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伊織の境遇
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中本は短くなるまでタバコを吸いきり、名残惜しそうに灰皿に押し付けた。猪熊がタバコを出して、もう一本いるかというと、中本は首を振っていらないと答えた。中本はタバコ臭い息をフウッと吐いてから言った。
「この事件、天賀家という人形使いの家が裏で手を引いているみたいだ。若い亭主の方は、もともと天賀家の人間で、天賀家を飛び出して、結婚し暮らしていたようなんだ。アパートの火事が起きて、原因は妻が喫煙し、子供がイタズラして起きたとされ、賠償責任は亭主におっかぶさった」
「はぁ?アパートの大家は火災保険入っているだろ?!何で個人に支払いさせるんだ?!」
「どうやったかなんて俺にもわからねぇよ。結局、亭主の方は借金ダルマにされてスカンピさ。もともと家財もすべて焼けちまったしな。無一文のところに莫大な借金がのしかかっちまった」
あんまりな話しだった。伊織の過去の出来事なのに、猪熊は心配になった。震える声で猪熊は質問した。
「それで、その亭主はどうなったんだ?」
「そいつの借金を、天賀家がすべて支払ったんだ。その代わり、亭主は天賀家で死ぬまでタダ働きをさせられる事になった」
猪熊はあいた口がふさがらなかった。これは明らかに天賀家が仕組んだ事だ。それなのに警察すらもそれを罰しようとはしないのだ。
中本はもう一度猪熊に、この件には関わるなとクギを刺して帰って行った。
猪熊はぼう然と中本の背中を見つめていた。タバコは吸ってもいないのに、ほとんど灰になっていた。
猪熊がぼんやりしていると、佐倉が喫煙所にやって来て言った。
「先輩、やっぱいここにいた。もう、サボってばかりいないでくださいよ」
情報を聞き出していたのにサボっているとは心外だ。猪熊が顔をしかめていると、佐倉はスマートホンを出して、画面を猪熊の目の前に差し出した。
「見てくださいよ。伊織さんがホームページに出ていますよ?」
佐倉は伊織からもらった名刺に書いてあったアドレスを読み込んだらしい。猪熊が老眼ぎみの目を細めながら見ると、そのにはずらりと人形使いの顔写真とプロフィールが並んでいた。
依頼人はこのホームページからも依頼ができるらしい。佐倉が指差す場所を見ると、高梨伊織の無表情な写真が載っていた。猪熊はため息をつきながら言った。
「まるでホストクラブみてぇだなぁ」
「天賀家の人形使いの中で、高梨さんがダントツでカッコいいですよ!」
佐倉はわずかな間伊織と接しただけで、彼のファンになってしまったようだ。猪熊は顔をしかめた。人形使いは顔じゃなくて腕だろうと思いながら、伊織のプロフィールを読む。
人形使い歴十四年のベテランと記載されている。これは経歴詐称だ。伊織はそれまで人形使いと関係ない仕事をしていたと言っていた。
伊織が操る戦人形の写真も掲載されていた。伊織が操る人形は二体。一体は花雪という愛らしい少女人形。もう一体のコングという人形は写真が無かった。
猪熊は、花雪という少女人形の顔をジッと見つめた。あどけない少女のような人形。もしかすると伊織の亡くなった娘に似ているのかもしれない。
「この事件、天賀家という人形使いの家が裏で手を引いているみたいだ。若い亭主の方は、もともと天賀家の人間で、天賀家を飛び出して、結婚し暮らしていたようなんだ。アパートの火事が起きて、原因は妻が喫煙し、子供がイタズラして起きたとされ、賠償責任は亭主におっかぶさった」
「はぁ?アパートの大家は火災保険入っているだろ?!何で個人に支払いさせるんだ?!」
「どうやったかなんて俺にもわからねぇよ。結局、亭主の方は借金ダルマにされてスカンピさ。もともと家財もすべて焼けちまったしな。無一文のところに莫大な借金がのしかかっちまった」
あんまりな話しだった。伊織の過去の出来事なのに、猪熊は心配になった。震える声で猪熊は質問した。
「それで、その亭主はどうなったんだ?」
「そいつの借金を、天賀家がすべて支払ったんだ。その代わり、亭主は天賀家で死ぬまでタダ働きをさせられる事になった」
猪熊はあいた口がふさがらなかった。これは明らかに天賀家が仕組んだ事だ。それなのに警察すらもそれを罰しようとはしないのだ。
中本はもう一度猪熊に、この件には関わるなとクギを刺して帰って行った。
猪熊はぼう然と中本の背中を見つめていた。タバコは吸ってもいないのに、ほとんど灰になっていた。
猪熊がぼんやりしていると、佐倉が喫煙所にやって来て言った。
「先輩、やっぱいここにいた。もう、サボってばかりいないでくださいよ」
情報を聞き出していたのにサボっているとは心外だ。猪熊が顔をしかめていると、佐倉はスマートホンを出して、画面を猪熊の目の前に差し出した。
「見てくださいよ。伊織さんがホームページに出ていますよ?」
佐倉は伊織からもらった名刺に書いてあったアドレスを読み込んだらしい。猪熊が老眼ぎみの目を細めながら見ると、そのにはずらりと人形使いの顔写真とプロフィールが並んでいた。
依頼人はこのホームページからも依頼ができるらしい。佐倉が指差す場所を見ると、高梨伊織の無表情な写真が載っていた。猪熊はため息をつきながら言った。
「まるでホストクラブみてぇだなぁ」
「天賀家の人形使いの中で、高梨さんがダントツでカッコいいですよ!」
佐倉はわずかな間伊織と接しただけで、彼のファンになってしまったようだ。猪熊は顔をしかめた。人形使いは顔じゃなくて腕だろうと思いながら、伊織のプロフィールを読む。
人形使い歴十四年のベテランと記載されている。これは経歴詐称だ。伊織はそれまで人形使いと関係ない仕事をしていたと言っていた。
伊織が操る戦人形の写真も掲載されていた。伊織が操る人形は二体。一体は花雪という愛らしい少女人形。もう一体のコングという人形は写真が無かった。
猪熊は、花雪という少女人形の顔をジッと見つめた。あどけない少女のような人形。もしかすると伊織の亡くなった娘に似ているのかもしれない。
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