上 下
56 / 114
連載

171、天空の女王

しおりを挟む
「ああ、パトリシア。どうやら、これが契約の儀式っていうやつらしいな」

 俺たちの上空で羽ばたく聖竜の姿。
 そして、庭園に描かれていく魔法陣。

「はわわっ! パパ!!」

「メイ!」

 メイがびっくりして、尻もちをつきそうになる。
 俺は、メイを抱きかかえると空を見上げた。
 その時──
 パトリシアが叫んだ。

「勇者殿! その左手は!?」

 クリスティーナとアンジェリカも声を上げる。

「輝いていますわ!」

「カズヤ、何なのその光は!?」

 俺は自分の左手を見た。
 慌てて左手のグローブを外す。
 シルヴィアは言う。

「さっきの子の額の紋章と同じだわ!」

 その光は、確かにあの紋章を象っている。

「これは……」

 ナビ子がそれを覗き込んでいる。

「どうやら、エルさんの聖竜の紋章と同じ印のようですね。やりましたねカズヤさん、きっとこれが契約の証ですよ!」

「ああ、どうやら無事にディバインナイトとやらに転職できそうだ」

 神官長であるセラフィナは、驚いたように俺を見つめる。
 そして言った。

「ま、まさか、ドラゴンの血を引く我らでさえ、なることが出来なかった神聖なる騎士に地上人が! 信じられないわ……」

 アンジェリカが、そんなセラフィナの前で小さな胸を張る。

「どう? カズヤは凄いんだから!」

「あらあら、自分の事みたいに。ふふ、ほんとに勇者様のことになるとむきになるんだから。よっぽど勇者様のことが好きなのね」

 クリスティーナの言葉に、アンジェリカは真っ赤な顔になる。
 そして、姉に反論した。

「お姉様ったら、馬鹿なこと言わないで! 天空の人間達が、あんまり偉そうだったからよ!」

 そして、俺を睨むとツンと顔をそらした。

「か、勘違いしないでよね、カズヤ!」

「分かってるって」

 第一、クリスティーナが言ったのはそういう好きではないんだろう。
 仲間としてってことだ。
 ナビ子が俺に囁いた。

「そもそも、アンジェリカさんはまだお子様ですからね」

「まったくだ」

 俺は肩をすくめながら左手の紋章を眺めた。
 そんな中、エルの声が上空から聞こえてくる。

「まだ、私の騎士に相応しいかどうか分からないわ。カズヤ、貴方には少し付き合ってもらうわよ」

「お、おい。一体何をするつもりだ?」

 俺は戸惑いながらも、メイをパトリシアたちに預ける。
 その瞬間──
 俺の左手の紋章が強く輝く。

「うお!?」

 思わず声が出た。
 パトリシアたちが叫ぶ。

「勇者殿!!」

「勇者様!!」

「カズヤ!!」

「ちょ! どうなってるの!?」

「パパぁああ!!」

 メイの声も聞こえる。
 だが、問題はその声が遥か下の方から聞こえてくることだ。
 気が付くと俺は、庭園から遥か上空の巨大な竜の背中の上にいた。
 地上には仲間たちが見える。

「こ、これは……どうなってるんだ?」

「安心なさい。私が魔法でここによんだのよ」

 白く長い首がこちらを振り返る。
 額に聖竜の紋章がある竜。
 つまりエルだ。

 どうやら、俺はエルの魔法で地上からここに移動させられたらしい。
 あれはその為の魔法陣でもあったのだろう。
 彼女が俺に語り掛けた。

「言っておくけど、まだ貴方を私の騎士だと認めた訳ではないわ」

 こちらを見つめるエルに俺は尋ねた。

「どういうことだ、条件はこの左手の紋章じゃないのか?」

「それは契約者の候補としての証に過ぎないわ。私は数千年の長きに渡って天空を支配してきた女王、その騎士に相応しい力が貴方にあるのか試させてもらう。本当に契約を交わすのはそれからよ」

