冒険者になれなかったので花屋始めました

ボリビエ

　クレアたちはドラゴンのウェントゥスに大きくなってもらい、後ろ足には無言をつらぬく怪しい男を結びつけて城に飛んだ。

　城には王妃と国王もいた。クレアは王妃に手紙を手渡した。王妃は涙を流しながら謝った。

「ごめんなさい。クレアから注意されていたのに。わたくしはこの手紙を燃やす事ができませんでした。しかも無くしてしまって、どうしたらよいかわからなくて貴女たちを呼んだのです」
「王妃さま、わたくしも配慮がたらず申し訳ありませんでした。王妃さまのご心中を察する事もできずに安易に燃やしてくださいと申し上げてしまいました」

　王妃は手紙を胸に抱くと、涙を流した。国王は彼女を優しく抱きしめた。

　メロディはす巻きになっている男に言った。

「おじさん、王妃さまの大切な手紙盗むなんてだめだよ。ちゃんと謝って」

　メロディは男の顔が国王と王妃に見えるように持ち上げた。男の顔を見た国王と王妃が息を飲むのがわかった。国王がうめくように言った。

「ボリビエ。そなた、まさか」
「我が王。申し訳ありません」

　国王と男のやりとりでクレアは察した。王妃の手紙を盗んだ男は、国王が信頼する家臣だったのだ。国王はおだやかな声でボリビエに言った。

「ボリビエ、何故王妃の手紙を持ち出した。申してみよ」
「・・・。恐れながら、我が王よ。わたくしの娘が、捕らわれております。王子さまご存命の証拠を持ってこなければ、娘の命は無い、と」

　そこまで話すと、ボリビエは顔を床に擦りつけてむせびないた。国王はぼう然としながらかたわらのメロディに言った。

「メロディ、すまぬ。ボリビエの縄を解いてくれぬか？」
「いいんですか？王さま。逃げちゃうかもしれないですよ？」
「いいや、メロディ。ボリビエは逃げはせぬ」

　メロディはうなずいて、植物魔法を解除した。植物のツタは一瞬にして消えた。だがボリビエは床に顔をつけたまま泣いていた。国王はボリビエを優しく抱き起こして言った。

「すまなかったボリビエ。そなたの娘を危険にさらしてしまった。もっと余が注意するべきであった。そなたの娘は必ず助ける」

　国王の言葉にボリビエは泣きはらした顔をあげた。

「我が王よ。わたくしを罰しないのですか？」
「大切な家臣であるそなたをどうして罰しよう。余もそなたの立場であったら、きっと同じ事をしたであろう」

　ボリビエは国王の膝にすがって泣き出した。国王はボリビエの背中に手をおいていた。