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クラーク伯爵家

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 レオンは豪華な屋敷を、口をポカンと開けて見上げていた。レオンは生まれてこのかた、これほど大きく立派な屋敷を見た事がなかったからだ。

 レオンがぼんやりしていると、アルスと手をつないでいるガブリエルがせき立てた。

「レオン、何をしている。こっちだ」

 ガブリエルはかって知ったるで、スタスタとアルスを連れて歩いて行ってしまった。レオンは慌てて後に続く。どうやらガブリエルは何度もこの屋敷をおとずれているようだ。

 レオンたちは屋敷の裏口である、使用人口から屋敷内に入った。ガブリエルはどんどんと進んで行く。あれよという間に、レオンは豪華な屋敷の一室に通された。

 そこには五十代くらいの理知的な男性が、ゆったりと書斎のイスに座っていた。ガブリエルが小声でレオンに耳打ちをする。この屋敷の主人、クラーク伯爵なのだそうだ。

 クラーク伯爵は笑みを浮かべて口を開いた。

「君たちがレオンとアルスだね?ガブリエルから話しは聞いている。我々の作戦にぜひ協力してほしい」

 クラーク伯爵は、高い地位なのにもかかわらず、一冒険者のレオンたちに丁寧な物言いをした。そこからも、クラーク伯爵の心の広さがうかがえた。

 レオンは慌てて頭をさげ、あいさつをした。クラーク伯爵はうなずいて答えた。

「では、この後の事は娘のマーガレットに任せるとしよう」

 時を見計らったように、部屋のドアがノックされた。部屋の中に、レオンと同い年くらいの豪華なドレスを着た女の子が入室して来た。女の子は丁寧に父親にあいさつをし、レオンたちにもおじぎをした。

 ガブリエルは、マーガレットと呼ばれた伯爵の娘とも面識があるらしく、二人は親しげに会話をしていた。

 伯爵令嬢のマーガレットは、伯爵とガブリエルの作戦も熟知しているらしく、レオンとアルスに依頼に参加する事への感謝をのべた。

 レオンたちは別室に案内されて屋敷の使用人としておかしくない服に着替えなければならなかった。

「僕嫌だよ!こんな服!」

 レオンは手渡された服を見てがく然とした。それは女性用のメイドドレスだったからだ。

「レオン。お前は俺と一緒に行動してもらうんだ。だからこの格好をしてもらわなければ困る」

 すでにメイドドレスに身を包んだガブリエルは、表情を変えずに言い放った。

 メイドの姿になったガブリエルはとても美しかった。ふくよかな胸、キュッとしまった腰、ふわりと広がるドレスのすそ。ガブリエルはどこから見ても美しい女性だった。レオンは不服そうに口ごたえした。

「じゃあガブが執事の格好をすればいいじゃないか。僕はその見習いって事でさぁ」

 レオンの言葉に、マーガレットは驚くべき事を言った。

「何を言っているの、レオン。ガブが男の格好をしたらおかしいじゃない」

 マーガレットの言葉にレオンはきょうがくした。まるでガブリエルが女性である事を疑わない発言だ。

 どうやらガブリエルは、この依頼の人々に、自身が女性である事を打ち明けているようだ。

 レオンはとばっちりで女装をさせられる事となってしまったのだ。レオンがうらみがましそうにガブリエルを見ると、ガブリエルは涼しげな無表情で無視を決め込んでいた。


 

 
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