上 下
106 / 254
連載

261、融合する力

しおりを挟む
「あれは……」

 アンジェは思わずエイジの姿を見て息をのんだ。
 見事な一閃を放って、巨大な蛇の鎌首を切り落としたエイジの大剣。
 それは青白い光を帯びている。
 エリスとリアナは思わず声を上げた。

「エリス! あれを見て!」

「ええ、凍り付いていくわ!」

 切り離された鎌首。
 その断面が強烈な冷気にさらされたかのように、ピシピシと音を立てて凍り付いていく。
 エイジの肩の上で、祈るように両手を合わせている小さな精霊。
 その力だろう。

(これは……)

 エイジは、自らの闘気が青白い光を帯びていくのを感じる。
 凍り付いていく鎌首が凄まじい断末魔を上げた。
 切り落とされてなお、咆哮を上げるその姿。
 何という生命力であろうか!

「エイジ! まだです!!」

 エリクの声と同時に、天井から襲い掛かったのは新たな鎌首だ。
 三つ首の大蛇。
 そのうちの二つを切り落とされ、怒りに任せて巨大な胴体ごと天井からエイジに襲い掛かる。

「エイジのエレメントクリスタルが! それに見て、あのエイジの髪の色!」
 
 エイジの髪がブルーに変わっていく。
 彼の肩の上にいたはずの精霊の姿が消えている。
 エイジの右手の小手は青く輝いていた。
 魔方陣が刻まれた小手。
 そこに埋め込まれた宝玉が強い光を放っている。

 小手に描かれた魔法陣とは別の魔法陣が、大剣の表面に幾つも描かれている。
 輝くエレメントクリスタルに反応したかのように大剣の表面に現れた、七つの魔法陣。
 それは刀身に沿って一列に連なって、青い光を放っている。
 一行の前に立つ剣士は、今までの戦士であってそうではない。
 彼らにはそう思えた。

「アイスブレイド!」

 静かにそう口にした青い髪の剣士。
 彼を締め上げようと鞭のように襲い掛かる大蛇をかわし、大剣を見事に振るうその姿。
 一瞬の間に、彼の大剣が5度魔物に剣撃を加えたのをエリクの瞳は捉えた。

(あの剣の腕、それは今までと変わりませんが……この冷気は)

 鮮やかに切り離された鎌首と、幾つもに分断された胴体。
 それは強烈な冷気に凍り付いていく。

「俺の闘気が青く……」

 思わずそう呟くエイジ。
 その時、エイジは自分の体の中でリイム声がするのを感じた。

『精霊と精霊使いが融合して戦うエレメンタルフュージョン。精霊使いと旅をしている仲間から聞いたことがあるわ』

『エレメンタルフュージョン……融合ってリイム、もしかして俺の中にいるのか!?』

 エイジの問いにリイムは、興奮したように答えた。

『うん! 正確に言うとエイジの放つ気と同化してるの。エイジと一緒に戦いたいって願ったら、自然に』

(俺の放つ気とリイムが? ……そうか、だから俺の闘気が変化をしているのか!)

 その言葉にエイジは改めて大剣を見つめる。
 表面に浮かび上がった魔法陣。

(それにこの魔法陣、もしかしてファルティーシアさんの)

 大剣に触れて祝福をしてくれた高位精霊の姿を、エイジは思い出した。
 そして、この大剣が精霊たちの力や祝福を受けるに値するからでもあろう。
 ロイの魂が込められた名剣。
 青い闘気を帯びたその姿は、美しく氷の精霊剣といった雰囲気だ。
 リイムは水や氷を属性とした精霊なのだろう。

(凄え……精霊と同化するとか。そう言えば俺がやってたMMOでもそんな職業があったな)

 精霊を召喚して、その力と同化して戦う。
 エイジはゲーム内のそんなキャラクターの姿を思い出していた。
 だが実際に自分の身に起きてみると不思議な感覚だ。
 ミイムが周りを跳ね回る。

