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ヨーズア

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 ヨーズアは笑いが止まらなかった。ヨーズアは今や貴族なのだ。地位も資産も手に入れたのだ。

 ヨーズアは町の端にあるはきだめで暮らしているゴロツキだった。ある時フードをまぶかにかぶった男に言われたのだ。ある仕事をすれば、貴族の爵位と財産を与えよう、と。

 ヨーズアはその話しに飛びついた。このままでははきだめの中でのたれ死ぬのがわかっていたからだ。

 ヨーズアはある古い屋敷をあてがわれた。そこには使用人も食料もじゅんたくな資産もあった。

 そこでやっとヨーズアはこのうまい話しを不審に思うようになった。ヨーズアは自分に指示を出すフードの男に食い下がった。

 フードの男は仕方なくあらましだけ話してくれた。さる高貴な方がある者の行方を探している。その者は、高貴な方にとって邪魔な存在なのだそうだ。

 邪魔な存在を消すための協力をヨーズアに頼みたいというのだ。ヨーズアは頭をひねった。ヨーズアは無学だが愚かではなかった。

 これはこの国の権力争いが関係しているのではないか。ヨーズアは風のうわさで聞いていたのだ。タンドール国王に子供が生まれた事。その赤ん坊がどうやら王子である事。王子は国王の命令でどこかに隠された事。そして、王子を血まなこになって探しているのは、おそらく国王の弟ジョスト大公だろう。

 ヨーズアが請け負った仕事はしごく簡単なものだった。ある男から証拠の品を受け取るだけだというのだ。男は娘の返還を願うだろう。だが男と娘は殺すように言われている。

 つまり口封じだ。これを聞いたヨーズアはギクリとした。自分も口封じされるのではないかと考えたのだ。

 だがそこで考えなおした。どちらにしろ自分はろくな死に方はしないだろう。それまでぜい沢な暮らしを楽しむ事にした。

 ヨーズアは美姫をはべらせ、美味い食事と美酒を毎日飲み食いした。そんな暮らしが何事もなく続いた。このままこの暮らしが永遠に続くのではないかと思っていた時、男がやって来た。

 男はしょうそうしきっていた。無理もないだろう、娘の命を人質に取られているのだから。

 男は震える手で手紙を差し出した。ヨーズアは受け取り、手紙に目を通した。そこには国王の王子が衰弱死し、墓地に埋葬したと書かれていた。

 ヨーズアは手紙から顔をあげて男に叫んだ。

「おい!これは本当なのか?!」
「ああ。王妃さまはこの手紙を毎晩読んで涙しておられた」

 これが本当ならば、ヨーズアの依頼者はもう何も恐る事はないはずだ。これでヨーズアもお役ごめんになる。ヨーズアは今後の事について思考をめぐらせていると、男はせっついて言った。娘を返してくれと。

 ヨーズアはニヤリと笑った。どうせ自分も殺されるのだ。死なばもろともだ。ヨーズアはうなずいて使用人に声をかけた。

 しばらくすると、フードの男が娘を連れて来た。年は十五歳だという。美しい娘だった。あと三、四年すればもっと美しい娘に成長するだろう。だがもったいない事に目撃者はすべて消さなければいけない。

 最後の情けだ、父と娘の再会をさせてやろう。ヨーズアはフードの男に言った。娘を離せと。フードの男が娘を離すと、娘は男の元に駆け寄った。

 父と娘は固く抱き合った。これで思い残す事はないだろう。ヨーズアは予定通り、男に言った。

「さぁ、娘に会わせてやったんだ。もうこの世に未練は無いだろう?二人仲良くあの世に行きな」

 フードの男が、父娘に攻撃魔法を放とうとした。父親は慌てる様子もなく、胸元から何かを取り出した。可愛らしいポシェットだ。

 ヨーズアが不思議そうに見ていると、男はポシェットの中に手を突っ込んだ。すると小さなポシェットから人間の手が出て来た。

 男は勢いよく人間の手を引っ張り出すと、美しい娘がポシェットから出て来た。ブロンドの髪に青い瞳。その娘は水防御魔法を発動した。フードの男の攻撃魔法が水防御魔法に当たった。





 
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