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熱いのは嫌いです

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 私たちがジェラートを食べていると、兵士の団体が噴水の広場を横切った。あの兵士たちがリュートの言っていた人たちかしら。私が兵士の行列を見ていると、ジェラート売りの男が話しかけてきた。

「兵士たちは獣人のレジスタンスを探しているんだ。最近この街では獣人のレジスタンスによる獣人略奪がひんぱんに起こっているんだ。獣人は街の人間にとっては財産だからな」

 ジェラート売りの男は一旦言葉を切ってから私の顔を見て、そしてセネカたちに目を移し、また話し出した。

「なぁ、お嬢さん。俺も獣人を大切にするのはいい事だと思うよ。だがな、あまり入れ込まないようにしないとあの兵士たちに目をつけられるぞ」

 どうやらジェラート売りの男は私たちを心配してくれているようだ。私はあいまいにうなずいた。すると辺りをウロウロしていた兵士たちが、私たちの所へやってくるではないか。それに気づいたジェラート売りはそうそうに店じまいをして私たちから離れていってしまった。私は焦った。だけど今は瞳はパープルだし、髪はブラウンだ。だから城から逃げた聖女とは思われていないはず、堂々としていなければ。私は怖がるセネカたちを抱き寄せて兵士たちが近づいてくるのを待った。兵士の一人がティアナを一べつすると、高圧的に言った。

「お前が半獣人を買うのに法外な金貨を支払った女か?」

 私はギクリとした。ティアナを引き取る時に頭に血がのぼって、大量の金貨を渡したのがかえってよくなかったようだ。だけどティアナのいたお店の店主がわざと兵士に金貨の事を言うはずがない、何故兵士にこの事が分かったのだろうか。そこで私はある事に思いいたった、あの酔っ払いが通報したに違いない。やはり兵士は私の目の前に、私が取り出した金貨入りのカバンを突きつけた。

「通常猫の獣人は金貨三十枚、猫の半獣人は金貨十五枚だ。それなのに貴様は百枚を払っている。貴様は獣人のレジスタンスの仲間ではないのか!」
「レジスタンスって何の事ですか?!私はこの子が気に入ったから引き取りたかっただけです。お店の店主がこの子の引き取りを渋ったから多額の金貨を支払っただけの事です」

 私は強気の姿勢を見せたが、内心は冷や汗ものだった。この街では目立ってはいけなかったのに、早速兵士に目をつけられてしまった。竜族の子供のノヴァを引き取る時、多額の金貨が必要だったから、ティアナを引き取るにも多額のお金が必要だと思ってしまった。子供をお金で買うなんてと、嫌悪の気持ちが強かったから、金額の事は頭になかった。もっとこの世界の価値や物価を知るべきだった。今後悔しても後の祭りだ。疑念の目を向ける兵士はなおも言葉を続ける。

「怪しい奴め、詳しい事は取り調べで聞くから詰所に来るんだ」

 これはまずい詰所に連れて行かれたら、私が城から逃げた聖女だと言う事がバレてしまう。私たちと兵士たちのもめ事に、街の人々も気になったらしく、野次馬が私たちを遠巻きに取り囲んだ。私は何とかこの場を切り抜けようと弁解する。

「私は旅の行商なんです。この国に来て日が浅いので、足元を見られただけです」
「ならば通行許可証を見せろ」

 しまった。兵士の言葉に背筋が凍った。もちろん私は異世界に飛ばされてきたのだから通行許可証なんて持っていない。私はポケットに手を突っ込む。そしてあるものを取り出した。私のパスポートだ。兵士はパスポートを手に取ってペラペラとページをめくって首をかしげた。そしてあるページにくると動きを止めた。

「この絵はなんだ!黒い髪、黒い瞳、やはりお前は逃げた聖女だな!」

 まずい、パスポートには顔写真が付いていた。黒い髪と瞳の私の写真だ。行動すればするほど墓穴を掘り、まるでアリ地獄に落ちたように泥沼にはまって行く。兵士は腰に下げていた鉄砲のようなものを私に向けた。この世界では鉄砲なんてないはずだけど。私は気が動転しすぎて関係ない事を考えていた。すると私の横にいたセネカが狼の姿になって、鉄砲を構えた兵士の腕に噛み付いた。狼になったヒミカが私をかばうように前に立ちはだかった。二人とも私を守ってくれようとしているのだ。

 私の後ろにいたティアナが突然走り出した。耳としっぽが出ていて半獣人の能力を発動したティアナは人間では追いつけない速さだった。セネカに腕を噛まれた兵士は、痛みのせいで脅しのために構えた鉄砲のようなものの引き金を引いてしまったようだ。驚いた事に鉄砲からは強力な炎が噴き出してきた。もちろん的をとらえていない炎は明後日の方向に飛んで行く。

 そこで私ははたと気づいた、ティアナはすぐ先の未来が視えると言っていた。ティアナが走り出した先は、私の想像した通りだった。激しい炎は、野次馬の中にいたよちよち歩きの小さな坊やめがけて行った。ティアナはその坊やをかばうように抱きしめた。自分が盾になって炎から坊やを守ろうとしているのだ。私はティアナの側にいかなければいけないと思った。もしティアナが大火傷をしても、私の涙で治す事もできるだろう。だけどティアナはずっと痛くて辛い思いをしていたのだ。もうティアナに痛い思いをさせたくなかった。

 そう思った途端私の身体が、グンッと速度を速めた。気づくと目の前に、びっくりした顔のティアナがいた。私はホッと安心して、坊やを抱きしめたティアナごとギッュと抱きしめた。次の瞬間、私は背中に激しい痛みを感じた。激しい炎が私の背中に命中したのだ。私は口から溢れ出しそうになる悲鳴を、下唇を噛んで必死に耐えた。ティアナに心配をかけたくなかったからだ。私に炎の弾丸が当たった事に気づいたセネカとヒミカが慌てて私の側に駆け寄ると、人間に戻って、手で私の背中を叩いて燃え盛る炎を消してくれた。ティアナは泣き出しそうに顔を歪めて私に言った。

「もみじ、どうして、あたしなんかかばうの?」

 私はほほえんで答えた。

「言ったでしょ?もうティアナを傷つけさせないって」

 ティアナは大きな金色の瞳からボロボロ涙を流した。ティアナに初めて会った時、可愛いけれど人形のような女の子だなと思っていた。でも今は涙を流して悲しそうな表情だけれど生き生きとしていた。ティアナは、泣きながら礼を言う坊やの母親に坊やを託した。私の背中はセネカたちに叩いて火を消してもらったけれど、ズキズキとうずくような激しい痛みを感じた。きっと私の背中はひどい火傷をおっているのだろう。そしてまたあの感覚、私の身体は光り輝き、背中の痛みは消失した。セネカに腕を噛まれた兵士が、痛みをこらえながら叫んだ。

「黒い髪、やっぱりあの女は逃げた聖女だ!すぐに捕らえろ!」

 私は頭に手をやると先ほどまでかぶっていたかつらが無くなっていた。きっと炎で燃えてしまったのだろう。私は兵士たちに黒い髪だという事がバレてしまったようだ。兵士たちは私たちを捕まえるべく剣を構えて近づいて来る。突然セネカは私を抱き上げ、ものすごい跳躍力で野次馬の人がきを飛び越えた。ティアナを抱きかかえたヒミカもそれに続く。セネカとヒミカは、民家の屋根まで飛び上がり、屋根づたいに全速力で走り出した。セネカとヒミカは私とティアナを抱きかかえたまま、街を抜け、森の奥の奥まで走って行った。




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