を持つ王子。いつも派手なメイクをしていて美容が大好きな男子。千よりは少し下の男の子でよく千の背後にくっ付いて隠れたりする。新一と龍次と違って女性が根っから好きというよりも女性達とメイクや最近流行なファッション、美容について話をするのが好きなだけでこの人が好きという感情は特にない。
国に仲の良い幼なじみ(男)が居てよく遊んだり毎日文通をする程の仲良しである。能力は氷使いの冬。その場がどんなに熱い環境でも冬の環境にする事が出来る。体力はそれなりにある為ある一定の距離であれば基本はそこまで体力を消耗せずとも冬にする事が出来る。
ただ戦いの時は相手を凍らせる事に夢中になって他に目を向けていないと自分の身体も一緒に氷になってしまう為不意打ちで攻撃された場合身体を傷つけられるというよりも壊されてしまい死に至る事がある。
1番年下で甘えん坊だが本当は結構腹黒くて計算高くどんな頼み方をすれば面倒な仕事をしなくても済むかを常に考え、兄達に仕事を押し付けてはマッサージに通ったりするのが好き。
千の部隊
1番隊隊長 はじめ
見た目はスキンヘッドの男で見た目は厳つく感じるが意外とお茶目でクマの人形が無いと眠れないという可愛いギャップを持つがそれを知っているのは同じ部隊の人達か千賀しか知らない。千に言われてから敬語無しで意見を言えるようになり、最近では千と千賀とはじめで意見交換をするのが好き。因みによくこの3人が固まって訓練するが部下からは筋肉バカの集まりだと影で言われている事に気付いていない。
2番隊隊長 千賀(ちか)
ボブヘアーの千賀は村1番美男子と言われている。美容が好きなのか顔に傷が付かないような戦い方をする為はじめと千に泥を付けられたりよく虐められる。
それでも3人の相性は良く、千賀も千に対して意見をハッキリ言えるので困った事は無いが、爺様にはバレないようにはじめよりは周囲の目を気にしている。
花の都
王子達が住む場所。それぞれ王子達の家に続く道の入り口に門がありそこには個性溢れる様々な飾りがされている。その門の入り口にある中心部には城がありその建物の中に入っていくと通行証を持った商人や王子達に商品を渡して使用して貰うまたはそれにお墨付きをして貰う事で売り上げを伸ばそうとしている人達が出入りしている。中にはその人々の群れを利用して物乞いをする人達も居る。王子の間は基本は王子以外は立ち入り禁止されている。中には2階建ての部屋が広がっていて寝転がることが出来るソファとキッチン(料理が出来るのは新一、龍次、鏡夜、楓だけ)があり良く材料を買ってきては料理を自分達で作り兄弟達でご飯を食べる。またそれぞれに部屋が与えられているので一人になりたい時はその部屋に籠もる事も出来る。1階は兄達の部屋があり、2階に弟達の部屋がある。
花の都にある王子達の家に続く道の門の所は王子の家で働いている者や王子達以外は固く禁じられていて他の王子の所で働いている者が違う王子の家に行く事も固く禁じられている。これに反した者は死刑、または流刑されてしまう。
王子の掟と村の掟
王子と村の掟は厳しく守らないと王子であっても反逆者として死刑になることがある。
例えば王子が国や国民に対して殺しをした場合や王子の力を使って国中を混乱させた場合は特別な許可の元死刑にされる。実際に過去の王子達の中で王子の権力を使って好き放題にした事により同じ兄弟の盃を交わした兄弟に殺されるという事はあった。
また、王子の身の危険を守る為に厳重に警備を強化しており村人と深い関係を持つことや自分達の城に招き一緒に食事をする事は禁じられていて王子の家で働く者達との交流も控えめで無いといけない。
また王子は常に戦では先頭に立たなくてはいけなく、それぞれの出身の国、村の軍隊の指揮を取るのも王子達の仕事である。
また戦での王様はそれぞれの出身の1番偉い人が戦の中心部に座らないといけない。
(例:千の村の1番偉い人は爺様なので爺様が戦の時は中心部に他の王様と一緒に戦が終わるまでは座って待機しておかないといけない。)
王子達は偉い人達(王様)を守りそして領土を拡大していく為に尽力しなくてはいけない。
「分かっておるのか?千よ。」
と爺様に久しぶりに呼び出されたと思ったら2時間も正座で説教されているのは化け狐の一族として生まれ、村の掟に従って化け狐と魂の繋がり(器)という契約を交わした俺は背中にある数字をきっかけに他に身体に数字が入っている王子達と兄弟の盃を交わした。
王子として戦に参加し軍隊の指揮を取るだけでは無く、戦の跡地を視察して生存者や新たな領土拡大の為の何かを見つけたりするのが仕事らしい。俺も1ヶ月程前に無事に視察を終えたが帰って来て早々に俺の出身村で1番偉い爺様から文で
『村に一度帰ってくるように』
と言われて初めての視察に対して褒めて貰えるのかとサクラとウキウキしながら急いで帰れば冒頭の通り何故か俺は怒られている。
「爺様の言いたい事は分かるし、王子として立派な仕事をして来なさいという事は分かるけど俺の視察の何がいけなかったのさ。」
「これ!お前はまたそんな口の利き方をしおって!お前だけじゃぞワシにそんな言葉使いをするのは、まったく・・・今回ワシが言いたいのはどうして領土拡大せにゃならんのに人を連れて帰って来て妖怪の村で働かせるのかという事じゃ!新しい村までの道の開拓も門を造る事もお金が凄くかかるじゃろうに、お前と来たら無一文の奴らを村で働かせるだけなんぞ何も国にとって良い事はなかろう!!」
「どうしてだよ!!紫月達は必死に働いて暮らしているのにそれの何がいけないのさ!」
「この大馬鹿者!!そいつらは雇われの身であれば商人として金銭を国に納める必要が無いことを何故勉強してないんじゃ!あれ程丘の学校で勉強させたのに・・・・」
と泣き真似をする爺様だが俺にはまだピンと来なくて正座をし床に目線の焦点を当てて俯きながら時が経過し爺様の怒りが収まるまで待つしか無かった。
「長かったー。」
と俺は爺様の家で3時間弱は正座で怒られていたので、足が痺れて感覚が麻痺するほどだった。痺れて痛い足を引きずりながら歩いて実家にも顔を出そうと思い歩いていると前から兄の亜廉が歩いてきた。亜廉は俺が足を引きずって歩いているのを見て笑いながら
「千、爺様にこってり絞られたのか?」
と言う。俺は笑いながら言う亜廉にムッと口を尖らせながら
「見て分かるでしょ?初めての視察だから褒めて貰えると思っていたのに何で怒られるの?」
と言うと
「そりゃ~あれは今までの王子の行動とは思えない行動したからじゃない?」
「どういう事?」
「爺様にさっき怒られた時に言われなかったのか?」
「何を?なんか爺様途中で泣き真似をしたり顔を真っ赤にして怒ったりしていたけれども、俺足が痺れている方が気になってて途中から聞いてなかったんだよね。」
「千らしいと言えば千らしいが王子として駄目だろ。」
「そうかなー。俺そんなに駄目な王子なのかな?」
「王子としては駄目では無いけれど変わっているだろうな。他の王子達は今回の事を何か言っていたか?」
「あー、兄さん達は俺が視察に行った後から兄さん達だけで話合いを何回もしていて俺と弟の希生(きなり)は話合いに入れさせて貰えないんだよ。だけど、兄さん達がお互いに顔を合わせると緊張感って言うのかなピリピリした感じが肌を伝わってくるから何かあるのかもってこの間希生と話してたんだ。」
「なるほどな、多分お前の視察の件で意見が割れているんだろうな。」
「どういう事?」
「詳しくは俺はその場に居る訳でも無いし王子達の意見を聞いている訳では無いから何とも言えないけれども、視察について話し合っているのは間違い無いとは思うぞ。」
「そっか・・・。俺さあのピリピリした感覚苦手なんだよね、希生は特に気にしていないみたいだし感じていないみたい。」
「それはお前が化け狐の一族だからもあるんじゃないのか?」
「どういう事?」
「歴史で習っただろ?化け狐の一族は人の形として生まれるが基盤となる能力は化け狐と同じく嗅覚が優れ、見える範囲が広く獲物を見つけるのが得意で野生の勘が鋭い。また攻撃は化け狐と同じく武器を使うよりも武闘派が多いのも特徴だな。それに化け狐が持っている特優の予知能力もあるっていうのは知っているよな?」
「初耳かも。」
「・・・・嘘だろ?あれだけテストとかあったのにどうやって乗り越えたんだよ。」
「テストはいつもサクラが教えてくれたから。サクラって厳しい感じだけれど頭は結構良いんだ~。」
「待て、サクラがカンニングの手伝いをしていたのか?」
「んー、サクラは知らないと思うけれどもサクラが思っている事も全部魂の繋がりでこっちにまで伝わってくるから分かっちゃうんだよね。」
「それでサクラが何で答えを教えるんだよ。」
「サクラってさ、ずっと洞窟の中に閉じ込められていたから外の事が分からなかったみたいで出て来てから歴史にサクラの事が恐怖で満ちた内容が無いかって探しているうちに勉強が好きになったみたい。それで俺が寝ている間とかに教科書ずっと読んでたよ。」
「あー、確かに夜中起きたら人型になって読んでたな。俺の化け狐はそんな事をしないから驚いたのは覚えているけどそれで授業に着いていけるなんてサクラって凄いんだな。花の都の家でもそんな感じなの?」
「んー、サクラの部屋は覗かせて貰えないから分からないけど今はファッションとかデザインとかが好きみたいで家の中を色々物を造っては飾ったり、休みの日は壁の色を白から白に変えてたよ。」
「何で白から白に変えるんだよ。」
「サクラ曰くこの白は前の白より暖かみのある白なんだって言ってた。」
「俺にはよく分からないこだわりだな。」
「でしょ?ていうかさ、今日の夕飯何かな~?」
「ああ、今日は雑炊とたくわんって言ってたぞ。千は雑炊が好きだからその方が喜ぶって母さん張り切ってたし。」
「雑炊!!やったー!!久しぶりに母さんの雑炊が食べられる!!」
