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53、選ばれし者

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「ちっ! 飯はやっぱり向こうの方がうめえな。だが、流石王宮だけあってそこまで悪くねえ」

「まあそう言うな玲児。ふふ、城を飛び出した佐倉木は碌な物も食ってないだろう。惨めに山の中にでも逃げ込んで、泥水でもすすってるのだろうからな」

 玲児と光一の言葉に結衣は愉快そうに笑う。

「あはは! そうね。馬鹿な奴、私たちに殺されるまで散々惨めな生活を送るといいわ」

 ここはラルファスト王国の王宮の中である。
 まだ早朝にも関わらず、光一たちの前には山ほどの料理が並んでいる。
 玲児は無造作に、自分の前に並べられた肉料理にかぶりつくと言った。

「それにしても、やたらと腹が減りやがる。目も冴えちまって、昨日はあまり寝れもしなかったからな」

「確かにな。だが、気分はいい。まるで新しく生まれかわったようだ」

 結衣は美しくも残忍さを感じさせる表情で、自分の顔を指でなぞりながら言う。

「生まれ変わったのよ、光一。昨日あの神殿で貴方たちも感じたでしょう? あの血のようなものが、私たちの体にしみ込んできた時の何かに支配されるような感覚。凄い力だった、この私が思わず跪いてしまいそうなほどね。そして、その力を受け入れた時に感じた快楽は凄かったわ。あれはきっと神の力。私たちは神の使徒として生まれ変わったのよ!」

 恍惚とした表情で、その時の感覚を思い出して身をよじらせる結衣の姿はまだ高校生とは思えない程妖艶だ。
 自分の体に指を這わせ、ほうと溜め息をつく。
 そしてその背には白い翼が広がっていた。

「見てこの姿! 私に相応しい天使のようなこの姿こそ、神から力を与えられた特別な存在だという証だわ。私たちは選ばれた者なのよ」

 その言葉に光一も頷く。

「ああ、そうだ。俺たちは選ばれた者だ。あのゴミクズとは違ってな」

「そうよ、あんなクズ私の足元にひれ伏して潰されるゴミでしかない。その時は私のこの姿をあいつに見せつけてやるわ!」

「ふふ、そうだな。お前の好きしたらいい。だが、その姿は国王も膨大な力を使うと言っていた。その時までとっておけ、結衣」

 恋人の光一の言葉に結衣は嫣然と微笑む。

「そうね。まあ、たまに鏡の前で天使の姿になるぐらいはいいでしょう? この世界で最も美しい姿をたまには眺めたいもの」

 うぬぼれの塊のような結衣らしい言葉だ。
 高慢なその顔が部屋に置かれた大きな鏡に映し出されている。
 光一は美しい結衣の姿を満足そうに眺めて答える。

「まあな、それぐらいは好きにしたらいい」

 玲児は肉料理にかぶりつきながら頷く。

「神の使徒か、間違いねえな。俺たちは只の勇者じゃねえ。神に選ばれし者だ。お前たちも新しいステータスは見ただろう?」

 そういうと、玲児は部屋に置かれた大きな水晶玉の前に行く。
 それは、彼らがこの世界にやって来た時に彼らのステータスを映し出したものと同じである。

 裕樹の力が目覚めて、その時の戦闘であの時のものは壊れたがそれと同じものを用意させたのだろう。
 その水晶玉を見て裕樹のことを思い出したのか玲児は吐き捨てるように言う。

「こいつを見るとあのゴミクズを思い出してイラつくぜ。くく、だが今の俺はあの時の俺じゃねえ。見てみろよこの数値をな」

 水晶玉の前に立つ玲児は満足げに笑みを浮かべる。
 そこには玲児の新しいステータスが表示されていた。
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