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25、壊れた馬車

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 家から少し森の中を歩くと、レイラが昨日言っていた森の中の秘密の道に行きあたる。
 少し行ったところに黒い馬車が横倒しになっていた。
 ククルが少し怯えたように俺にしがみつく。

「はうう! 悪い奴の馬車なのです」

 ナナはそれを眺めながら眉をひそめた。

「これに乗せてククルを運んでたのね! 子どもをさらって誰かに売るだなんて酷いわ、許せない!!」

「ああ、ほんとにな!」

 俺は怯えているククルの頭を撫でながらナナに同意した。
 こんな小さな子供をさらって売り払うなんてどうかしてる。
 レイラも頷きながら答えた。

「ええ、逃げようとした奴もいたけど全員捕らえられて良かったわ。でも、そのせいでククルには怖い思いをさせちゃったけどね」

 そう言ってレイラはククルの鼻の頭をつつく。
 逃げる悪党を全員捕らえて縛り上げている間に、ククルがこの場を離れてしまったことを言っているのだろう。
 まあ、そのお蔭で俺たちはククルやレイラに会えたんだけどな。
 ククルはくすぐったそうにしながら言った。

「はう、レイラお姉ちゃんに食べられちゃうかと思ったです! おっきな狼の大きなお口で悪者をガブリってしようとしてたです!」

「もう、だから食べたりなんかしないわよ。あれは少し脅してただけだわ」

 俺は笑いながら言った。

「レイラは沢山食べるもんな! 俺も狼の姿のレイラが、そんなにでっかい口を開けてたらそう思うさ」

「ちょっとユウキ! それじゃあ私が人一倍大食いみたいじゃない?」

 レイラのその言葉にナナが呆れたように突っ込む。

「その通りじゃない、自覚なかったの?」

 それを聞いて、レイラは尻尾を左右にふると少し頬を染めて言う。

「失礼ね。少し人より沢山食べるだけよ! ユウキだって作った料理を沢山食べてくれる子が好きでしょ?」

「は、はは。そうだな」

 苦笑しながら俺が頷くとレイラはギュッと腕に抱きつく。

「ほら! やっぱり」

「だから、近いって!」

 親愛の情なんだろうけど、腕に当たる胸の感触と目の前にあるレイラの顔に今度はこっちが思わず顔が赤くなる。
 ナナが眉を吊り上げてレイラを引き離した。

「離れなさいって言ってるでしょ? ほんと馴れ馴れしいんだから」

「いいじゃないこれぐらい! ユウキじゃなかったらこんなことしないんだから」

 ツンと顔を背ける二人。
 こりゃ前途多難だな、俺はため息をついた。
 そして辺りを見渡しながら尋ねる。

「そう言えば、この馬車を引いてきた馬は?」

 俺の問いにレイラが答えた。

「狼姿の私を見て逃げちゃったんだけど、朝ここに戻ってきてたからキースに一緒に連れて行くように頼んでおいたわ。馬車は壊れてるから使い物にならないけどね」

「そっか。キースたちが連れていったんだな」

「ええ、何か気になるのユウキ?」

 レイラの言葉に俺は少し考えこむと答えた。

「いや、せっかく馬車があるんだからもし使えたらと思ってさ。ククルやナナだってその方が快適だろ?」

 どうやらこの道は悪党たちが使う秘密の山道にも繋がってるようだし、馬車があれば楽だもんな。
 ナナに妖精姿になってもらう手はあるけど、二人とも驚くだろうしさ。
 レイラは肩をすくめる。

「それはそうだけど馬車も壊れてるもの。大丈夫よ、これだけ朝早く出発すれば、日が暮れる前には山は越えられるから」

「ああ……」

 そう答えつつ俺は馬車を眺めていた。
 悪党たちが山を越える為に用意した馬車だけあって、結構作りがしっかりしている。
 車輪も頑丈そうだ。

「これ、使えるんじゃないか?」

 思わず俺はそう呟いた。
 馬車としてはもちろんだけど、もしこの先俺が色んな素材を集めたりする必要が出てきたら。
 それを運べるものがあると助かる。
 俺が何かを望んだからだろう、ナナも俺の考えていることを覗いたみたいで目を輝かす。

