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61、危険な相手

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 いつも優雅なカレンさんが、こんなに声を荒げている姿を見るのは初めてだ。
 ククルは、先程の一件に驚いたのかカレンさんの後ろに隠れて、ここに来るまでは楽しそうに左右に振っていた尻尾をすっかり地面に下ろしてぺたんとさせている。
 一方で、さっきまで眠そうにあくびをしていたその女はククルの事を聞いてカレンさんに詰め寄る。

「ククルに何かあったのかい!? カレン! なら何故私を起こさない! そしたら、こんな連中に頼る必要なんてなかったんだ」

「ジュリア、そなたが深酒をしたらいくら起こそうとしても起きはすまい。それに酔ったそなたにククルの命を預けられなどせぬ」

 どうやらこの女性はジュリアという名のようだ。
 ジュリアは俺を睨みながら声を荒げる。

「こんな奴が、あたしよりも信頼できるってのかい!」

 カレンさんはその言葉に頷いた。

「今のそなたよりも遥かにな。かつてシロウと共に戦った誇り高いそなたはもうどこにもいない。この世界の為に……わらわたちの為に命を懸けてくれたシロウが、今のそなたを見たらどれほど嘆くことか」

 この人がシロウさんと一緒に?
 そういえば、カレンさんは勇者と共にこの世界の英雄たちも戦ったと言っていた。

 この人がその一人か?

 悲しそうに彼女を見るカレンさんの言葉は諭すかのように穏やかな口調だったが、それがジュリアに火をつけたかのように強烈な闘気が彼女に宿っていく。

「言ってくれるね、カレン」

 静かにこちらに歩いてきて、壁にかかっている紅蓮に燃えるような大剣を手に取った。
 あの剣を当たり前のように軽々と片手で持っている。
 そして、俺を見下ろすと言った。

「坊や、表に出な。ちょいと腕試しといこうじゃないか。カレン、昔のあたしがもういないのかどうかあんたに見せてやるよ!」

 それを聞いて鍛冶職人たちが声を上げる。

「そりゃ無茶だ!」

「お客人も強いとは聞いているが、竜人族のジュリア様とまともにやり合えるわけがない!」

「ああ、怪我をするのが関の山だ!」

 竜人族?
 あの額の角のこともあるし、普通の人間じゃないとは思っていたけどそんな種族もいるのか。
 あんな巨大な剣を軽々と手にしている姿を見ても、普通ではない。

 鍛冶巫女たちも口々に言う。

「危険だわ」

「それに、ユウキ様はここに鍛冶を学びに来ただけです」

 レイラが頷く。

「そうよ、どうしてユウキがあんたと戦わないといけないのよ! ユウキは強いけど、ここには白狼丸っていう刀と同じぐらい凄い武器を作る為に来たんだから!」

 それを聞いてジュリアは笑った。
 レイラはまるで馬鹿にしたかのように笑うジュリアに怒りの声を上げる。

「何がおかしいのよ!」

「馬鹿馬鹿しい。あれはあたしの最高傑作だよ。こんな坊やにそんな剣が作れるはずがない。それに、もうあたしは刀を作るのをやめたんだ。何を学びに来たのかは知らないが、無駄足だったね」

 そしてジュリアは再び俺を見下ろす。

「第一、あの刀は臆病者に作れる代物じゃない。あたしとの勝負から逃げるってのなら、はなから無理な話さ」

 やっぱり、白狼丸を作ったのはこの人か。
 それに、今手にしている大剣も。
 この里の守り神というのも恐らくは彼女だろう。
 俺は彼女に尋ねた。

「もし、俺が勝ったら俺に鍛冶を教えてくれますか?」

 それを聞いてカレンさんが止めに入る。

「ならぬ、ユウキ! ジュリアは、他の者とは違う! いくらそなたでも……」

 そんなカレンさんの前にジュリアが割って入る。

「言うじゃないか、坊や。いいさ、教えてやるよ。どうせ、あたしが負けるなんてことは万に一つもない。賭けにさえならないことだからね」

 ……どうする。
 もし俺が勝てば、この人から鍛冶を教えてもらえるかもしれない。
 それに、純粋に戦ってみたい。
 200年前に魔王と戦ったことがある人がどんな戦い方をするのか。

 もし、あの国王が言っていたように魔王の復活が本当ならその強さを知るにはいい機会だろう。

 国王の言葉は嘘ばかりだったけど、なら何故俺たちを召喚したのか。
 それが魔王と関係があるのか、まだ分からないことだらけだ。

 それに、どうせ勝負を受けずに帰してもらえるとは思えない。
 ジュリアの目がそう言っている。
 俺は彼女の目を真っすぐに見つめると答えた。

「分かりました。この勝負お受けします」

「ふふ、いい度胸だ。それだけは褒めてやるよ、坊や」

 ナナが俺に警告する。

「駄目よ、裕樹! あの女、凄いステータスだわ……」

 先ほどの一件で、動揺しながらも鑑定眼を使ったのだろう。
 俺の前に現れたステータスパネルには、信じられないような数値が表示されていた。
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