『リイム格好いいです! エイジと一緒に戦ってるです!』

 近くに魔物がいないことを確認しつつ、一行にもエレメンタルフュージョンを説明するエイジ。
 驚くエリスと、目を輝かせるリアナ。

「驚いたわ、精霊使いってそんなことが出来るのね?」

「凄い、凄い! 青い髪のエイジも格好いいわ!」

 無邪気に褒めるリアナを見て、エリスは少し咳ばらいをする。

(リアナったら、いつも私よりも先にエイジを褒めるんだから)

 少し頬を膨らませたこの国の王女は、エイジを上目遣いに見つめると。

「そ、そうね……格好いいわよエイジ」

「はは、そうかなエリス」

 勝気で美しい顔を、赤くしてそう呟く王女はやはり可憐である。
 ローブで隠しながら、そっとエイジの手に触れるエリス。
 エイジは照れたように少しだけそれを握り返すと、皆に気づかれぬように手を離した。
 一方で名門ロードファエル家の血筋である美しい女騎士は、ふぅと溜め息をつきながら肩をすくめると。

「また一段と強くなったわね。悔しいけど、確かに少し格好良かったわね」

 その言葉に、ライアンとシェリルが敏感に反応する。

「お、おい、シェリル聞いたか? いまオリビアがエイジのこと格好良かったって言ったよな」

「き、聞いたにゃ。オリビアが男のことそんな風に言うのは初めてにゃ、事件にゃ」

 それを聞いてオリビアは顔を真っ赤にすると。

「こ、言葉のあやよ! 精霊の助けを借りて戦う精霊使いの姿がそう見えただけで、エイジが格好良かったなんて誰も言ってないわ!」

「はは、分かってるさ。オリビア」

 笑いながら頭を掻くエイジ。
 そんな少年の態度をジッと見つめるオリビア。

(エイジってお兄様と一緒で鈍感なタイプよね……)

 兄が彼に思いを寄せる女性に対して、一向に気が付いている様子が無かったのを思い出す。
 そんなことを考えながら、オリビアは再び赤面した。
 それが騎士ではなく、只の少女のような振る舞いのように思えたからだ。

(馬鹿馬鹿しい。私は騎士よ)

 エメラルドグリーンの髪を美しく靡かせるオリビア。
 エリクは笑いながらも皆を諫める。

「まさに冷気を帯びた剣ですね。敵によっては非常に有効でしょう、精霊使いの剣士の力というのも非常に興味深い。ですが、あまり気を緩めてはいけませんよ」

 アンジェはエリクの言葉に頷く。

「そうね、あれで終わりじゃない。前から数体来るわよ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

拾った子犬がケルベロスでした~実は古代魔法の使い手だった少年、本気出すとコワい(?)愛犬と楽しく暮らします~

荒井竜馬
ファンタジー
旧題: ケルベロスを拾った少年、パーティ追放されたけど実は絶滅した古代魔法の使い手だったので、愛犬と共に成り上がります。 ========================= <<<<第4回次世代ファンタジーカップ参加中>>>> 参加時325位 → 現在5位! 応援よろしくお願いします!(´▽`) =========================  S級パーティに所属していたソータは、ある日依頼最中に仲間に崖から突き落とされる。  ソータは基礎的な魔法しか使えないことを理由に、仲間に裏切られたのだった。  崖から落とされたソータが死を覚悟したとき、ソータは地獄を追放されたというケルベロスに偶然命を助けられる。  そして、どう見ても可愛らしい子犬しか見えない自称ケルベロスは、ソータの従魔になりたいと言い出すだけでなく、ソータが使っている魔法が古代魔であることに気づく。  今まで自分が規格外の古代魔法でパーティを守っていたことを知ったソータは、古代魔法を扱って冒険者として成長していく。  そして、ソータを崖から突き落とした本当の理由も徐々に判明していくのだった。  それと同時に、ソータを追放したパーティは、本当の力が明るみになっていってしまう。  ソータの支援魔法に頼り切っていたパーティは、C級ダンジョンにも苦戦するのだった……。  他サイトでも掲載しています。