「おい!いきなり大きな声を出すなよ!そういえば千が足がまだ痛いのかと思ってここで立ち話してたけれどもう足痛くないのか?」
「・・・・は!そういえばもう足痛くないや!わあ、今思い出しても爺様は怒りすぎだったよー!亜廉もそう思うだろ?」
「俺に言うなよ!爺様に聞かれてたら俺が怒られるから意見を聞くのは止めてくれ!」
「なんでよ~爺様だよ?怖くないのにサクラも亜廉も爺様の事をどんな風に見えているの?」
「やめやめ!!この話はもうしないぞ!!・・・ほらもうそろそろ夕飯の時間だ。他の家も煙が出てご飯を知らせる合図が出ているぞ、母さんもきっと俺達に最高のご飯を作ってくれているさ。ほら帰るぞ!」
と言って俺の手を掴んで家の方に小さい子を連れて帰るように引っ張って歩く。
亜廉の手は四葉さんの手と違ってゴツゴツしていて俺よりも大きい掌をしていた、そんな手を見ながら俺は四葉さんに会いたいなと思い煙突から出てくる煙を赤く照らす夕日を見てそう思った。
「あー!!もうやってられねー!!」
と新一兄さんが大声を上げながら王子の間にある新一兄さんの部屋から出てきた。
「兄さんまだ話が終わってないぞ!!」
と龍次兄さんと鏡夜兄さんも部屋から出て来る。
「だーかーら!!俺は何度言われても意見は変える気は無い!!」
「それは分かるが鏡夜の話も聞いてやってくれ、兄さん。」
「よく言うよ。まず龍次兄さんは俺の味方なのか、それとも新一兄さんの味方なのかハッキリしてくれよ。」
「俺は自由だからなどちらかに着くとは決められないさっ!なあ、そうだろ!!兄弟!!」
と新一兄さんを始め龍次兄さんに鏡夜兄さんがそれぞれ話合いの続きなのだろうかお互いに興奮状態のまま新一兄さんの部屋から出てきた。
俺はチラッと希生を見るが希生は雑誌という本を見ているだけで兄さん達の話を気にも止めていないようで俺はどうして良いのか分からない。
扉付近で姿勢を正してこちらを見ているサクラをチラッと見ると目で(言いたい事があるのなら言いなさい)と合図を送って来た。
俺はサクラに頷くと
「兄さん達!あのさ、俺の事が原因で毎日兄さん達喧嘩しているんだよね?」
と耳を塞いで鏡夜兄さんの小言を聞かないようにしている新一兄さんと格好付けて前髪を梳かしている龍次兄さんと新一兄さんにまだ何かを言おうとしている鏡夜兄さん、そして新一兄さんの部屋からノソノソとゆっくり背中を曲げて出てきた楓兄さんに向かって俺は言った。
すると兄さん達は俺の声に反応して一斉に俺の事を見た。
俺は兄さん4人に一斉に見られて少し緊張したがここで言わないと言う機会が無いと思って兄さん達を真っ直ぐ見ながらもう一度
「俺のせいで喧嘩しているんだよね?」
と聞いてみた。兄さん達はそれぞれ顔を見合わせながら一斉に吹き出して大声で笑いながら
「俺達が喧嘩してるって~?」
と新一兄さんが言い出す。
「違うの?」
「いや、確かに今俺達は話合いをしているのは確かだけれど喧嘩なんてしていないさ!!」
「本当?でもいつも部屋から出てくるとピリピリしてるじゃん。」
「そりゃあ、楽しくてウキウキするような話をしている訳じゃ無いからな~。一応王子としての役割の話をしているからな~。」
「どうして王子の役割の話合いなのに俺と希生は入れてくれないの?」
と言うと4人が大笑いするのをピタッと止めて気まずそうに顔を見合わせる。
「お前が弟だからだよ。」
と気まずそうに楓兄さんが俺に言って来た。
「どうして?俺も王子なのに?どうして仲間外れにするのさ!!」
と俺は懇願するように楓兄さんに言うと楓兄さんは重い前髪の下からヒョコッと片目を覗かせると新一兄さんの顔を見る。新一兄さんは溜め息を吐いたがすぐに鏡夜兄さんが新一兄さんに
「溜め息吐くことは無いだろ?俺が言っていた通りの考えだっただろ?新一兄さんは国の決まりとかに固執しすぎなんだ。」
「俺が固執しているだと?」
「だってそうじゃないか!!俺は散々千と希生にも話を聞いてやろうって言っていただろう!それなのに兄さんは弟達の意見は聞かないって言って聞いてくれないじゃないか!」
「意見を聞かないなんて言っていないだろ?」
「でもそういう態度をしているし、俺が何を言っても兄達だけで決めるって譲らないじゃないか!!」
「お前は本当にギャーギャー騒ぐなー。俺はそこまで酷くは言っていない、ただ今回の事は兄弟全員で話し合う必要は無いというだけだ。」
「それを千は嫌がっているじゃないか!!今回だってそうだ千が視察に行くのは俺と楓はずっと反対していたのに兄さん達が行って来いなんて言うから!!」
「結果無事に帰ってきただろ?」
「そういう事じゃない!千はあれから各地から非難されているだろ!!」
と鏡夜兄さんは勢いよく言った後に俺の顔を見てハッと息を飲んだ。
他の兄さん達は鏡夜兄さんにヤレヤレという顔で見て、希生は雑誌はさすがに読むのを止めたが静かに俺達の事を見守るだけで無表情のままだった。
俺は今初めて各地から怒られているのを知った。
「俺、そんなに皆から怒られているの?」
と聞くと大きく溜め息を吐いた新一兄さんが
「そうだ、この間視察に行っただろ?そこで見つけた領土を拡大はしてもその人達から金銭を取るわけでも納める何かを決めて来ないだけでは無くてそこに居た人達を国の一部である妖怪の村で働かせて暮らさせるなんて何でだって中にはそれに対して王子が力不足だから正しい判断が出来なかったのではとも言われているんだ。千もこの間村に呼ばれて怒られたんじゃ無いのか?」
「怒られたけど、他の人も言っているとは思わなかった。ごめんなさい。」
「お前が謝ることは無いさ。」
と新一兄さんは言ってくれたけど俺はもの凄く迷惑を掛けてしまった事に爺様に叱られるよりも何倍も落ち込み反省した。そんな落ち込む俺を見て新一兄さんが
「鏡夜が要らない事を言うから、ほら千が落ち込んだんじゃないか~。」
と言い出した。鏡夜兄さんはクイッとズレた眼鏡を上げながら
「確かに口は滑らせたけれども、俺は最初からこういうのを想定していたから視察に弟が行くのは早いと言っていたんだ。それに兄さんは滅茶苦茶なんだよ、こんなに千が言われているのに前線に今度から弟達も混ぜて戦の練習するなんて。これ以上千を追い詰めないでやって欲しいんだ。まずは千の場合は戦慣れをしてから希生と同じ俺達の後ろで戦える姿勢を学ぶ事が大事なんだ、それなのにそれを飛び越えて視察には行かせるし前線で戦わさせるなんて。俺は絶対反対だぞ!」
と途中から強い口調で言うのでカチンと来たのかそれまでのらりくらりと弟の言葉をかわしていた新一兄さんが
「それを決めるのは第1王子の俺だぞ?」
と強めの低い声で言う。
「なんで、何でもかんでも1番だからって決めるんだよ。俺達は6人居ててそれぞれの意見があるだろ?それを聞くのが1番だろ?決定権があるからって独りで何でもかんでも決めるなよ!!」
とヒートアップする鏡夜兄さんを楓兄さんが止めるように言うが止められないのか制止を振り切って続けて
「それに前から思っていたんだ!!何もかもやる気無さそうに会議しているくせに殆ど自分の意見を押し付けるばかりじゃないか!!この間の視察だってもっと兄として何か千の為に出来ていれば千が言われなくても済んだだろ?」
ともうほぼ怒鳴り声になる鏡夜兄さんに対して
「うるせーな!!俺に決定権があるのは王子の決まりだから俺に文句言うなよ!!それに千のやり方は千が責任持ってやるべきだろ?そこまで俺達が介入するものじゃないだろ!!」
と段々怒鳴り声になる新一兄さんに、軽く腕を叩いて落ち着かせようとする龍次兄さんの事が目に入らないのかどんどん声が大きくなっていく。
「兄さんは千がここまで言われて可哀想とか兄としてどうしてあげられるかって考えないのか?」
と鏡夜兄さんが新一兄さんに聞くと
「俺達は本当の兄弟じゃ無いだろ。そこまでする義務は無い。」
と言って王子の間の扉を開いて花の都に帰ってしまった。
俺はそんな後ろ姿を見て何も声を掛けられなかった。
確かに俺達本当の兄弟じゃ無い。でもそんな事は分かっていてもそう言われるのが辛かった。皆同じなのか誰も新一兄さんの後を追おうとした者は居なかった。
「あー!!ムカつく!!」
と俺の家の庭で寝っ転がりながら怒っているのは鏡夜兄さんと桜の木を眺めながら重たい前髪を風で揺らしながら静かに頷く楓兄さんである。
あれから新一兄さんが出て行ってしまった後龍次兄さんも無言で王子の間から出て行き、会議をしないなら帰ると言って希生も帰ってしまった。残った俺達3人はどうしようも無く落ち込む俺を励ますようにしながらサクラと一緒に俺の家まで帰ってきた。
鏡夜兄さんは大きな声で何度も空に向かって新一兄さんの悪口を言い、楓兄さんは静かに怒っているのに対して俺は桜の木を見ながら落ち込んでいた。
「お茶が入りましたのでどうぞ。」
と言ってメイドさんが俺達にお茶が入ったコップを渡して来た。俺はチラッとメイドさんを見て
「ありがとう~。ここにお盆置いといて~。」
と言うと
「わかったわ。千大丈夫?」
と聞いてきたので俺はフルフルと左右に顔を振って答えた。
「今日は千の好きなハンバーグにするから元気出してね。」
と言っては家の中に戻る。
俺はメイドさんが戻った後にお茶を他2人に渡そうとしてコップを手に取ると楓兄さんが
「なんでメイドさんと話すの?」
と聞いてきた。え?と思って2人を見ると鏡夜兄さんも同じ気持ちなのか俺の事を見つめていた。俺は2人の顔を見て
「だって同じ家なのに話さない方が変だから。寂しいじゃん。」
と言うと2人は顔を見合わせて大きく溜め息を吐いた。俺は2人の態度に驚いて
「そんなに駄目なの?」
と慌てて聞くと
「お前みたいな王子初めてだぞ。」
と鏡夜兄さんが言ってきた。
「何が?」
「俺達王子は従者と関わりを持ってはいけないって言われているだろ?」
「うん、知ってるよ。」
