上 下
31 / 196

キャス

しおりを挟む
 これで何軒目の花屋だろうか。キャスは大通りから外れた小道にある小さな花屋の前で二の足を踏んでいた。

 この花屋で無いと言われたら、キャスにはなすすべがなかった。何度デートに誘っても、色よい返事をくれなかった彼女がやっと譲歩してくれたのだ。

 私をデートに誘いたければ、白いカンピオンの花をプレゼントして。

 キャスには聞きなれない花の名前だった。だがようやく彼女がデートを了承してくれるかもしれないのだ。キャスは喜び勇んで城下町で一番大きな花屋に向かった。

 だが白いカンピオンは無かった。キャスは気を取り直して別な花屋に向かった。だが他の花屋にもなかった。そこでキャスは、彼女の欲しがっている花はとても珍しい花なのだと知った。

 大通りから外れた小道にある花屋は、つい最近できたらしい。娘二人がやっている花屋だ。大きな花屋でも無かったのだ、きっとこの花屋でも無いのだろう。キャスは何件も花屋を回り、疲れてしまったのだ。

 キャスは小さな花屋を遠目に見ながら何度も同じ場所を歩き回っていた。はた目から見たら完全に不審者だ。

「何かお探しですか?」

 キャスがうんうんうなりながらウロウロ歩いていると、突然声をかけられた。そこには栗色の髪の毛と大きな茶色の瞳の可愛らしい少女が立っていた。キャスはドギマギしながら言った。

「あ、あの。白いカンピオンの花、ありますか?」

 可愛らしい少女は、急に真剣な顔になって言った。

「お客さま、白いカンピオンをお探しですか?」

 キャスがあいまいにうなずくと、少女は少しお待ちくださいと言って花屋の奥に引っ込んでしまった。キャスはどうすればよいのかわからず花屋の前で立ちすくんでいると、花屋からもう一人少女が出てきた。

 キャスはぼう然としてしまった。とても美しい娘だったからだ。プラチナブロンドの髪、瞳はサファイアのように透き通っていた。美しい娘は機嫌悪そうにキャスに言った。

「お客さま、メロディに何か言いましたか?」
「は、はい。白いカンピオンの花が欲しいと言いました」

 美しい娘は首をかしげた。すると、花屋から栗色の髪の少女が大きな本を抱えてもう然と走って来て叫んだ。

「お客さま!お待たせしました!白いカンピオンの花は、人が立ち入らない奥地の崖に生息するといわれています。クレアちゃん!あたし、ウェンと一緒に探してくる!留守番お願い!」
「メロディ。ちょっとお待ち」

 栗色の髪の少女は、クレアと呼んだ娘にそれだけ言うと、再び花屋に駆け込もうとした。クレアがそれを止めて、キャスに向き直って言った。

「お客さま、何故白いカンピオンの花が必要なのですか?」
「ええ、彼女に言われたんです。白いカンピオンをプレゼントしてくれれば、デートしてくれるって」

 それを聞いた、クレアという娘は、たいそう顔をしかめて言った。

「その女性の名前は?」
「?!。何で君にそんな事言わなけりゃいけないんだ?」

 クレアの失礼な言い方に、キャスはカチンときてキツい口調で返した。

「危険な場所に咲いている花を取りに行くか検討するためです。ねぇ、メロディ。その花は珍しい花なの?」

 クレアはキャスから視線を外して、メロディと呼んだ栗色の髪の少女に質問した。

「うん!とっても珍しいよ!ごくまれに高いがけの中腹に咲いてるんだって」

 クレアはうなずいてキャスに向き直って言った。

「聞いた通りです。その彼女は貴方の誘いを断りたくて珍しい花をプレゼントしてと言ったのではありませんか?」

 クレアの言葉にキャスは怒りが湧いたが、思い当たるふしもあった。彼女は、キャスがいくら話しかけても、気のない返事しか返してくれていなかった。もしかするとクレアの言う通りなのかも知れない。キャスは小声で言った。

「彼女の名はコレット」

 クレアはうなずくと、キャスに三日後花屋の前に来るよう告げた。その日は花屋が休業日なのだそうだ。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

