冒険者になれなかったので花屋始めました

エマ

　メロディは女の子が名前を教えてくれた事に嬉しくなり、微笑んで言った。

「エマ、可愛い名前だね？貴女にピッタリ」

　メロディは、イスの上で不思議そうに女の子を見ているドラゴンのウェントゥスを抱き上げて言った。

「この子はねぇ、ウェンていうんだよ？」
「ピィー」

　エマはドラゴンにびっくりしたようだが、愛らしい小さなドラゴンに微笑んだ。メロディはエマにウェントゥスを抱っこさせてあげた。

　エマはウェントゥスを抱きしめて頬ずりをした。しばらくして、クレアがおぼんを持ってやって来た。

　おぼんの上には三人分のティーセットがのっていた。クレアはエマに声をかけた。

「ねぇ。いちごとマーマレード、どっちが好き？」

　クレアの質問に、エマはキョトンとした。エマのとなりに立っているメロディが大声で言った。

「いちご！」
「メロディにはまだ聞いてないわ」

　メロディとクレアのやりとりに、エマは笑顔になって言った。

「わ、私もいちご。好きです」

　クレアはニッコリと微笑んでうなずいた。

　メロディは店先に木のテーブルを用意して、小さな丸いイスをもう一つ持って来てエマにすすめた。クレアは香り高いアールグレイの紅茶を蒸らして淹れてくれた。

　褐色の紅茶の中に、ゴロゴロとしたいちごジャムがどっさり入っている。メロディはにんまり笑った。メロディは紅茶の中のいちごをつぶして飲むのが大好きなのだ。

　メロディは紅茶にそえられたスプーンでいちごをつぶしてから口に入れた。甘酸っぱい香りが口いっぱいに広がる。次に紅茶を飲んでみる。ほのかに甘い紅茶だ。

　クレアは紅茶にマーマレードを入れている。メロディはマーマレードジャムがあまり得意ではない。何故なら少し苦味があるからだ。

　クレアは紅茶を美味しそうに一口飲んだ後に言った。

「メロディったらいちごばっかり。マーマレードのジャムはちっとも食べないんだもの」
「いちごジャムのほうが甘くておいしいの！マーマレードは苦いんだもの」
「そこがいいんじゃない」

　メロディとクレアのやりとりを聞いていたエマがスクスクと笑い出して言った。

「私も、マーマレード苦くて食べられない。いちごジャムが好き」
「だよねぇ！」

　エマの援護にメロディは我が意を得たりと笑った。クレアもエマが笑顔になって安心したようで、ホッとした顔をした。

　しばらくしてからクレアはエマに切り出した。

「ねぇ、エマ。どうして青い花が必要だったの？」

　美味しそうに紅茶を飲み終えたエマが、再び暗い顔になった。だがエマは意を決したように言った。

「あのね、おばあちゃんのためなの！」