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ガブリエルの危機

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 レオンはがけから落ちそうになった時に助けられたのをきっかけに、ガブリエルとよく話すようになった。

 ガブリエルは子供が好きなようで、アルスの事も可愛がってくれた。訓練が終わり、夕食を食べた後、自然とガブリエルがレオンの部屋に来て話しをするのが日課になった。

 そこでレオンにある疑問が湧いた。ガブリエルは自分の事を俺と言っているから、おそらく男性なのだろう。だが、穏やかにアルスを抱っこしながら話しをしていると、彼が何だか女性に見えてくるのだ。

 もう一つの疑いは、ガブリエルは普段からずっと胸当てをしたまま外さないのだ。それはレオンが風呂上がりでくつろいだ格好をしている時でも変わらなかった。

 もしレオンが、ガブリエルの事を女性に見えるなどと言えば、怒りっぽい彼の事だ。きっと激怒するに違いない。

 その時ガブリエルはアルスの名前の話しを聞いていた。レオンがアルスの事をアルと略するので、本当の名前は何かと質問したのだ。

 アルスは得意げに、自分はアルスだと名乗った。それを聞いたガブリエルは嬉しそうに答えた。

「ほう。いい名をもらったな、アル。アルスとは戦の神アルスの名ではないか」
「おお、ガブはアルスの事を知っているのか?!」
「当たり前だ。俺が一番目標にしている存在たからな」

 アルスは自身の事を知っているガブリエルに喜んでしまい、余計な事まで口走っている。

「ほほう。アルスを目標にしているとはよい心がけじゃ。オレ様が神の力をしんぜてやろう」

 レオンはアルスが神だという事が露見するのではないかとヒヤヒヤしていたが、ガブリエルは小さな子供の話しだと思って優しく、そうだなと答えていた。

 アルスがウトウトし出したので、今夜はお開きになった。眠ってしまったアルスに毛布をかけてやっていると、枕元にハンカチが置いてあるのを見つけた。アルスがくしゃみをして、鼻水を垂らした時、ガブリエルがポケットからハンカチを出してぬぐってくれたものだ。

 レオンが手に持つと、ピンク色に花の刺しゅうがしてある可愛らしいものだった。洗って返そうかとも思ったが、大切な物だといけないので、レオンはガブリエルの後を追った。

 レオンがガブリエルの部屋をノックすると、返事が無かった。仕方なくドアを開くと、ガブリエルは不在だった。風呂にでも行ったのだろうか。ガブリエルは集団で風呂に入るのを嫌がって、いつも夜中に風呂に入っているようだ。

 レオンが風呂場に行ってみると、そこにもガブリエルはいなかった。夜の特訓に行ったのかとも思ったが、彼は最近夜の特訓はしていないと言っていた。

 レオンは胸さわぎがして、ガブリエルを探す事にした。ガブリエルは研修生の中でも群を抜いて強い剣士だった。そのため、やっかみを持つ者も少なくなかった。レオンは、ガブリエルに嫉妬している奴らが、いつか彼に悪さをするのではないかと不安だったのだ。

 レオンがガブリエルに忠告すると、彼は笑って心配ないと答えた。自分の剣は他の研修生などには負けないと。

 一対一ならばガブリエルは負けないだろう。だがガブリエル一人に対して大人数ならば、結果はわからないのではないか。

 レオンは夜の研修所を走り回った。やがて、研修所の裏手までやって来た。そこで大人数の人の声を聞いた。

 レオンが声のする方に行くと、そこには探していたガブリエルがいた。しかも、ガブリエルをよく思っていない研修生たちにはがいじめにされていたのだ。
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