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悪意の影

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 養い子である子ドラゴンの行方不明。クレアはある考えに思いいたって不安になった。クレアとメロディの大切なウェントゥスと同じではないか。子ドラゴンは、ドラゴンハンターに連れ去られたのではないだろうか。

 クレアが思考をめぐらせていると、巨大なドラゴンは養い子を思って泣き出してしまった。ギャオッギャオッと激しい声で泣いている。メロディとウェントゥスは巨大なドラゴンを泣き止ませようと必死に声をかけている。

 クレアはメロディとウェントゥスに、子ドラゴンがいつどこで、どうやっていなくなったか詳しく聞いてくれと頼んだ。メロディとウェントゥスはうなずいて、しきりに巨大なドラゴンに話しかけた。

 巨大なドラゴンの話しをウェントゥスが聞き、ウェントゥスがメロディに通訳し、それをメロディがクレアに伝えるので、クレアはちんぷんかんぷんだった。クレアは思わずつぶやいた。

「フランマみたいに、あなたも人間になってもらえたら会話がスムーズなのに」

 クレアが言葉を言い終えた途端、巨大なドラゴンみるみる小さくなり、小柄な美しい女性になった。長い髪はプラチナブロンド。瞳はブルートパーズのような青だった。彼女は美しい瞳からハラハラと涙を流して言った。

「わたくしが、わたくしがいけなかったのです。ちょっと目を離したらネヴェはいなくなっていたの」

 ネヴェとは子ドラゴンの事だろう。メロディは小柄な女性になってしまった、泣きじゃくっているドラゴンの背中を撫でながら優しい声で言った。

「あたしはメロディっていいます。こっちはウェンであっちはクレアちゃんです。貴女の名前を教えてもらえますか?」
「ひっく、ひっく。わ、わたくしは、アクア」
「アクア。綺麗な名前ですね。貴女にぴったりです。ねぇ、アクアさん。あたしたちが必ずネヴェを探します。だから、どうか泣き止んで?」

 メロディの優しい声に、ドラゴンのアクアは次第に落ち着いた。アクアの話しでは、養い子のネヴェと一緒に川のほとりでお昼寝をしていたというのだ。だがアクアが目を覚ますと、もうネヴェの姿は無かった。アクアはネヴェがいなくなった時の事を思い出し、また涙ぐんで言った。

「わたくしはすぐにネヴェに話しかけたわ?でもネヴェは返事を返してくれなかった。リンクしているから、ネヴェがわたくしの声が聞こえないわけないのに」

 リンクとは、ドラゴンが仲間同士でする心をつなげる魔法の事だ。火のドラゴンフランマと子ドラゴンのウェントゥスももちろんリンクしている。

 アクアの話しを聞き、クレアはあごに手をおいて考えた。ネヴェが普通に迷子になっているのなら、アクアの呼びかけに答えないのはおかしい。ネヴェは何らかのアクシデントに巻き込まれたと考えるべきだろう。

 クレアは目をつむって、うんうんとうなってから、パチリと目を開いてアクアに言った。

「アクアさん。どうか私たちを信じて待っていてください。必ずネヴェを貴女の元に連れ帰ります」

 クレアの言葉にアクアは瞳をうるませながらうなずいた。アクアとウェントゥスにはリンクしてもらう事にした。リンクをすればアクアとウェントゥスはいつでも連絡が取れるのだ。

 アクアがウェントゥスを抱っこして、自身の鼻をウェントゥスの鼻にちょこんとくっつけた。するとアクアとウェントゥスを淡い光が包んだ。リンクが完了したのだ。
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