「そっか! それはいいかもね、裕樹!」

「だろ? ナナ」

 そんな俺たちを見てレイラが首を傾げた。

「どうしたのよ二人とも?」

「少しいいことを思いついたんだ、レイラ。せっかくだから、この馬車が使えないかと思ってさ」

 俺の言葉にレイラはもう一度首を傾げた。

「使えないかって……だからユウキ、この馬車は壊れてるじゃない?」

 そう言った後、レイラは何かを思い出したように目を見開いた。

「そうか! 確かに、ユウキなら出来るかもしれないわね!」

「だろ? 結構しっかりとした作りだから、このまま置いていくのももったいないしさ」

 ククルは俺を見上げる。

「はう、どうするですか?」

 俺はククルの頭を撫でながら一度地面に下ろす。
 そしてナナとレイラに言った。

「直ぐ終わらせるから、ククルと少し離れててくれないか?」

 二人は顔を見合わせると頷く。

「分かったわ、裕樹!」

「ええ、ククルいらっしゃい」

「はうう!」

 レイラに抱っこされるククル。
 俺が何をするのかに興味があるのか大きな目でこちらを見つめている。

「さてと、始めるか!」

 俺はそう言うと剣を構える。
 そして、みんなが安全な場所まで下がったのを見て剣を振るった。

「一刀両断!!」

 俺は手ごろな木を切り倒すと、職業を大工と剣士に変えてあるものの設計図をナナと一緒に描くと、それに合わせて材木を加工していく。

「さてと、車輪とか使えそうな部分はこっちのを使わせてもらうとするか」

 横倒しになって壊れた馬車を木材加工の要領で剣で解体しながら、俺は必要なパーツを取り除く。
 建物以外にこんな大きなものを作るのは始めてだ。
 でも、あの家に比べたら作るのは遥かに楽だからな。

 程なくして出来上がったものを見てククルは尻尾を左右に大きく振った。
 そして声を上げる。

「ユウキお兄ちゃん凄いのです! 怖い馬車が別の馬車になったのです!」

「はは、あの黒い馬車じゃククルも怖いもんな」

 レイラが呆れたようにそれを眺めながら俺に言った。

「まったく、ユウキには呆れるわ。これって荷馬車ね! それも座るところまでしっかり作ってる」

「ああ、荷馬車にもなる座席付きの馬車って感じかな」

 ベースは荷物を運ぶための荷馬車のようにして、その荷台の後ろに人が座れるスペースを作った。
 車輪の他に黒い馬車からは座席のクッション部分も流用したし、座るところはゆったりと座り心地がいいように作ったので快適なはずだ。
 デザインはナナの意見を取り入れたこともあって、なかなかお洒落だ。
 荷台に作った折り畳み式の登り階段を下ろすと俺は言った。

「とりあえず、みんな乗ってみてくれよ。レイラには必要ないかなって思ったけど、三人座れるようにしてあるからさ」

 オープンカーのような感じにしてあるから外の景色も楽しめると思うし。
 俺の言葉にククルだけじゃなくてナナとレイラも目を輝かせた。

「早く乗りたいです!」

「そうねククル!」

「私もいいの? ユウキ」

 遠慮がちのレイラに俺は笑いながら頷く。

「ああ、もちろん!」

 俺の言葉い促されるように真新しい馬車に乗り込むナナたち。

「うわぁ! いい感じじゃない」

「ほんとね! 座席も座りやすいし」

「楽しいのです!」

 俺は笑いながら頷いた。 

「だろ?」

 座席の部分は必要なら取り外せるからな。
 そうすれば、純粋な荷馬車としても使える。
 布を買えば幌馬車にだって出来るだろうし。
 今日だけじゃなくてこれからも使えそうだ。

