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ゴンゾ男爵

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 ゴンゾは店から出て来た小娘を、いぶかるように見て言った。

「おい、小娘。お前では話しにならん。店の者を出せ!」

 小娘はみけんにしわをよせて答えた。

「なんじゃ貴様は、初対面の者に何たる口の聞き方、無礼であろう!」

 小娘のあまりの生意気な返答に、ゴンゾは怒りに震えた。しばらくすると、のん気な声が聞こえてきた。

「エレノアちゃん。お客さん?」

 ゴンゾが店の奥を見ると、憎きメロディが間抜けな顔をして出て来た。小娘はメロディに振り返って言った。

「メロディ、この者が無礼を働いたのだ!」
「うん。ごめんね、エレノアちゃん。応対に出てもらっちゃって」

 メロディは小娘から視線をゴンゾに向けて言った。

「すみません、お客さん。あれ、ゴンゾじゃん!何しに来たの?!おわびならいいのに。あたしたちは心が広いから、あの時の事はもう水に流してあげるよ」

 メロディの無礼な言動に、ゴンゾは怒りが頂点に達して叫んだ。

「貴様!わしを呼び捨てにするとは!さまを付けんかバカ者!」

 ゴンゾの大声に、店の中からクレアが出て来て言った。

「ゴンゾさま。店の前でギャァギャァうるさいですよ?静かにしてくださいます?」

 クレアの登場に、ゴンゾは大声を飲みこんで笑った。ついにこの瞬間がおとずれたのだ。憎きクレアとメロディに復讐する瞬間が。ゴンゾは低い声でクレアとメロディに言った。

「貴様ら、わしを誰だと思っているのだ。わしは爵位を得たのだ。貴様ら騎士より、位が上なのだ!さぁ、わしにひれ伏して心の底からわびるがよい!」

 それまでゴンゾたちの会話を横で聞いていたそばかすだらけの小娘が会話に入ってきた。

「おい、ゴンゾとやら。お主の爵位は何だ?」

 ゴンゾは小娘の偉そうな態度に腹が立ったが、あえて怒らず言ってやった。

「わしはゴンゾ男爵だ。この中で一番偉いのだ!」
「ほぉ、男爵とな。ならばわたくしの顔を見れば誰だかわかるであろう?」

 小娘の言葉の意味がわからず、ゴンゾは小娘をマジマジと見つめた。だがこの貧相な小娘が誰であるかなどわからなかった。小娘はふんっと鼻で笑って言った。

「わたくしの顔がわからないなど、貴族とたばかっているのではないのか?」
「ぶ、無礼な!わしは正真正銘の男爵だぞ!」

 ゴンゾと小娘の間にメロディが入って言った。

「ゴンゾ男爵さま。この子は今日たまたま遊びに来た、タンドール国第一王女エレノアちゃんだよ?」

 ゴンゾは状況がまるで飲みこめず、カチリと固まった。ゴンゾの脳内は激しく混乱していた。何故汚い小さな花屋にタンドール国の王女がいるのだ。そこでゴンゾはハッとした。小娘のクレアとメロディが騎士の称号を持っている事自体おかしいのだ。もしかすると、クレアたちはタンドール国の王族と何らかの関わりがあるのかもしれない。

 ならばここにいる、貧相な小娘は本当にタンドール国の王女なのだろうか。ゴンゾがあぶら汗をたらしながら固まり続けていると、メロディがエレノアに言った。

「エレノアちゃん。こいつが、グラシアさんにひどい事したんだよ?」
「なんじゃと!」

 エレノアはゴンゾをにらんで言った。

「貴様か!グラシアをいじめたという奴は。グラシアは働き者で気の利く、母上のお気に入りの侍女だ。もし、今後グラシアに何かしようものならばただではおかんぞ!」

 ゴンゾはヒィッと悲鳴をあげた。王女の母といえば、王妃の事だ。ゴンゾははいつくばって頭を地面にこすりつけて叫んだ。

「申し訳ございません!エレノア王女殿下!どうかお許しを!」

 地面に顔をすりつけているゴンゾの耳に、エレノア王女の声がひびく。

「ふん。ゴンゾとやら、クレアとメロディはわたくしの友達です。彼女たちに二度と悪さをしないと誓うならば今回の事は不問にしましょう。二度とわたくしの目の前に現れないように」

 エレノア王女の言葉に、ゴンゾは誓いの返事をした。
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