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結の告白3

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 結がやっと涙を抑え込む事に成功した頃、幸士郎が結に向きなおって言った。

「結。お前が人形使いの能力を尊ぼうと、嫌悪しようと、俺が見て来た人形使いの中で、結の能力が一番強力だ。結の能力は世間に広まってしまった。人形使いたちはこぞって結を我が物にしようとするだろう」

 結は不安そうに幸士郎を見た。幸士郎は強いまなざしで結を見て言った。

「もし、勝司を倒してアダムを奪う事ができても、結は他の人形使いにつけ狙われるだろう。結がそれから逃れるためには、結が一番強い人形使いにならなければいけない」
「一番、強い人形使い?」
「ああ。加奈子を救出に行った時、結はわずかな間アダムとも同調していた。俺は、結がアダムとも契約できると考えている」
「アダムと?でも私はイブと契約したのよねぇ?」
「ああ。結はイブの契約者だ。だが強い人形使いならば、複数の戦人形との契約も可能だ。アダムが勝司と契約を続けていてはきっと良くない事が起こるだろう。勝司からアダムを取り戻さなければいけない」

 結はしばらく考えてから答えた。

「私は、イブと約束したの。アダムを助けるって。だから、私は一番強い人形使いになるわ。ならなければいけないんだわ」

 結を見つめていた幸士郎がクスリと微笑んだ。結は恥ずかしくなって、何故笑ったのか聞いた。幸士郎は結から視線を夜空に移して答えた。

「いや、結に会えてよかったって思ったんだ」

 幸士郎の発言に結の顔がカァッと熱くなる。幸士郎は、人形使いの結と出会って良かったと言ったのだ。決して、女性としての結という意味ではない。だが美少年の幸士郎に突然こんな事を言われると、ドギマギしてしまう。結が一人で焦っていると、幸士郎が言葉を続けた。

「俺は人形使いの桐生家に疑問を抱いている。だけど俺自身も桐生家で育っているから、根本的な考えは桐生家そのものなんだ。だけど結は違う。結は人形のため、人形使いの家に生きる女のために悲しみ怒ってくれた」

 結は胸の奥が熱くなるのを感じた。幸士郎の胸の内を聞けた事もきっかけかもしれない。

 結は覚悟を決めた。それまで結は自分を被害者だと思っていた。人形使いの能力が世間に流出した事により、結は天賀家の人形使いに襲われる事になった。

 結は天賀家の行いを理不尽と感じていた。だがそれは当然の事だったのだ。結は天賀家と桐生家が一目を置く人形使いなのだ。

 結は強い人形使いとしての自覚と責任を持たなければならない。結は幸士郎を見た、幸士郎もジッと結を見つめ返してくれる。幸士郎は結の心強い味方になってくれているのだ。

 結はこれまで父親とココとトト以外には心を許せる者はいなかった。だが人形の家の店主である恭子と出会ってから、結は沢山の人たちと知り合った。彼らは結の能力を打ち明けられる大切な仲間になったのだ。
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