「だから基本はその掟に従って口を聞かないし、自分達は王子なんだって思うから自然と口を聞かなくなるんだよ。」
「そうなの?」
「俺もここに来てからは必要な事以外は話掛けないし、相手は俺の目を見ない。」
「寂しくないの?」
「寂しいという感覚にはならないな、楓もそうだろ?」
と隣に座る楓兄さんを見ると楓兄さんは重そうな前髪の下から俺達の事を見て小さく頷いた。
「そっか~俺も最初皆と同じで王子だから一線を引かないと駄目だってサクラに言われて納得したつもりだったんだけど、ご飯が美味しく感じられなくなったり段々落ち込む日が増えてきてメイドさん達もその姿を見て爺様に言ってくれたの。サクラも最初はそれでも駄目!て言っていたけど最終的には折れて納得してくれて爺様に許可を取ったの。駄目だったかな。」
「いや、俺と楓はそう思うだけで千がその方が過ごしやすくて良いのならそれで良いと思うし、それぞれ王子の家の中や部隊のあり方は王様や長に決定権があるから長がそれで良いって言うなら良いと思うぞ。」
「そっか~良かった~でも俺は王子なのに決定権という物は持っていないんだよね?」
「本題はそこなんだ!!あー、今忘れかけていたのに思い出すとイライラする。」
と言って鏡夜兄さんは眼鏡を外してこめかみをマッサージするようにグルグルと指の腹で撫でた。
「あーごめん。俺また何か余計なことを言った?」
と聞くと楓兄さんが
「千はすぐに謝るが悪い事は何一つしていない。だから謝る必要は無い。」
と言ってくれた。
「でも、俺のせいで他の国から非難されるし新一兄さんとも喧嘩になったでしょ?」
「他の国の奴らは気にするな。俺と鏡夜兄さんはあの村の出来事は兄さんは千里眼で、俺は千にあげたお守りで見ていたから分かる。けどあの場所に居なかった者は一連の流れを知らない、あんな状態で女子供だけを追い出すなんて無理があるだろ。それを知らない奴が文句を言っているだけで気にする必要は無い。それに新一兄さんは千を見ているようで見ていないんだよ。それは千だけじゃ無くて俺達弟の事もな。」
「楓兄さん、ありがとう。俺凄く不安だった、俺が勝手に決めた行動が紫月達にも迷惑掛けちゃう事なのかと不安だった、そうだ!紫月達は大丈夫なのかな?妖怪の村も大丈夫なのかな?嫌がらせされていないかな?」
「嫌がらせの被害は受けていないけど、紫月っていう奴の事は何も知らないぞ。千がこの間友達になった少年だろ?」
「うん!お父さんとお母さんを殺されて3歳の弟を育てないといけないんだよ。」
「そっか、まあ奴隷の中でもそれぞれ複雑な家は多いとは聞くからな。千じゃ無かったら紫月もきっと奴隷と同じ生活になっていただろうな。ただ紫月がどう思っているのかは俺達じゃなくて直接聞いた方が良いと思うぞ。」
「分かった、時間見つけて会いに行ってくるよ。」
「その方が良い、きっと千の友達だから何かあったら話してくれるさ。」
「うん!ありがとう!!気持ちが楽になったよ~」
「良かったな、ただ問題は新一兄さんと鏡夜兄さんだな。」
と楓兄さんはチラッと鏡夜兄さんを見る。鏡夜兄さんはこめかみをまだマッサージしていて俺達の視線を感じたのかマッサージを止めると
「俺は間違ったことは言ってないぞ。」
と低い声で言ってきた。
「まだ何も言ってないだろ?」
と楓兄さんがと突っかかったように言ったので俺は慌てて
「喧嘩は駄目だよ!!」
と止めた。兄さん達は俺が焦っているのを見て、2人で顔を見合わせて大笑いした。
「大丈夫だよ、こんな事で喧嘩なんてしないさ。」
と鏡夜兄さんが笑いながら言う。
「本当?」
と不安になって聞くと
「大丈夫、ただ新一兄さんとは何回もぶつかっていたからな~遅かれ早かれこうなっていたと思うし大丈夫だよ。千が心配になる事は無い。」
と言ってくれて俺は安心した。
「ただ、今のこの状況は長くは続いてはいつ戦が起きるか分からないからな。鏡夜兄さんは謝る気は無いんだろ?」
と楓兄さんが鏡夜兄さんに聞くと
「俺は間違ったことは言ってないからな。」
と言って眼鏡を掛けた。
「だけどこのままも良くないだろ?今度ある戦の練習も考えなくてはならないのに、内輪で揉めてたら練習も上手く行かないよ。」
と楓兄さんは言う。
「それは分かっているけど、どうしようも無いだろ新一兄さんが耳を傾けてくれない限りそれは難しいんだ。」
と鏡夜兄さんは眉間にシワを寄せながら言う。俺はそんな兄さん達の話している姿を見ていて
「俺さ、新一兄さんの家にこれから行ってみるよ!!」
と言った。その言葉を聞いて鏡夜兄さんは飛び起きて
「待て!!あんな俺達は本当の兄弟じゃ無いって酷いこと言われたんだぞ?千にまた何か言うかもしれないぞ!!」
と言われたが俺は新一兄さんと話したいという気持ちが大きくなったので
「うん!でも新一兄さんと話した方が良いと思うから今から行ってくる!!」
と言って寝転がっていたのを飛び起きて俺は立ち上がった。
そんな俺を止めるように鏡夜兄さんと楓兄さんは言ってくるが俺はもう家の門の方に走り出していたのでそれ以上は2人の声が耳に入ってこなかった。
「お邪魔しまーす!!こんにちは!新一兄さーん!!」
と新一兄さんの家の入り口で大きな声を出す。ここに走って来てから何度も玄関で声を出していたが誰も出て来ないので俺は強行突破でドアを開けようとしたら2階の窓から
「待て待て!!急に入ってくるな!!」
と新一兄さんが顔を出して止めてきた。
「あ!兄さん!」
と俺が言うと新一兄さんの後ろから龍次兄さんが顔を出して来た。
「あれ?龍次兄さんも来てたんだね!!」
と俺が言うと龍次兄さんが
「流石にあんな事を言う兄弟を放っておけないさっ!お前もそうだろ?」
と言って来たので俺は無視して
「ねえ、新一兄さん家に上げてくれよ。」
と言うと新一兄さんがウヘーとした嫌そうな顔で
「俺はさっきお前等弟にいやーな事を言ったお兄ちゃんだぞ。」
と言って来た。
「俺はあの言葉は兄さんの本音じゃ無いって知ってるよ。」
「分からないぞ~お兄ちゃんは怒っていたからな~。本音がつい出てしまったのかもしれないぞ~」
と脅してくる、でも俺はそんな事を気にしないという態度で新一兄さんの言葉を無視して洋風な形をした扉を開けて中に入って行く。
中は以前皆で遊びに来たから部屋を迷う事が無い、中には新一兄さんの従者さんが居るけど皆俺の姿を見ては軽く礼をするだけで誰も俺を止める事をしない。
俺はそんな中2階の一つの部屋に辿り着いて部屋の前で
「新一兄さーん!!龍次兄さーん!!遊びに来たよー!!開けてー!!」
と思いっきり叫んだ。するとすぐに扉が開いて
「千、あんまり大きな声を出すなよ!!全くここまでズカズカ入ってくる人は千が初めてだよ。」
と言って新一兄さんが部屋に入れてくれた。
「え?龍次兄さんはどうやって入ったの?」
と部屋の窓で格好付けて座っている龍次兄さんに聞くと
「俺は兄さんの背後に着いていってここまで入ってきた。」
「どういう事?」
「あの時王子の間から出た兄さんを追いかけてここまでピッタリくっ付いて何も言わずにここに来たのさ。」
「龍次兄さんも新一兄さんの事が心配だったんだね。」
「いや?俺は心配なんて事はしていないが、あんな言葉を弟である俺に言うなんてと思ってな。」
「自分の事だけを考えて着いてきて何か変化はあったの?」
と俺が龍次兄さんに聞いたがすかさず新一兄さんが
「あいつここに来てから何もしていないぞ、ずっとここに来ては鏡見たり部屋の隅で筋トレ始めたりで何でここに来たのか俺も分からなくてどうしようかと思ってたんだ、ついでだから連れて帰ってくれよ。」
と言い始める。
「龍次兄さんの事は後にして俺は今新一兄さんと話しに来たんだよ。」
と俺は新一兄さんにしがみついて言うと新一兄さんは振りほどくように身体を捩らせたか俺はこれでもかってくらいに抱きついて動かないようにしがみつくと新一兄さんは諦めたように動かなくなった。
「俺さ、なんで新一兄さんがあんな事を言ったのかは分からないけど、今の状態は良くないって思うんだ。それでね、兄さんには俺に対して思っている事を言って欲しいんだよ。」
「千に思っている事?」
「うん。俺が視察で失敗したから怒っているんでしょ?」
「何で怒るんだよ。」
「だって村人を連れて来て勝手に妖怪の村で働かせたから。」
「そんな位で怒るわけ無いだろ?というか重いから離してくれ!お前子供だけど178㎝も身長がある事忘れるなよ!俺より低くても小さい子供じゃないんだぞ!」
と言うので俺はソッと離した
「逃げないよね?」
と聞くと
「もう!お兄ちゃん怖いよ!後ろからくっ付いて部屋に勝手に入って来る弟は居るし、でかい身体でコアラみたいに抱きついて来る弟はいるし怖すぎるわ!!」
と言いながら部屋にあるベッドに腰掛けて俺達を交互に見ながら言う。
「だってそうしないと兄さん逃げるかもしれないじゃん!ねえ、龍次兄さん!」
と窓辺に居る龍次兄さんに声を掛けたが窓の鏡に映る自分の姿を見て筋肉の付き方とかを確認しているので俺は話しかけた事を後悔した。
でもこのままだとまた新一兄さんのペースで話しが進んでしまいそうな気がしたので
「新一兄さんの事が心配だったんだよ。俺はさ確かに兄弟の盃を交わしただけの兄弟だけど兄さん達の事や希生の事は本当の家族のように思っているんだ。だからああやって自分を傷つける兄さんの言葉を言わせたのが俺の視察とかが原因だったら嫌だなと思ったの。」
「千の視察が原因であんな事を言ったのかとお前は思っているのか?」
「違うの?」
「全く違うね!!思い上がりも良い所だ!!俺はただ思った事を言っただけ。」
「もし兄さんが本気でそう思っているなら兄だけでも会議なんてしないよ。しかもここ数週間もそればっかりじゃないか!!もしどうでも良いなら会議なんてせずに皆に言うだけだよ。」
と新一兄さんに言うと図星だったのか新一兄さんは黙ってしまった。
