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人形使い

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 恭子は不思議な女性をお茶に招待した。元は喫茶店だったため、店内にはキッチンスペースがあるのだ。そこに小さなテーブルとイスを持ち込み、客がいない時にお茶を飲むのだ。

 恭子は香り高いダージリンを淹れて、紅茶とクッキーを女性にすすめた。女性は恐縮しながら紅茶を飲んだ。

 女性の名前は松永結といった。年は二十二歳で喫茶店のアルバイトをしているそうだ。聞けば恭子の店と近いらしい。休けい時間中に道を歩いていて、この店を見つけたようだ。

 恭子は結に不思議に思った事を質問した。

「結ちゃんは超能力者なの?ほら、テレパスとかサイコメトリーとかそういうのが使えるの?」

 結は困ったように笑ってから口を開いた。

「恭子さん。人形使いって知ってます?」
「?。人形使い?糸で人形を操る人の事?」
「その人たちもそうですね。だけど、私の言っている人形使いというのは、」

 結はそこで言葉を切った。口で説明するより見せた方が早いというのだ。恭子に動かしてもいい人形を貸してほしいと言った。

 恭子は自分が自ら製作したアルベルトとエラを連れて来た。結は二人の人形を抱くと目を輝かせて言った。

「この子たちは恭子さんが作ったんですね?貴女の事をお母さんって言ってます」
「えっ!アルベルトとエラの言葉がわかるの?!」

 結は笑顔でうなずいてから、アルベルトとエラを見つめてうなずいた。すると驚くべき事が起こった。アルベルトとエラが、結のひざの上からすくっと立ち上がり、ピョコンと床に降りたのだ。

 アルベルトは、恭子に紳士のように礼をし、エラはドレスのすそをつまんで可愛らしくおじぎをした。

 恭子はうわずった声で言った。

「結ちゃんがこの子たちを動かしているの?」
「動かしているというのと少し違います。私はこの子たちが動きたいと言う気持ちを助けているんです」

 アルベルトとエラは恭子の側まで行くと、恭子のスカートのすそを引っ張った。恭子がどうしたらいいかわからずにいると、結が笑顔で言った。

「二人が抱っこしてって言ってます」

 恭子は目頭が熱くなった。手を伸ばしている愛しい人形たちを優しく抱き上げた。恭子は人形作りは素人だ。巷で人気がある人形作家の作品とは雲泥の差だ。だがアルベルトとエラは自分が作った子供のようなものだ。

 二人も恭子の事を慕ってくれているのだと思うと、涙が溢れてきた。

 
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