29 / 113
イブ
しおりを挟む
兼光はうんうんと一人でしきりにうなずいてから、結に言った。
「結さん。貴女はお母さまの人形使いの血を受け継いでいます。一つその力で我々を助けてくれませんか?」
結は不思議そうにうなずいた。危険な目にあい、保護されている身の結が、兼光たちの役に立てる事とは一体なんだろうか。
結は兼光と幸士郎に案内され、別な部屋に入った。そこは小さな和室だった。最初に目に入ったのが人形だった。その人形は、とても美しかった。金色の髪、金色の瞳、白い肌にバラ色のくちびる。結は思わずため息をついた。
「なんて綺麗なの。まるで生きているよう」
結の後ろに立った兼光が人形の説明をした。
「この人形は箕輪一心という人形師が最後に手がけた人形なのです」
「最後?」
「ええ。一心はこの人形とついになるもう一体の人形を作り、その後亡くなっています」
結の横に立った幸士郎が口を開いた。
「桜姫も一心の作だ。だからこの人形、イブは桜姫の妹になる」
「桜姫の妹」
結はもう一度、イブと呼ばれた人形を見つめた。確かに美しく優しげな表情は桜姫に似ているかもしれない。
桜姫の身長は五十センチくらいだ。しかしイブの身長は、今はイスに腰かけているが、立ち上がれば一メートルぐらいあるのではないか。それくらいに大きな人形だった。
兼光は結の耳元で言った。
「結さん。イブは傷ついて心を閉じています。どうかイブの心を開いて、イブの気持ちを聞いてやってくれませんか?」
結はうなずいてゴクリとツバを飲み込んだ。イブの前まで近づくと、結は微笑んで言った。
「イブ、私は結。貴女の力になりたいの。貴女の気持ちを教えて?」
結は人形といつも話すように声をかけた。イブの憂いをふくんだ瞳を見つめる。するとこれまで感じた事のないものを感じた。それは一じんの風のようだった。だが凍えるような寒さの風ではなく、春の風のような温かな風だった。
風と共に、結の心の中に、イブの気持ちが流れ込んできた。イブという人形の優しさ、憂い、悲しみ。結はあまりの感情の嵐に涙ぐみながら言った。
「イブ、貴女は大切なひとと離れ離れにされて悲しんでいるのね?お願い、貴女の力になりたいの。もっとお話しを聞かせて?」
結はイブの足元にしゃがみこむと、彼女の白くしなやかな手を握りしめた。イブはゆっくりと身体を傾け、結の目をしっかり見つめた。
まるで結の真意を見さだめようとしているような動作だった。イブは微笑んだ。ように見えた。それきりイブは姿勢を元に戻すと、動かなくなった。
結は不思議に思った。結が人形使いの能力を使うと、人形は自分のしたい事をするために動きだすはずなのに。イブは動く事をやめてしまった。
結はもう一度イブに話しかけようとすると、兼光がそれを止めた。
「結さん、ありがとう。イブは貴女の言葉に耳を傾けてくれました。こらからゆっくり会話をしてあげてください」
結はイブともっと話しをしたかったのだが、兼光がそう言うのであれば中止せざるおえなかった。
「結さん。貴女はお母さまの人形使いの血を受け継いでいます。一つその力で我々を助けてくれませんか?」
結は不思議そうにうなずいた。危険な目にあい、保護されている身の結が、兼光たちの役に立てる事とは一体なんだろうか。
結は兼光と幸士郎に案内され、別な部屋に入った。そこは小さな和室だった。最初に目に入ったのが人形だった。その人形は、とても美しかった。金色の髪、金色の瞳、白い肌にバラ色のくちびる。結は思わずため息をついた。
「なんて綺麗なの。まるで生きているよう」
結の後ろに立った兼光が人形の説明をした。
「この人形は箕輪一心という人形師が最後に手がけた人形なのです」
「最後?」
「ええ。一心はこの人形とついになるもう一体の人形を作り、その後亡くなっています」
結の横に立った幸士郎が口を開いた。
「桜姫も一心の作だ。だからこの人形、イブは桜姫の妹になる」
「桜姫の妹」
結はもう一度、イブと呼ばれた人形を見つめた。確かに美しく優しげな表情は桜姫に似ているかもしれない。
桜姫の身長は五十センチくらいだ。しかしイブの身長は、今はイスに腰かけているが、立ち上がれば一メートルぐらいあるのではないか。それくらいに大きな人形だった。
兼光は結の耳元で言った。
「結さん。イブは傷ついて心を閉じています。どうかイブの心を開いて、イブの気持ちを聞いてやってくれませんか?」
結はうなずいてゴクリとツバを飲み込んだ。イブの前まで近づくと、結は微笑んで言った。
「イブ、私は結。貴女の力になりたいの。貴女の気持ちを教えて?」
結は人形といつも話すように声をかけた。イブの憂いをふくんだ瞳を見つめる。するとこれまで感じた事のないものを感じた。それは一じんの風のようだった。だが凍えるような寒さの風ではなく、春の風のような温かな風だった。
風と共に、結の心の中に、イブの気持ちが流れ込んできた。イブという人形の優しさ、憂い、悲しみ。結はあまりの感情の嵐に涙ぐみながら言った。
「イブ、貴女は大切なひとと離れ離れにされて悲しんでいるのね?お願い、貴女の力になりたいの。もっとお話しを聞かせて?」
結はイブの足元にしゃがみこむと、彼女の白くしなやかな手を握りしめた。イブはゆっくりと身体を傾け、結の目をしっかり見つめた。
まるで結の真意を見さだめようとしているような動作だった。イブは微笑んだ。ように見えた。それきりイブは姿勢を元に戻すと、動かなくなった。
結は不思議に思った。結が人形使いの能力を使うと、人形は自分のしたい事をするために動きだすはずなのに。イブは動く事をやめてしまった。
結はもう一度イブに話しかけようとすると、兼光がそれを止めた。
「結さん、ありがとう。イブは貴女の言葉に耳を傾けてくれました。こらからゆっくり会話をしてあげてください」
結はイブともっと話しをしたかったのだが、兼光がそう言うのであれば中止せざるおえなかった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?
あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」
結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。
それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。
不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました)
※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。
※小説家になろうにも掲載しております
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。
夢草 蝶
恋愛
侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。
そのため、当然婚約者もいない。
なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。
差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。
すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる