上 下
66 / 114
連載

181、森の異変

しおりを挟む
「はい、勇者殿。実は斥候に出ているオルフェレントの兵士達より、少し気になる報告がございまして」

「気になる報告?」

 俺はロファーシルに問い返す。

「ええ、エルフェンシアの都であるアルカディレーナ、密かにその近くまで斥候を忍ばせているのは勇者殿もご存じでしょう?」

 俺達の当面の目的は、帝国に占領されているエルフの都の奪還だからな。
 その為に、オルフェレントに兵を集め来るであろう帝国との一戦に備えている。
 情報取集もその一環だ。

「ああ、それはパトリシアとクリスティーナから聞いている」

 クリスティーナが思わずロファーシルに尋ねた。

「ロファーシル、帝国に何か動きがあったのですか!?」

 その反応は、先程までエルを見て頬を膨らませていたクリスティーナとは別人である。
 真剣な表情はエルフ族の王女に相応しい。

「お姉様!」

 アンジェリカの表情も引き締まる。
 当然か。
 二人にとってはエルフの都であるアルカディレーナは、特別な場所だからな。
 シルヴィアはもちろんだが、パトリシアやセレスリーナもロファーシルの言葉を待つように見つめている。
 ロファーシルはクリスティーナに一礼すると口を開いた。

「いえ、帝国に動きがあったわけではないのですが、斥候に出ていた者が変った光景を見たというのです。丁度いい、総司令である勇者殿や補佐官であられる両殿下にもお伝えせよ」

「は、剣聖様!」

 ロファーシルの傍にいるのは、オルフェレントの兵士だ。
 黒装束に身を包み、まるで忍者のような恰好をしている。

「この者はシュレン。辺境伯直属の斥候部隊の隊長です、優秀な男ですよ」

 ロファーシルは黒装束の男を俺にそう紹介した。
 確かにその仕草からも、只の兵士ではないことがみてとれる。
 都の近くにまで潜り込むには、地理を熟知した優秀な兵士であることが重要だろう。
 シュレンと呼ばれた男は、俺たちに話しを始める。

「私の部下を今、アルカディレーナ周辺に潜入をさせているのですが、未だ帝国軍に特に目立った様子はありません。ですが……」

「ですが?」

 シュレンの話では、その斥候部隊は数日前から都にほど近い森をアジトにしてアルカディレーナを監視しているようである。
 都を取り戻すためにはまず情報収集が大事だ。
 オルフェレントに勢力が終結した今、当然といえば当然である。

「ええ、昨夜の事なのですが彼らが潜む森の中から、動物たちが一斉に姿を消したようなのです」

 パトリシアがそれを聞いて首傾げた。

「森の動物たちが一斉に? それは一体どういうことなのだ、剣聖殿」

「理由は分かりませぬ、パトリシア殿下。ですが、動物たちはアルカディレーナから逃れるように去っていったとのこと。そうだな? シュレン」

 ロファーシルの問いにシュレンは頷く。

「間違いございませぬ。夜が明け静まり返った森に異変を感じ、先程まで我が配下の者が森を広範囲に捜索したそうです。すると無数の動物たちの足跡を見つけたとのこと。恐らく夜の間に群れを為して移動したのではないかと」

 潜入部隊からの報告がシュレンに入ったのが昼頃、それから辺境伯に報告した後ロファーシルに連絡がいったようだ。
 シュレンは俺たちに言う。

「勇者殿の端末のお蔭で、最新の情報が現地から届くのですが。ご覧になられますか?」

「ああ、見せてもらえるか?」

 俺はシュレンの端末から動画データを送ってもらって、タブレット端末で確認する。
 そこには様々な動物たちの足跡が映っている。
 どれも真新しいものだ。
 かなり大型の動物の足跡も確認が出来る。
 確かに相当の数の動物たちが移動したのが見て取れる。
 俺はシュレンに尋ねた。

