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80、剣の名を
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その後、俺たちは元いた鍛冶工房の庭へと舞い降りる。
大きなドランゴンの姿になっているジュリアと、その背に乗っている俺の周りに皆が集まって来た。
ナナとレイラは少しおっかなびっくりこちらを見ている。
「ちょっと! 裕樹、どうなってるの!?」
「何なのよその女! ドラゴンになっちゃうなんて」
俺はジュリアの背に乗ったまま頭を掻きながら答える。
「はは、俺も驚いたよ。でも、ジュリアが見せてくれた大空の光景が凄くてさ、もうそれどころじゃなかったよ」
カレンさんは笑いながら言った。
「ほほ、ほんに今日は驚くことばかりじゃ。ジュリアがその姿まで披露するとは。昔は仲間たちと一緒に、わらわもその背に乗って世界を旅したものじゃ」
へえ、カレンさんたちが。きっとシロウさんたちとの話だろう。
ドラゴンの背中に乗って世界中を旅するとか憧れるよな。
ゲームの中で竜を乗り物にっていうシーンはよく出てくるけど、自分が実際に乗ってみるとその爽快感は言葉では上手く言い表せない程だ。
「はう~おばば様ぁ。おっきいのです!」
カレンさんの後ろにククルは隠れるようにしてこちらを伺っている。
職人たちや巫女も見たことがなかった者が多いのだろう、口々に驚きの声を上げている。
「話には聞いていたが、なんと見事なドラゴンだ!」
「本当ね。あれがジュリア様の竜化……白狼の里の守り神に相応しいお姿ですわ」
なるほど、確かにこの里には守り神がいるという話を聞いたけど、ドラゴンになれるジュリアならそう呼ばれるのもよく分かる。
大空でジュリアに聞いた話だが、彼女は赤竜族の中でも特に力の強い炎竜の血を引いているらしい。
そんな話をしていると、ジュリアは変身を解いて元の姿に戻る。
そして、肩をぐるぐるっと回すと大きく背伸びをした。
「久しぶりにいい運動になったよ。それに、ユウキといい光景を見れたからね!」
そう言って俺にウインクする。
「ああ、ジュリア!」
レイラがジト目でジュリアを眺めると俺に言う。
「それで、勝負の決着はついたの?」
「ああ! 大空からこの世界を見てたら勝負なんて馬鹿らしいってなってさ。だって、どっちもいい剣だろ?」
「ま、まあ、そりゃそうだけど……」
レイラはまだ少し不満そうだが、ナナは肩をすくめて俺に笑う。
「まったく、裕樹らしいわね」
そんな中、ジュリアは木のベンチの上に置いてあった俺の剣を手に取る。
そして言った。
「ユウキ、研ぎはあたしに任せないかい? 最高な仕上がりにしてやるよ。こいつでね」
剣を持つ反対の手にジュリアは何かを持っている。
真紅に輝く美しいそれは、何かの鱗のように見える。
でも普通の鱗にしては大きすぎる。
うちわぐらいの大きさはあるからな。
職人たちはそれを見て言った。
「おお! もしや、ジュリア様の竜鱗研ぎですか!」
「それはいい! あれは見事なものですからな」
俺は思わず首を傾げると問いかける。
「それは構わないけど、竜鱗研ぎって一体……」
俺の問いにジュリアは悪戯っぽく笑うと、片手に剣をそしてもう片方の手に赤く輝く美しい鱗のようなものを構える。
「構わないんだね。じゃあ、そこで見てな! 言葉で説明するよりも、やってみせた方が早いからね」
レイラが俺に言う。
「ねえ……あれって、ドラゴンの鱗じゃないかしら? それもあんなに立派で大きなもの、ギルドでもめったにお目にかかれない掘り出し物よ」
「もしかして、さっきドラゴンになった時に……」
俺も思わずジュリアが手にする鱗を見つめる。
一体何をするつもりだろう。
俺がそう思ったその時──
ジュリアはその鱗と、俺が鍛えた剣に闘気を集中させた。
紅蓮の輝きを見せるその鱗に、ジュリアは舞うように見事な動きで剣を滑るように当てる。