「俺はあの言葉は新一兄さんが自分に言い聞かせている感じに俺は思ったよ。だからそんな自分の言葉で傷ついて欲しくないんだよ。」
「はあー、お前は純粋に見えて心の中心を遠慮無しでナイフで突き刺してくるから1番手が掛かる弟だよ。」
と観念しましたという風に両手を上げて溜め息をつきながら新一兄さんは答えた。
「確かに今回の言葉は俺が言い過ぎた、それについては謝る。ただな俺は弟だからと言って戦に行かせないのには限界があると思っているんだ。」
「どういう事?」
「前回の戦で勝ったとは言え負傷者や死者が多く出たのは知っているよな?」
「うん。」
「その負傷者や死者の多くは俺達兄達の国の出身の者なのも知っているよな?」
「うん。」
「前回の事で多くの人を失ってしまった穴埋めは今必死にしているけど、それも限界はある訳で人員を増やした所で連携がその部の一部が出来ていないだけで部隊が全滅する事も容易に想像出来るだろ?」
「んーと、前回の怪我人の他に新しい人が入ったら今までの連携が出来なくなって団体行動が乱れてそこに敵が突っ込んできたら壊滅しちゃうって事?」
「そうだ、良く自分なりに解釈できたな。」
「あってたー良かった。」
「当てずっぽうかよ!!・・・まあ良いかそれでな、俺の親父である王様から千が視察に行く前に言われたのが弟達にも戦に出させろという事だった。俺は最初はまだ千なんて守りの戦なんてしていないから無理だって思ったけど、現状そんな事を言っている場合では無い。後千が視察に行った後には掟を厳しくしなくてはならないとも言われている。」
「俺が勝手に連れて来たのが駄目だったのかな。」
「これは難しい話で、鏡夜と楓の話を聞いている限りでは仕方ない選択だったと俺は分かっているが王様の考えは違ってな、自分の国に利益になる事を優先にしているのさ。」
「りえき?」
「自分の国にとって得になることな。」
「それは俺の村も得になるの?」
「俺の国が発展すればその分他の兄弟達の出身の国や村も得な事があるから兄弟の盃という名の国同士の協定を結んだのさ。」
「きょうてい?」
「争いをしないで仲良くしましょうよって事な。」
「なるほどね、俺兄弟の盃に対しても掟だからって思っていただけで何も考えずに兄弟になってた。」
「それはわざと村の長が言わなかったんだろ?俺の場合は父親が王様だからと1番という数字が入っているから厳しく父親から言われて育ったからな。」
「そうなんだ。俺さどうしたら王様に分かって貰えるかな?」
「は?」
「だって、王様がそうやって掟の事を言うから兄さんが辛くなるんでしょ?」
「いや俺は辛くないが・・・」
「嘘だね、だって言いたくない事も言わなくちゃいけないじゃ無いか!現に鏡夜兄さんとも喧嘩してるし。これじゃあ敵が急に攻めてきて戦わなくちゃいけない時に喧嘩してたら余計に死者と負傷者が増えるだけだよ。」
「ごもっともだな。」
とさっきまで窓の鏡を見ていた龍次兄さんが急に話に入ってきた。
「俺も千の言う通りだと思うぞ。掟はあくまで約束事だ、それに従いすぎて皆の輪を乱し戦に負けてしまえば元も子も無いだろ。」
と真っ直ぐに新一兄さんの事を見て言う。
新一兄さんは頭を抱えて
「言っている事は分かるけど、それが出来たら苦労しないんだよ。」
とベッドに寝転びながら悩んでいるのに対して俺は一つの案が浮かんだ。
「そうだ!ねえ、王様達を集めてさそこに紫月達にどれだけ戦の跡地は酷いものかを説明して貰おうよ!!」
と言うと二人して驚いた顔で俺の事を見ていたが俺の頭は紫月に会う事で頭がいっぱいになっていて意見を変えるつもりが無いのが分かったのか2人は溜め息を吐くだけで何も言わなかった。
「と言うわけでさ紫月村の長や王様に会ってくれよ。」
と俺とサクラは四葉さんの家に遊びに来ていた紫月に今までの経緯について話をした。
本当は王子の話している事を他で話す事は王子の掟によって罰せられるが今回は特別に新一兄さんの許可のもと話しても良いと言われたので大まかだが紫月に話したのだ。
紫月は四葉さんの家で作っているお漬物を片手に固まって止まっている。
俺は聞いていないのかと思って紫月に手を振るが反応が無いので四葉さんを見るとニコニコと笑ったまま何も言わない。
俺は何か変な事を言ったのかと思って口を開こうとしたら
「プハァ死ぬかと思った。」
と紫月が急に話始めた。
「そんな話を俺にしても良いのか?」
と呼吸を乱しながら聞く紫月に
「良いってさっき言ったじゃん、新一兄さんが許可してくれて紫月に聞いてくるねって言って飛び出してきたんだよ。」
「それ今日の話?」
「そうだよ、だから王様に会うのはもう少し後の日付になるけどその時には紫月に来て欲しいんだよ。」
「ムリムリムリ!!俺こんな身なりなのに王様に会えるわけ無いだろ?」
「なんでさ、身なりなんて関係ないよ。ここに住む人なんだからそんな事を気にする方が変だろ。」
「それはお前だからだろ?俺とは住んでいる世界が違うだろ?」
「何でだよ、俺だって王子だけど紫月とは友達だろ?」
「確かにそうだけど、それに他の人達も納得しないぜ?」
「そうかな~、でもそうしないと王様は分かってくれないんだよ。」
「それは分かるけど、俺達が言った所で何か変わるようには思えないんだよ。行くだけ無駄足かもしれないだろ?」
と紫月は強い言葉で王様に会う事を拒否する。
そんな俺達の話を黙って聞いていた四葉さんが
「紫月さんの言いたい事は分かりますが村の代表として発言するのも時には必要かと。」
と穏やかに言うのに対して紫月が
「えー!!四葉さんも同じ意見なんですか?俺嫌ですよ!!怖いし。」
「大丈夫ですよ、千が傍に居てくれるのでしょ?」
と俺に聞いてくるので俺はブンブンと頷くと
「でしょう?そうしたら怖い事なんてありませんよ、1番の強い味方は自分の事を理解してくれる仲間の存在です。その存在を壊そうとしてくる人は王様ではいらっしゃいませんよ。」
「確かに俺達が友達で怒る王様は居ないかもしれないけど・・・」
と言いかけた紫月にサクラが
「王子が隠れて友達を作る事に対しては目を瞑っていられるが王様の前で千に恥をかかせたりいつもと同じ話し方をしたら怒られると思いますよ。」
と静かに言うので紫月は持っていたお漬物を机の上に落として
「四葉さーん違うじゃ無いですかー。」
と泣く。俺はサクラに余計なことをと目で言うがサクラはフンッという顔をして何か?という顔で気にしないふりをする。
四葉さんはオロオロとして
「そうなんですね!知らなかったとは言え余計なことを・・・」
と言い出したので俺はすかさず
「大丈夫!俺は何か紫月に嫌な事を言いそうになったらちゃんと守るし、兄弟にもそれを伝えるから大丈夫だから。」
と言って慌てふためく2人を慰めた。
「本当だろうな!!」
と泣く紫月に大丈夫、大丈夫と俺は慰めた。
「それで王様に何て言えば良いのさ。」
と不安が無くなったのかと聞いてくる紫月に
「んー、新一兄さんが言うには視察の時とその後について話をしていかにこの国に対して得になるかを考えて伝えれば納得するって言ってたぞ。」
「この国に対して得だと?」
「ああ、この国に来た紫月達が何をしているのかも含めて得になると分かれば俺に向けている非難の声も無くなるし、紫月達に対して否定的な考えの人も居なくなるだろうって。」
「それは凄く難しい話じゃねーか。」
「そうだけど、そうしないといつまでも紫月達にとっても良い印象にはならないし俺は考えた方が良いような気がするけどな。」
「確かにこれ以上お前に迷惑は掛けられないけど何が国にとって得なのか、俺には分からねーよ。」
と言って俺達は悩んだが何も出てこない。暫くしてから四葉さんが
「そういえば旅館の売り上げはどうなのですか?」
と聞いてきた。
紫月達は俺の紹介で赤鬼夫婦が経営する旅館で住み込みで今は働いているのでその売り上げを聞いたのだ。
「まあ、最初はあんなに広い家でどれだけの人が来るかと思っていたら結構人気で毎日それは忙しく働いていますよ。なんでも赤鬼の奥さんは政治を担う人達も家族と泊まりに来るようになってもう少し稼げるなら人をもっと雇ってもう一つ建物を建てたい程だっていう位予約でいっぱいですよ。」
「何でそんなに忙しいのに紫月はここでお漬物食べているんだよ。」
「あのな、あの旅館は夜からなんだ。朝やらなくちゃいけない事を終わらせてここに来ているんだ。お前がいつ来ても良いようにここで俺が待っているんだよ、全く。」
と口を尖らす紫月に抱きつき
「俺の為に寝ずにここに来てくれていたのか~!!てっきり四葉さんのお漬物目当てだと思ってた!!」
と言うと
「ギクッ」
と紫月が言うので
「もしかして図星か?俺達の友情よりもそっちが主なのか?」
と聞くと紫月は慌てて
「さあ俺はそろそろ旅館に戻ろうかな~」
と言ってそそくさと戻ってしまった。俺は逃げて帰る紫月の名前を叫んで呼ぶが彼は戻ってくる事は無かった。
「あいつ、俺との友情を考えてなかった。」
と怒る俺に四葉さんが
「フフッでも紫月さんはいつもここに来ると千は居ませんか?て聞いてくるのであながち千に会いに来ているのは間違い無いと思いますよ。」
と口元を手で隠して笑いながら言うので俺は不貞腐れながら
「でもあいつ本当に四葉さんのお漬物目当てなのは間違い無いよ。だって四葉さんのお漬物とても美味しいもん。」
と言うと四葉さんはパアと明るい顔をして
「本当ですか?それは良かった!」
と言った。俺はその四葉さんの笑顔を見てさっきまで不貞腐れた気持ちが一気になくなった。
「それでさ、俺王様達に何を言ったら良いのかな?」
と俺は本題であるこの話に戻って四葉さんに相談した。四葉さんも先程の明るい表情が少しだけ曇った表情になって
