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アスランの恐怖
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アスランは焚き火を見つめながら火の番をしていた。アスラン以外の仲間は皆眠りについている。アスランは虎のティグリスに抱きしめられるようにして眠るメリッサに目線をうつす。彼女は安心しきったように眠っていた。
アスランはゼキーグ退治の後、ある事に思い悩むようになった。それはアスランの中でずっと汚泥のようにちく積されていたものでもあった。バケモノ。ゼキーグは恐怖の表情を浮かべ、アスランを見て言ったのだ。アスランは途端に動けなくなってしまった。敵を前にしながらふがいない限りだ。だがメリッサの機転でグラキエースの氷魔法を使い、凍らせたゼキーグのとどめをグリフがさしてくれたのだ。
アスランは小さい頃からずっと不思議に思っていた事があった。アスランの父親と姉はとても強いのに、それ以外の人間はとても弱いのだ。そのためアスランは父と姉以外の人間と接する時、常に注意を払わなければいけなかった。
だが魔物と契約した人間と戦う時は、その注意は不要だった。アスランはおおいに剣を振るう事ができたのだ。バケモノ。ゼキーグの言う通りかもしれない。アスランは他の人間とは違うのかもしれない。アスランが他の人間に近づけば、その人間を傷つけてしまうかもしれないのだ。もしメリッサを傷つけてしまったら、アスランはそれが怖くて仕方なかった。
アスランが物思いにふけっているとゴソリと物音が聞こえた。アスランが振り向くとグリフが怖い顔でアスランの事をニラんでいた。アスランはため息をついて言った。
「まだ交代の時間には早すぎるよ?」
グリフはここ最近ずっと機嫌が悪い。原因は無論アスランの態度だろう。グリフがアスランに何か話そうとするのをアスランはずっと無視し続けていたのだ。グリフは不機嫌な声で言った。
「俺が何が言いてぇかわかってんだろ?!」
「大きな声を出さないでくれ。メリッサが起きる」
グリフは舌打ちをしてから立ち上がって言った。
「だったら場所かえるぞ、アポロンお前も来い」
「僕たちがいなくなったらメリッサが危ない」
「はぁ?!メリッサはなぁ霊獣とドラゴンに守られているんだぞ?俺たちがいなくったて危なくなんかねぇよ」
アスランは仕方なくアポロンと共にグリフの後について行った。
しばらく歩き林を出ると平地に出た。そこでグリフはアスランたちに振り向いて言った。
「アスラン、テメェ俺が何が言いたいかわかってんだろう?!」
「ゼキーグの時の件だろう?あの時は済まなかった」
「はぁ?そんなんじやねぇよ!アスラン、テメェはメリッサの前から消えるつもりだろう」
「・・・。その方がグリフだっていいだろう?メリッサを連れて行きたがっていたものな」
「アスラン、テメェ本気で言ってんのか?!」
アスランは怒っているグリフが面白くて笑いながら答えた。
「ゼキーグが言ってただろ?僕の事バケモノだって、僕もそう思うんだ。だから僕がメリッサの側にいたら、彼女を傷つけてしまうかもしれない。そうなる前に僕はメリッサの前から消えようと思う」
「はぁぁ?!何バカな事言ってんだ!