双方に込められた闘気が火花のように散ると、それが何度も繰り返されて次第に俺が鍛えた剣が見事な輝きを放っていく。
ジュリアは鱗を裏返すとさらに作業を続けた。美しく舞うように研ぎながらも、鱗の場所によって目の粗さが違うのか微妙に当てる位置を変えていくのが分かる。
そして、闘気の強弱も繊細につけているのが分かった。時には鱗の方に強く、時には剣の刀身側に強くといったように。
表面を薄く覆うそれが、研ぎの際の緩衝役になっているのが分かる。
剣舞を披露する舞姫のように美しく舞いながらその作業をこなすジュリアのその見事さに、俺は思わず声を失った。
「これは……」
赤竜姫の異名に相応しく、凛として美しいジュリアなだけにさらにその姿がよく映える。
職人たちが声を上げる。
「闘気と炎竜の鱗を使った、ジュリア様の竜鱗研ぎ」
「あれほどの霊気が宿った刃文が刻まれた剣、それを僅かにも損なうことなく研ぎ上げるのは至難のわざだ。だが、ジュリア様ならば」
「ええ、見事なものですな!」
ジュリアは俺の剣だけではなく、自分が鍛えた剣も見事に研ぎあげていく。
「ふふん、どうだい?」
研ぎあげた二本の剣を先程のベンチの上に置いて、ジュリアは少し自慢げにその大きな胸を張る。
ククルが目を輝かせてその二本の剣を見つめて声を上げた。
「凄いのです! お兄ちゃんの剣が、もっと綺麗になったのです。ピカピカなのです!」
「ほほほ、ほんにどちらも見事な剣じゃこと」
ナナもレイラも思わずその剣に見とれている。
「……凄いわ」
「ええ! こんな剣、都の名店でも売ってないわよ」
「ああ、本当に凄い剣だ!」
一つは自分で作ったものだが、ジュリアが研いだ後に見るとその素晴らしさが改めて分かる。
カレンさんやククルが込めてくれた霊気が作り上げた刃文が風の息吹を感じさせる。
ジュリアが俺に言う。
「ユウキ、こいつに名前をつけてやったらどうだい? あたしはもう決めてるよ。こいつの名前は『竜炎』だ。竜炎の剣、どうだい? いい名だろう。久しぶりで、あたしも強い思いが込めて作っただけにいい剣が出来た」
「竜炎の剣か、凄いや! この剣にピッタリだ」
その刀身に刻まれた紅の刃文は、まるで生きているかのようだ。
炎竜の血を引くジュリアが作った剣に相応しい。
「だろう。200年ぶりに作った剣さ、それだけに思いが強くこもっていい剣が出来たからね。それで、ユウキあんたはなんて名付けるんだい? そいつも素晴らしい剣だ、あんたのいい相棒になるだろうさ」
俺は美しく磨き上げられた剣を見つめながらしばらく考え込むと頷いた。
「……決めた。こいつの名前は『風狼』にするよ! 風狼の刃、剣にしては少し短めに作ったからさ」
今、俺はシーカーだから、この剣は少し大ぶりのナイフを作るつもりで作ったんだよな。
ナイフにしてはかなり大きいけど、シーカーなら剣としてもナイフとしても使いこなせるはずだ。
これから先、職業に応じて、自分にあった武器を作るのも悪くないよな。
ナナは手を叩いて喜んだ。
「風狼の刃、素敵じゃない! 私たちの夢だった武器づくり、その第一号ね」
「ああ、ナナ!」
レイラも大きく頷く。
「いいわね! 格好いいわ」
「はは、だろ? 風の力を宿した剣だからさ。それに、カレンさんやククルの力も宿ってるもんな。白狼の里から狼の文字を一文字を貰ったんだ」
カレンさんも微笑みながら言った。
「良い名じゃ! そなたたちはもう、ここで暮らすわらわたちの家族じゃ。この里の名を入れてくれたこと嬉しく思うぞ!」
カレンさんはそう言うと、俺のことをギュッと抱きしめる。
巫女を束ねるカレンさんの体からはえもゆわれぬ良い香りがして、柔らかく大きな胸に俺の頬が当たっている。
「ちょ! カレンさん」
「礼を言うぞ、ユウキ。そなたのお蔭でジュリアが鍛冶を、そして竜の姿にまで。こんなに嬉しいことはない、ほんにそなたはわらわたちの恩人じゃ」
自分の顔が真っ赤になっていくのが分かる。
