上 下
2 / 40

出発の準備です

しおりを挟む
 もみじ先生、もみじ先生。私の可愛い受け持ちの子供たちの声がする。早く子供たちの所に行かなければ、ここはどこだろう?もみじ、もみじ、子供たちの声。もみじ、お腹空いた。そこで私は目を覚ました。私の目にとびこんで来た天井は、私の住んでいたマンションの部屋ではなく、古ぼけた木の天井だった。横には目をキラキラさせた可愛い兄妹が。そうだ私は異世界へ来てしまったのだ。昨日徹夜をしてしまったせいで、猛烈に眠いがセネカとヒミカに朝ごはんを食べさせなければいけない。私はくたびれて悲鳴をあげている身体にムチ打って、起き上がった。

 私は目をつぶって大きなお釜を想像する。すると昔話に出てきそうなお釜が現れた。そして私はまた目をつぶり、次に目を開けると、なんと私の目の前にブランド米こしピカリ五キロの米袋が現れた。私は嬉しくてキャアと声を上げてしまった。お釜の中にお米を入れて、井戸で丁寧にお米を洗う。水が透明になったら、お米に水を吸わせるために置いておく。次に私は昨日取り出した野菜、にんじん、大根をいちょう切りにする。そしてごぼうがない事に気づいて外にでて、また昨日と同じように土に手を置いて念じると、黒々としたごぼうが現れた。私は井戸水でごぼうを洗い、台所に戻り、ごぼうも切る。そして両手を出して念じると、コンニャクが現れた。私はそのコンニャクを手でちぎっていく。

 昨日猪のシチューを作った大鍋に細かく切ったしょうがをゴマ油で炒める。香りが出てきたらにんじん、大根、ごぼう、コンニャク、下処理した猪の内臓と水を入れて火にかける。ふっとうしたら、みりん、酒、醤油、粉末かつおダシ、みそをを入れて煮汁が半分以下になるまで煮込む。その間にお米を炊く。木のふたを少し開けながら状況を見て火を燃やす。ふっとうしてきたらふたをして、十二分くらいトロ火にかける。最後に強火にしてから火をとめる。その後はゆっくり蒸らす。これがとっても大事、セネカとヒミカがご飯のいい匂いに、食べたい、食べたいと大騒ぎするが、無視を決め込む。赤子泣いてもふた取るなだ。十五分しっかり蒸らしてからふたを取ると、ピカピカのお米が。私は大きなたらいを出して、大きなしゃもじで炊きたてのお米を取り出す。甘い匂いが広がる。私はご飯をラップにくるんでおにぎりにしていく。お釜で炊いたご飯は甘くて美味しいから何も具は入れない。

 セネカとヒミカが自分たちもやりたいというのでお茶わんにラップをしき、ご飯を冷ましてからおにぎりを作ってもらう。セネカはソフトボールみたいな大きなおにぎりを作った。すごいね。と言うと得意そうだった。ヒミカは小さいけれど上手に三角のおにぎりを作った。上手ね、と言うと恥ずかしそうに笑っていた。

 私は出来上がったおにぎりを大きなタッパーに詰めて行く。お昼のお弁当にするためだ。私は火にかけていたもつ煮込みの味を見て、最後にごま油をかける、これで完成。私はスープジャーを三つ取り出した。セネカとヒミカの分は大きなスープジャー、私の分は小さなスープジャー。熱々のもつ煮込みをスープジャーに入れていく。さぁお弁当の準備ができたら、お腹を空かせた欠食児童たちに朝ごはんを食べさせなければ。

 私はお釜の前に立ち、ふふふ、と笑みを浮かべながらしゃもじを持った。お釜のへりにしゃもじを入れると、パリパリと音がする。これよこれ、電気炊飯器ではできないおこげ。お釜で炊いたご飯のだいご味はこれよね。セネカとヒミカにはどんぶりにおこげのご飯をよそってやり、私には小さなお茶わん。またもやセネカとヒミカの大きなどんぶりにもつ煮込みをたっぷり入れてやる、私は小さなおわん。もつ煮込みには長ねぎをたっぷり入れたいところだけど、セネカとヒミカの身体にはよくなさそうだからやめておく。

 テーブルにもつ煮込みとおこげご飯を置いて、みんなで手を合わせていただきます、をする。セネカとヒミカはもつ煮込みも美味しい美味しいと言って食べてくれた。醤油やみそなど和食の味付けで心配だったが気に入ってくれたようだ。私は七味唐辛子を取り出してもつ煮込みにかける。美味しい、一口食べて感動する。何度も煮こぼしして、下処理したおかげか内臓特有の臭みはなく、もつはトロトロに柔らかい。これで辛口の冷えた日本酒があれば完璧なのだが、朝からお酒を飲むわけにはいかない。