「そうですね~、ただ赤鬼夫婦の旅館は以前奴隷として生活を送っている時から人気で何でも沢山温泉がある中でも傷を癒やす温泉があったり、あの旅館に行くと仲間同士のいがみ合いも無くなり仲良しに戻れるとも言われてそれは他国が争って奪い合いになる程だったとは聞いていましたけど、今じゃその評判は一部しか知られていないので・・・。」
と言った。
「待って、そんなに有名な旅館なの?」
「ええまあ、何でもあの旅館は赤鬼の奥さんのご実家ですし私がまだこの土地に踏み入れる前からあるのでもう300年近くはあの2人が経営されていると思いますよ。」
「300年!?」
「ええ、あの2人が経営し始めた歴史を以前聞いた時にそう仰っていましたから。あの夫婦より前の代を加えて考えましたら、あの旅館には長い歴史があるという事になりますね。」
「そっかー、俺初めて聞いた。いつも喧嘩ばかりだから仲良しなのかも分かっていなかった。」
「フフッそうですね、人は時には表だけでは分からない事がありますから。何事においても見た目で判断せずに中身を見て判断する事の方が1番難しくて1番大切なことですから。」
「そうだよね!!じゃあさ、王様達に旅館の売り上げについて伝えたらどうかな?例えば兵士達が傷ついた時にその温泉の水を分けて貰うとか。それか旅館を政治を担う人だけじゃ無くて王様達にも使って貰えたら少しは違うかもよ?」
「それは良い考えかもしれないですね!実際に紫月さん達が働いている姿を見れば違った考えになるかもしれませんし。とても素敵な考えだと私は思いますよ!!」
「だよね!そうしたら俺この後赤鬼夫婦の所に行って予約空けられるか聞いてみようかな。」
「ええ!是非そうなさったら良いと思いますよ!!私もこれから頼まれていたお漬物を届けに参る予定でしたので同行させてくださいな!」
「お漬物赤鬼さん達も好きなの?」
「ええ、以前赤鬼の奥さんがいらっしゃいまして私のお漬物が最近評判なので食べさせてくれないかと言われお出しした所、それはもうとても気に入ってくださいましてお得意様限定ですが旅館でも食べられるようになったのです。」
「料理で出してくれるって事?」
「ええそうなんです。最初は赤鬼の奥さんが自分で漬けると仰っていたのですがなかなか味が上手にいかなかったようで最終的には材料費と売り上げの一部を貰う代わりにお漬物を提供しているのです。」
「四葉さん凄く毎日忙しそうだけど身体壊したりしないの?」
「そうですねー今はとても忙しいですが皆さんの笑顔が見れるだけで私は嬉しいですから。」
「本当?でも無理は禁物だよ?村の皆が傍に居てくれてるとは言え心配だよ。」
「大丈夫ですよ、心配してくださってありがとうございます。」
と俺の頭を優しく撫でてくれた。
俺は視察から帰ってから暫く爺様に呼ばれたりしていて忙しくここに来れなかったので久しぶりに四葉さんに触れられて凄く幸せだった。
俺にもしサクラみたいに尻尾があったら多分凄く振って喜びを表現していたに違いないと思いながら撫でられている時間を心いっぱいに満たした。
「それでは私達は外に居りますので何かありましたらお声をお掛け下さいませ。」
と橙色の着物を着た女性が襖を開けて外に出た。
今この状況はとても緊張で張り詰めた空間である。あの後俺とサクラと四葉さんで赤鬼夫婦の旅館に行った。赤鬼夫婦は準備中だったが快く迎え入れてくれて俺は今回この旅館に王様達と王子達を連れて来て良いかと尋ねた。
最初はそれこそ王様が来るなんて恐れ多いと言って断られたが俺が粘り強くこのままだと王子の仲が悪くなれば次の戦にも関わり、負ければ前の様な生活に戻る可能性もあると言った。また王様達にもし気に入られれば箔が付いて益々商売繁盛になるのでは?と聞くと、商売繁盛の話が良かったのか分からないが赤鬼の奥さんはすぐに目の色を変えて二つ返事で承諾してくれたのだ。
それから喧嘩後の初めての王子の会議で俺は皆に赤鬼夫婦の旅館について話をした。
最初は乗り気では無かった兄達だが希生が美肌効果がある温泉がある事を知り行きたがったのでそれに着いていく形で皆も一緒に行ってくれる事になったのだ。
ただ、喧嘩は旅館に来た今でも続いていて新一兄さんと鏡夜兄さんはあれから一切口を聞いていない。
ただ、2人共俺の考えに賛成してくれて今回王子達が全員で新一兄さんの父である王様に許可を取りに同行させてくれた。
俺はまた兄さん達で行くのかと思っていたので新一兄さんが俺達を誘ってくれた時はとても嬉しかった。
新一兄さんの王様は悩んで妖怪の旅館に行くという事に最初は渋っていたが俺達の説得の源、他の王様にも声を掛けてくれた。
俺に爺様は真っ先に参加すると言って俺に文でどんな料理があるかまた傷が癒える温泉で腰痛は治るのかと何度も聞かれその返事に振り回され大変だったのだ。
それぞれの国の王様達は胸を張って静かに今俺達王子達と同じ部屋で向き合うように座っている。目の前に料理が置かれているが誰も箸を付けず何かを待っているように時だけが流れている。
俺はどうしたら良いのか分からずただ新一兄さんの王様を見ていると王様はゆっくりとした仕草で
「それでは皆さんで食べましょうか。」
と言って周囲を見ると皆が頷き
「「頂戴致します。」」
と言って皆でご飯を食べた。
旅館のご飯はとても美味しくて俺は先程までの緊張感が消えて隣に居た楓兄さんに
「美味しいねー!!」
と大声で言ってしまい静かな食事の空間を壊した。ただ王様達はそれに怒ることなく微笑んで見てくれたので俺はそのまま美味しい美味しいとご飯を食べながら兄弟達に話掛けた。兄達は俺が話しかけることに周りの空気を気にしてか最初は
(静かに!)
と怒られたが希生が
「このお漬物美味しい。」
と言ったので
「このお漬物はあの龍神様が作っているお漬物なんだぞー」
と自慢げに話した。
その龍神様が気になったのか鏡夜兄さんの王様が
「第5番目の王子、千はその龍神様と仲が良いのか?」
と聞いて来た。俺はいきなり話掛けられたのもあって驚いてすぐに姿勢を正すと
「はい!俺は今は必ず月に1回は訪れるようにしている位仲が良いです。後で村の代表としてここに来るって先程赤鬼の奥さんが言っていました。」
「そうか、村の代表か。あのもしや以前ワシの所に挨拶に参った方か?」
「そうです!俺は・・・私は王様に挨拶に向かっている龍神様に偶然お会いした事をきっかけに仲良くさせて頂いております。」
「そうか、それは良い縁だな。そしてどうしてこの村に前回視察で出会った者達を働かせたのだ?」
いきなりの質問に先程まで和やかだった空気が一気に張り詰めた。
俺は深呼吸して落ち着かせながら
「それはこの村は今でこそこの旅館に政治の方が来られるようになりましたが最初は奴隷の方達しか来ていなかったので、妖怪の村の経済を回すことも大事だと思ったからです。」
俺はここに来るまで鏡夜兄さんと楓兄さんの特訓の下質問に答えていく練習をして来たのだ。訓練でどんなに疲れていてもこの練習と文を覚えなくてはいけなくてとても苦労した。その成果があったのか俺の言葉を疑うような視線は感じられない、そう思ったが
「それと今回の視察の件で見つけた村の利益は何だ?」
と今度は新一兄さんの王様が聞いて来た。
「利益・・・・利益と言われますと難しいのですがまずこの村が発展しないと妖怪の村も経済が回らなくなります。その為に人手が欲しかったのです、また女子供でも出来る仕事を探していたらたまたまこの旅館が人手を募集しておりましたので紹介致しました。」
と話したタイミングで部屋の外から
「失礼します。」
と声が掛かった。何だ?と思って開く襖を見ているとそこには四葉さんと紫月の姿があった。
「おお!これは四葉殿!!」
と声を挙げたのは俺の村の長である爺様だった。
「先日はすまなかったのー!あの薬よう効いたわい!」
と言って挨拶をする。他の王様も従って四葉さんに挨拶をすると部屋の中に物音を立てずに2人は中に入ってきた。畳の上で正座して額を付けるように挨拶する2人に新一兄さんの王様が
「久しぶりだな、四葉殿。」
と言った。四葉さんは顔を上げずに
「お久しぶりでございます。此度はこの食事の場に参加させて頂きまして誠に有り難うございます。」
といつもの物腰柔らかい話し方では無くどこか頼りがありハリがある声で王様に挨拶をする。
「構わないさ、息子が直々に頼んできたのもあり王子達が揃ってこの旅館で働く坊主の話を聞いてやって欲しいと言われたもんでな。」
と四葉さんの隣で頭を同じように下げて小さく震える紫月の事を見た。
「紫月と言ったな。」
「は・・はい!!」
「そう緊張するな。取って食う事はしない。それよりこの旅館で働いてどうだ?」
「どうと申されますと・・・」
「妖怪の下で働くという事だ。」
「妖怪の下でですか?」
「そうだ、怖くは無いのか?」
「はい、最初は怖かったですが千が説得してくれたお陰もあり今はそれが普通の生活の一部になっております。」
「そうか。・・・千」
といきなり俺の名前を呼ばれたので驚いて先程まで楽な姿勢を探してモゾモゾ足を動かしていたのを止めて
「はい!」
と答えると真っ直ぐ王様達は俺の事を見て
「お前は妖怪を怖いと思わないのか?」
と聞いて来た。俺はその質問の意味が分からずポカンとしていると横に居た楓兄さんに小突かれた。
「あ、すみません。どうして怖いのですか?」
「そうだな。見た目も我々と違うだろ?」
「そうですね、でも俺・・・私は6歳の時に化け狐と魂の契約をしましたので妖怪に対して特別に恐ろしいという気持ちが無いのです。またここに住む妖怪達は優しく温かい人達で溢れています。見た目は恐ろしい目玉親父さんも最近は奴隷として生きる子供達と縄跳びをするのが好きでよく遊んでいる姿を目にします。そんな子供達も最初はこの村に来るのは怖かったでしょうがこの村で沢山の出会いがあり今は妖怪との間に境目は無いように思います。またこの旅館も赤鬼夫婦ですが政治を担う人達も赤鬼夫婦の人柄に触れて怖がる人が居ないように思えます。」