「それで、都にいる帝国軍に何か動きはあったのか?」

「いいえ、連中に動きはありません。ですので勇者殿にご報告していい話なのか判断がつきかねまして、辺境伯様とロファーシル様に」

「……なるほどな」

 彼らの本来の仕事は帝国軍の監視だからな。
 森から動物が消えました、なんていう報告を俺にしていいのかどうか迷ったのだろう。

「確かに少し気になる話だな」

「帝国軍に関係する話なのかどうかまだ分かりかねますが、もし何か動きがあれば直ぐにまた報告いたします」

 シュレンの言葉に俺は頷いた。

「そうしてくれ。直接俺の端末への連絡で構わない」

「は! 畏まりました勇者殿」

 メイが少し不安そうに俺を見上げた。

「パパ……」

「メイ、心配するな」

 現時点では、何とも言えない情報だからな。
 下手に振り回されて右往左往しても仕方ない。
 俺は三人の補佐官たちに声をかける。

「クリスティーナ、パトリシア、シルヴィア、各砦の監視体制を強化。シュレンの斥候部隊との連携を密にするようにな。何かあったらすぐに俺に報告してくれ!」

「はい! 勇者様……素敵ですわ」

「うむ! 勇者殿がいつにも増しての頼もしく見える!」

「確かにそうね、いつもは私たちにばかり仕事をさせているもの」

 ……おい。
 悪かったな、お前たちばかりに働かせて。
 白いドラゴンが俺に首を寄せる。
 そして言った。

「ふふ、カズヤはいつだって素敵よ!」

 同時に人の姿に戻る、エル。
 竜から人に戻るその姿を見て目を丸くするロファーシルたち。

「え? 竜が人間に!」

「勇者殿! こ、この方は一体!?」

 俺は方をすくめながら笑った。

「まあこっちも色々あってな、ロファーシル。説明すると長くなりそうだ」

 俺は少しの間アルカディレーナの方角を眺めた後、踵を返すと皆を連れて城の中へと向かうことにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

Sランクパーティから追放された俺、勇者の力に目覚めて最強になる。

石八
ファンタジー
 主人公のレンは、冒険者ギルドの中で最高ランクであるSランクパーティのメンバーであった。しかしある日突然、パーティリーダーであるギリュウという男に「いきなりで悪いが、レンにはこのパーティから抜けてもらう」と告げられ、パーティを脱退させられてしまう。怒りを覚えたレンはそのギルドを脱退し、別のギルドでまた1から冒険者稼業を始める。そしてそこで最強の《勇者》というスキルが開花し、ギリュウ達を見返すため、己を鍛えるため、レンの冒険譚が始まるのであった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

クラス転移したら俺だけ五年後の世界転生させられた件

ACSO
ファンタジー
都内高校の1クラスがまるまる異世界に召喚された。西宮 悠河もその一人だったのだが、彼だけ転生してしまう。その頃クラスメート達は、世の中で絶対悪とされる魔王を打ち倒すべく、力をつけていた。 この世界で【魔帝】と言われる魔女アマンダに修行をつけてもらったシアンは、五歳で魔法学校とよばれる世界から魔法使いの卵が集まる学校へ入学する。その先で、ヤンデレと化した幼馴染、姫草 遥と遭遇することにーー 小説家になろう様にも投稿しております。

神様に転生させてもらった元社畜はチート能力で異世界に革命をおこす。賢者の石の無限魔力と召喚術の組み合わせって最強では!?

不死じゃない不死鳥(ただのニワトリ)
ファンタジー
●あらすじ ブラック企業に勤め過労死してしまった、斉藤タクマ。36歳。彼は神様によってチート能力をもらい異世界に転生をさせてもらう。 賢者の石による魔力無限と、万能な召喚獣を呼べる召喚術。この二つのチートを使いつつ、危機に瀕した猫人族達の村を発展させていく物語。だんだんと村は発展していき他の町とも交易をはじめゆくゆくは大きな大国に!? フェンリルにスライム、猫耳少女、エルフにグータラ娘などいろいろ登場人物に振り回されながらも異世界を楽しんでいきたいと思います。 タイトル変えました。 旧題、賢者の石による無限魔力+最強召喚術による、異世界のんびりスローライフ。~猫人族の村はいずれ大国へと成り上がる~ ※R15は保険です。異世界転生、内政モノです。 あまりシリアスにするつもりもありません。 またタンタンと進みますのでよろしくお願いします。 感想、お気に入りをいただけると執筆の励みになります。 よろしくお願いします。 想像以上に多くの方に読んでいただけており、戸惑っております。本当にありがとうございます。 ※カクヨムさんでも連載はじめました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。