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暗い影

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 ついに王妃の用意してくれたミルクが底をついてしまった。これからは村や町を回って、お乳の出る女の人を探してミルクをもらわなければいけない。

 クレアたちはウェントゥスの背中に乗り、村に降りてはお乳の出る女の人を探した。村の母親たちは、こころよくバスチャン王子に乳を飲ませてくれた。彼女たちへのお礼には、メロディが沢山の野菜を贈った。

 クレアたちが村々を回りながら東へ進んでいると、ある気配を感じた。クレアたちを見つめる、ジットリとした視線をたえず感じるのだ。クレアは後ろを振り向かないようにギュンターに言った。

「ギュンターさん。私たちつけられてますね?」
「ああ、城を出てからずっとな」
「相手は何者なんでしょうか?いくらミルクを飲ませるために所々降り立っているとはいえ、ドラゴンのウェンの翼についてこられるなんて」
「ああ。おそらく我らをつけているのは、ジョスト大公の雇った魔法使いだろう」

 ギュンターの言葉に、クレアはギクリとした。以前襲われたウィーペラ魔法団の魔法使いの事を思い出した。クレアたちは小さな赤ん坊を連れている。ギュンターは優秀な騎士だが相手が魔法使いならぶが悪い。もし魔法戦になったら、この間のようにウェントゥスが倒してくれるだろうか。

 クレアは自分たちの回りを嬉しそうに飛んでいるドラゴンのウェントゥスを見た。ウェントゥスは、クレアの視線に気づいてピィーと嬉しそうに鳴いた。

 
 その日は町の宿屋に泊まった。ちょうど宿屋のおかみさんがお乳が出るので、そのまま宿泊させてもらったのだ。宿屋の主人にギュンターは、妻を亡くして、幼い赤ん坊と娘二人で旅をしていると説明した。

 宿屋の主人は納得いかなそうな顔をしていたが、ギュンターが金払いがいいのであまり詮索をしない事にしたようだ。

 夜になりギュンターはクレアたちに言った。

「クレア、メロディ。君たちをこのような事に巻き込んで申し訳ないと思っている」
「いいえ、ギュンターさん。私たちは自らの意志でバスチャン王子を守りたいと思っているんです。だから謝ったりしないでください」
「かたじけない。クレア、メロディ。もう一つ頼まれてくれないか」
「何でしょう?」
「我らを監視する者の気配からいって、おそらく一人の魔法使いだろう。私は刺し違えても追手の魔法使いを倒そうと思う。もし私が死んだら、バスチャン王子をタンドール国のはしっこの教会に預けてくれまいか」

 ギュンターの覚悟の言葉にクレアはがく然とした。ギュンターは死をとして追手の魔法使いを倒そうとしているのだ。クレアは恐怖に青白くなっているメロディの顔を見た。クレアの視線に気づいたメロディは、顔をこわばらせながらうなずいた。クレアもうなずき返してギュンターに言った。

「ギュンターさん。私たちで追手の魔法使いと戦いましょう」
「何だと?!危険過ぎる!ドラゴンはともかくお前たちは女の子なのだぞ!」
「ええ。私たちが無力な娘たちである事は承知しています。ですが私たちは冒険者を志す者です。どんな困難にみまわれても必ずやり遂げます」

 ギュンターは困りはてた顔をしたが、クレアとメロディの決心の強さを知り、頭を下げて頼むと答えた。
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