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38、三人の勇者

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「日本からやって来た勇者……」

 俺は思わず息を呑む。
 カレンさんの話が本当なら、俺たちの前に日本からこの世界にやって来た人たちがいるってことだ。
 そう言えばカレンさんは、言っていた。

『十八の乙女の時にわらわが好きだった男にじゃ。そなたと同じ黒髪で、たいそう腕がたってな。遠い遠い異国から来たおのこじゃったがの。もう二百年は前の話じゃ』

 もしかして白狼丸を使って戦った人っていうのはその人のことだろうか?

「裕樹!」

「ああ、ナナ」

 俺とナナは思わず目を見合わせる。
 間違いなさそうだ。

 200年前の話だけど、俺たちみたいにこの世界にやって来た人がいるってことが分かったのは大きな前進だ。
 でも、その人たちはどうなったんだろう。
 俺はカレンさんに尋ねる。

「カレンさん、それってカレンさんが言っていた200年前の話ですか? その人のこと、俺に教えてください!」

 俺の言葉にカレンさんは微笑むと、頬を涙をそっと拭く。

「どうやら、やはりそなたもひのもとから来たようじゃな」

 カレンさんはそう言うと、傍にいる白狼族の女性に言った。

「あの絵を持ってまいれ。ユウキに見せてやりたいのじゃ」

「はい、カレン様」

 その女性は、宴の間から出て行く。
 何かを取りに向かったようだ。

 そして、暫くすると数名の男性たちと戻ってきた。
 彼らは大きな屏風を持っている。
 カレンさんは彼らに言う。

「そこに立ててくりゃれ。ユウキたちによう見えるようにな」

 優雅にそう言って右手を差し出すと、腕に嵌めている鈴付きの腕輪がシャンと音を立てた。

「畏まりましたカレン様」

 彼らはカレンさんが指さしたところに、美しく装飾された屏風を立てるとそれを大きく開いた。
 そこには男女の絵が描かれている。

「これは……」

 俺は思わず目を見開く。
 一人は若い頃のカレンさんだ。
 若い頃っていっても正直今と見た目は殆ど変わらない。

 今の方が妖艶な感じがするぐらいかな。
 もふもふした尻尾もしっかり三本あるし。
 描かれたカレンさんも綺麗だけど、俺の目を引いたのはもう一人の男性の方だ。

「この人が、カレンさんが言っていた……」

「そうじゃ、シロウという名での。そなたにどこか似ておるじゃろうユウキ。黒髪で凛々しくて、今でもこれを見ると惚れ惚れとする」

 は……はは。
 俺が凛々しいっていうのは買いかぶりすぎだよな。
 どう見ても描かれている人の方が、数段凛々しくて強そうだ。

 シロウさんっていうのか。

 まるで、歴史の資料にでてくる侍のような恰好をしている。
 いや、もし200年前の話なら本当の侍でもおかしくない。
 渋い感じのイケメンだ。

 そして、腰には二本の剣を下げていた。

 一つは西洋風の立派な剣、もう一つはたぶん白狼丸だろう。
 お社の入り口で見た刀の鞘と絵に描かれたものがよく似てるもんな。
 俺の視線に気が付いたのかカレンさんが言う。

「召喚された勇者には、この世界の神具の一つである光の剣が与えられたのじゃがシロウはニホンの刀が使いやすいと言うてな。優れた鍛冶職人がおるこの里であの白狼丸をこしらえたのじゃ」

「光の剣、召喚された勇者……」

 俺はカレンさんに尋ねた。

「教えて下さいカレンさん! 何のためにシロウさんは召喚されたんですか?」

 その言葉にカレンさんは頷くと答えた。

「200年前、世界は荒れ果てておった。魔王と名乗る者が現れ、地には魔族たちがはびこっておったのじゃ。この世界の者も必死に戦ったが、それでもとうとう追い詰められ伝承を頼り異世界から三人の勇者たちを召喚した。この世界の神具を使うことが出来る三人の勇者をな」

 三人の勇者。
 俺の時と同じだ。
 光一、結衣、玲児。
 勇者は三人ってことか。
 だとしたらやっぱり俺は、巻き込まれてこちらにやってきたんだろうか。
 
 思わず俺は自分のステータスを確認する。


 名前:佐倉木裕樹
 種族:人間
 レベル:レベル9999
 職業:食の求道者
 マスタージョブ:シーカー
 力:12511
 体力:13578
 魔力:11325
 速さ:11576
 器用さ:9257
 集中力:12231
 幸運:8765

 魔法:なし
 物理スキル:剣技Sランク、ナイフ技SSランク、弓技SSランク
 特殊魔法:熟成
 特殊スキル:探知、毒消し
 生産スキル:料理SSランク
 ユニークスキル:【自分のレベルを一つ下げる(使用制限82回)】
 マスタースキル:【鑑定眼】【伐採の極み】【一刀両断】【木材加工】【聖なる結界】【罠作成】【金の匙】【収納】【簡易厨房】
 覚醒スキル:【一刀獣断】【滋養強壮】
 称号:召喚されし勇者


 称号には、召喚されし勇者とは書いてある。
 でも光一たちみたいに職業は勇者じゃないんだよな。
 俺はカレンさんに尋ねた。

「それで、シロウさんたちはどうなったんです? 魔王は倒せたんですか?」

 矢継ぎ早に質問をする俺に、カレンさんは頷く。

「シロウ、トモエ、そしてサスケ。三人の勇者とこの世界の英雄と呼ばれる者たちが力を合わせてようやくの。そして魔王は、その魂と肉体、そして奴の体から流れ出た血の三つに分けられ、それぞれの勇者の神具によって封印されたのじゃ」

 後の二人はトモエさんとサスケさんっていうのか。
 やっぱりその二人も日本人だよな。
 きっとシロウさんのように200年前の人たちだ。

 でも、魔王はその時に倒されて封印されたんだよな。
 ならどうして俺たちが召喚されたんだろう。

「カレンさん、それじゃあその魔王の封印が解かれそうになってるってことですか? だから俺たちが……」

 それを聞いて、カレンさんが不思議そうに首を横に振った。

「ふむ、それがわらわにも分からぬのじゃ。200年前確かに皆の力によって魔王は封じられた。じゃが、その封印が解かれそうなどという話はきいたこともない」

「え?」

「裕樹!?」

 ナナと俺は再び顔を見合わせる。
 一体どういうことだ?
 なら、どうして俺たちはこの世界に召喚なんてされたんだ!

 あの王様は魔王が復活しかかってるって言っていた。
 だから俺たちを召喚したって言ってたのに。
 あの城で聞いた話と違う。

 俺たちが戸惑っているのを見て、カレンさんは俺に尋ねた。

「ユウキ、今度はそなたの番じゃ。一体そなたがどうやってこの世界にやってきたのか誰に召喚されたのか、わらわに教えてくりゃれ。事と次第によっては捨ておけぬことじゃゆえに」
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