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王妃からの手紙

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 マサラはとても急いでいるようで、すぐにクレアに手紙を読むようにうながした。クレアが手紙を読むと、至急お城に来てほしいと書いてある。

 クレアは手紙から顔をあげると、顔をしかめている依頼人の男に言った。

「お客さま、申し訳ありません。この国の王妃さまからの緊急召集がかかったので、いったんお城に行ってからお客さまの目的地に行ってもよろしいですか?」

 それを聞いた男の顔が真っ青になった。男は慌ててきびすを返すと走り出した。クレアはため息をついてメロディに言った。

「メロディ、植物魔法であの男を確保」
「うん」

 メロディの足元から植物のツタが勢いよく伸びて、走っている男をぐるぐる巻きにした。男はつんのめって顔面から倒れた。男は大声で叫んだ。

「おい!この縄を解け!私を誰だと思っているのだ!」
「ええ、どなたなのかおうかがいしたいです。何故王妃さまの手紙と聞いた途端逃げ出したのかも」

 男はぐぬぬとうなった。メロディは倒れている男の胸元に手を入れてごそごそしている。男はやめろと叫ぶが、メロディはおかまいなしだ。メロディは男の胸元から一通の手紙を取り出して言った。

「ねぇ、クレアちゃん。このおじさん手紙持ってた」

 クレアがメロディに、手紙の受取人は誰か聞いた。メロディは手紙を見て言った。

「えっとねぇ。親愛なるパットへ、だって。パットって誰だっけ?ああ、パトリシア。王妃さまの愛称だ。ん?何でおじさんが王妃さま宛ての手紙持ってるの?」

 メロディが男の顔を見ると、顔が真っ青だった。クレアはメロディから手紙を受け取って中身に目を通してハッとした。

 この手紙は、国王の息子バスチャン王子を守り育てているギュンターの妻からのものだ。数ヶ月前、クレアたちがギュンターの妻から受け取って、王妃に手渡したものだった。

 手紙の中には、バスチャン王子がすくすく育っている事。あやすとよく笑うという事。何気ない日常がつづられていた。息子に会えない王妃のために、ギュンターの妻が書いたのだ。

 クレアは、この手紙を王妃に渡す時、読んだら燃やしてくれと念を押した。だが王妃はそれができなかったのだ。愛する我が子の残り香のある手紙を燃やせなかった。

 この手紙は、国王の息子が生きている証拠になる。この手紙が国王の弟ジョスト大公の手に渡れば、バスチャン王子に危険がおよんでしまう。

 クレアは厳しい顔で男に言った。

「城までご同行願います」

 男は顔を地面に押し付けたまま無言だった。
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