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222、エルフの大聖女

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「私は、幼い頃からずっとこの地下の聖堂で暮らしてきました。魔族とエルフのハーフである私は赤ん坊の頃、町はずれの教会に捨てられていたと聞きます」

 そう言って俯くミレリア。

「そんな私を見つけ、この場所で秘密に育てて下さったのが大聖女アデル様です」

 それを聞いてアンジェエリカが目を見開く。

「大聖女アデルですって!?」

「どうした? アンジェリカ。知ってるのか?」

 俺の言葉にアンジェリカは頷いた。

「知ってるも何も、都の教会のトップよ。私たちが捕らえたあの教皇バインツハルトなんかよりも、ずっと信徒たちからの信望が厚いわ」

 アンジェリカの話ではティオの代行者として聖地を治めていた教皇とは別に、都の信徒たちを束ねている存在だそうだ
 ミレリアは目に涙を浮かべると大きく首を縦に振る。

「素晴らしいお方です。私にとっては母も同然。ですが、逃げ遅れた人々を助けるために奴らに捕らえられました」

「帝国の連中にか?」

 俺が尋ねるとミレリアは頷く。

「はい、勇者様。あの日、人々を救うためにアデル様は自ら囮になられて。そのおかげで、ここにいる人々は助かったのです。私もアデル様の共に行くといったのですが、貴方は私の代わりに皆を守りなさいと……」

「なるほどな。だからミレリア、お前はあれほど危険を冒しても子供たちを守ろうとしたのか」

「ええ、アデル様との約束ですから。それに……」

 そう言ってミレリアは、後ろでまだ少し不安そうにこちらを見る人々を眺めた。
 ミレリアのことだ、彼らの面倒をみているうちに強い責任と情が湧いたのだろう。
 頼りにしている相手が帝国に捕らえられ、本当はミレリア自身も不安だったに違いない。

「そうか、本当によく頑張ったなミレリア」

「は、はい!」

 嬉しそうに俺を見つめるミレリアの姿。
 大きな目でこちらを見ると、慌てて瞼を閉じるミレリア。

「ご、ごめんなさい。皆の前でも瞳はいつも閉じているんです。でも子供たちを救ってくれた貴方の姿が見たくて、あの時は」

 そうか、魔族特有の赤い瞳のことを気にしてるんだな。
 この都を制圧しているのが、魔将軍エルザベーラが率いる魔族どもだと思えば尚更だ。
 俺を見上げるリナとマール。

「私たち怖くないよ。聖女様、一生懸命私たちを守ってくれたもん!」

「マールの言う通りよ! 聖女様は聖女様だから」

「ああ! リナ、マール!」

 そう言って二人をギュッと抱き締めるミレリア。
 俺は肩をすくめるとミレリアに言った。

「俺もそう思うぞ。綺麗な瞳じゃないか? 俺は高位魔族とも戦ったことがあるが、奴の目は傲慢で邪悪だった。だけどミレリアの目は違う。目の色なんて関係ねえよ。人間中身だぜ、なあナビ子!」

「中身が伴わないカズヤさんが言うと、何の説得力もありません!」

「……おい」

 そりゃ悪かったな。
 どうやら、さっきのペンライトが悪かったらしい。
 すっかりへそを曲げている。
 一方で、ナビ子の天敵の妖精リルルは俺の顔の周りを飛び回る。

「へえ、あんた意外といいこと言うじゃない。気に入ったわ。ふふ、ミレリア。自信もって目を開けてなさいよ、綺麗だってよ?」

「え!? も、もう、リルル!!」

 ミレリアはからかうようにそう言って飛び回るリルルを睨むと、恥ずかしそうに笑う。

「子供たちや、勇者様がそう仰って下さるのなら」

 大きな目を見開くミレリア。
 魔族と同じ色の目をしていても、彼女を怖がる者はここには居ない。

「妖精が住む聖堂、ここは本来大聖女だけが入ることを許される秘密の祈りの場所なんです。本当なら私も入ってはいけないはずだったのに……」

「なるほどな。他の者は知らない場所だからこそ、アデルにとってはお前を隠すのに好都合だったわけだ」

 俺の言葉にミレリアは頷くと言った。

「はい、私をお付きのシスターにして偽りの身分を作って下さった。そして、時折外に連れて行ってもくれた。アデル様と一緒だと本当に楽しくて。私はお母様を知らないけれど、こんな人がお母様だったらいいなって。そのアデル様が帝国に……」

「ミレリアぁ」

 生意気で元気いっぱいだったリルルが、しょんぼりとその肩の上にとまる。
 俺はミレリアに尋ねた。

「なあ、ミレリア。アデルや他の人たちが、連れて行かれた場所のことは分かるか?」

「勇者様?」

 首を傾げながら涙を拭くミレリアに俺は言う。

「ああ、チャンスがあればなんとかするつもりだ」

 俺の言葉にミレリアの顔がパァっと明るくなる。

「本当ですか! 本当に、本当ですか!?」

 まるで子供に戻ったようにそう繰りかえすミレリア。
 都の奪還はもちろんだが、奪還作戦に伴って助けられる人々がいるなら救出する。
 その為の情報を集めるのも今回の俺たちの使命だ。

「もちろんだ、ミレリア。俺たちはその為の潜入調査に来たんだからな」

 パトリシアやアンジェリカも頷く。

「うむ、勇者殿! 放ってはおけぬ」

「ええ、その通りよ!」

 ミレリアは大きく頷くと俺たちに答えた。

「王宮です! 皆が王宮に連れていかれるのを見たという人が」

「は、はい聖女様の言うとおりです!」

 ミレリアの言葉に一人の女性がそう答える。
 ナビ子が俺の肩の上で言う。

「王宮ですか? どうするんですカズヤさん。多分そこに魔将軍たちがいますよ。簡単に潜り込めるような場所じゃありません」

「ああ、そうだな」

 だが、ここまで聞いた以上知らぬふりなど出来ない。
 リナやマールの両親もそこにいるかもしれないからな。
 俺はミレリアに尋ねた。

「なあ、ミレリア。俺たちはもっと都や王宮の状況をよく知るために、ルティナという大魔導士を探している。居場所を知らないか?」


 ──────

 ※お知らせ

 いつもお読み頂きましてありがとうございます!

 今日から新しいファンタジー作品の連載を始めました。
 タイトルは『転生したら魔力が無いと言われたので、独学でスーパーチートになりました! ~最強無双の大賢者~』になります。

 画面の下に、新作へのリンクを貼っておきましたのでそこから作品ページに飛べるようになっています。
 ぜひ一度ご覧になってみてくださいね!
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