アスラン、テメェはメリッサの前から消えて、メリッサに探しに来て欲しいんだろう。アスラン貴方はバケモノなんかじゃないわ、って言ってもらいたいんだろう?!メリッサはなぁ、テメェが何度も人間離れした芸当しても、アスランは泣き虫で臆病で心の優しい人だ。って、ずっとテメェの事信じてるんだぞ?!そんなメリッサを裏切るっていうなら俺は絶対許さねぇ!もしアスランがメリッサの前から消えたら、俺は絶対にメリッサにアスランを探しに行かせねぇ!」
その通りかもしれない。アスランは思った。アスランはメリッサに否定してほしいのだ、貴方はバケモノなんかじゃないって。アスランは自嘲気味に答えた。
「僕は本当に危険なんだ。自分で自分を抑え込める事ができない。だからグリフ、君の事だって傷つけるかもしれない」
「はぁ?テメェみたいなボンクラに俺が倒せる訳ねぇだろ?寝言は寝て言えってんだ」
アスランは笑いながら答えた。
「あの男も僕の事をバカにしてた」
「あん?あの男?」
「僕が最初に殺しかけた男だ」
グリフが息を飲むのがわかった。アスランは言葉を続ける。
「その時僕はまだ五歳だった。母親に連れられて、街まで買い出しに出た時だった。母は店の中で買い物をしていて、僕は荷物番で外で待ってた。するとある男に声をかけられた。その男は冒険者のようだった。腰に大きな剣をさしていて、相当剣の腕に自信があるようだった。男は僕が小さな剣を腰にさしている事を笑ったんだ。子供が持つものじゃないと。僕は腹が立った、そして僕が真剣を持つにふさわしい男だと証明したかったんだ。僕が剣を抜くと相手も剣を抜いて構えた。僕はその男と剣を交えた、だが男の動作はのんびりしていてとてもゆっくりだった。僕は子供だからバカにされたのだと思った。父さんと姉さんの剣はすごく早くて重かったから。僕は男に本気を出させるために剣で男の腹を軽く払った。僕は男が避けると思ったんだ。だが僕の剣は男の腹を斬った。まるで母さんが作ったプディングみたいに手ごたえが無かった。僕の目の前で、男の腹から血が吹き出した。騒ぎをききつけた母がすぐさま男に治癒魔法を施した。母は優秀なヒーラーだったから男は何とか一命を取りとめた。僕は男に謝らなければと思った。だが男は僕を恐怖の表情で見ながら言ったんだ。バケモノ。って」
グリフは黙ってアスランの話を聞いていた。そしてチッと舌打ちしてから話し出した。
「何だ、つまりその男は五歳のガキに負けるほど弱かったって事だろ?深刻そうに話し出すから何かと思ったぜ。真剣を抜いて戦うという事は相手の命を奪う覚悟をする時だ。それは相手がガキだろうと女だろうと関係ねぇ」
アスランはこともなげに言うグリフをぼんやり見ていた。はたしてそうだろうか、五歳のアスランに何も落ち度はなかったのだろうか。アスランが考えあぐねていると、グリフが厳しい顔で言った。
「アスラン。俺と賭けをしろ」
アスランはゼキーグ退治の後、ある事に思い悩むようになった。それはアスランの中でずっと汚泥のようにちく積されていたものでもあった。バケモノ。ゼキーグは恐怖の表情を浮かべ、アスランを見て言ったのだ。アスランは途端に動けなくなってしまった。敵を前にしながらふがいない限りだ。だがメリッサの機転でグラキエースの氷魔法を使い、凍らせたゼキーグのとどめをグリフがさしてくれたのだ。
アスランは小さい頃からずっと不思議に思っていた事があった。アスランの父親と姉はとても強いのに、それ以外の人間はとても弱いのだ。そのためアスランは父と姉以外の人間と接する時、常に注意を払わなければいけなかった。
だが魔物と契約した人間と戦う時は、その注意は不要だった。アスランはおおいに剣を振るう事ができたのだ。バケモノ。ゼキーグの言う通りかもしれない。アスランは他の人間とは違うのかもしれない。アスランが他の人間に近づけば、その人間を傷つけてしまうかもしれないのだ。もしメリッサを傷つけてしまったら、アスランはそれが怖くて仕方なかった。
アスランが物思いにふけっているとゴソリと物音が聞こえた。アスランが振り向くとグリフが怖い顔でアスランの事をニラんでいた。アスランはため息をついて言った。
「まだ交代の時間には早すぎるよ?」
グリフはここ最近ずっと機嫌が悪い。原因は無論アスランの態度だろう。グリフがアスランに何か話そうとするのをアスランはずっと無視し続けていたのだ。グリフは不機嫌な声で言った。
「俺が何が言いてぇかわかってんだろ?!」
「大きな声を出さないでくれ。メリッサが起きる」
グリフは舌打ちをしてから立ち上がって言った。
「だったら場所かえるぞ、アポロンお前も来い」
「僕たちがいなくなったらメリッサが危ない」
「はぁ?!メリッサはなぁ霊獣とドラゴンに守られているんだぞ?俺たちがいなくったて危なくなんかねぇよ」
アスランは仕方なくアポロンと共にグリフの後について行った。
しばらく歩き林を出ると平地に出た。そこでグリフはアスランたちに振り向いて言った。
「アスラン、テメェ俺が何が言いたいかわかってんだろう?!」
「ゼキーグの時の件だろう?あの時は済まなかった」
「はぁ?そんなんじやねぇよ!アスラン、テメェはメリッサの前から消えるつもりだろう」
「・・・。その方がグリフだっていいだろう?メリッサを連れて行きたがっていたものな」
「アスラン、テメェ本気で言ってんのか?!」
アスランは怒っているグリフが面白くて笑いながら答えた。
「ゼキーグが言ってただろ?僕の事バケモノだって、僕もそう思うんだ。だから僕がメリッサの側にいたら、彼女を傷つけてしまうかもしれない。そうなる前に僕はメリッサの前から消えようと思う」
「はぁぁ?!何バカな事言ってんだ!
