見習い動物看護師最強ビーストテイマーになる

盛平

文字の大きさ
上 下
96 / 118

クリフォードとパンテーラ

しおりを挟む
 クリフォードはジャガーの霊獣パンテーラにまたがり、仲間の精霊ノーマが作ってくれた巨大なツタを足場にして、高速での移動を再開した。パンテーラは風魔法を使うので、クリフォードも自身の身体に風強化魔法をまとわせて共に高速移動を続けた。フードを被った魔王バモンは絶えずクリフォードたちに攻撃魔法をしかけ、魔王に操られている水の精霊もしかりだった。クリフォードとパンテーラは的確に攻撃魔法を防御魔法で回避し、魔王バモンに剣を繰り出した。

 クリフォードは、五十年前の事をありありと思い出し、無意識に笑いをもらしていた。クリフォードを乗せている相棒のパンテーラは、ため息をつきながら言った。

『おいクリフ、緊張感が無さすぎるぞ?何を笑っている』
「すまんパンテーラ。ゼノの奴がわしらに心配そうな顔を浮かべていたから、つい昔の事を思い出して笑ってしまったのだ」
『はぁ、クリフとドグマはいつも楽観的だったからなぁ。ゼノはお前たちに相当苦労しただろう』
「そうじゃな。ユリアは頑固で融通が効かないし、わしとドグマは楽天家じゃからの。心配性なのはゼノだけじゃ」

 クリフォードは五十年前の、魔王バモンとの戦いを思い出していた。クリフォードは魔王と戦っていても、決して悲観な気持ちになる事はなかった。自分たちは魔王に必ず勝利すると確信していたからだ。何故なら、クリフォードと共に戦ってくれる戦士ドグマと、相棒のパンテーラがいてくれる。そして後ろにはヒーラーのユリア、召喚士ゼノとその相棒のノーマがいてくれたからだ。クリフォードが大ケガをして後退した時も、ゼノは不安そうな顔をしていた。ゼノのその顔が何だか面白くて、クリフォードは吹き出してしまった。するとゼノは緊張感が無いといって怒っていた。ゼノは五十年経って年老いてはいるが、ちっとも変わらなかった。楽観的なクリフォードをたしなめるのはゼノの役目なのだ。

 クリフォードはゼノにカツを入れられ気を引き締めた。本当の事を言うと、クリフォードもほんの少しだけ弱気になっていたのだ。今ここには戦士ドグマとヒーラーのユリアはいない。その事がクリフォードには思ったよりもショックだった。だがゼノは若い召喚士のエイミーとピピ、テイマーのバートとポーをともなって来てくれた。クリフォードはどんなに嬉しく頼もしく感じた事か。クリフォードとゼノの志しを継ぐ若者がいてくれるのだ。クリフォードはにわかに気力がわいた。死にぞこないの魔王バモンに負ける気などさらさらなかった。

 だが魔王バモンは、クリフォードの事を年老いた老いぼれと認識しているようだ。それはバモンの思い違いに過ぎない。クリフォードは今年で八十二歳になるが、身体の衰えをまるで感じない。それは霊獣のパンテーラと契約しているからに他ならない。パンテーラと契約して、身体の老化はゆっくりとなり、そして肉体年齢は魔王バモンを倒した三十代の頃とまるで変わらなかった。

 パンテーラの高速移動で魔王バモンの間合いに入った。クリフォードが持つ大きな剣がうなる。クリフォードは素早い剣さばきでバモンの両手を斬り落とした。バモンも負けてはおらず、素早く両手を再生させ、強力な攻撃魔法をクリフォードに放った。クリフォードの左肩に攻撃魔法が当たった。クリフォードは素早く治癒魔法で肩の傷口をふさいだ。パンテーラが叫ぶ。

『クリフ!大丈夫か?!』
「なあにかすり傷じゃ」

 クリフォードは左肩の痛みに耐えながら、現在戦いの場になっている王の間を見下ろした。壁や床に沢山の攻撃魔法を受け、辺りはメチャクチャだった。これを宰相のガロアが見たら大激怒するだろうなぁ、と思った。下ではゼノの孫娘エイミーとピピがサイの霊獣と、テイマーのバートとポーがゾウの霊獣と戦っていた。そして、クリフォードの古くからの仲間ゼノとノーマは水の精霊と、魔王バモンの攻撃をしていた。だが、今はクリフォードとパンテーラに対する水の精霊の攻撃は止んでいる。クリフォードはニヤリと笑った。どうやらエイミーたちとバートたち、ゼノとノーマは戦っていた相手を制圧したようだ。それならばもう遠慮はいらない、思いっきり魔王バモンと戦う事ができる。

 クリフォードは大剣を構え直すと、パンテーラに合図した。このまま突き進め、狙いは魔王バモンただ一人。パンテーラは返事の代わりにガオウッと、猛々しく吼えた。パンテーラは高速風魔法をさらに強める。クリフォードもそれに呼吸を合わせた。もはやバモンの肉眼では、クリフォードとパンテーラを捉える事はできないだろう。クリフォードは再び魔王 バモンの間合いに入ると、首と胴体と手足をバラバラに斬り落とした。バモンは治癒魔法で、自身の首と胴体、手足をくっつけようとする。だがそのたびにクリフォードはバモンを斬った。やがてバモンの再生が停止し、そして重力に従い落下を始めた。バモンの身体だった肉塊は、ボトボトと床に落ちていった。クリフォードはパンテーラに合図して地面に降り立った。バモンの肉塊は、サラサラと灰になって消えていく。魔物が死を迎えると灰となり消えてしまうのだ。バモンの頭部がクリフォードに言った。

「おのれぇ、死に損ないのジジイのくせに、よくもこのわしに深手を負わせたな」


 クリフォードは魔王バモンの成れの果てを見つめながら答えた。

「バモンよ、お主は二つわしらを見くびった。一つはわしらを老いぼれと軽んじた事。そしてもう一つは、信じあえる仲間を持たなかった事だ。お主は、精霊や霊獣を操って仲間にしたと思っていたようだが、操られた彼らはまるで人形のようではないか。彼らは本来の実力のほんの少しも出してはいなかった」
「信頼?!仲間?!何とおろかしい事よ。浅ましき人間の勇者よ、せいぜいつかの間の平安を楽しめ。わしは何度だって復活し、貴様らを根絶やしにしてくれるわ」

 クリフォードはバモンを哀れんだ瞳で見下ろしていた。バモンの身体はもうほとんど消えていた。クリフォードは芯のある声で言った。

「ああ、何度でも来るがいい。その時にはまた仲間と共に貴様を倒すまでだ」

 クリフォードの声がバモンに届いたかわからない。バモンは消えてしまった。

 

 
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろうでも公開しています。 2025年1月18日、内容を一部修正しました。

処理中です...