「どうせもう使わない馬車なら、有効活用したほうがいいもんな」

「ふふ、そうね。でもあの悪党たちも自分の馬車がこんな風になるなんて思わなかったでしょうけど!」

 レイラの言葉に俺は頷く。

「はは、そりゃそうだよな」

「でも、馬はどうするの? まさか……」

 レイラが少しジト目でこちらを見る。
 昨日ベッド代わりにされたことを思い出したのだろう。

「心配するなって! レイラに銀狼になっもらって引かせようなんて思ってないからさ」

 本来馬を繋ぐための丈夫な金具の部分に手で握るグリップを作ってある。
 俺はそれを掴んだ。
 馬よりも今の俺の方が遥かに馬力があるからな。

「さて、行くぞ! みんなしっかり座ってろよ」

 俺はそう掛け声をかけるとまるで人力車を引くように荷馬車をひいて走り始める。
 風を感じながら快適に馬車は道を駆け抜けて行く。
 ククルがはしゃいでいる声がする。

「ふぁあ! 凄いのです! 気持ちいいのです!!」

 ナナもレイラも声を上げた。

「ほんとね! 凄いわ! 速い速い!」

「凄いわユウキ! でも大丈夫なの? 一人でこんな大きな荷馬車を」

 俺はみんなの様子を少し振り返りながら笑った。

「はは、任せとけって。朝から美味いステーキを食べて、力が漲ってるからさ!」

 職業は森や山を抜けるってことで狩人と剣士。
 それでもカンストしてるだけあって力や体力は有り余ってるからな。
 飛ばしすぎてククルが怖がらないように上手くスピードを調整しながら俺は森を抜けて、そのまま山道に入った。
 一直線に山を登るよりは距離があるけど、これなら直ぐだな。

 俺が道なりに荷馬車をひきながら山を駆け上がっていくと、昼前には山頂についた。
 そこから眺める景色は最高だ。
 思わず声を上げる。

「ヤッホー!」

 それを聞いてククルが真似をする。

「ヤッホー! なのです!」

 ナナもレイラの顔を見合わせると笑いながらその後に続く。

「ヤッホー! はぁ、気持ちいいわね」

「ほんとね! ヤッホー!!」

 山頂を吹き抜ける風が本当に気持ちいい。
 そこから俺たちが向かう国を一望出来た。
 城から出てこちらに向かった時に立ち寄った村で、その国の名前だけは聞いてるんだよな。
 山頂を越えるとその国の領土だって聞いた。
 つまりここから先は新しい国だってことだ。
 レイラが俺たちに言う。

「二人ともこれで国境は越えたわね。ここから先はアルフェン。私が生まれ育った国よ!」

 レイラたちの国か、どんな国なんだろうな。
 なんだかワクワクしてくる。
 山の麓には豊かな森が広がっていて、そのさらに先には大きな街のようなものが見える。

「大きな街が見えるぞ!」

「ええ、あそこはアルフェンの都よ。目的地の冒険者ギルドもあるし、都には女王が住んでいる宮殿があるわ」

 俺はレイラの説明を聞きながら声を上げた。

「へえ、女王様か!」

「ユウキってばほんとに何も知らないのね。ふふ、もし会えたらきっと驚くわよ、とっても綺麗な人だし」

「そうなんだ! アルフェンの女王様か、一度会ってみたい気がするよな」

 それを聞いてナナがジト目で俺を見ている。

「ふ~ん。裕樹ったら、綺麗な女王様なんて聞いてだらしない顔しちゃって」

 俺はコホンと咳払いをする。

「べ、別に綺麗だって聞いたから会いたいんじゃなくて、女王様になんて会うのが初めてだからさ」

 そう言ってもまだ少しツンとしているナナ。
 今のは本当なんだから心を覗いてくれたら分かるのにさ。

 そにしても、レイラは女王様に会ったことがあるみたいだよな。
 冒険者でもそういう機会はあるんだろうか?
 それなら、もしかすると俺も会えるかもしれないよな。
 そんなことを考えていると、レイラが言った。

「ねえ、ユウキ。この馬車のお蔭で思ったよりも早く国境を越えられたし、都に行く前に一つ寄りたい場所があるんだけどいいかしら? どうせジェイクたちと都で合流するのは明日の予定だもの」

「寄りたい場所? どこに寄りたいんだ、レイラ」

 俺はレイラの提案に首を傾げた。
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