「そうか、見た目で判断していたのはワシ等になるのか。」
「それは違います、人は皆見た目で最初は判断してしまうと思います。ただ私達はそれだけでは駄目だと以前の視察で気が付きました。私は視察で出会った村で最初は戦で勝った人達だと言った者が村を襲ったと村人に聞かされ最初は信じてしまいました。ただそれは全くの嘘で実は私と取り引きをする為だけの作り話でした。しかし、私達はその事に気が付いて一早く対応する事が出来たので私の部隊に対し何も被害は出ませんでした。その時に私は思ったのです。人は皆見た目で判断してしまっては中身が見えず時にはそれを利用される事があるのだと。私は見た目が恐ろしい妖怪よりも中身が人を騙そうとする人の方が何倍も恐ろしく感じます。」
「そうか第5番目の王子の千よ、お前は視察に行って人の中身の恐ろしさの方が妖怪よりも恐ろしいものだと分かったというのか?」
「はい。」
「千の言いたい事はとても分かった。ただその言葉を他の者にも通じるだろうか、皆が皆見た目を気にしないという者ばかりではないだろう。政治を担う者は旅館を利用しているがこの村の食べ物を積極的に利用する者は少ないだろう。その辺はどうこれからこの村を発展させていこうと思っているのだ?」
「はい、その考えは同じ王子である兄弟達とも沢山話をしました。どうしたら妖怪の村が活気強い村になるのか。それは・・・・・お祭り・・・そうお祭りだと私は思います。」
「お祭りだと?」
と皆が一斉に俺の事を見る、実は本当の練習した内容は全く違う内容だったのだが俺は勝手に今思い着いた事を言い始めたからだ。
「はい、お祭りは子供から大人まで楽しめます。お祭りで村の事を知ってもらい妖怪が怖くない事を子供を通して大人達に知って貰えれば恐怖という気持ちが少しずつは薄れるのではないでしょうか?」
「なるほどな、ただそのお祭りに来る子供達はどうやって誘うのだ?」
「王子である私達がこの村に出入りしている事、またお祭りに王子達が参加すれば王子に会いたいという気持ちで来る人は増えるかと・・・」
と俺は少し自信なさげに言った。理由は今他国で1番非難されているのは俺で、俺を見たいという人は居ないと思ったからだ。しかし
「それは良い案だ!!そこに王子の案で作ったお店があれば今回の千の王子の名誉も挽回出来よう!今じゃ王子の評判も少し下がりつつある、それを挽回すれば軍隊に自ら所望する者も増えるだろう。それは良い案だ!!」
と急に王様達の間で盛り上がった。俺は思いつきで発言したとは言えここまで話が良い方向に行くとは思わなかったので腰が抜けそうになった。
「ところで、この旅館で働く坊主よ。」
と新一兄さんの王様が紫月に話しかける。
「はい!」
紫月は飛び上がるくらい驚いて裏声で返事をした。王様は暫く紫月を見て眺めていると
「お前の村は今後どうやってワシらに得を返していくつもりだ?」
と聞く。王様の圧なのかビクビクと震える紫月に俺は会話を遮って何か話そうとした時に今まで静かに頭を下げていた四葉さんが
「実はその事でお話があって私も同席させて頂いたのです。」
「ほう・・・と言うと?」
「実はこの坊やの村で取れる草がありまして、この草はたまたま千王子が持って来て下さった枯れ草で私の薬屋として手伝っている際に似ている葉を見つけたと視察の時に持って帰って来たようなのです。私はその草を調べた所強い傷薬になる事が分かりました。この草をもっと探せればと思い私個人で坊やと共に村に参りました所村の畑に沢山生い茂っていました。その村では雑草のようにして生えてくると耳にしましたので何本か持ち帰り薬にした所軽い切り傷や刺し傷であれば塗った直後に傷の痛みが消えまして、これは戦で傷ついた軍隊の方々の為になるのではと思うのですが如何でしょうか?」
「なんと!そんな万能薬があるとは!!しかし軍の人数は1隊に付き20人は居り王子1人辺り2つの部隊を連れ戦に出向き、それぞれの国を守る者や王様を守る者達を含めると多くて5つの部隊に分かれているのだ。その人数を作れる分はあるのか?」
と王様は未だに頭を伏せている四葉さんに容赦なく難題をぶつける。この薬が作れるのはまだ四葉さんしか居ない。村に帰って草を取って持って帰ってくるだけでも重労働だ、それにそこに住んでいた村の人達は自分達が暮らしていくのに必死になっているので手伝うことが出来ない。他の仕事を持ちながらやれる事では無いのだ。
今度こそもう駄目かも知れないと思った時に隣に居た楓兄さんが
「私が能力で持ち帰ったらどうでしょう?」
と急に会話に入ったのだ。それを聞いた新一兄さんの王様が
「ほう、それはどういう事だ?」
「私の能力は闇です。影さえあれば能力が使えます、ただそこに何か俺の一部さえあればその一部を使って草を取りに行くのは簡単かと。」
「その一部を誰が持って行くのだ?」
と聞くと楓兄さんは言葉に詰まってしまった。すると希生が溜め息を吐いて
「私の能力は冬です、どんな気温でも冬にする事が出来ます。そんな冬を動くウサギにしましょう。そうすれば視察で行った村まで楓兄さんの一部を加えさせて持って行けば草を持ってここまで帰ってくる事は容易かと。」
と言った。今まで無関心だった弟の発言に俺達は一斉に希生を見るが俺達の視線に気付いているはずなのに無視して真っ直ぐ王様の目をジッと見つめていた。
「ガハハハハハ」
と笑い出したのは新一兄さんの王様だった。
他の王様も連れられて笑い出す。
「こりゃー一本取られた。意地悪して申し訳なかった、実はワシが言った一言で息子の新一が悩んでしまったのは知っておったし兄弟の仲が良くない空気になっていたのはここに座っている時から伝わってきたからのう~。それでどうお前等が出てきて話をするのか知りたかっただけなのだ。」
と言い出したので俺達は皆姿勢を崩した。
「四葉殿、そこの坊主頭を上げなさい。」
と2人に新一兄さんの王様が話掛ける。
「すまなかったな、試すような事を急にしてしまって。妖怪の見た目の事についても失礼な事を申して気分を害したじゃろう。王子達を試すという事とは言え大変失礼なこと言った。すまなかった。」
と王様達はそれぞれ頭を下げた。
「いえいえ、ただ私は第5番目の王子様のお祭りという物が気になっております。私の村ではそういう物がございませんので村に沢山の子供達の笑顔で溢れた時間が過ごせることが今から楽しみでございます。」
と四葉さんも丁寧に頭を再び下げたのでそれを横で見ていた紫月も真似をして頭を下げた。
「だ、そうだぞ?王子達よ名誉挽回の為にそれぞれ頑張りたまえ、良い報告を楽しみにしておるからな。」
と言って温泉に浸かりたいと言っていた爺様を残して王様達はそれぞれ次の仕事がある為帰ってしまった。一方爺様は赤鬼のおじさんに案内されて温泉に入りに行った。
俺達は王様の姿が見えなくなると一斉に
「「「「「「疲れた~」」」」」
と言ってその場で寝転がってしまった。その様子を紫月は目を大きく開けて驚き四葉さんは小さく笑った。
「楓兄さん、希生助けてくれてありがと~」
と俺が言うと楓兄さんは
「いや、あの場所だったら影が多いのを俺は知っていたから言えただけだ。それにまさか希生が出てくるとは思わなかった。」
「俺だってちゃんと会議に参加してたでしょ?」
「いや、兄弟喧嘩の時に何も言って来ないから興味ないのかと思ってた。」
と俺は言うと
「何言ってるの!千兄さんが勝手に首突っ込んで行くから俺だけは関与しないようにしないとどっちが悪いとかでまた大きく揉めるじゃん!!」
と赤い顔をして希生が怒る。それを見た俺達は吹き出し笑い希生が
「何?なんで俺を見て笑うのさ!!」
と言って益々怒った。俺達は久しぶりに笑った、俺が余計な事を言ってから全く目すらも合わせずに会話もしなかった新一兄さんと鏡夜兄さんも大声を出して笑っている。
俺はその姿を見て安心した。
「新一兄さん、俺凄く言い過ぎた。ごめん。」
と鏡夜兄さんは笑いが落ち着いた頃に新一兄さんに言った。新一兄さんの表情はお互い寝転がっている為見えないが
「いや、俺がお兄ちゃんとして弟を信用できていなかったのが悪かった。ごめんな。」
と少し恥ずかしそうに謝った。その言葉を聞いて照れたのか鏡夜兄さんはすかさず
「ただ俺達の事を本当の兄弟じゃないは一生忘れないからな。」
と言ったので新一兄さん以外の兄弟皆で
「「「「「確かに、あれだけは本気で許せない」」」」」
と言って笑った。新一兄さんは『弟達が虐める!』と泣いていたが俺達は久しぶりに兄弟で会話が出来た事が嬉しくて堪らなかった。
「いらっしゃいませー!」
と俺は妖怪の村に集まる人々に声を掛けた。今日は待ちに待ったお祭りの日だ。俺が咄嗟に思い着いた案が通ってしまい後王子達の予定を調整しながらのお祭りを開こうと決めた日に各国のお客さんを招くのには大変苦労した。
紙にお知らせを書いて蒔いたらどうだろうかと話したり色んな人達に伝えては差別関係なく皆が参加できるように伝え回るのも良い案かもしれないとか、それぞれの王子の出し物をどうするかを悩んだりしていた。
当日、俺は化け狐の色を主とした黄色のレモン味の綿飴というお菓子作りに挑戦したが難しく結局サクラが作る事になって俺は客を呼ぶのに必死になった。
妖怪の人達だけではなく奴隷の人達にも手伝って貰って赤提灯を作った。
俺の村では定期的にお祭りを開くので知識はあった為、俺がリーダーのように他の王子達にも指示をしながら作業は進められ何とか当日に間に合うように村が光に灯された明るい村にと変わり、今日はごった返す程の人がこの小さな村に来てくれた。
俺達の綿菓子もどんどん売れ材料を足していくのに軍隊を派遣して手伝わせる程だった。
俺は店番を第1軍隊のはじめに任せると少しお祭りの雰囲気とお店を見に出かけた。
するとすぐ近くのお店で何やら女性達が群がっているのが見えた。
(なんだ?)
