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解毒

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 クレアたちが王妃の寝室に入ると、王妃はコンコンと眠り続けていた。メロディはウェントゥスを抱っこして王妃に近づいた。ウェントゥスは小さな前足を王妃の胸にちょこんと置いた。すると王妃が淡い光りに包まれた。

 それまで青白かった王妃の顔がみるみる赤みを増していった。王妃は小さくほうっと息をはいた。メロディはウェントゥスをクレアに抱っこさせると、王妃の手を取り脈を診た。眠っている王妃の下まぶたを引っ張って見てから、国王とエレノア王女に振り向いて言った。

「ご安心ください。王妃さまの毒は解毒されました」

 メロディの言葉に国王は安どのため息をついた。エレノア王女は王妃の枕元ににすがりついて泣き出した。メロディは王女の背中を優しく撫でていた。

 王妃とお腹の子が助かって一安心だが、まだ楽観はできない。クレアは意を決して国王に進言した。

「国王陛下、わたくし共はいやしい平民です。ですがどうかわたくし共を信じていただけないでしょうか。きっと王妃さまが健やかなお子をお産みになるまでお守りいたします」

 国王はクレアの顔をジッと見てから、一言頼む。と言った。クレアは低頭するとメロディとウェントゥスをうながして城を後にした。


 その日クレアたちは夜遅くに家に戻って来た。メロディもウェントゥスもクタクタなようで、ベッドに入るとすぐに寝息が聞こえてきた。だがクレアはちっとも眠れなかった。

 王妃のお腹の子が女の子だったら、きっとエレノア王女のように大切に育ててもらえるだろう。だが、もしも男の子だった場合。その赤ん坊の王位継承権は第二位になる。そうなれば国王は赤ん坊をどこかに隠し育てるだろう。そして男の子を産んだ事を知る者は、口封じされる。

 クレアはブルリと身体を震わせた。もしかするとクレアとメロディは国王に口封じのために殺されてしまうかもしれない。心から王妃とお腹の子を心配する国王が、そんな事をするなど考えたくはなかった。だが王族の命と、平民の命は命の重みが違うのだ。

「グハァッ。ゴホッゴホッ」

 不安で眠れなかったクレアの腹に、メロディの足が勢いよく乗っかった。クレアは激しく咳をして、涙目になりながらメロディの寝顔を見つめた。足元のウェントゥスもぐっすり眠っている。

 今日のメロディとウェントゥスは大活躍だった。王妃とお腹の子供の命を救ったのだ。それに引きかえ、クレアときたら心配ばかり。クレアは自分の頬をパンと叩いた。クレアは将来冒険者を目指しているのだ。

 冒険者とは、困った人がいれば何の迷いもなく助ける者の事だ。明日の事は明日考えればいい。目の前にいる不安にさらされている親子を助けるだけだ。クレアはやっと気持ちが固まって、目を閉じた。
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