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316、『鍵』と呼ばれる遺物

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「これはこれは。随分と怖い顔をしていますね、ラエサル」

「リカルド……何故お前がここにいる?」

 ラエサルがその男の名を呼ぶのを聞いて、エイジは男を眺めていた。

(これがリカルドさんか、確かにジーナさんが言っていたことも分かる)

 学者風の風貌と穏やかで人の好さそうな笑顔。
 一見、危険な人物には思えない。
 だが、それだけではない何かをエイジは男から感じていた。
 つかみどころのない人物。
 まさにその言葉がピッタリだろう。
 思わずステータスを確認しようとするが、何故かいつものようには上手くいかない。

(どういうことだ? 相手のステータスが見えないなんて初めてだ……)

 リカルドはラエサルに答えた。

「何故と言われましても。私が定期的に精霊たちと交流を持っていることは、貴方も知っているでしょう?」

 ラエサルはリカルドに問いかけた。

「お前には聞きたいことがある。『殺せずの聖女』と呼ばれる女とはどういう関係だ。あの女の口からお前の名が出るのを俺はハッキリと聞いた。『鍵』と呼ばれる遺物を起動するためにお前が必要だともな」

 リカルドは静かにラエサルを見つめている。
 そして微笑むと口を開いた。

「なるほど、私を見た貴方の目で気が付きましたが、もう知っているようですね。それにしても、まさか本当に彼女の支配から解き放たれるとは。やはり獅子の心を持つ狼を縛りつけておくことなど出来ないようですね」

 リカルドのその言葉に、その場の空気は凍り付いた。
 それも当然と言えるだろう、目の前の男はアンリーゼとの繋がりをハッキリと肯定したのだから。
 リカルドの瞳は、興味深そうにエイジを見つめている。

「ラエサル、貴方を縛り付けていた魔剣を破壊したのはこの少年のようですね。実に面白い、これほど好奇心をそそられる存在は久しい」

「エイジ!!」

 ラエサルはエイジの前に立ち塞がる。
 鍛冶職人に過ぎない男から、少年を守るかのように。
 それほど異様だったのだ。
 一瞬、目の前の男から立ち上った気配が。
 ラエサルは思う。

(今のは何だ……もしあれが本当のこの男の気配だとしたら。今まで感じていたものは全て偽りだとでもいうのか)

「その目、怖いですねラエサル。貴方ほどの相手と戦うとなると、私も素手というわけにはいきませんね」

 気が付くと、いつの間にか男の右手には一本のロングソードが握られていた。
 いつの間に現れたのか、まるで最初からそこにあったが如くそれは存在している。
 ファルティーシアと彼女を守るタイタンが、思わず声を上げる。

『これはどういうことなのですか!? リカルド! エイジ……』

『リカルド殿、その剣は一体!?』

 剣を握るリカルドの右手には、光を帯びた印が浮かび上がっている。
 それに反応するかのように右手のロングソードが白く輝いていく。
 その時──

『うう!』

 うめき声を上げて、膝をつく白い光の精霊。
 ファルティーシアのその様子を見て、タイタンが声を上げる。

『ファルティーシア様!! リカルド殿! 何をするのだ!? ぐぅ!!』

 タイタンは槌を振り上げようとするが、そのまま身動きがとれなくなる。

『悪いのですが、そのまま大人しくしていてもらいますよ』

 リカルドの手のロングソードは輝き増していく。
 ファルティーシアは苦し気な声を上げる。
 神々しい光の精霊の輪郭は揺らめき、その光の一部はリカルドが手にする剣に吸い込まれていくかのように見えた。

『やめて……うぁああああ』

 美しい顔を苦痛に歪めて激しく痙攣すると、その場で気を失うファルティーシア。
 周りの精霊たちは慌てたように飛び回っている。
 リイムとミイムも涙声で叫んだ。

『やめて!』

『お母様!!』

 相手の感情の一部を読み取ることが出来る精霊に、敵意すら感じさせないままこのような真似ができる人間がいるだろうか。
 男は剣を右手に静かに口を開いた。

「ラエサル。貴方が言った『鍵』と呼ばれる遺物、これはそのレプリカといってもいいでしょう。今まで私が作った中でも最高の逸品の一つですよ」
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