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バートとポー

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 バートは自身の顔に当たる熱気に小さく息をはいた。バートとポーの前にいるゾウの霊獣は現在もなお、バートとポーを炎の魔法で苦しめていた。ポーはどうにかゾウの霊獣を無傷で保護しようとやっきになっていて、風防御拘束魔法しか使用しなかった。そのためポーの魔力はだんだんと削られていった。オウムの霊獣ポーと契約しているバートは、彼女の魔力がもう残り少ない事に気づいていた。だがバートはそんな彼女にアドバイスの一つすらできない。操られている霊獣にはバートのテイムは効かない、バートは無力な人間でしかないのだ。

 バートは小さな頃から動物が好きだった。小さな命を愛おしいと思う気持ちが強かったのだ。だがある時、野犬に追いかけられた事があった。森で道に迷い、野犬のテリトリーに入ってしまったのだ。野犬たちはバートに怒り、吠えながら追いかけて来たのだ。だがその後バートを探しに来た父親が野犬たちを追い払ってくれて事なきを得たのだ。だがその後から、バートは鋭いキバのある肉食獣に恐怖心を抱くようになってしまった。それまで愛らしいと思っていた仔犬にすら恐怖を感じるようになった。バートは自身に厳しい性格だった。どうにかしてこの恐怖心を克服したいと考えた結果がテイマーという職業だった。

 テイマーは、自身の強い覇気を対象動物に当て、相手を意のままに操る技術だ。バートはテイマーの学校で一番優秀な生徒だった。バートはテイマーの学校を卒業してから、どんな巨大でどう猛な野獣が相手でも、必ず屈服させる事ができた。そして勇者の仲間である伝説の召喚士ゼノの信念に感銘を受けて、ゼノの活動に参加する事にした。だがゼノが保護し守るべきものは、動物だけではなく、霊獣も入っていたのだ。勿論バートはテイマーの学校で霊獣語精霊語を学んでいたが、実際に巨大な霊獣を目の当たりにすると恐怖に身がすくんだ。バートは本当は、ずっと無理をしていたのだ。自身の恐怖心を克服するためにテイマーという職業を選んだが、霊獣と対じする事には激しい恐怖感がともなった。本当は怖くて怖くて逃げ出してしまいたかったのだ。

 そんな時ポーに出会ったのだ。彼女はケガをして保護された霊獣ではなかった。オウムの霊獣ポーは、ゼノたちの霊獣の保護活動を耳にして興味を持ってくれたのだ。ポーは人間語に長けた霊獣で、自らゼノの活動の手助けを買って出てくれたのだ。彼女はとても冷静でそして慈悲深く優しい霊獣だった。ある時ポーがバートに言ったのだ。

「バート、貴方はとても恐怖心を感じているのね?」

 バートはポーに心の中を見透かされて、不機嫌になり答えた。

「ポー、君は僕の心が読めるのかい?だとしてもマナー違反じゃないか」
 
 ポーは真っ黒な愛くるしい瞳をクリクリさせて言った。

「バート、不快な気持ちにさせたなら謝るわ。私は人間の心の中を読めるのではなくて、何となく感じるのよ」

 ポーのその言葉にバートは警戒の色を弱めた。ポーは言葉を続けた。

「ねぇバート、私と契約しない?そうすれば、もし貴方に危険が及ぶことがあれば私が守ってあげられるわ」

 ポーの提案はバートにとっては願ってもない事だった。バートはポーの提案を受けた。ポーと契約した事により、バートは肩に力が入らないでテイムをする事ができるようになった。もし強大な力を持つ霊獣のテイムに失敗しても、ポーが助けてくれるからだ。

 ポーは魔力が尽きかけてきた事により、空中を飛ぶ事をやめ地上に降りてゾウの霊獣に拘束魔法を使い続けていた。バートは心配でたまらなくなり、ポーを抱き上げて言った。

「ポー、一旦退却しよう。これ以上は君の魔力が持たない」

 バートがポーの顔を覗き込むと、彼女はひへいしていたが瞳には強い意志が満ちていた。

「バート、操られたゾウの霊獣を見捨てる気?」
「そうじゃないけど、魔力の尽きかけたポーと無力な僕ではゾウの霊獣を保護する事は無理だよ」
「・・・、バートよく聞いて?私が貴方と契約したのは、バートが弱いから私が助けてあげようと思ったからじゃないのよ?バート、貴方は強い意志の力を持っているわ。貴方は、自分は霊獣なんかに敵いっこないって思っているかもしれないけど、貴方の意志の強さは霊獣にだって負けはしないわ。私はバートが、霊獣と人間のかけ橋になれる存在だと思ったのよ、だから貴方と契約したの」

 バートは小さなポーを抱き上げながら息を飲んだ。バートはずっと霊獣のポーに守られていた。それは自分が弱いから、強いポーが守ってくれているのだと思っていた。事実その通りだった。バートはゴクリとツバを飲み込んでから、今にもバートたちに襲いかかろうとしているゾウの霊獣の前に一歩足を踏み出した。そして大声で言い放った。

「止まれ!!」

 途端にゾウの霊獣は苦しみ出した。やはり操りの魔法を受けているため、バートがテイムを行うと二重の命令になりゾウの霊獣はそれにあらがっているようだ。だがポーの魔力が尽きかけている以上、この場は自分が何とかしなければいけない。テイムという技術は人間の強い意志、覇気を対象動物に当てて命令する事だ。ゾウの霊獣をテイムした以上、バートは一瞬もゾウの霊獣から目線をそらす事はしなかった。ゾウの霊獣はバートのテイムを弾き飛ばそうと大暴れしている。バートは歯を食いしばりながら耐え続けた。足元にポタポタと何かがこぼれ落ちた、見ると血だった。どうやらバートは鼻血を出しているようだ。だが今はそんな小さな事にかまっていられない。頭はガンガンし、心臓はバクバクと破裂しそうな程苦しいが、ゾウの霊獣のテイムを解くわけにはいかない。バートは大きく息を吸い込んで叫んだ。

「高貴なゾウの霊獣よ!あなたは魔物の操り魔法なんかに負けるはずがない!どうか魔物の魔法に打ち勝ってください!」

 ゾウの霊獣はバートのテイムに苦しみ、バートたちを攻撃するため魔法を発動しようとした。バートは腕に抱きしめているポーに穏やかな笑顔で笑いかけて言った。

「ポー、飛べるかい?少し離れていてくれないか?」

 おそらくバートはゾウの霊獣の攻撃を抑え込む事ができないだろう。だからせめてポーだけでも安全な所に避難させたかった。バートを見上げたポーは笑顔を浮かべて答えた。

「私は貴方の契約霊獣よ?いつも一緒よ。バート、貴方は最後までゾウの霊獣にテイムし続けて」

 バートは強くうなずくとゾウの霊獣をにらんだ。動きを止める指示を続ける。ゾウの霊獣はもがき苦しみ炎の攻撃魔法を作り出した。バートは逃げる事はせずテイムし続けた。だがゾウの霊獣の抵抗の方が強かったようだ。炎の魔法がバートたちに今にも向かってきそうだった。その時、バートたちの前に一頭の牡牛が躍り出て来た。そして強力な水攻撃魔法を放った。ゾウの霊獣は、牡牛の水攻撃魔法を防御もしないで正面から受けてしまい、吹っ飛んで壁にぶち当たり動かなくなった。バートは叫んだ。

「タウルス!」

 牡牛の霊獣はバートたちに振り向いて言った。

『助太刀に来た』

 バートはほっと息をついた。どうやら自分たちは助かったようだ。

 
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