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厨房

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 パティたちは屋敷の厨房に連れて来られた。中からは何らや美味しい匂いがしている。パティのお腹もググゥと鳴り出した。

「おい、料理人ども!」
「はい、何でしょう」

 見張りの男の声に、かっぷくのいい男が顔を出した。

「新しくさらってきた小娘たちだ。何か食わせてやれ」
「へぇ。食事が終わったらいつもの部屋に戻せばいいですか?」
「いいや。娘の一人が《セルフヒーリング》だから、娘たちの部屋には入れられない。食事が終わったら俺が連れて行く。おい、料理人ども。小娘たちか小さいからって、逃そうなんてするなよ?逃したら、お前たちただではおかないからな」
「へぇ。こころえております」

 かっぷくの良い男は無表情に見張りにあいさつし、見張りが完全に厨房を出た後、パティたちに向き直って笑顔になった。

「さぁ、お嬢ちゃんたち。こっちに座んな。おじさんが今からほっぺったが落ちるくらい美味しい料理を食べさせてやるからな」

 ロレーナはやったぁと大声ではしゃいだ。パティとロレーナは料理人たちが使っている作業台の側に木のイスを置いてもらい着席した。

 かっぷくのよい男はすぐにパティとロレーナに、ビーンズときのこがたっぷり入ったトマトスープとハムとチーズと千切りにしてマリネしたキャベツをはさんだサンドイッチを出してくれた。

「おじさん!メチャクチャ美味しい!」

 ロレーナは口の周りをべたべたにしながら言った。パティも食べてみて驚いた。パティは王都の城下町に来て、たくさんの美味しい食べ物を食べたが、こんなに美味しい料理は初めてだった。

 かっぷくのよい男はマックスたちにも新鮮な野菜を食べさせてくれた。

「おじさん、ありがとうございます。本当に美味しいです」

 かっぷくのよい男のとなりに立っていた男が自分の事のように得意げに言った。

「そうだろう!ドムの魔法は《スパイス》だからな。フロンの町一番の料理人なんだ」

 料理人ドム。パティたちがフロンの町に到着して泊まった宿屋の元料理人だ。宿屋ハイバネはフロンの町の名物店だった。料理人ドムの料理が評判で、宿屋に泊まらない人たちも食堂で舌鼓をうっていたのだ。

 ドムはザイラム盗賊団に目をつけられてしまい、アジトに連れて行かれてしまったのだ。

 料理人ドムは優しげな表情で、食事をしているパティたちに話しかけた。

「お嬢ちゃんたちはいくつだい?」

 パティとロレーナが名前と年齢を言うと、ドムたちな悲しげな表情をした。ドムは周りの仲間を見回して言った。

「なぁ、皆。この子たちを逃がそう、」
「何言ってるんだドム!俺たちが逃したとわかればタダじゃすまないぞ?!」
「わかってる。だが、こんな小さな子たち。それに、ノアがいれば、」

 ノア。ハイバネの店主が言っていた名前。店主の息子だ。ノアはドムを慕っていて、ドムがザイラム盗賊団に連れて行かれた時、ドムを連れ戻すと言って宿屋を飛び出してしまったのだ。

 宿屋の店主はエラルドに腹に溜まった痛みを吐き出すように言っていたそうだ。

 何の取り柄もない無力な子供だ。帰って来ないという事は、もう盗賊に殺されているかもしれない、と。

 ドムがノアの名前を呼んだ。ノアは生きているのだ。

 
 

 
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