 純白の美しい羽根が生えた巨大な翼が、大きく羽ばたいた。
 俺は思わず翼の根元に生えた羽根につかまる。

「お、おい! 何をするつもりだ!?」

「しっかりつかまっていることね。少し荒っぽく行くわよ、地上の民が耐えられるかしら?」

 次の瞬間──
 俺乗せたエルは、世界樹のような巨大な大樹に向かって羽ばたいた。

「うお!!」

 凄まじい速さだ。
 そして激突するかと思った瞬間、90度向きを変えて上昇へと転じた。
 そのサイズに似合わぬ機動性だ。
 自ら天空の女王と名乗るのも頷ける。

 大樹の周囲を、らせん状に回転しながら上空へ羽ばたいていくエル。
 振り落とされずに、背中にとどまっている俺を振り返ると言った。

「へえ、中々やるじゃない。まだそこにいるとは思わなかったわ」

「生憎だったな、こっちも竜に乗るのは慣れてるんでな」

 そんな中、すれ違っていく大樹の枝の間に幾つもの黄金に輝く何かが見える。

「これは一体……」

 どうやら、この大樹になっている実のようだ。
 見事な黄金の果実である。
 それを見てエルは俺に言った。

「さあ、あの実を一つ取りなさい」

「おいおい、取りなさいって手を離したら地面に落ちるだろうが! 大体何なんだあれは!?」

 エルはすました顔で俺に答えた。

「手に取ってみれば分かるわ。それぐらいできないようなら、私の騎士なんて務まらないわよ」

 ちっ、無茶言いやがる。
 俺は肩をすくめながら、巨大な竜を睨んだ。

「いいだろう、やってやるぜ!」

 俺はそう宣言すると、エルの背中を蹴って大樹の枝に向かって身を躍らせた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

赤い龍の神器で、アポフィスの悪魔を封印せよ

lavie800
ファンタジー
船の中で女流棋戦を見学していたハヤトは波に飲み込まれて遭難し、中世の王族であるローレンツ家の次男のリチャードとして生まれ変わる。また同じ船に乗っていた女流棋士のマリナもハヤトと同じ世界に転生し王妃候補のマリナとして生まれ変わることになる。 一方、数百年前にローレンツ家の祖先に凍結封印された蛇女神のアポフィスが、皆既日食の日に邪悪な気のエネルギーを紫色に光る彗星から得て蘇り、人類を支配下に置き、蛇族の暗黒世界を構築しようと企んでいた。 ローレンツ家の周りでは不審で邪悪な気配に包まれようとしていた。 リチャードの親であるローレンツ一世は、邪悪な時代への始まりと祖先について記載された古文書を見つける。 ローレンツ1世は、後継ぎである長男に古文書を見せるが、長男はアポフィスの手がかりを探索する途中で忽然と姿を消す。 しかし、古文書には、邪悪な存在に立ち向かうには、赤い龍の紋様を纏った太陽の女神の末裔を見つけ出し、ローレンツ家の祖先がかつて邪悪な存在を封印した際に必要だった3つの神器を探し出さなければならないと書かれてあった。 3つの神器とは、赤い龍の紋章が刻印されたムラマサの剣、赤い太陽光が輝く奇跡のペンダント、凄まじい温度変化を引き起こす赤い月がある龍の駒の3つである。リチャードとマリナは突然ローレンツ王から追放される。リチャードとマリナは同じ城から追放された仲間と共に、3つの神器を探し求める旅が始まった。 そして苦難の後、3つの神器を手にしたリチャードとマリアは神器のパワーを引き出す方法がわからないまま邪悪な蛇女神であるアポフィスと戦うが、苦戦を強いられる。 3つの神器のパワーを引き出すには、どうしたらいいのか、 女流棋士としてマリナは転生前の時代から持ってきた将棋の駒にヒントがあると思い出す。 二人は邪悪な存在の封印に成功するのか。 主要登場人物 央妃 万理奈(マリナ):美少女女流棋士  ※(  )は転生後 ハヤト(リチャード・ローレンツ):将棋とフェンシングが趣味の男 ※(  )は転生後 アポフィス:邪悪な女神で蛇の化身 ブームスラン:アポフィスの家来 ローレンツ王:リチャードの親でアーカート地方の王 メイ:リチャードの兄で第一王子 イザベラ:女占い師 ルシア:ローレンツ家のメイド長(侍女) アリス:ローレンツ家のメイド見習い トマス:リチャードの侍従、ルシアの従弟 アーム:従卒長 ベクター:ローレンツ家と対立している豪族 アニエス:ベクターの愛人 滝 宗因(タキ):男性棋士 ※は転生後 エミリ:修道女、アームの従妹

