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209、静寂の森

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「ああ、パトリシア、アンジェリカ! 作戦開始だ!!」

 俺たちはオルフェレントを旅立つと、各地の砦を回って次第にエルフの都に近づいていく。
 一日目はあくまでも砦の視察がメインである。
 砦を訪れたパトリシアとアンジェリカを見て、兵士たちは活気づいた。

「おお、パトリシア殿下! アンジェリカ様もいるぞ!」

 相変わらず凄い人気ぶりだ。

「パトリシアさんは分かりますけど、アンジェリカさんも意外と人気あるんですね」

「どういう意味よ、ナビ子」

 兵士たちは二人の王女に遠慮がちに言う。

「あ、あの、俺たちお二人と一緒に写真を撮りたいんですけど」

「か、構いませんか?」

 アンジェリカが俺を見る。

「撮ってやれよ。みんなそれで喜ぶんだからな」

「仕方ないわね。ならカズヤも一緒よ!」

「うむ! 勇者殿も一緒だ!」

 俺は二人に左右から手を引っ張られて、兵士たちの集合写真の中央に立たされた。

「たく、皆はお前たちと一緒に写真が撮りたいんだろうが」

「いいの!」

「うむ! 私たちが勇者殿と一緒に写真撮りたいのだ」

 そうこうしているうちに一日目が過ぎていく。
 二日目も同様に砦を回りその夜、俺たちは新月の闇に乗じて一気に最前線へと進んだ。
 誘導してくれたのは、先行して都に近づいているシュレンの哨戒部隊だ。
 俺たちが敵の目に触れぬルートを的確に端末で指示してくれる。

 その指示に従ってロファーシルたちとの合流ポイントに進んだ。
 深い森の中ではあるが、ここまでくればアルカディレーナは目と鼻の先だ。
 アンジェリカが空を見上げると言う。

「ロファーシルたちも来たみたいね」

「ああ、そのようだな」

 音もなく見事に合流ポイントに舞い降りるロファーシルの部隊。
 リーニャを連れてゲイルから降りたロファーシルは俺に言った。

「勇者殿、どうやらここまでは順調のようですな」

「ああ、ロファーシル」

 俺の端末が通話を求めて振動する。
 アプリに表示されたロゴマークを見て俺は電話を取る。
 端末にクリスティーナの顔が映った。

「勇者様、そちらはどうですか?」

「ああ、順調だクリスティーナ。今、合流地点だ特に変わった報告はないか?」

 俺の問いにクリスティーナは頷いた。

「はい、今のところは。そこから地下道の入り口は目と鼻の先です、これからはリーニャの案内を受けて下さい」

「ああ、了解した」

 地下道の入り口は幾つかあるが、哨戒部隊と検討した上で最も安全な場所を選んだ。
 ここからの案内役はリーニャだ。
 王族であるリーニャが最も地下道に精通しているからな。
 クリスティーナは、この場に残るメンバーたちに的確な指示を出していく。

「バックアップ部隊はここに待機。もしも敵に動きがあれば、予定してある第二ポイントまで移動。そこで勇者様たちを待つように」

 グループでの通話に混ざっている面々は大きく頷いた。
 バックアップ部隊は、あらかじめ哨戒任務にあたっていたシュレンの部下たちが務める。
 その中から数名は潜入班に加わった。
 彼らは今、最もこの辺りの状況に精通しているからな。
 クリスティーナは俺に言う。

「それでは勇者様。また何かありましたら連絡いたします」

「了解したクリスティーナ」

 オルフェレントの作戦本部にいるクリスティーナとの通信を終えると、俺はリーニャに言った。

「ここからの案内は頼めるか? リーニャ」

「はい勇者様。任せて下さい」

 敵の目に留まらぬように最小限の明かりを頼りに、森の中を進む俺たち。
 森の中は、不気味なぐらい静まり返っている。
 パトリシアが大きな耳をパタパタとさせる。

「静かだ。まるで生きとし生けるもの全てここからいなくなってしまったように、静まり返っている」

「確かにな……」

 動物ばかりか虫の音さえも聞こえない。
 哨戒部隊の隊員たちは、俺たちの言葉に頷いた。

「動物たちが消えたあの日から、ずっとこうなんです」

「不気味ですよ。虫の鳴く声さえ聞こえないんですから。隊員の中にはあの日、この地に何か恐ろしいものがやってきたのではと噂する者もいるぐらいです」

 ロファーシルが隊員たちに尋ねる。

「何かとは?」

「分かりません。ですがこんな森を見るのは初めてですから」

 俺は闇の先にあるであろうアルカディレーナの方角を見つめる。

「何かか、確かに気になるな」

 それがエルザベーラかナイツ・オブ・クイーンだとするならば、もっと早く同じ事態が起きている気がするからな。
 ならば、それ以外の何者かがあそこにいるっていうのか?
 この静寂の森の原因を作り出している何かが。

「ここで考えても仕方ないな。行くぞみんな、地下道から都に潜入する!」


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 いつもお読み頂きましてありがとうございます。
 新連載作品の『追放王子の英雄紋!』もよろしければご覧下さいね!
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