と思ってその店に行くと
「さあさ!!恋をしている女性達!もちろん男性もおいで!!恋が叶うブレスレットだ!!これで好きな人を振り向かせよう!」
と大旗が振られていて女性達の手には六角形の雪の結晶のような飾りが付いた手首に付ける飾りを持っている。俺は何だろうと思ってその店の一番前に行くと屋台のテーブルには沢山のブレスレットが置かれていた。
色は様々な色があるがピンク色が圧倒的に多かったので俺は近くに居た女性に
「どうしてピンクの色が多いの?」
と聞くと
「それは貴方当たり前じゃ無い!!恋する色はピンクなのよ!心がピンク色になるのよ!」
と言った。
「恋って何?」
と続けて聞くと
「恋って言うのはその人を笑顔にしたくて堪らなくなったり、好きという気持ちが目が合うだけで溢れてドキドキが止まらないの!」
「手を繋いだらその時の感覚が忘れられない?」
「もちろんよ!!手を繋いだ所から熱を持って顔が熱くなるのがそれが恋よ!!」
と言ってその女性は一つブレスレットを見つけると屋台の人にお金を払ってこの人の集まりから姿を消した。
俺は良く分からなかったが思い出の為だと思って一つ手に取ってお金を払った。
色は四葉さんの事を思い出して何となく思いを込めて水色にした、あの日の子供達を見送った時に子供の魂の光で濃い紺色が水色に変えたあの時の光景を思い出して俺はこの色にした。
俺は左手に付けるとたまたま前から希生がリンゴ飴を持って歩いてきた。
「あれ?千兄さんそれ買ったの?」
「余りにもの人が集まっていたから気になって行ってみたら皆が買ってるから連れられて買っちゃった。」
「なんだ、兄さんがとうとう恋を自覚したのかと思った。」
「恋?そういえば前もそう言ってたよな。」
「うん、だって四葉さんの事好きなんでしょ?」
「四葉さんの事は好きだけど何で?」
「違う違う、その好きじゃなくて男女が想い合うのと同じずっと一緒に居たいの好きだよ。」
「な!!何言ってるんだよ!俺達は男同士だぞ?」
「それが何?そんな事を兄さんは気にするの?妖怪とか見た目とか掟とかそういうのを気にしない癖にそういう事は気になるの?」
「え、あ・・・・いや気になるというか、拒否されるかもしれないだろ?」
「拒否って誰に?」
「そりゃ四葉さんに・・・」
とゴニョゴニョ言う俺の肩をソッと希生は触ると
「兄さん、良い?お祭りは非日常的な感じがするでしょ?そういう時に自分の気持ちを確かめるのは良いと思うよ、それに俺特製のブレスレットという名のお守りがあるからきっと良い事があるよ。」
と言って何処かに向かって去ってしまった。俺はブレスレットを触って
(俺、四葉さんの事が好きなのかな)
と思った。
俺はそんなフワフワした頭で他の兄弟達のお店に行く。
暫く歩くと子供達が集まった屋台を見つけた。
「ちくしょー!!俺あと1匹だったのにー!」
と悔しがって叫ぶ子供に
「はーい、残念。残念賞はその箱からおもちゃを持って行ってね。そのおもちゃはこの村にしか手に入らないから。」
とボソボソと話す人が一人屋台の椅子に座りながら言っていた。
「楓兄さん?」
と聞くと
「おー!千か、お前まさかそのブレスレット。希生のお店で買ったのか?」
「うん、周りの空気に乗せられて買っちゃった。」
「・・・・そうか、とうとうお前の初恋に気付いたのかと思った。焦らせんな。」
「それ似たことを希生に聞いたけど、俺初恋してるの?」
「そんなに恋が分からないなら初恋だろ。今までそんな気持ちを抱いた事が無いんだろ?」
「うん、でもこれって恋なの?」
「どうだろうな・・・・それが分かるのは千しか居ないからな。俺がそれは恋だと言ってもそれが恋じゃ無いかもしれない、一時の感情かもしれない。それは誰にも分からない。」
「恋をしてる方が良いの?好きだから一緒に居たいという感情だけでは駄目なの?」
「それは相手の気持ちによるんじゃないか?相手がそれで良いなら良いが、相手がその気持ちじゃ無理ってなった時には向き合った方が良いと思うぞ。」
「でも四葉さんはそんな事言わないよ?」
「俺別に四葉さんとは言ってないけどな。でも恋と言う言葉でその人が思い浮かぶなら少なからず気になる存在である事は間違い無いだろうな・・・・ておい!今ズルしただろ!!」
と闇の能力で作ったモグラ叩きを必死に叩く子供達に本気で怒る楓兄さんに驚いて俺はソッとお店の前を離れた。
その隣にはお年寄りや仲には若い人達が何かを鑑賞するように屋台を眺めていた。
俺はまた気になって見てみると屋台のテーブルの内側で鏡夜兄さんが灰色の浴衣を着て立っていた。
俺の存在に気が付くと小さく手招きしたので俺は人をなるべく避けるようにして邪魔にならないように鏡夜兄さんの傍に行くと
「千、お前そのブレスレット買ったのか?」
と聞いて来た。皆このブレスレットが気になるらしい。
「流れで買ったんだよ。さっき希生にも楓兄さんにも聞かれた、俺がとうとう初恋が分かったんじゃ無いかってね。」
「違うのか?」
「初恋が分からないんだよ。希生は同性だからって決めつけはいけないって言うし楓兄さんは恋という言葉で思い浮かぶ時点で気になる存在なのは間違い無いって言うし、俺は分かんなくて、だって王子は女性と結婚しないといけないんでしょ?」
「あー掟のな、それはお前が言える台詞か?」
「どういう事?」
「お前ほど掟を無視する奴は居ないって事。」
「確かにそうだけど、この掟は絶対なんでしょ?」
「お前もしかしてそれが気になってて自分の気持ちに見て見ぬふりをしているんじゃないのか?」
「どういう事?」
「その掟が無くてもし何処にでも住んでも良いですよって言われたら四葉さんの家に押しかけに行くだろ?」
「それは・・・でも俺の従者達の仕事を奪ってまでは出来ないな。」
「そこは現実的に考えるな、もしもの話だ。千、お前ならどうする?」
「んーでも確かにもしもそうなったら毎日四葉さんと一緒に居られて手作りの料理が食べられるだろうから四葉さんの家に住みたいかな。」
「だろ?それが他の兄弟である俺達や村に戻ろうと思わない事が四葉さんの傍に居たいって事なんじゃ無いのか?」
「そういう事なの?」
「多分な・・・俺の意見は参考程度だ、この気持ちがハッキリ分かるのは自分自身しか居ない。だから四葉さんに会った時に心臓がドキドキしてこの時間が止まって欲しいと思うならそれは恋だ。」
「そっか、それで確かめるって事だね。分かったそうしてみるよ、所で兄さんのお店は何を売っているの?緑の丸いの何?」
「これはコケだ。」
「コケって岩に生えている奴?」
「土にもあるぞ。まあそういうがコケだな。」
「どうしてそれを売っているの?」
「風情さ。」
「風情?」
「そう、これを見ていると何だか落ち着くだろ?」
「んー俺は分かんない。」
「お前も段々分かってくるようになるよ。あ、そうだ今お祭り回っているならこの斜め前の龍次兄さんのお店だけには行くなよ。目が汚れる。」
「分かったー無視して通れば良いんだね。」
「約束だぞ!!」
と言って俺は鏡夜兄さんと指切りげんまんをしてお店を離れた。
俺は斜め向かいのお店が見えないように顔を隠しながら歩いて通り抜けようとすると
「我が兄弟!!!」
と誰か俺の事を抱きしめてきた。俺はビックリしてその声の主と抱きしめて来た人を見ると何故かふんどし姿の龍次兄さんが立っていた。
「兄さん、待って。何しているの?」
「何って、俺のこの美貌な肉体を披露しているのさ!」
「は?意味分かんないんだけど。」
「だから、この俺の美しい筋肉を見放題という訳だよ。分かるだろ?兄弟。」
「わー鏡夜兄さんが言っていた通りだ。ここのお店の人に関わっちゃ駄目だ、どうしよう。」
「なんでだ!俺のこの鍛え抜かれた筋肉だぞ?こんな美しい筋肉にこの整った顔!!これがお前の兄なんだ!!誇らしいだろ!!」
「嫌だよーこんな兄さん嫌だよー。」
「ん?感動して泣いているのか?そうかそうか!」
「話聞いてよー。」
というやり取りをしている最中に
「あれ?お前等何してんの?」
という声が聞こえた。その声の方に振り向くと団扇を片手に紺色の浴衣を着た新一兄さんが立っていた。その後ろには沢山の女性が集まっていて
「この方達が新一王子様の弟様の龍次王子と千王子ですわね!」
と何やらはしゃいでいる。俺はこの空気が苦手なのを思い出して逃げようと思ったが急な女性達の集団が集まったからなのか龍次兄さんが俺にガッチリ抱きついたまま離れてくれなかった。
「龍次兄さん離してよ。」
と言うと龍次兄さんは頭を横に振って
「無理だ、今の俺には無理だ。浴衣を着て女性の心を鷲掴みにするなんて!新一兄さんはなんて兄さんなんだ!」
と言った。
「いやーしょうがないよ。俺の従者がわざわざこの日の為に浴衣用意してくれたからさ着ない訳行かないじゃない。それにしても何でお前はここで寂しく下着姿なの?」
と新一兄さんが聞いて来たので
「この美貌な肉体が見放題っていう屋台をやってるんだってー。」
と俺が言うと
「マジかよ!!お前ナルシストにも程があるだろ!!ていうかお金取ってないの?」
と笑いながら新一兄さんが聞くので龍次兄さんが
「俺の身体に価値は付けない。」
と言った。俺は完全に巻き込まれてしまって逃げられなくなってしまった最悪だと思っていると新一兄さんの取り巻きの一人の女性が
「あら?そのブレスレット。」
と言って来た。
「なーに?千、お前可愛いブレスレット付けてんじゃん。どうしたの?」
と新一兄さんが何か揶揄うような顔をしている。
「これは希生のお店で買ったんだよ。なんでも恋が叶うらしいんだ。」
「なに~?とうとう自覚しちゃったの?」
「四葉さんの事?」
「俺何も言ってないよーなあ?龍次?」
「おう!兄さんは何も言っていないな!」
「ところでそれを買ってどんな願い事を掛けたの~?」
「願い事?」
「そう、希生がこのブレスレットはお守りなんだって言ってたから何かしらの願い事を掛けたんじゃないの?」
「え・・・・・そこまで考えていなかった。普通に持っているだけだと思ってた。」
「じゃあ今願い事してみなよ、兄さん達が見守っててやるから。」
「分かった!・・・・んーでもなー何も無いんだよなー。」
「何かあるだろ?デートがしたいとか手を繋いで歩きたいとか。」
「んー、そうだ!!もう一回この水色みたいな夜空を一緒に見たいな!」
「夜空?」
「うん!水色になった夜空を一緒に見たい!!」
「水色ね~そういや俺の出し物何か知ってる?」