こんな綺麗な人にこんなことをされたら誰だってそうなるだろう。
なんていうか、とにかくいい匂いと柔らかさで包まれている感じだ。
「む、むぐ……カレンさん」
胸に強く顔を押し当てられて息が出来ない、このままだと色んな意味で天国に行きそうである。
「ちょ! 何してるの」
「そ、そうよ! ほんと油断も隙も無いんだから!!」
そう言って、ナナとレイラがカレンさんから俺を引き離すと左右から俺をしっかりと抱きしめる。
警戒するように俺に身を寄せているので、二人のアイドル顔負けの美貌が俺の頬のすぐそばに迫っている。
「ちょ! 二人とも」
それを聞いて、二人は勝気な顔をこちらに向けてキッとした表情で言う。
「何? 文句あるの!」
「そうよ、さっきまでは凄く格好よかったのに、あんなにだらしない顔して!」
だらしない顔って、しょうがないだろ。
カレンさんみたいな美人にあんなことされたら誰だって顔ぐらい赤くなるさ。
元の世界だったら一流のモデルだって敵わないぐらいのスタイルと美貌の持主だ。
それに……
ツンとした二人の顔が俺のすぐそばにあって、俺は再び赤面する。
詰め寄るように俺を睨む二人の顔は更に目の前に迫ってきた。
二人は俺をじっと見つめて言う。
「まだ顔が赤いわよ、裕樹! ふ~ん、ずっとああしてたかったってわけ? いやらしいんだから」
「そうよ、いつまでもデレデレしちゃって」
「あ、あのな、だからさ二人の顔が近すぎるからだって!」
ナナの方を見てそう言うと、唇が触れそうになってナナも真っ赤になっていく。
「ば、馬鹿裕樹!!」
ナナにそう言われてレイラの方を見ると、今度のレイラの唇に触れそうになる。
「ちょ……ゆ、ユウキ」
いつも勝気なレイラの顔が動揺したように赤くなって俺から身を離した。
ナナも同じだ。
俺を睨むナナとレイラ。
「も、もう! 知らない!」
「そうよ、あんなに応援してあげたのに」
「お、おい、どうして俺が怒られないといけないんだよ。頑張ったのにさ」
俺が思わずしょんぼりすると、ナナは少し迷ったように俺を見つめると素早く俺の頬に顔を寄せた。
その柔らかい感触に思わず俺は唖然とする。
俺の頬にはナナの唇が触れていた。
「もう……そんな顔しないでよ。鍛冶姿の裕樹とっても素敵だった。それに私の為に戦ってくれた裕樹も。勘違いしないでよね、これはそのお礼なんだから」
唇をはなして俺を上目遣いに見つめるナナはとても可憐だ。
そして真っ赤になってそっぽを向く。
ナナの思いがけない不意打ちに、レイラが目を見開いてこちらを見ている。
「ちょ! ナナ、何してるのよ! やっぱり貴方達付き合って……」
「べ、別にそんなのじゃないわ! 言ったでしょ、私の為に戦ってくれたお礼だって」
ナナはツンとした顔のまま俺を見つめると言う。
「ほんとにそれだけなんだから。ちょ、調子に乗らないでよね裕樹!」
「わ、分かってるって、ナナ」
「ならいいのよ!」
ククルが嬉しそうに俺に言う。
「お兄ちゃんたち仲良しなのです!」
カレンさんも笑いながら言った。
「ほんに、可愛い三人じゃこと。昔のわらわたちのことを思いだすのう」
ジュリアはその言葉に昔のことを思い出したのか少し顔を赤らめると、俺たちに言う。
「まったく、なにイチャイチャしてるんだい。ふふ、あははは! でもこんなに愉快なのは久しぶりだよ。最高の気分さ、なあカレン!」
「ああ、ほんにな! ほんに愉快じゃ!」
美しく輝く竜炎と風狼。
そして楽しそうな二人の笑い声が、朝の白狼の里に美しく響いていた。
──────
ご覧頂きましてありがとうございます!
早いもので、気が付くとこの作品もいつの間にか今日で80話目になっていました。
いつも応援して下さる皆様に感謝です!
同時連載中の『ダブル魔眼の最強術師』も沢山の方にお読み頂きまして本当にありがとうございます。
あちらも先ほど更新しておきましたのでよろしければご覧くださいね。
これからもユウキたち共々よろしくお願いします!
