冒険者になれなかったので花屋始めました

反撃

　クレアが魔法使いに視線を向けると、魔法使いは治癒魔法でギュンターから受けた剣の傷を治していた。魔法使いは大声で叫んだ。

「貴様ぁ！魔力なしの分際でよくも俺に傷をつけてくれたなぁ！殺してやる！殺すだけでは飽き足らない！なぶり殺しにしてやるう！」

　ギュンターが傷の痛みに顔をゆがめてクレアに言った。

「クレア、今しかない。火を持ってきてくれ」

　クレアは思考がまとまらなかった。火をギュンターに渡せば、彼は火薬の導火線に火をつけて魔法使いもろとも死んでしまう。これしか手段はないのだろうか。魔法使いはなおもギャァギャァと叫んでいた。

「お前たちはクズだ！一つのエレメントしか持ち合わせない欠陥品だ！俺は完全なる者、四つのエレメントを操る事を神から許された存在なのだ。一番のゴミは騎士のお前だ！何の魔力も持たない人間は生きるに値しないのだ！」

　魔法使いは聞くに耐えない言葉を吐き散らしていた。突然、メロディが叫んだ。

「その言葉、取り消しなさい！」

　いつもおっとりとしているメロディからは考えられないような激しい口調だった。メロディは低い声で魔法使いに言った。

「ギュンターさんへの侮辱の言葉、取り消しなさい！」
「はぁ？！何言ってやがんだ！無力な植物魔法の小娘！取り消すわけないだろう。この世は強い者が道理であり正義なのだ。無力な者は悪であり滅びる存在なのだ」
「へぇ？この世の中は強い者が道理であり正義なの？それなら貴方の負けよ！ギュンターさんの忠義の心があたしたちを動かした！貴方はギュンターさんの信念に負けて無様に地面にはいずるのよ」
「はぁ？！やれるもんならやってみろよ！」

　クレアはハラハラした。メロディは何故魔法使いをあおるような言葉を言うのだろうか。魔法使いは顔を真っ赤にして怒っていた。メロディは厳しい顔のまま、となりに飛んでいるウェントゥスに言った。

「ウェン！フランマ呼んで！」
「ピィー！」

　ドラゴンのウェントゥスはかん高い鳴き声を発した。森一体にウェントゥスの鳴き声がひびく。ファイヤードラゴンのフランマ。ウェントゥスの守護者。確かに彼女がこの場に来てくれれば、形勢は逆転するだろう。だがフランマがどこにいるのかわからない。フランマがこの場に到着するまでクレアたちが生きていられる保障はないのだ。

　クレアは祈るような気持ちでバスチャンを抱きしめた。突然頭上が暗くなった。クレアたちの真上に大きな黒い穴が出現した。これは空間魔法の出入り口だ。空間魔法から、ゆうぜんと巨大なドラゴンが姿を現した。

　ファイヤードラゴンのフランマだ。フランマは大きな咆哮をあげた。