貴族のお坊ちゃんだけど、世界平和のために勇者のヒロインを奪います

大沢 雅紀
ファンタジー
日本でゲームをしていた男は、心臓発作で死亡してしまう。死の寸前、彼がやっていたアダルトゲームの女神から依頼される-「大魔王を倒した後の、勇者の圧政から世界を救ってください」 これは世界を救うために、召喚術と現代知識を武器に勇者のヒロインたちを奪っていく男の物語。 悪役転生です。内政がんばります。チート修業もします。ヒロインを攻略します。 ※18禁ではありませんのでご心配なく

異世界でいきなり経験値2億ポイント手に入れました

雪華慧太
ファンタジー
会社が倒産し無職になった俺は再就職が決まりかけたその日、あっけなく昇天した。 女神の手違いで死亡した俺は、無理やり異世界に飛ばされる。 強引な女神の加護に包まれて凄まじい勢いで異世界に飛ばされた結果、俺はとある王国を滅ぼしかけていた凶悪な邪竜に激突しそれを倒した。 くっころ系姫騎士、少し天然な聖女、ツンデレ魔法使い! アニメ顔負けの世界の中で、無職のままカンストした俺は思わぬ最強スキルを手にすることになったのだが……。

魔力が無いと言われたので独学で最強無双の大賢者になりました!

雪華慧太
ファンタジー
若き数学者、七神裕哉は異世界に転生した。転生先は、強い魔力を持つ者のみが将来を約束される世界。だが彼は生まれつき魔力を持っていなかった。その為、名門公爵家の跡取りだったはずの彼は、侮蔑され追放される。だが彼の魔力は皆無なわけではなく、人が使いこなすことが出来ない劣等魔力と呼ばれる物だった。それを知った彼は劣等魔力を制御する数学的魔導術式、神言語(しんげんご)を作り上げ、世界を揺るがす存在となっていく。※このたび本作品の第二巻がアルファポリス様から発売されることになりました。発売は10月下旬になります。これもいつも応援して下さる皆様のお蔭です、ありがとうございます!

元獣医の令嬢は婚約破棄されましたが、もふもふたちに大人気です!

園宮りおん
恋愛
ゲーム好きの獣医、綾川詩織は事故にあい異世界に転生した。彼女が転生したのは神獣に守護された王国ファリーン。公爵家の令嬢ルナとして転生した詩織は16歳の時、王太子のジェラルドに婚約破棄を言い渡される。いわれのない罪まで背負わされて国を追われるルナだったが、それを知った神獣セイランは激怒する。彼女はかつてセイランの子を治療し、命を救った恩人だったのだ。王家は騒然となり彼女を呼び戻そうと奔走するが、ルナは『獣の治癒者』の称号と前世でやり込んでいたゲームキャラのスキルの力で気ままに旅を続けていく。 ☆いつもお読み頂きましてありがとうございます。皆さんの応援のお蔭でこの作品の第二巻が発売されることになりました。発売は2月下旬になります。また、それに伴って該当部分が取り下げられています。ご容赦くださいませ。

異世界転移したので、のんびり楽しみます。

ゆーふー
ファンタジー
信号無視した車に轢かれ、命を落としたことをきっかけに異世界に転移することに。異世界で長生きするために主人公が望んだのは、「のんびり過ごせる力」 主人公は神様に貰った力でのんびり平和に長生きできるのか。

異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い

八神 凪
ファンタジー
   旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い  【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】  高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。    満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。  彼女も居ないごく普通の男である。  そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。  繁華街へ繰り出す陸。  まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。  陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。  まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。  魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。  次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。  「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。  困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。    元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。  なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。  『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』  そう言い放つと城から追い出そうとする姫。    そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。  残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。  「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」  陸はしがないただのサラリーマン。  しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。  今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――

転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい!

ももがぶ
ファンタジー
猫たちと布団に入ったはずが、気がつけば異世界転生! せっかくの異世界。好き放題に思いつくままモノ作りを極めたい! 魔法アリなら色んなことが出来るよね。 無自覚に好き勝手にモノを作り続けるお話です。 第一巻 2022年9月発売 第二巻 2023年4月下旬発売 第三巻 2023年9月下旬発売 ※※※スピンオフ作品始めました※※※ おもちゃ作りが楽しすぎて!!! ~転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい! 外伝~

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。