大きなドランゴンの姿になっているジュリアと、その背に乗っている俺の周りに皆が集まって来た。
ナナとレイラは少しおっかなびっくりこちらを見ている。
「ちょっと! 裕樹、どうなってるの!?」
「何なのよその女! ドラゴンになっちゃうなんて」
俺はジュリアの背に乗ったまま頭を掻きながら答える。
「はは、俺も驚いたよ。でも、ジュリアが見せてくれた大空の光景が凄くてさ、もうそれどころじゃなかったよ」
カレンさんは笑いながら言った。
「ほほ、ほんに今日は驚くことばかりじゃ。ジュリアがその姿まで披露するとは。昔は仲間たちと一緒に、わらわもその背に乗って世界を旅したものじゃ」
へえ、カレンさんたちが。きっとシロウさんたちとの話だろう。
ドラゴンの背中に乗って世界中を旅するとか憧れるよな。
ゲームの中で竜を乗り物にっていうシーンはよく出てくるけど、自分が実際に乗ってみるとその爽快感は言葉では上手く言い表せない程だ。
「はう~おばば様ぁ。おっきいのです!」
カレンさんの後ろにククルは隠れるようにしてこちらを伺っている。
職人たちや巫女も見たことがなかった者が多いのだろう、口々に驚きの声を上げている。
「話には聞いていたが、なんと見事なドラゴンだ!」
「本当ね。あれがジュリア様の竜化……白狼の里の守り神に相応しいお姿ですわ」
なるほど、確かにこの里には守り神がいるという話を聞いたけど、ドラゴンになれるジュリアならそう呼ばれるのもよく分かる。
大空でジュリアに聞いた話だが、彼女は赤竜族の中でも特に力の強い炎竜の血を引いているらしい。
そんな話をしていると、ジュリアは変身を解いて元の姿に戻る。
そして、肩をぐるぐるっと回すと大きく背伸びをした。
「久しぶりにいい運動になったよ。それに、ユウキといい光景を見れたからね!」
そう言って俺にウインクする。
「ああ、ジュリア!」
レイラがジト目でジュリアを眺めると俺に言う。
「それで、勝負の決着はついたの?」
「ああ! 大空からこの世界を見てたら勝負なんて馬鹿らしいってなってさ。だって、どっちもいい剣だろ?」
「ま、まあ、そりゃそうだけど……」
レイラはまだ少し不満そうだが、ナナは肩をすくめて俺に笑う。
「まったく、裕樹らしいわね」
そんな中、ジュリアは木のベンチの上に置いてあった俺の剣を手に取る。
そして言った。
「ユウキ、研ぎはあたしに任せないかい? 最高な仕上がりにしてやるよ。こいつでね」
剣を持つ反対の手にジュリアは何かを持っている。
真紅に輝く美しいそれは、何かの鱗のように見える。
でも普通の鱗にしては大きすぎる。
うちわぐらいの大きさはあるからな。
職人たちはそれを見て言った。
「おお! もしや、ジュリア様の竜鱗研ぎですか!」
「それはいい! あれは見事なものですからな」
俺は思わず首を傾げると問いかける。
「それは構わないけど、竜鱗研ぎって一体……」
俺の問いにジュリアは悪戯っぽく笑うと、片手に剣をそしてもう片方の手に赤く輝く美しい鱗のようなものを構える。
「構わないんだね。じゃあ、そこで見てな! 言葉で説明するよりも、やってみせた方が早いからね」
レイラが俺に言う。
「ねえ……あれって、ドラゴンの鱗じゃないかしら? それもあんなに立派で大きなもの、ギルドでもめったにお目にかかれない掘り出し物よ」
「もしかして、さっきドラゴンになった時に……」
俺も思わずジュリアが手にする鱗を見つめる。
一体何をするつもりだろう。
俺がそう思ったその時──
ジュリアはその鱗と、俺が鍛えた剣に闘気を集中させた。
紅蓮の輝きを見せるその鱗に、ジュリアは舞うように見事な動きで剣を滑るように当てる。
双方に込められた闘気が火花のように散ると、それが何度も繰り返されて次第に俺が鍛えた剣が見事な輝きを放っていく。
ジュリアは鱗を裏返すとさらに作業を続けた。美しく舞うように研ぎながらも、鱗の場所によって目の粗さが違うのか微妙に当てる位置を変えていくのが分かる。
