上 下
92 / 108

カッタの代償

しおりを挟む
 レオンとアルスは、カッタの側に駆け寄った。カッタは魔物の力で変わっていた黒くてトゲトゲの姿ではなく、元の人間の姿に戻っていた。

 レオンはホッとしてカッタに声をかけた。

「カッタ。大丈夫?」

 レオンはカッタに声をかけたが、カッタは無反応だった。カッタは目を開いているのに、レオンを見ていないようだった。まるで人形のようなカッタの状態に、レオンは不安になってとなりのアルスを見上げた。アルスは険しい顔をして、カッタを調べた。

 アルスは重いため息を吐いてからレオンに口を開いた。

「心が無くなっている。・・・、レオン、こころして聞くのじゃ。カッタは召喚魔法を使って、魔物を呼び出し、契約してしまった。これは魔物と契約した代償じゃ」
「えっ?!じゃあカッタずっとこのままなの?!」
「そうかもしれない。もしかすると心が戻るかもしれない。それが一年後なのか十年後なのかオレ様にもわからん」

 レオンはくちびるをかみしめた。レオンはごう慢で残酷なカッタが心の底から嫌いだった。だがそれはレオンに対してのカッタだ。カッタには両親がいて、両親はカッタの事を深く愛していた。カッタの両親が、今のカッタを見たら、とても悲しむだろう。

 ふさぎこんでいるレオンに、アルスが言った。カッタを両親の元に送り届けてやろうと。レオンは力無くうなずいた。するとレオンの身体かフワリと浮いた。アルスが風飛行魔法を使ったのだ。

 アルスとレオン、そして動く事も話す事もできなくなってしまったカッタは空中に浮き、カッタの自宅を目指した。

 カッタの両親と、その契約精霊たちは、カッタの変わり果てた姿にたいそう悲しんだ。レオンとアルスがカッタの両親にわびると、彼らは涙ながらに否定した。

 悪いのは自分たちの息子だ、レオンとアルスには何の罪もないと。アルスにうながされ、レオンはカッタの家を辞した。

 カッタの家を出ると、アルスは子供の姿になった。レオンはアルスの小さな手を握りながら言った。

「ねぇ、アル。僕がカッタにできる事はなかったのかな?」
「何じゃレオン。カッタに殺されかけたのに、そんな事を考えておったのか?」
「うん。おかしいかな?」
「いいや。そんなレオンだからこそ、オレ様はレオンと契約したのじゃ」
「ありがとう、アル。ねぇ、僕がカッタにもっといきどおって、怨み事を言えば、そこまでカッタは僕を怨まなかったのかな?」
「そうかもしれん。そうじゃないかもしれん。過ぎてしまった事をあれこれ考えるのは無益な事じゃ。特にこれからの未来に生かせない事柄はな」

 レオンは黙ってアルスの言葉を反すうしていた。そしてある決意を持って口を開いた。

「ねぇ、アル。これから北にある辺境の地に行きたいんだ」
「・・・。魔物とあいまみえる決意ができたのか?レオン」
「うん。本当言うと魔物は怖い。でも、魔物の脅威が王都の近くまで迫っているのなら、僕はそれを確かめたい。それに、父さんとグラディウスの手がかりが掴めるかもしれない」
「よし、そうと決まれば北へ出発じゃ!」
「うん!」

 レオンとアルスは新しい目的地に歩き始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

最弱会社員の異世界サバイバル 特殊スキルで生き残る

塩爺
ファンタジー
会社員だった俺はある事情からトラックに跳ね飛ばされて異世界に飛ばされる。 跳ね飛ばされたショックからか自分の名前が思い出せない俺を更なる悲劇が襲う。 異世界に相応しいモンスターの出現、現世ではありえないその脅威にただ逃げ惑う。 そこで出会った竜族の少女 リュオに付けられた俺の名前は『ライス』、ご飯と言う意味だ。 リュオは隙あらば俺を食べようと狙って来る。 食べられまいと抵抗する俺とリュオの異世界の冒険が始まる。 冒険を続ける中で俺達は竜徒や竜族の強敵に出会い戦う。 カイトやポーという新たな仲間達を加えてライスの旅の行き着く先は?

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~

未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。 待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。 シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。 アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。 死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

処理中です...