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事態の収束

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 結にアダムの主導権を奪われた勝司は、怒りのおたけびをあげた。

「アダム!ふざけるな!お前の契約者はこの俺だぞ!」

 勝司の叫びにも、結は動じなかった。ひたすらアダムとイブとの同調を続けた。勝司はアダムを動かす事ができないと知ると、部下である伊織に叫んだ。

「伊織!加奈子を捕まえろ!」

 それまで伊織は、大きなゴリラの人形を動かして、大きくなったテディベアのココと激しい殴り合いの戦いをしていた。伊織は勝司の言葉にこたえて、ゴリラの人形を操った。

 ゴリラの人形はココとの戦いから離脱すると、伊織の横にいた加奈子を抱き上げた。結はキャアッと叫んだ。再び加奈子に危険がおよぶかもしれないと感じたからだ。

 勝司は加奈子という人質が手中にある事で平静を取り戻したようだ。やや落ち着いた声で結に向きなおって言った。

「さぁ、これで形成逆転だ。松永結、俺と一緒に来るんだ」

 結はギクリと身体を震わせた。結が言う事を聞かないと、加奈子が傷つくかもしれないのだ。結は恐怖で動けないでいると、勝司はニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべながら言った。

「俺が加奈子を傷つけないとでも思っているのか?甘いなぁ。伊織!加奈子の腕を折って、悲鳴を聞かせてやれ」

 あまりの残酷な命令に、結はヒィッと悲鳴をあげた。だが伊織はのんびりと上司に振り向いて言った。

「それはできません、勝司さま。コングは子供が大好きなんです。子供を傷つけるような命令はできません」
「はぁ?!何を言っている。それをやらせるんだよぉ!お前は俺の下僕だろう!」

 勝司は怒りに任せて伊織に近づくと、伊織の胸ぐらを掴んで叫んだ。

「命令だ!加奈子の腕を折れ!」

 顔をどす黒くさせて怒る勝司に対して、伊織は無表情に答えた。

「人形の意に背く操りは、三流のやる事です」

 勝司は伊織の顔を思いきり殴った。伊織はよろける事なくその場に立ったままだった。

 結は事の展開に驚き、アダムとの同調が弱まってしまった。勝司はその事に気づいたのだろう。アダムに鋭く命令した。

「アダム!来い!」

 アダムはガクンと身体を震わせると、結の指示を聞いてくれなくなってしまった。アダムは勝司を守るように側に寄った。勝司は結たちをにらみつけると倉庫を出て行ってしまった。

 結はハッとして加奈子の側に駆け寄った。

「加奈子ちゃん!大丈夫?!」

 加奈子はゴリラの人形に抱きしめられて頬ずりをされていた。加奈子は恥ずかしそうにしていたが、まんざらでもなさそうだった。伊織はゴリラの人形に、加奈子を下ろすように言った。

 加奈子が地面に降りると、伊織はポケットからナイフを取り出し、加奈子の手足を拘束していた縄を切った。縄はゆるく巻かれていたようで、加奈子の手足に縄目の跡がつくような事はなかった。

 結は加奈子の無事を確認すると、ホッとしてつぶやいた。

「加奈子ちゃん、良かったぁ」

 加奈子は顔を真っ赤にしながら結に叫んだ。

「な、何よ!あんたたちなんて来なくても、私一人で脱出できたんだからね!」

 元気そうな加奈子を見て、結はくすりと笑った。それが気にさわったのか、加奈子はギロリと結をにらんだ。

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