「知らない、龍次兄さんは知ってるの?」
「いや、俺は自分の事しか考えていなかったから知らないぞ。」
「お前等揃いも揃ってもう少しお兄ちゃんの事に興味を持てよ。」
「無理だよ、興味ないんだもん。」
「グハッ酷いよー弟が反抗期だよー。お兄ちゃん凄く傷ついた。」
「もう、その茶番は良いから新一兄さんは何を売っているの?」
「グスッ・・・・・気球だよ。夜空に浮かぶ両手で持てるサイズの気球。」
「気球?」
「そう、他国の情報では死者の事を想ってや願いを込めて気球を空の星に向かって夜空に浮かべるそうだ。その思いを空に輝く姿はまるで美しく心が温かくなると言われているのを耳にしてな。それで今回ある時間になると気球が売られるから皆で空に上げようと思ったのさ。」
「新一兄さんにしてはロマンチックな出し物だな」
と龍次兄さんは感動していた。俺もいつもの兄さんとは違う感じがして凄くロマンチックで王子様らしいなと思った。
「だろ?なんてたって俺の案だからな。希生の雑誌を拝借してちょちょいのちょいさ!」
「あー真似したんだね。」
「真似したんだな。」
とさっきまでの感動の気持ちは無くなり冷めた目で俺達は新一兄さんの事を見た。
「なんだよ!!その目は!!実際両手で持てる用の気球を作るの大変だったんだぞ!」
「それも設計したの絶対違う人でしょ。新一兄さんがそこまで時間掛けるとは思わない。」
「千、お前っていう奴は・・・・・よくお兄ちゃんの観察をしているな!偉いぞ!!」
「だと思ったよー。それで俺の願い事と何が関係しているの?」
「あー、その気球を空に上げると光で暗い夜空が水色になって気球がオレンジ色の光を放ちながら空を飛ぶんだよ。だから水色の空が見たいなら気球かなと思ってさ。」
「その気球って先に貰えないの?」
「2軒先の出店が俺の店だから聞いて見れば良いと思うよ。」
「分かった!!俺今すぐ貰いに行ってくる!!」
と言って龍次兄さんを新一兄さんに託して新一兄さんのお店に行くと気球が配られてマッチも一緒に配られていた。
俺は急いでお金を払ってその気球を手に入れると走って四葉さんを探した。
すると
「おーい!!千!!」
と紫月が声を掛けて来た。
「お前その大きいの抱えて何処に行くんだよ。」
「いや、四葉さん探してて。」
「四葉さんなら丘の上に行ってきますって言って行っちゃったけど何か用があるのか?」
「うん、会いたくて。」
「お?お前もあれか?恋に気付いたのか?」
「お前もって紫月もか?」
「見ろよ!このブレスレット、白と黄色で出来てるんだぜ?」
「うわ!本当だ!2色入ってる!よくあの中から見つけたな!それでその恋のお相手に会ったのか?」
「ん?・・・・ああ、今会ってきた。どうも急いで誰かに会わないといけないみたいで急いでた。」
「そうなのか?お祭り一緒に回りたくなかったのか?」
「いやーそいつ忙しいからさ。仕方ねーよ。」
「そっか。お前も恋が分かったのか、ただ俺はまだ分からないから確かめに行くんだよ。」
「は?確かめに行くって。」
「そう!このブレスレットってお守りみたいな物みたいなんだって!だから願いを込めると叶うかもしれないらしい。」
「そうなんだ、それでお前は何を願ったんだよ。」
「“水色の夜空見たい”だよ。」
「水色?」
「そう!!この気球を空に上げると光の周りが白くなって水色に見えるらしい。以前似た体験をした時に今回もそうなると思う。」
「そうか!じゃあ急いで会いに行ってこいよ!」
「うん!そうだな、もうそろそろで気球を上げる時間になるから急いで会いに行ってくるよ!」
「ああ!!」
「にちゃ、よかた?(兄ちゃん、良かったの?)」
「何が?」
「いっちょちがう、いい?(一緒じゃない、いいの?)」
「ああ仕方ないさ、あいつは忙しいからな。・・・・・そうかこのブレスレットに願い事か、それなら次の視察や戦で無事にまた帰ってきますようにだな。」
「四葉さーん!!」
と俺は丘の上で夜空を見ている四葉さんを見つけた。
四葉さんは今日は梅色と白が混じった赤い花火模様の浴衣を着ていた。その姿はいつもよりも美しく俺は走ってるからドキドキしているのかやっと四葉さんを見つけられたからドキドキしているのか分からない感情になった。
「やっと見つけた~。」
と俺は四葉さんの近くで足を止めると汗が一気に吹き出してきた。
「そんなに汗を掛かられてどうなさったのですか?」
「四葉さんに会いたくて走って探してた。」
「まあ!そうだったのですね!夜空が見たくなってここの丘に来たのです。そういえば千に聞きたい事が、どうしてこの丘は祭りの出店が出来る土地の一部にしなかったのですか?」
「ここの丘を出店の場所にしなかった理由?」
「そうです。」
「それは簡単だよ、ここが俺と四葉さんの思い出の場所だから。あの時はサクラも一緒に居たけれど俺は四葉さんとの思い出の場所だから誰かにこの場所を知られたくなかったの。」
「そうでしたか!私達の思い出の場所ですもんね。・・・・千には本当に感謝しているのです。千がこうやって妖怪の村を発展させる為に赤鬼夫婦の旅館に沢山の人達を連れて来てくれた事もその人達の生活を守ったことも、よく遊びに来ては薬の手助けをしてくれた事も先日の痛み薬も千が見つけてくれなければ出逢えなかった薬でした。その薬で私はまた人を救えます、こんな誰かの為に役立てられる事がこんなに沢山あって今私はとても幸せなのです。それに今日沢山の子供や大人が遊びに来て下さいましたでしょ?こんなに明るい妖怪の村は初めて見ました。本当にありがとう。」
「俺は何もしていないよ、皆が協力してくれたから出来るんだもん。俺一人では全く出来なかったよ。」
「そうでしょうか、案を出したからこそ皆がそれぞれ協力が出来るのです。千はそれだけ皆の事をちゃんと見ているからこその意見だと私は思います。」
「そうかな~。」
「ええ、そうですよ。きっとこれからも周りの為に考えられる人に必ずなります。私はそんな千の成長を傍で見れるのを楽しみにしていますね。」
「うん!!どんな王子様になるのか俺は分からないけれど人々が笑顔で過ごせるように少しでも手伝えたら良いのになと思う。・・・・そうだ!願い事と言ったらこの気球!!」
「この気球ですか?」
「そう!この気球を空に一緒に上げたいと思って走ってきたんだった!・・・あ、もう何人か空にもう上げてる、あ!他にもどんどん空に上がっていく!!」
「まあまあ!これはとても綺麗ですね!」
「うん!それを一緒にしたくて買って来たの。」
「そうでしたか、それじゃあ気球の上の方を持って頂けますか?」
「あ、うん。」
と言って俺は気球の上の方を壊さないようにソッと持った。
「少し持ち上げて下さいな。そうです、それ位の高さで・・・・はい!火を付けましたよ。」
「もう離しても良いかな?」
「もう少し、向きを変えて皆さんと同じ方向に飛ばせるようにしましょう。」
「もう少し左かな?この辺かな?」
「もう少し左ですかね、そこです!!今手を離してみましょう!」
と四葉さんの言葉と同時に俺は空に浮かべるように手を離した。フワッと風に舞い上がるようにオレンジの光を放つ気球は優しく空に舞い上がっていく、その姿は子供達の魂のようでその気球は星が輝く夜空に向かってどんどん上がっていき他の気球と一緒になって光の道のようにしてどこかを目指して浮いていた。
「天の川のようですね。」
「天の川・・・確かにそうかも。俺、光の道みたいだなって思ってた。」
「光の道という表現も素敵ですね。」
俺は光の道を見上げる四葉さんの横顔を見ながら左手首に付けているブレスレットを触った。このブレスレットのお陰でこの夜空を一緒に見ることが出来た。
光の道が出来た夜空は光に灯されて明るく光の周りは少し水色のような明るい空が広がっている。俺はこの景色を一緒に見られた事が凄く嬉しくてそしてこの時がずっと続けば良いと思った。戦で離れる事になってもこうやって一緒に見られる日があるのなら、これかもずっと四葉さんの隣で見たいと。傍で見たいと思った。
俺はブレスレットから手を離して四葉さんの小さくてヒンヤリとした手を握った。四葉さんは少し驚いたようだったがすぐに手を握り返してくれた。
俺は星と共に光の道で輝く夜空を見ながら一つだけ分かった事がある。
「俺、四葉さんの事好きだよ。ずっと一緒に居たいの好きだよ。」
と言った、触れている手が段々と熱くなり心臓までその熱は伝わってドキドキが止まらなかった。そのドキドキは耳の奥から聞こえるようで頭に鳴り響いているようだ。
四葉さんの顔は見られない、どんな顔をしているのかもしかしたら迷惑と思っているかもしれない。もしかしたら二度と会って貰えないかもしれない、それでも伝えたかった。兄弟達に言われたからでは無い、俺がこの夜空を見て気が付いて伝えたかったのだ。
「私もです。」
俺はバッと四葉さんの方を見ると微笑んで
「私も千の事が好きですよ。」
と言う顔はとても優しく最初に見た時と同じく一瞬時を忘れさせるような美しさだった。
「俺が言っているのは恋愛としてだよ?」
と少し怖くなって言う。いつから俺は臆病になったのか、四葉さんと同じ気持ちであって欲しいと願い勇気を出して伝えると
「私も恋愛としてですよ。私はこの感情が何か分からなかったのです、ずっと悩んでいました。千が視察に行くと言った時にこのままもしかしたら戻って来れないかもしれないと思った時に気が付いたのです。千がこれから戦で居なくなってしまうのが私はとても恐ろしいと、千の傍に居られるのであれば一緒に居たいと。またご飯を皆で食べたいと、千が美味しい美味しいと言って食べてくれる姿を傍で見たいと思ったのです。龍神として人に仕え人の為に役立たなくてはいけない身ですがそれでも願ってしまうのです、千の傍に居たいと。迷惑でしょうか。」
と申し訳なさそうに聞く四葉さんに俺はブンブンと顔を横に振りながら
「迷惑なわけないじゃん!俺の方が迷惑掛けるよ!!だって四葉さんと違って皆で分け合おうとは思わないもん、四葉さんを独り占めしたいと思っているからね!」
とフンと胸を張ると四葉さんはフフフと笑ってくれた。
俺と四葉さんは同じ好き同士なのだ。俺はその溢れる気持ちを抑えながら四葉さんと一緒に光の道を見上げた。
その光は遠く遠くまで固まって夜空をうねりながら輝いていた、まるで大きな龍が輝きながら夜空を舞うように。
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