そして、闘気の強弱も繊細につけているのが分かった。時には鱗の方に強く、時には剣の刀身側に強くといったように。
表面を薄く覆うそれが、研ぎの際の緩衝役になっているのが分かる。
剣舞を披露する舞姫のように美しく舞いながらその作業をこなすジュリアのその見事さに、俺は思わず声を失った。
「これは……」
赤竜姫の異名に相応しく、凛として美しいジュリアなだけにさらにその姿がよく映える。
職人たちが声を上げる。
「闘気と炎竜の鱗を使った、ジュリア様の竜鱗研ぎ」
「あれほどの霊気が宿った刃文が刻まれた剣、それを僅かにも損なうことなく研ぎ上げるのは至難のわざだ。だが、ジュリア様ならば」
「ええ、見事なものですな!」
ジュリアは俺の剣だけではなく、自分が鍛えた剣も見事に研ぎあげていく。
「ふふん、どうだい?」
研ぎあげた二本の剣を先程のベンチの上に置いて、ジュリアは少し自慢げにその大きな胸を張る。
ククルが目を輝かせてその二本の剣を見つめて声を上げた。
「凄いのです! お兄ちゃんの剣が、もっと綺麗になったのです。ピカピカなのです!」
「ほほほ、ほんにどちらも見事な剣じゃこと」
ナナもレイラも思わずその剣に見とれている。
「……凄いわ」
「ええ! こんな剣、都の名店でも売ってないわよ」
「ああ、本当に凄い剣だ!」
一つは自分で作ったものだが、ジュリアが研いだ後に見るとその素晴らしさが改めて分かる。
カレンさんやククルが込めてくれた霊気が作り上げた刃文が風の息吹を感じさせる。
ジュリアが俺に言う。
「ユウキ、こいつに名前をつけてやったらどうだい? あたしはもう決めてるよ。こいつの名前は『竜炎』だ。竜炎の剣、どうだい? いい名だろう。久しぶりで、あたしも強い思いが込めて作っただけにいい剣が出来た」
「竜炎の剣か、凄いや! この剣にピッタリだ」
その刀身に刻まれた紅の刃文は、まるで生きているかのようだ。
炎竜の血を引くジュリアが作った剣に相応しい。
「だろう。200年ぶりに作った剣さ、それだけに思いが強くこもっていい剣が出来たからね。それで、ユウキあんたはなんて名付けるんだい? そいつも素晴らしい剣だ、あんたのいい相棒になるだろうさ」
俺は美しく磨き上げられた剣を見つめながらしばらく考え込むと頷いた。
「……決めた。こいつの名前は『風狼』にするよ! 風狼の刃、剣にしては少し短めに作ったからさ」
今、俺はシーカーだから、この剣は少し大ぶりのナイフを作るつもりで作ったんだよな。
ナイフにしてはかなり大きいけど、シーカーなら剣としてもナイフとしても使いこなせるはずだ。
これから先、職業に応じて、自分にあった武器を作るのも悪くないよな。
ナナは手を叩いて喜んだ。
「風狼の刃、素敵じゃない! 私たちの夢だった武器づくり、その第一号ね」
「ああ、ナナ!」
レイラも大きく頷く。
「いいわね! 格好いいわ」
「はは、だろ? 風の力を宿した剣だからさ。それに、カレンさんやククルの力も宿ってるもんな。白狼の里から狼の文字を一文字を貰ったんだ」
カレンさんも微笑みながら言った。
「良い名じゃ! そなたたちはもう、ここで暮らすわらわたちの家族じゃ。この里の名を入れてくれたこと嬉しく思うぞ!」
カレンさんはそう言うと、俺のことをギュッと抱きしめる。
巫女を束ねるカレンさんの体からはえもゆわれぬ良い香りがして、柔らかく大きな胸に俺の頬が当たっている。
「ちょ! カレンさん」
「礼を言うぞ、ユウキ。そなたのお蔭でジュリアが鍛冶を、そして竜の姿にまで。こんなに嬉しいことはない、ほんにそなたはわらわたちの恩人じゃ」
自分の顔が真っ赤になっていくのが分かる。
こんな綺麗な人にこんなことをされたら誰だってそうなるだろう。
なんていうか、とにかくいい匂いと柔らかさで包まれている感じだ。
「む、むぐ……カレンさん」
胸に強く顔を押し当てられて息が出来ない、このままだと色んな意味で天国に行きそうである。
「ちょ! 何してるの」
「そ、そうよ! ほんと油断も隙も無いんだから!!」