 セネカとヒミカは私がかけた七味唐辛子に興味しんしんらしく、食べさせてと騒ぐ、辛いよと言ってもきかないので仕方なくちょっとだけ手のひらに乗せてやる。セネカとヒミカは手のひらの七味唐辛子をなめてからい、からいと騒ぎだす。私はりんごジュースを取り出して、マグカップに入れてやる。二人はりんごジュースの甘みでやっと落ち着いたようだ。次にセネカとヒミカはおこげのご飯をこわごわ食べてみる。そして目を輝かせて美味しいと言った。セネカとヒミカはパンは食べた事はあるがお米は初めてなのだそうだ。私もおこげのご飯を食べてみる。これよこれ、小さい頃はおこげがごちそうだった。香ばしくって、パリパリしてて。電気炊飯器の機能が良くなってちっともできなくなってしまった。セネカとヒミカはきょうじんな食欲で、大鍋のもつ煮込みも、お釜のご飯も綺麗に食べてくれた。

 私は台所の片付けをして、リュックサックを取り出し、タッパーに入ったおにぎりと、スープジャーを入れた。そしてセネカとヒミカに私の作ったつたないお洋服を着せてあげた。微妙な仕上がりの服だが二人はとても喜んでくれた。そして二人に歩きやすい靴を出した。二人はいつもはだしだから靴をはくのを嫌がったが、足の裏を怪我したら大変なのでしぶしぶはいてもらった。

 私も山を歩かなければいけないので服装を変える事にする。私の装いは、穴に落ちた時と同じ、パンプスとパンツスーツだった。私は目を閉じて、再び目を開けると、山歩き用の登山靴、歩きやすいズボン、シャツ、ウィンドブレーカーの姿になっていた。

 私は日焼け防止の布の帽子をかぶりセネカとヒミカの小屋の中を見回した。使い切れなかった調味料はどうしよう。ここには冷蔵庫はないのだ。すると調味料が台所からこつぜんと消えた。私が必要ないと思ったものはどうやら消えてしまうらしい。私は心の中でありがとうと言った。お鍋やお釜、テーブルや椅子はそのままにしておく事にした。セネカとヒミカがお母さんとこの家に帰ってきた時に使えるように。私はセネカとヒミカと小屋の外に出た。そしてセネカにシャベルで穴を掘ってもらい、猪の皮と骨を埋めた。そして三人で手を合わせた、ありがとうと。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放された薬師は騎士と王子に溺愛される 薬を作るしか能がないのに、騎士団の皆さんが離してくれません!

沙寺絃
ファンタジー
唯一の肉親の母と死に別れ、田舎から王都にやってきて2年半。これまで薬師としてパーティーに尽くしてきた16歳の少女リゼットは、ある日突然追放を言い渡される。 「リゼット、お前はクビだ。お前がいるせいで俺たちはSランクパーティーになれないんだ。明日から俺たちに近付くんじゃないぞ、このお荷物が!」 Sランクパーティーを目指す仲間から、薬作りしかできないリゼットは疫病神扱いされ追放されてしまう。 さらにタイミングの悪いことに、下宿先の宿代が値上がりする。節約の為ダンジョンへ採取に出ると、魔物討伐任務中の王国騎士団と出くわした。 毒を受けた騎士団はリゼットの作る解毒薬に助けられる。そして最新の解析装置によると、リゼットは冒険者としてはFランクだが【調合師】としてはSSSランクだったと判明。騎士団はリゼットに感謝して、専属薬師として雇うことに決める。 騎士団で認められ、才能を開花させていくリゼット。一方でリゼットを追放したパーティーでは、クエストが失敗続き。連携も取りにくくなり、雲行きが怪しくなり始めていた――。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

公爵家の半端者~悪役令嬢なんてやるよりも、隣国で冒険する方がいい~

石動なつめ
ファンタジー
半端者の公爵令嬢ベリル・ミスリルハンドは、王立学院の休日を利用して隣国のダンジョンに潜ったりと冒険者生活を満喫していた。 しかしある日、王様から『悪役令嬢役』を押し付けられる。何でも王妃様が最近悪役令嬢を主人公とした小説にはまっているのだとか。 冗談ではないと断りたいが権力には逆らえず、残念な演技力と棒読みで悪役令嬢役をこなしていく。 自分からは率先して何もする気はないベリルだったが、その『役』のせいでだんだんとおかしな状況になっていき……。 ※小説家になろうにも掲載しています。

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

だって私、悪役令嬢なんですもの(笑)

みなせ
ファンタジー
転生先は、ゲーム由来の異世界。 ヒロインの意地悪な姉役だったわ。 でも、私、お約束のチートを手に入れましたの。 ヒロインの邪魔をせず、 とっとと舞台から退場……の筈だったのに…… なかなか家から離れられないし、 せっかくのチートを使いたいのに、 使う暇も無い。 これどうしたらいいのかしら?

転生嫌われ令嬢の幸せカロリー飯

赤羽夕夜
恋愛
15の時に生前OLだった記憶がよみがえった嫌われ令嬢ミリアーナは、OLだったときの食生活、趣味嗜好が影響され、日々の人間関係のストレスを食や趣味で発散するようになる。 濃い味付けやこってりとしたものが好きなミリアーナは、令嬢にあるまじきこと、いけないことだと認識しながらも、人が寝静まる深夜に人目を盗むようになにかと夜食を作り始める。 そんななかミリアーナの父ヴェスター、父の専属執事であり幼い頃自分の世話役だったジョンに夜食を作っているところを見られてしまうことが始まりで、ミリアーナの変わった趣味、食生活が世間に露見して――? ※恋愛要素は中盤以降になります。

処理中です...