ふざけんな!と最後まで読まずに投げ捨てた小説の世界に転生してしまった〜旦那様、あなたは私の夫ではありません

詩海猫
ファンタジー
こちらはリハビリ兼ねた思いつき短編の予定&完結まで書いてから投稿予定でしたがコ⚪︎ナで書ききれませんでした。 苦手なのですが出来るだけ端折って(?)早々に決着というか完結の予定です。 ヒロ回だけだと煮詰まってしまう事もあるので、気軽に突っ込みつつ楽しんでいただけたら嬉しいですm(_ _)m *・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・* 顔をあげると、目の前にラピスラズリの髪の色と瞳をした白人男性がいた。 周囲を見まわせばここは教会のようで、大勢の人間がこちらに注目している。 見たくなかったけど自分の手にはブーケがあるし、着ているものはウエディングドレスっぽい。 脳内??が多過ぎて固まって動かない私に美形が語りかける。 「マリーローズ?」 そう呼ばれた途端、一気に脳内に情報が拡散した。 目の前の男は王女の護衛騎士、基本既婚者でまとめられている護衛騎士に、なぜ彼が入っていたかと言うと以前王女が誘拐された時、救出したのが彼だったから。 だが、外国の王族との縁談の話が上がった時に独身のしかも若い騎士がついているのはまずいと言う話になり、王命で婚約者となったのが伯爵家のマリーローズである___思い出した。 日本で私は社畜だった。 暗黒な日々の中、私の唯一の楽しみだったのは、ロマンス小説。 あらかた読み尽くしたところで、友達から勧められたのがこの『ロゼの幸福』。 「ふざけんな___!!!」 と最後まで読むことなく投げ出した、私が前世の人生最後に読んだ小説の中に、私は転生してしまった。

誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら

Rohdea
恋愛
───酔っ払って人を踏みつけたら……いつしか恋になりました!? 政略結婚で王子を婚約者に持つ侯爵令嬢のガーネット。 十八歳の誕生日、開かれていたパーティーで親友に裏切られて冤罪を着せられてしまう。 さらにその場で王子から婚約破棄をされた挙句、その親友に王子の婚約者の座も奪われることに。 (───よくも、やってくれたわね?) 親友と婚約者に復讐を誓いながらも、嵌められた苛立ちが止まらず、 パーティーで浴びるようにヤケ酒をし続けたガーネット。 そんな中、熱を冷まそうと出た庭先で、 (邪魔よっ!) 目の前に転がっていた“邪魔な何か”を思いっきり踏みつけた。 しかし、その“邪魔な何か”は、物ではなく────…… ★リクエストの多かった、~踏まれて始まる恋~ 『結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが』 こちらの話のヒーローの父と母の馴れ初め話です。

趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

紫南
ファンタジー
魔法が衰退し、魔導具の補助なしに扱うことが出来なくなった世界。 公爵家の第二子として生まれたフィルズは、幼い頃から断片的に前世の記憶を夢で見ていた。 そのため、精神的にも早熟で、正妻とフィルズの母である第二夫人との折り合いの悪さに辟易する毎日。 ストレス解消のため、趣味だったパズル、プラモなどなど、細かい工作がしたいと、密かな不満が募っていく。 そこで、変身セットで身分を隠して活動開始。 自立心が高く、早々に冒険者の身分を手に入れ、コソコソと独自の魔導具を開発して、日々の暮らしに便利さを追加していく。 そんな中、この世界の神々から使命を与えられてーーー? 口は悪いが、見た目は母親似の美少女!? ハイスペックな少年が世界を変えていく! 異世界改革ファンタジー! 息抜きに始めた作品です。 みなさんも息抜きにどうぞ◎ 肩肘張らずに気楽に楽しんでほしい作品です!

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。  今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

ザ・タワー 〜俺にしかできない魔石を鑑定する能力!魔石を使っての魔法&スキル付与!この力で最強を目指す〜

KeyBow
ファンタジー
 世界初のフルダイブ型のVRMMOゲームにダイブしたはずが、リアルの異世界に飛ばされた。  いきなり戦闘になるハードモードを選んでおり、襲われている商隊を助ける事に。  その世界はタワーがあり、そこは迷宮となっている。  富や名誉等を得る為に多くの冒険者がタワーに挑み散っていく。  そんなタワーに挑む主人公は、記憶を対価にチート能力をチョイスしていた。  その中の強化と鑑定がヤバかった。  鑑定で一部の魔石にはスキルや魔法を付与出来ると気が付くも、この世界の人は誰も知らないし、出来る者がいないが、俺にはそれが出来る!  強化でパラメータを上げ、多くのスキルを得る事によりこの世界での生きる道筋と、俺TUEEEを目指す。  タワーで裏切りに遭い、奴隷しか信じられなくなるのだが・・・

愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました

海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」 「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」 「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」 貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・? 何故、私を愛するふりをするのですか? [登場人物] セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。  × ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。 リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。 アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?

( '灬' )

神奈川雪枝
恋愛
hige

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。