冒険者になれなかったので花屋始めました

メロディとクレアとウェントゥス

　それまでどこかに行っていたメロディがドタドタと足音をさせて帰って来た。手には古びたくつを持っている。

「ねぇ、セシルちゃん！あたしの古いくつ、入るかなぁ」

　メロディはセシルの足元にくつを置いてくれた。メロディのくつはセシルにピッタリだった。セシルはメロディにありがとうと言うと、メロディは嬉しそうに笑った。

　セシルはメロディたちにあらためて感謝をしてから店を出ようとした。早くくつを探しに行かなくてはいけなかったからだ。

　急いで行こうとするセシルをクレアが止めた。

「ねぇ、セシル。もう夕方だしお夕食を一緒にどう？」
「わぁ！それ賛成！そうしようよセシルちゃん」

　セシルは困ってしまった。学校には門限がある。早くしないと学校の寮にも帰れなくなってしまう。セシルが黙っていると、クレアが優しい声で言った。

「セシルの着ている制服、セラフィス魔法学校の制服よね？」

　セシルはコクリとうなずく。クレアも一つうなずいてから口を開いた。

「ウェンが飛んで学校に送ってくれるから大丈夫よ？」

　セシルはクレアの言葉に、またうなずいてしまった。メロディは嬉しそうに、セシルちゃんと夕食と叫んだ。

　クレアはマカロニの入ったミネストローネのスープに、りんごのパンとポテトサラダの夕食をふるまってくれた。クレアの手料理はどれもとても美味しかった。

　セシルは食事中に会話をしながら、あれよあれよと自分の事をペラペラと話してしまった。

　魔法学校で一番の落ちこぼれだという事。それを理由にいじめられている事。今日もくつを魔法で飛ばされて、城下町までくつを探しに来た事。

　それを聞いたメロディは、顔を真っ赤にして自分の事のように怒ってくれた。

「そんなのひどい！セシルちゃん何も悪い事してないのに」

　セシルは、メロディが怒ってくれた事を嬉しく思うと同時に、悲しくなって言った。

「ありがとう、メロディ。私のために怒ってくれて。でもね、私がいけないの、私が魔法も使えない落ちこぼれだから」

　セシルが顔を下にむけて、涙がこぼれそうになるのを必死に耐えていると、クレアのりんとした声がした。

「それは違います。セシルは悪くないわ。悪いのは魔法を使えないというだけで下に見る学校の体制に問題があるわ」

　クレアはセシルを見て、それにねと言葉を続けた。

「セシルは全てのエレメント契約ができたんでしょ？だったらセシルはもっと誇るべきよ」

　不安げなセシルに、クレアがうなずいて、水魔法を発動させた。小さな沢山の水のかたまりがふわりとセシルの周りを回った。

　メロディも笑顔で言った。

「そうだよセシルちゃん！セシルちゃんは全部のエレメントに大好きって言われてるんだよ？！」

　メロディは植物魔法を発動させた。色とりどりの花が出現した。それを見たドラゴンのウェントゥスが風魔法を発動した。メロディの作った花がウェントゥスの風によって空中にフワフワとただよった。

　セシルはメロディたちの美しい魔法に見とれてつぶやくように言った。

「何て綺麗な魔法なの？あの、私に魔法を教えてくれませんか？！」

　セシルのお願いに、クレアとメロディとウェントゥスはびっくりした顔をしていた。セシルはしまったと思った。あまりにもぶしつけなお願いだったからだ。セシルが慌てて撤回しようとすると、メロディがはにかみながら言った。

「えへへ。魔法学校の生徒のセシルちゃんに魔法を教えるなんて。何か照れるなぁ」
「えっ。メロディいいの？」
「うん、あたしにできる事なら。ねぇ？クレアちゃん、ウェン」

　クレアとウェントゥスもうなずいてくれた。セシルに魔法の先生ができた。