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15、食材探し

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 翌朝、俺は鼻をくすぐる何かを感じて目を覚ました。
 それは、こちょこちょと俺の鼻先を動いている。

「ん……なんだ」

 ゆっくりと目を開けると、白くてふさふさしたものが俺の前で揺れていた。
 ククルの尻尾だ。
 俺の隣でナナに抱かれるような形ですやすやと眠っている。

「ふみゅうぅ」

 気持ちよさそうに、そんな小さな寝息を立てている。
 寝ている間に寝返りをうったのか、俺の鼻先に大きな尻尾があってその白い毛が俺の鼻をくすぐっていた。

「はは、なんだククルの尻尾か」

 俺はそう呟くと、まだ眠っているみんなを起こさないようにそっと立ち上がる。
 そして家の窓を開けた。

「はぁあ! 気持ちいいな」

 さわやかな森の風が中に入ってくる。
 俺は目の前に広がる光景を見つめた。
 やっぱり夢じゃなかったんだな。
 俺、本当に違う世界に来たんだ。
 普段なら自分の部屋から見える光景は街の景色だけど、窓の外に見えるのは全く違う光景だ。
 それを見るとやはり現実を実感をする。

「まあ、悩んでも仕方ないよな」

 俺はため息をつきながらそう言った。
 元の世界に帰るにしても、まずはこちらの世界で生きていかなきゃならないんだし。

 悪党たちを閉じ込めている倉庫には変わった様子はない。
 まあ、あのかんぬきをもし誰かが外そうとしたらここからは見えない木製の鳴子が揺れて、大きな音が鳴るような細工はしてある。
 あの倉庫を作るときに設計図に加えておいたからな。
 そもそも、こんなところに来るのは秘密の印を追ってくるレイラの仲間ぐらいだろうけどさ。

「まだ来てないないみたいだな」

 あれからこっちの家に誰かが呼びかけた様子もなかったし、どうやらレイラの仲間たちはまだ来ていないようだ。

「さて、どうするか」 

 昨日話したレイラの相棒の件、どうしようか。
 やってみたい気はするよな。
 お金を得るためには仕事がいることはもちろんだけど、元の世界に戻るためは色々な情報が必要だろう。
 それには冒険者っていう仕事はよさそうに思える。
 俺は窓の外の空気をしっかりと吸い込みながら背伸びをした。

「ふぁ~あ。それに、どうせ誰かと一緒に仕事をするなら、気が合いそうな仲間がいいもんな」

 まだ昨日会ったばかりだけど、俺にはレイラは裏表がなくて信頼できる相手に思える。
 ナナと同じで少し気が強いところはあるけど、まあそれは冒険者なんてしてたら当然なのかもしれない。
 その時、俺の後ろから声がする。

「ふふ~ん、気が合いそうな仲間って私の事? ユウキ」

 俺が振り返ると、美しい白銀の狼が大きな耳を立ててこちらを眺めている。
 どうやら目が覚めていたらしい。

「なんだよ。起きてたんだなレイラ」

「ええ、貴方が窓を開ける音に気が付いてね」

「そっか」

 さすが腕利きの冒険者だ。
 俺はレイラに言う。

「で、どうするの?」

 そう尋ねるレイラに俺は答えた。

「ああ、冒険者をやってみようって考えてるんだ。ナナが起きたら、このこと俺から話してみるよ」

「やったぁ! 決まりね!!」

 レイラは嬉しそうな声を上げる。

「はは、気が早いって。言ったろ? ナナが起きたら話をしてそれで答えを出すからさ」

「分かってるわ! でも、嬉しいじゃないやっぱり」

 はは、そんなに喜んでもらえると嬉しいな。
 思わず立ち上がりかけたレイラのせいで、ナナとククルが床にころんと転がった。
 その拍子に目を覚ましたナナとククルは寝ぼけ眼でレイラを見る。

