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ダイアン

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 ダイアンは激しく呼吸をした。肩をかして支えている仲間のカーターはなまりのように重かった。早く逃げなければ敵に見つかってしまう。

 そう思うのに、なかなか足は進まなかった。先ほどからダイアンが声をかけても、カーターの返事が少なく小さくなっている。カーターは腹に大ケガをしているのだ。簡単に止血はしたが、だいぶ出血している。早く医者に見せなければ危険だ。

 だがここは森の中。仲間のカーターは深傷を負っている。ダイアンは絶望的な気持ちになった。

 ダイアンは中堅どころの冒険者だった。剣の腕もそこそこ。そのためダイアンは冒険者協会で募集される団体の依頼を受けていた。個人の力量だけては心もとない冒険者たちが集まって依頼をこなすのだ。

 そこでカーターと出会った。彼とは歳も近かった事と、境遇も似ていた。故郷に待っている妻子がいるのだ。カーターはやんちゃな男の子がいる。ダイアンの所はおしゃまな女の子だ。

 カーターは自分の妻の事を、タンドール国一の美人だと言っていた。ダイアンは、彼が話しを盛っていると思っている。何故ならダイアンの妻がタンドール国一の美人だからだ。

 ダイアンはカーターと共に沢山の依頼をこなした。盗賊集団のいっせい捕縛や、麦の刈り入れの手伝いなど。

 今回もそんな依頼の一つのはずだった。依頼内容は、デラスの村に悪さをする山賊三兄弟の捕縛だった。依頼に参加する冒険者は、ダイアンとカーターを含めて五人。他の面子はダイアンたちよりも経験豊富な冒険者だった。だから何事もなく任務を終了して、うまい飯と酒にありつけるはずだったのだ。

 だが予想だにしない事が起こった。山賊三兄弟は、魔法使いを雇っていたのだ。ダイアンたちは山賊三兄弟のアジトを探し出し、アジトの周りの草かげに隠れ、山賊三兄弟を捕らえようとしていた。

 山賊三兄弟がアジトに帰って来た所を、五人の冒険者で捕縛しようとした。だが、ダイアンたちの背後に男が立っていた。

 その男は強力な攻撃魔法をダイアンたちに投げつけて来た。男は魔法使いだったのだ。ダイアンはすんでの所で攻撃魔法を避けたが、カーターは攻撃魔法に当たってしまった。

 ダイアンはカーターを抱えて森の中に逃げ込んだ。三人の冒険者仲間ともはぐれ、魔法使いと山賊三兄弟の報復におびえながら森の中をさまよい歩いていた。

 ガクリとカーターがくずおれた。つられてダイアンも転倒してしまった。ダイアンは焦ってカーターに声をかけた。

「カーター、大丈夫か?!」

 カーターはぐったりとして動かなかった。ダイアンはカーターをあおむけにした。カーターはか細い息をしていた。口が動く。ダイアンに何かを伝えようとしているのだ。

 ダイアンはカーターの口もとに耳を近づけた。カーターが弱々しい声で言った。

「ダイアン、俺は、もうだめだ。置いていけ。頼む、妻と息子に、俺の稼いだ金を渡してくれ。そして、愛していると、」

 ダイアンはたまらず叫んだ。

「何言ってるんだよ!カーター!お前を置いていけるわけないだろう!少し休んだら、出発するからな!」

 ダイアンは泣きたくなった。だが泣いた所で状況が好転するわけでもない。ダイアンは歯を食いしばって、あふれそうになる涙を耐えた。

 突然、上空から音がした。バサリバサリと鳥の羽音のようだ。だが鳥だとすれば、相当巨大な鳥に違いない。そこでダイアンはハッとした。

 もしかすると魔法使いが追いかけて来たのかもしれない。ダイアンたちを探してとどめをさそうとしているのではないか。

 ダイアンはゆっくりと腰の剣を抜き、構えた。何としてもカーターを敵から守らなければいけない。

 ダイアンが荒い息をして様子をうかがっていると、大きな物体が目の前に現れた。ダイアンは驚きすぎて息を飲んだ。目の前には、牛ほどもあるドラゴンがいたのだ。
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