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70、ジュリアの決意

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 そんな俺たちの傍に、レイラがやってくる。
 銀狼姿の彼女は、ジュリアを少し睨んで溜め息をついた。

「まったく、私もあいつをひと噛みしてやろうと思ったのに……あれじゃあ、怒るに怒れないじゃない」

「ああ」

 レイラの言葉に俺は頷く。
 ボロボロと涙を零すジュリアを見て、俺たちはこれ以上彼女を責める気にはなれなかった。

 かつて英雄と呼ばれた彼女がまるで子供のように泣いているんだから。

 ジュリアが鍛冶仕事をやめ酒ばっかり飲んで、寝て過ごすようになったのは寂しさを紛らわす為だろう。
 それがいいことだとは思わないけど、それだけ大事な人だったんだな。
 ナナは涙を拭きながら俺を見つめる。

「私だって、もし裕樹が突然いなくなっちゃったらきっと悲しくてしょうがないもの」

「もう、ナナってば。変なこと言わないでよ。そうなったらって考えたら私も涙出てきた」

 いつの間にか狼の姿から獣人の姿に変わっていたレイラが、ぽろりと涙を流す。
 ククルがちょこちょことやってきて、俺を見上げる。

「ククル探すのです! お兄ちゃんがいなくなったら、お姉ちゃんたちと一緒に探しに行くのです!」

 小さな手をぎゅっと握り締めて、尻尾をぴんと立てるククル。
 俺たちは顔を見合わせると、そんなククルの頭を撫でた。

「そうね、探しに行きましょう!」

「ええ!」

 そう言って笑うレイラとナナ。
 俺もつられて笑顔になる。

 俺はあらためて抱きしめ合って涙を流すカレンさんとジュリアを見つめた。

 二人は立ち上がると俺たちのところにきた。
 そして、カレンさんはそっと俺を抱きしめる。

「ユウキ、感謝するぞえ。そなたのお蔭で、シロウのことをとても強く感じることが出来たのじゃから」

 カレンさんの柔らかく大きな胸が俺の頬を包む。
 そして、ジュリアに言った。

「そなたも、こうしたいのじゃろう? 先ほどのユウキの姿はほんにシロウによう似ておった。まるでシロウの魂が、ユウキの中にも宿ったかのようにな」

 確かに白狼丸を通じて、一瞬俺の中に強烈な力が宿るのを感じた。
 俺の限界を遥かに超える力、そして体の痛みも嘘のように消えた。

 あれはきっとシロウさんの力だろう。
 あの力がなければ、俺ではジュリアにはとても敵わなかったはずだ。

 ジュリアは俺を見つめると、プイっと顔を逸らして言う。

「べ、別にあたしは……」

「ユウキは不思議なおのこじゃ。やはりシロウによう似ておる。そなたもそう感じたはずじゃ。そうじゃろう?」

 カレンさんにそう言われてジュリアは俺をじっと見つめる。
 そして、少し咳ばらいをすると恥ずかしそうに言った。

「か、勘違いするんじゃないよ。あんたなんか、まだまだシロウの足元にも及ばないんだ。で、でも、あんたが嫌じゃなければ、少しだけ抱きしめてもいいかい? 昔のことを、シロウの事をよく思い出したいんだ」

 レイラが身構える。

「なによその言い方! ユウキは凄いんだから! 駄目よ! 絶対ダメ、だってユウキやナナにあんなことしようとしたのよ」

 まだ、警戒をしているレイラにナナは首を横に振った。

「いいわ、少しだけなら裕樹を貸してあげる」

「ナナ!」

 渋々と了解をするレイラ。
 俺が頷くと、ジュリアは俺のことをしっかりと抱きしめた。

 ずっと探していた何かを見つけたかのように、とてもとても力強く。

 そして、暫くそのままで俺たちはそこに立っていた。
 不満げに腰に手を当てて、こちらを睨むレイラに俺は苦笑する。

 木々から木の葉が舞い、200年の時を埋めるかのように時が過ぎていく。
 そして、ジュリアは満足したように体をはなすと白狼丸を見つめた。

「シロウ、ありがとう。あんたに恥じないように生きていくよ」

 その後、俺を見つめると言った。

「あたしは決めたよ! ユウキ、あんたに鍛冶を教える。そうさ、あたしの新しい生きがいの為にもね!!」

 その言葉に俺たちは思わず顔を見合わせた。
 そう言って笑うジュリアの顔は赤竜姫の名に相応しく凛として美しい。
 そして、初めて会った時とは全く違う晴れ晴れとしたものだった。
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