そう言って、ナナとレイラがカレンさんから俺を引き離すと左右から俺をしっかりと抱きしめる。
警戒するように俺に身を寄せているので、二人のアイドル顔負けの美貌が俺の頬のすぐそばに迫っている。
「ちょ! 二人とも」
それを聞いて、二人は勝気な顔をこちらに向けてキッとした表情で言う。
「何? 文句あるの!」
「そうよ、さっきまでは凄く格好よかったのに、あんなにだらしない顔して!」
だらしない顔って、しょうがないだろ。
カレンさんみたいな美人にあんなことされたら誰だって顔ぐらい赤くなるさ。
元の世界だったら一流のモデルだって敵わないぐらいのスタイルと美貌の持主だ。
それに……
ツンとした二人の顔が俺のすぐそばにあって、俺は再び赤面する。
詰め寄るように俺を睨む二人の顔は更に目の前に迫ってきた。
二人は俺をじっと見つめて言う。
「まだ顔が赤いわよ、裕樹! ふ~ん、ずっとああしてたかったってわけ? いやらしいんだから」
「そうよ、いつまでもデレデレしちゃって」
「あ、あのな、だからさ二人の顔が近すぎるからだって!」
ナナの方を見てそう言うと、唇が触れそうになってナナも真っ赤になっていく。
「ば、馬鹿裕樹!!」
ナナにそう言われてレイラの方を見ると、今度のレイラの唇に触れそうになる。
「ちょ……ゆ、ユウキ」
いつも勝気なレイラの顔が動揺したように赤くなって俺から身を離した。
ナナも同じだ。
俺を睨むナナとレイラ。
「も、もう! 知らない!」
「そうよ、あんなに応援してあげたのに」
「お、おい、どうして俺が怒られないといけないんだよ。頑張ったのにさ」
俺が思わずしょんぼりすると、ナナは少し迷ったように俺を見つめると素早く俺の頬に顔を寄せた。
その柔らかい感触に思わず俺は唖然とする。
俺の頬にはナナの唇が触れていた。
「もう……そんな顔しないでよ。鍛冶姿の裕樹とっても素敵だった。それに私の為に戦ってくれた裕樹も。勘違いしないでよね、これはそのお礼なんだから」
唇をはなして俺を上目遣いに見つめるナナはとても可憐だ。
そして真っ赤になってそっぽを向く。
ナナの思いがけない不意打ちに、レイラが目を見開いてこちらを見ている。
「ちょ! ナナ、何してるのよ! やっぱり貴方達付き合って……」
「べ、別にそんなのじゃないわ! 言ったでしょ、私の為に戦ってくれたお礼だって」
ナナはツンとした顔のまま俺を見つめると言う。
「ほんとにそれだけなんだから。ちょ、調子に乗らないでよね裕樹!」
「わ、分かってるって、ナナ」
「ならいいのよ!」
ククルが嬉しそうに俺に言う。
「お兄ちゃんたち仲良しなのです!」
カレンさんも笑いながら言った。
「ほんに、可愛い三人じゃこと。昔のわらわたちのことを思いだすのう」
ジュリアはその言葉に昔のことを思い出したのか少し顔を赤らめると、俺たちに言う。
「まったく、なにイチャイチャしてるんだい。ふふ、あははは! でもこんなに愉快なのは久しぶりだよ。最高の気分さ、なあカレン!」
「ああ、ほんにな! ほんに愉快じゃ!」
美しく輝く竜炎と風狼。
そして楽しそうな二人の笑い声が、朝の白狼の里に美しく響いていた。
──────
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早いもので、気が付くとこの作品もいつの間にか今日で80話目になっていました。
いつも応援して下さる皆様に感謝です!
同時連載中の『ダブル魔眼の最強術師』も沢山の方にお読み頂きまして本当にありがとうございます。
あちらも先ほど更新しておきましたのでよろしければご覧くださいね。
これからもユウキたち共々よろしくお願いします!
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異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!
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