上 下
73 / 196

ドラゴンに乗った少女たち

しおりを挟む
 ダイアンはブルブル震えながら目の前のドラゴンに剣を向けた。ドラゴン相手に剣で勝てるわけがない。だが逃げるわけにはいかない。友達のカーターを置いていくわけにはいかないのだ。

「大丈夫ですか?」

 ドラゴンが口をきいた。鈴が鳴るような女の声だった。ダイアンがほうけていると、ドラゴンから人が降りてきた。少女だ。茶色の髪の可愛らしい少女だった。先ほどの声はこの少女のものだったのだ。

 ダイアンが口がきけないでいると、ドラゴンからもう一人少女が降りて来た。ダイアンは息を飲んだ。ブロンドの髪の、とても美しい少女だったからだ。茶色の髪の少女が再び口を開いた。

「ウェンが血の匂いがしたと言ったんです。貴方はケガをしているんじゃないのですか?」

 ダイアンは様子を見ていたが、このドラゴンと少女たちはどうやら魔法使いの手下ではなさそうだ。ダイアンは口を開いた。

「俺の友人がケガをしてしまったんだ。頼む、助けてくれ!」

 茶色の髪の少女とブロンドの髪の少女は厳しい顔でうなずきあった。少女たちがカーターの元に近づいた。驚いた事に、先ほどまで牛くらいの大きさだったドラゴンが、猫ほどに小さくなったのだ。

 茶色の髪の少女は小さなドラゴンに言った。

「ウェン、この人ひどいケガをしているわ。治してあげて?」
「ピィー」

 小さなドラゴンはカーターの腹に、自身の鼻をちょこんと押し付けた。するとカーターの身体が輝き出した。カーターの腹にあった大きな傷がみるみるふさがっていったのだ。

 魔法だ。このドラゴンは魔法を使ったのだ。カーターの浅かった呼吸が穏やかになった。ダイアンは震える声で少女たちに言った。

「あ、ありがとう」

 少女たちとドラゴンはニコリと笑った。

 ブロンドの髪の少女がダイアンに質問した。何故カーターがこのような大ケガをしたのかと。ダイアンはそこで自分たちが敵に追われている事に思いいたった。そして他にも三人の仲間が森をさまよっている事を。

 ダイアンはたどたどしく説明をした。ブロンドの少女は考えるそぶりをしてから答えた。

「敵がこのあたりで貴方がたを探しているというのならば、この場にい続ける事はよくありません。もうすぐ日が暮れます。貴方たちの仲間はベテランの冒険者でしたら、きっと夜は安全な所で明かすでしょう」

 ダイアンは他の仲間たちと早く落ち合いたかったが、助けてくれたブロンドの少女がこういうのならば反論はできなかった。

 茶色の髪の少女が小さなドラゴンにお願いをした。ここにいる全員を運んでと。するとドラゴンはゾウほどの大きさになった。前には茶色の髪の少女、その後ろにはぐったりして、意識のないカーター。カーターを支えるためにダイアンがその後ろに乗り、最後にブロンドの髪の少女が乗った。

 ドラゴンはぐんぐんと高度をあげた。ダイアンの眼下に広大な森が広がっている。ブロンドの髪の少女がダイアンに、どの辺りで仲間とはぐれたのかと聞いた。

 ダイアンは上空からでの説明は難しかったが、できるかぎり仲間とはぐれた位置、敵にに追われた経路を話した。ブロンドの髪の少女は一つうなずいてからドラゴンに声をかけた。この場から離れて、と。

 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

離縁された妻ですが、旦那様は本当の力を知らなかったようですね?~魔道具師として自立を目指します!~

椿蛍
ファンタジー
【1章】 転生し、目覚めたら、旦那様から離縁されていた。   ――そんなことってある? 私が転生したのは、落ちこぼれ魔道具師のサーラ。 彼女は結婚式当日、何者かの罠によって、氷の中に閉じ込められてしまった。 時を止めて眠ること十年。 彼女の魂は消滅し、肉体だけが残っていた。 「どうやって生活していくつもりかな?」 「ご心配なく。手に職を持ち、自立します」 「落ちこぼれの君が手に職? 無理だよ、無理! 現実を見つめたほうがいいよ?」 ――後悔するのは、旦那様たちですよ? 【2章】 「もう一度、君を妃に迎えたい」 今まで私が魔道具師として働くのに反対で、散々嫌がらせをしてからの再プロポーズ。 再プロポーズ前にやるのは、信頼関係の再構築、まずは浮気の謝罪からでは……?  ――まさか、うまくいくなんて、思ってませんよね? 【3章】 『サーラちゃん、婚約おめでとう!』 私がリアムの婚約者!? リアムの妃の座を狙う四大公爵家の令嬢が現れ、突然の略奪宣言! ライバル認定された私。 妃候補ふたたび――十年前と同じような状況になったけれど、犯人はもう一度現れるの? リアムを貶めるための公爵の罠が、ヴィフレア王国の危機を招いて―― 【その他】 ※12月25日から3章スタート。初日2話、1日1話更新です。 ※イラストは作成者様より、お借りして使用しております。