「う、うう~ん……ちょっと、レイラいきなり動かないでよ。目が覚めたじゃない」

「ふぁ、ククルも目が覚めたです」

 レイラはそれを見て舌を出すと、変化を解く。
 そして獣人の姿になって二人に謝った

「ごめん、悪かったってば」

「もう、仕方ないわね」

 そんなナナの体に身を寄せているククルはまだ眠そうだったが、窓の傍にいる俺を見る。
 そして立ち上がると、尻尾を左右に振りながら元気に言う。

「もう朝なのです! お日様ピカピカです!」

 上りかけている朝日の方を眺めてそういうククル。
 その姿が可愛くて、俺たちは思わず笑顔になった。

「ああ、おはよう! ククル」

「ククル、おはよう」

「よく寝られた?」

 レイラの問いにククルは大きく頷いた。

「おはようなのです、ふわふわもこもこで気持ち良かったのです!」

 ククルの言葉に俺も同意する。

「はは、確かにな」

 それから俺はナナに話をした。

「なあ、ナナ。考えたんだけどさ、俺、冒険者をやってみようと思うんだ。金がいることももちろんだし、情報だって手に入る。それにやってみたいんだよな、正直に言うとさ」

 どうせナナに嘘を言っても通じないし、言うつもりもない。
 やっぱり正直に言うのが一番だよな。
 少し畏まってナナの前に正座をしながらそう話す。
 ナナも俺の前に座って、じっとこちらを見つめている。
 そして肩をすくめると笑った。

「いいわ、裕樹が嘘言ってないの分かるし。やりたいなら私も付き合ってあげる!」

「ほんとか? ナナ」

「ええ、気持ちいいベッドを提供してくれた借りもあるしね」

 そう言ってレイラを見るナナ。
 レイラは尻尾を大きく振って俺たちに言った。

「じゃあ、決まりね!」

「ああ!」

「ええ!」

 差し出された、レイラの手を俺たちはしっかりと握る。

「頑張るぞ!」

「お~!」

 張り切る俺とナナを見て、ククルも手を掴んで声を上げた。

「お~! なのです!」

 その姿を見て俺たちは顔を見合わせて笑う。
 そんな中、ククルのお腹がくぅと鳴る。

「はわわ、お腹が鳴ったです」

「はは、そう言えば俺も腹が減ったな」

 この世界に来て、色々ありすぎてまだ一度も食事を食べてない。
 水はこの近くに綺麗な小川が流れてたから、それで何とかなったんだけどさ。
 飲んでも問題がない水か、ナナが鑑定してくれたから安心して飲めたのを覚えてる。
 俺は外を眺めながら言った。

「レイラの仲間もまだ来てないし、勝手に出発も出来ないよな。どうしようか?」

 その言葉にレイラは胸を張って言う。

「任せて。それなら、この森の中で食材を調達したらいいだけよ」

 森の中で食材を?
 それは思いつかなった。
 俺は感心したようにレイラに言う。

「へえ、まるでサバイバルだな!」

「大袈裟よユウキ。冒険者なら森で暫く過ごさないといけないことなんてよくあるもの」

 確かにありそうだ。
 今回だってこの家がなかったら、レイラは森の中で夜を明かして仲間を待ってたんだろうし。

「森の中で食材か、それも面白そうだな」

「確かに面白そうね」

 好奇心旺盛なナナも乗り気なようだ。
 森の中での食材探しとか楽しそうだもんな。
 ククルもワクワクした様子で尻尾を振っている。

「美味しいものあるですか?」

 レイラは頷く。

「この季節なら色々ありそうね。私もお腹空いたし、この近くを探してみない?」

 彼女の提案に俺たちは頷く。

「いいな、それ!」

「賛成!」

「賛成なのです!」

 この近くならククルを連れていけそうだ。
 レイラは大きく伸びをすると、俺たちに言う。

「じゃあ、早速行きましょう。朝ご飯の食材探しに!」

 俺たちはレイラのその言葉に大きく頷いた。
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