アスラン、テメェはメリッサの前から消えて、メリッサに探しに来て欲しいんだろう。アスラン貴方はバケモノなんかじゃないわ、って言ってもらいたいんだろう?!メリッサはなぁ、テメェが何度も人間離れした芸当しても、アスランは泣き虫で臆病で心の優しい人だ。って、ずっとテメェの事信じてるんだぞ?!そんなメリッサを裏切るっていうなら俺は絶対許さねぇ!もしアスランがメリッサの前から消えたら、俺は絶対にメリッサにアスランを探しに行かせねぇ!」
その通りかもしれない。アスランは思った。アスランはメリッサに否定してほしいのだ、貴方はバケモノなんかじゃないって。アスランは自嘲気味に答えた。
「僕は本当に危険なんだ。自分で自分を抑え込める事ができない。だからグリフ、君の事だって傷つけるかもしれない」
「はぁ?テメェみたいなボンクラに俺が倒せる訳ねぇだろ?寝言は寝て言えってんだ」
アスランは笑いながら答えた。
「あの男も僕の事をバカにしてた」
「あん?あの男?」
「僕が最初に殺しかけた男だ」
グリフが息を飲むのがわかった。アスランは言葉を続ける。
「その時僕はまだ五歳だった。母親に連れられて、街まで買い出しに出た時だった。母は店の中で買い物をしていて、僕は荷物番で外で待ってた。するとある男に声をかけられた。その男は冒険者のようだった。腰に大きな剣をさしていて、相当剣の腕に自信があるようだった。男は僕が小さな剣を腰にさしている事を笑ったんだ。子供が持つものじゃないと。僕は腹が立った、そして僕が真剣を持つにふさわしい男だと証明したかったんだ。僕が剣を抜くと相手も剣を抜いて構えた。僕はその男と剣を交えた、だが男の動作はのんびりしていてとてもゆっくりだった。僕は子供だからバカにされたのだと思った。父さんと姉さんの剣はすごく早くて重かったから。僕は男に本気を出させるために剣で男の腹を軽く払った。僕は男が避けると思ったんだ。だが僕の剣は男の腹を斬った。まるで母さんが作ったプディングみたいに手ごたえが無かった。僕の目の前で、男の腹から血が吹き出した。騒ぎをききつけた母がすぐさま男に治癒魔法を施した。母は優秀なヒーラーだったから男は何とか一命を取りとめた。僕は男に謝らなければと思った。だが男は僕を恐怖の表情で見ながら言ったんだ。バケモノ。って」
グリフは黙ってアスランの話を聞いていた。そしてチッと舌打ちしてから話し出した。
「何だ、つまりその男は五歳のガキに負けるほど弱かったって事だろ?深刻そうに話し出すから何かと思ったぜ。真剣を抜いて戦うという事は相手の命を奪う覚悟をする時だ。それは相手がガキだろうと女だろうと関係ねぇ」
アスランはこともなげに言うグリフをぼんやり見ていた。はたしてそうだろうか、五歳のアスランに何も落ち度はなかったのだろうか。アスランが考えあぐねていると、グリフが厳しい顔で言った。
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