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黒髪の人々

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「黒い髪、黒い瞳の者たちはたくさんいる。じゃが、純粋に黒髪、黒い瞳の者たちは少ない。何故なら彼らは異国人だからじゃ」
「・・・。異国人」

 老人はちらりとパティを見てから言葉を続けた。

「その者たちは、このグルニア国からはるか東にあるパンドールという国の者たちじゃ」
「では、パンドール国に行けば、私と同じような人たちがたくさんいるんですね?!」

 嬉しそうなパティに対し、老人はうつむいて小さな声で答えた。

「わしは数百年グルニア国を見てきた。グルニア国は、パンドール国の技術や特産物を欲していた。グルニア国とパンドール国は百年前から和平協定を結んでいた。じゃがグルニア国は大国、パンドール国は小国じゃった。この国の王グルニア十一世は、パンドール国に何くせをつけ、戦争が始まった」
「!」

 老人の言葉に、パティはのどをつまらせた。老人はパティが落ち着くのを待ってから話しを続けた。

「およそ二十年前の事じゃ。なぁ、娘さん。お前さんは、今十五歳だといったな?自分を捨てた親御さんをうらんどる事じゃろう。だが親御さんは仕方なかったのじゃ。戦争に負けた多くのパンドール国の者たちが捕虜としてグルニア国にやって来た。彼らには人権などなく、捕虜とは名ばかりの奴隷としてあつかわれた。娘さんの親御さんは、お前さんを守るために王都から遠く離れた小さな村にお前さんを預けたんだ」

 老人はそれきりだまってしまった。パティの頭の中は、グルグルと色々な事がうずまいていた。

 パティの両親は、捕虜としてパンドール国から連れてこられた。そこでパティを産み、奴隷になる事を拒んで逃げたのだ。

 パティをドミノ村の教会にたくし、グルニア国を出ようとした。パティの両親がいまだグルニア国にいるのか、パンドール国にいるのかわからなかった。

 ただ一つだけはっきりしている事があった。パティは生きているうちに、両親と会える事はまず無いだろう。

 覚悟していた事なのに、パティにはその事がとても悲しかった。マックスたちは心配そうにパティにすり寄った。パティは安心させるように友達を優しく撫でた。

「おじいさん。お話してくれてありがとうございました。私、心のどこかで両親に会えるんじゃないかって思っていたんです。だけど、それは難しいと改めて実感しました」
「娘さん、・・・。いや、なぐさめの言葉など何にもならんな」
「ええ。私には肉親はいないけど、育ての親のジョナサン神父さまとチコリおばあちゃんがいます。そしてこのどこかの空の下で、私の事を家族だと言ってくれる冒険者たちがいます。それに、」

 パティは言葉を切ってから、マックスとチャーミーを抱きしめて、肩に乗ったピンキーに頬ずりをして、膝の上に乗っているアクアの甲羅を優しく撫でた。

「私には、私の事をこんなにも大切に思ってくれるお友達がるいるんです。さびしくなんてないわ」

 老人は一瞬驚いた顔をしてから、柔らかに微笑んだ。

 しばらくして、パティたちと老人は別れを告げた。老人はハマイの町に向かい、パティたちは王都を目指して歩き出した。

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