離縁された妻ですが、旦那様は本当の力を知らなかったようですね?~魔道具師として自立を目指します!~

椿蛍
ファンタジー
【1章】 転生し、目覚めたら、旦那様から離縁されていた。   ――そんなことってある? 私が転生したのは、落ちこぼれ魔道具師のサーラ。 彼女は結婚式当日、何者かの罠によって、氷の中に閉じ込められてしまった。 時を止めて眠ること十年。 彼女の魂は消滅し、肉体だけが残っていた。 「どうやって生活していくつもりかな?」 「ご心配なく。手に職を持ち、自立します」 「落ちこぼれの君が手に職? 無理だよ、無理! 現実を見つめたほうがいいよ?」 ――後悔するのは、旦那様たちですよ? 【2章】 「もう一度、君を妃に迎えたい」 今まで私が魔道具師として働くのに反対で、散々嫌がらせをしてからの再プロポーズ。 再プロポーズ前にやるのは、信頼関係の再構築、まずは浮気の謝罪からでは……?  ――まさか、うまくいくなんて、思ってませんよね? 【3章】 『サーラちゃん、婚約おめでとう!』 私がリアムの婚約者!? リアムの妃の座を狙う四大公爵家の令嬢が現れ、突然の略奪宣言! ライバル認定された私。 妃候補ふたたび――十年前と同じような状況になったけれど、犯人はもう一度現れるの? リアムを貶めるための公爵の罠が、ヴィフレア王国の危機を招いて―― 【その他】 ※12月25日から3章スタート。初日2話、1日1話更新です。 ※イラストは作成者様より、お借りして使用しております。

異世界で料理を振る舞ったら何故か巫女認定されましたけども~人生最大のモテ期到来中~

九日
ファンタジー
女神すら想定外の事故で命を落としてしまったえみ。 死か転生か選ばせてもらい、異世界へと転生を果たす。 が、そこは日本と比べてはるかに食レベルの低い世界だった。 食べることが大好きなえみは耐えられる訳もなく、自分が食レベルを上げることを心に決める。 美味しいご飯が食べたいだけなのに、何故か自分の思っていることとは違う方向へ事態は動いていってしまって…… 何の変哲もない元女子大生の食レベル向上奮闘記――

神様に世界を見てきて欲しいと言われたので、旅に出る準備をしようと思います。

ネコヅキ
ファンタジー
 十七年の生を突然に終えて異世界へと転生をした彼女は、十歳の時に受けた『神託の儀』によって前世の記憶を取り戻し、同時に神様との約束も思い出す。  その約束とは、歴史の浅いこの世界を見歩く事。  学院に通いながら、神様との約束を果たす為に旅立つ準備を始めた彼女。しかし、人を無に帰す化け物に襲われて王都は壊滅。学ぶ場を失った彼女は偶然に出会った冒険者と共に領地へと避難をするのだが――  神様との約束を交わした少女の、旅立ちの序曲。 ・更新はゆっくりです。

ぼっち冒険者の俺ですが、何故か古龍に懐かれています

こうじ
ファンタジー
ロアはソロの冒険者として活動していた。しかし、彼はなりたくてソロになった訳じゃなく出来ればパーティーを組みたかった。信頼できる仲間が欲しかった。しかし、既にソロとして名を上げているロアをパーティーに誘う者はいなかった。そんなある日、ダンジョンを探検していた時、誤って落とし穴に落ちてしまう。その先でロアが出会ったのは古龍の少女ミーナだった。彼女は一族から迫害を受けダンジョンに身を寄せていたのだ。同じぼっち同士のロアとミーナは意気投合、パーティーを組む事にする。ここから最強パーティーの伝説の始まる。

マルグリットは婚約を破棄してもらいたい

真朱マロ
恋愛
マルグリットの元に、一通の手紙が届いた。 一度も顔を合わせたことのない婚約者が、婚約式の準備をするために、とうとうマルグリットの領地までやってくるのだ。 初めての顔合わせを前に、マルグリットは打ちひしがれる。 「クリスティアン様、どうして婚約を破棄して下さらなかったの!」 別サイトにも重複投稿しています

転生したら死にゲーの世界だったので、最初に出会ったNPCに全力で縋ることにしました。

黒蜜きな粉
ファンタジー
『世界を救うために王を目指せ? そんなの絶対にお断りだ!』  ある日めざめたら大好きなゲームの世界にいた。  しかし、転生したのはアクションRPGの中でも、死にゲーと分類されるゲームの世界だった。  死にゲーと呼ばれるほどの過酷な世界で生活していくなんて無理すぎる!  目の前にいた見覚えのあるノンプレイヤーキャラクター(NPC)に必死で縋りついた。 「あなたと一緒に、この世界で平和に暮らしたい!」  死にたくない一心で放った言葉を、NPCはあっさりと受け入れてくれた。  ただし、一緒に暮らす条件として婚約者のふりをしろという。  婚約者のふりをするだけで殺伐とした世界で衣食住の保障がされるならかまわない。  死にゲーが恋愛シミュレーションゲームに変わっただけだ!   ※第17回ファンタジー小説大賞にエントリー中です。  よろしければ投票をしていただけると嬉しいです。  感想、ハートもお待ちしております!

処理中です...