召喚魔法で幼児が現れました僕がなりたい職業は保父さんではなく冒険者なのですが

治癒魔法

　ドンはゴメスの側にひざまずくと、治癒魔法を始めた。ゴメスの太ももが光り出す。これでゴメスは助かるかもしれない。だがドンの顔は真っ青だった。

　ゴメスが荒い呼吸をしながらドンに言った。

「ドン。レオンとアルスを連れて山を降りろ。それで、お前は冒険者辞めろ。お前、向いてねぇよ。ドン、お前は魔法を小器用に使える。冒険者辞めて、魔法を使いながらまじめに働け。そんで元かみさんに土下座して、息子に会わせてもらえ」
「・・・。そんなの、余計なお世話だよ！俺は、自分の意思で冒険者やってるんだ！無鉄砲なゴメスが心配で仕方なく冒険者やってたんじゃねぇよ！」
「は！言ってろ」

　レオンはゴメスとドンの会話が、まるで最後の会話のようで、涙があふれて仕方なかった。そんなレオンを見たアルスが怖い顔で言った。

「泣くなレオン！泣いてゴメスが助かるのか？！それなら大いに泣け！だが泣いて自体が好転せねば、自分のできる事を考えろ！」
「ヒック、ヒック。アル、何をすればいいんだろ？」
「ゴメスの太ももをツタ魔法で二重にしばれ。だが、しばりすぎてはいかんぞ？血流が完全に止まってしまえば、血液が凝固して、固まった血液が脳や心臓にいってしまえば、それで死んでしまうぞ」

　レオンは鼻をグズグズいわせながら、アルスの指示にしたがった。アルスはドンの治癒魔法をジッと見てから口を開いた。

「おい、ドン。さっきから治癒魔法を使っているが、全然出血が止まらんではないか！」
「そんな事言ったって！一生懸命やってるよ！」
「ならばドンよ。お前、どこを最初に治癒させておるのだ？」
「？。傷口だよ？」
「あほか！最初にふさぐのは血管じゃ！だから血がちっとも止まらんのじゃ！血管の次は神経、その次に斬り裂かれた筋肉。そして最後に傷口じゃ」
「ええ？！そんな細かい事できないよ！第一、血管なんて肉眼じゃ見えないよ！」
「ばか者！想像するのじゃ。治癒魔法をする上で、人体の解剖図は頭に入っておるであろう？」
「えっ？！解剖図なんて治癒魔法学の教科書でチラッと見たくらいで覚えてないよ」
「バカ者！それだから国家魔法使い試験とやらに落ちるのだ！もういい！オレ様が血管と神経をつなぐ。お前は傷口と筋肉をふさげ！」

　アルスの小さな両手が輝き出す。アルスも治癒魔法を発動させたのだ。もしかしたらゴメスは助かるかもしれない。レオンは泣くのをこらえて、ゴメスの太ももをしばっているツタ魔法に集中した。