異世界で料理を振る舞ったら何故か巫女認定されましたけども~人生最大のモテ期到来中~

九日
ファンタジー
女神すら想定外の事故で命を落としてしまったえみ。 死か転生か選ばせてもらい、異世界へと転生を果たす。 が、そこは日本と比べてはるかに食レベルの低い世界だった。 食べることが大好きなえみは耐えられる訳もなく、自分が食レベルを上げることを心に決める。 美味しいご飯が食べたいだけなのに、何故か自分の思っていることとは違う方向へ事態は動いていってしまって…… 何の変哲もない元女子大生の食レベル向上奮闘記――

神様に世界を見てきて欲しいと言われたので、旅に出る準備をしようと思います。

ネコヅキ
ファンタジー
 十七年の生を突然に終えて異世界へと転生をした彼女は、十歳の時に受けた『神託の儀』によって前世の記憶を取り戻し、同時に神様との約束も思い出す。  その約束とは、歴史の浅いこの世界を見歩く事。  学院に通いながら、神様との約束を果たす為に旅立つ準備を始めた彼女。しかし、人を無に帰す化け物に襲われて王都は壊滅。学ぶ場を失った彼女は偶然に出会った冒険者と共に領地へと避難をするのだが――  神様との約束を交わした少女の、旅立ちの序曲。 ・更新はゆっくりです。

ぼっち冒険者の俺ですが、何故か古龍に懐かれています

こうじ
ファンタジー
ロアはソロの冒険者として活動していた。しかし、彼はなりたくてソロになった訳じゃなく出来ればパーティーを組みたかった。信頼できる仲間が欲しかった。しかし、既にソロとして名を上げているロアをパーティーに誘う者はいなかった。そんなある日、ダンジョンを探検していた時、誤って落とし穴に落ちてしまう。その先でロアが出会ったのは古龍の少女ミーナだった。彼女は一族から迫害を受けダンジョンに身を寄せていたのだ。同じぼっち同士のロアとミーナは意気投合、パーティーを組む事にする。ここから最強パーティーの伝説の始まる。

マルグリットは婚約を破棄してもらいたい

真朱マロ
恋愛
マルグリットの元に、一通の手紙が届いた。 一度も顔を合わせたことのない婚約者が、婚約式の準備をするために、とうとうマルグリットの領地までやってくるのだ。 初めての顔合わせを前に、マルグリットは打ちひしがれる。 「クリスティアン様、どうして婚約を破棄して下さらなかったの!」 別サイトにも重複投稿しています

転生したら死にゲーの世界だったので、最初に出会ったNPCに全力で縋ることにしました。

黒蜜きな粉
ファンタジー
『世界を救うために王を目指せ? そんなの絶対にお断りだ!』  ある日めざめたら大好きなゲームの世界にいた。  しかし、転生したのはアクションRPGの中でも、死にゲーと分類されるゲームの世界だった。  死にゲーと呼ばれるほどの過酷な世界で生活していくなんて無理すぎる!  目の前にいた見覚えのあるノンプレイヤーキャラクター(NPC)に必死で縋りついた。 「あなたと一緒に、この世界で平和に暮らしたい!」  死にたくない一心で放った言葉を、NPCはあっさりと受け入れてくれた。  ただし、一緒に暮らす条件として婚約者のふりをしろという。  婚約者のふりをするだけで殺伐とした世界で衣食住の保障がされるならかまわない。  死にゲーが恋愛シミュレーションゲームに変わっただけだ!   ※第17回ファンタジー小説大賞にエントリー中です。  よろしければ投票をしていただけると嬉しいです。  感想、ハートもお待ちしております!

処理中です...